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Second Opinions ミリタリーウォッチについて改めて考えるときが来た

ユリス・ナルダンは、ミリタリーにインスピレーションを得ると同時に素晴らしい貢献もできる時計を、コスプレと思われることなくつくることが可能であることを明らかにした。

Photos by Mark Kauzlarich

 祖父が海軍時代につけていた時計を見つけるのが私の夢である。

 海軍に所属し、そして時計に対する愛情を私に植え付け、私が生まれた日から20代前半で亡くなった母方の祖父とは違い、父方の祖父のことを私は知らない。フランク・カウズラリッチ中佐は、第2次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争時に従軍していた。

A portrait of Lt. Commander Frank Kauzlarich

海軍に入隊して間もない頃のフランク・カウズラリッチ中佐。

In-Depth: “ダーティダース” 素晴らしい12の安価なミリタリーウォッチコレクション

軍が支給したダーティダースウォッチの歴史について、2016年の記事で詳しく紹介している。

 ウィキペディアでUSSリーダー(MSO-490)と調べると、彼の名前が出てくる。リーダーの指揮の下、1961年にメコン川を180マイル遡上し、プノンペンを訪れた史上初の軍艦となったことが書かれている。退役して間もなく、私の父がまだ若かった頃に祖父のフランクは亡くなった。

 私は何年ものあいだ、自分の知らない彼に近づくために、さまざまな物を集めてきた。私はeBayで、彼の旧司令部の徽章(きしょう)や旧艦が入ったライター、ベルトのバックル、絵葉書などを探している。そして彼がかつて住んでいた場所をこの目で見るべく、日本へ旅行することを夢見たこともある。

Military lighters

増え続けるライターコレクションのなかから、ふたつを紹介しよう。

 祖父が指揮した船の巨大な舵輪の基部に、数個のライターが置かれていた。運よく、両親の住む実家の田舎町近くにあるリサイクルショップで見つけたものだ。しかし、彼の時計がどうなったかはわからない。

 彼は初期のロレックス サブマリーナーを着用していたか、あるいはイギリスの水兵と出くわしたときに、なぜかダーティダースと呼ばれる軍用時計に出合ったのではないかと想像している。おそらくそれほど刺激的な出来事は起きなかったと思うが、それでも歴史の一部であることには間違いないし、彼や私、そして軍のものであっても、なんとか取り戻したいと考えている。

A photo of a navy sailor, a pocket watch, and class ring

もうひとりの祖父、ジョン・ウィルターディング隊員が初めて購入した懐中時計とカレッジリング。

 そんなこともあって軍の歴史にはとても関心がある。この歴史の保存こそが、軍事的な出自を持つ時計と、市場に出回っている多くのものとの大きな違いだ。ひとつは歴史や希少性を理解し、(金銭的価値も認めつつ)未来に向けて守っていこうという純粋な気持ちのもと保護すること、そしてもうひとつは、ミリタリーのコスプレや本物っぽいクールさを意識して企てたものである。

 これは生粋のミリタリールーツを持つ時計のことではない。ハミルトン カーキフィールドや、ブレゲのタイプ XXのような時計は、軍の依頼のもとで作られたデザインが基礎となっており、基本的なDNAはそのままに年々進化をしている。腕時計に革命を起こしたトレンチウォッチからロレックスのサブマリーナーまで、ミリタリーウォッチの歴史は枚挙にいとまがない。また、実際に現場で役立つものを軍に求めるのであれば、コール・ペニントンの簡潔なタイトルの記事、“ミリタリー風ウォッチではなく、ミリタリーが実際に使う「マラソン」を手に入れよう”を参考にして欲しい。

 美観的には、ブラックやグリーンのコーティング、またセラミックやカーボンでできた時計も許容範囲だ。これらは、軍隊生活が個人のスタイルに与えた広範な影響を表していると思う。これらは1970年代後半から80年代前半にかけて、ベトナム、レバノン、グレナダなど、海外遠征から帰還した兵士たちが着ていた軍服(迷彩服、カーゴパンツ、ボンバージャケットなど)が、市民の生活に浸透し始めたのとそれほど変わらない。それらの服飾品はすべて、サブマリーナーと同じように文化的なアイコンとなっている。

A "Milsub" Rolex Submariner wristwatch

2013年から続くグラハム・ファウラー(Graham Fowler)氏とのストーリーから、ミルサブと呼ばれるロレックス サブマリーナーを集めた。

 そんななか、私を少しためらわせるものがある。というのは、(意図的であろうとなかろうと)部隊の徽章を現代の時計につけてしまうと、現役の軍人と何らかの直接的な関係があるように見えるからだ。これまで多くの時計メーカーが行ってきたことではあるが、超えてはいけない一線だと個人的には思っている。ただ特定のメーカーを指差して非難するのではなく、今回はミリタリーウォッチの正しいあり方を示していると思うブランドを紹介したいと思う。

 昨年末、ユリス・ナルダンはワンモアウェイブとのパートナーシップにより発売した新しいダイバーズウォッチについて、ニューヨークでちょっとしたイベントを開催した。ワンモアウェイブは、元アメリカ海軍特殊部隊、Navy SEALsのアレクサンダー・ウェスト氏が設立した非営利団体だ。傷病兵や障害を負った退役軍人のためにカスタマイズしたサーフィン用具、およびサーフィンをするためのコミュニティを提供するために設立された。その一環にはアートセラピーも含まれており、退役軍人たちは自分の身体的ニーズや個人的なスタイルに合わせた、自分だけのサーフボードを作るというアートやデザインに携わっている。

A person surfing as a part of the One More Wave group

ワンモアウェイブの一員としてサーフィンをしている。Photo courtesy One More Wave

Paint on a board being made as a part of the art therapy of One More Wave.

ワンモアウェイブが提供するアートセラピーの一環である、ボードにペイントを施した製造風景。Photo courtesy One More Wave

 私は以前、ウェスト氏がユリス・ナルダンとのコラボウォッチの売り上げによって集まった資金(さらにユリス・ナルダンが購入者、非購入者を問わず獲得した寄付金)をもとに、どのような活動を行ったかという話を聞きながら、これこそが軍や退役軍人のコミュニティと時計の正しい関わり方だと感じずにはいられなかった。またこの時計はシャープかつ、軍用に近い実用的なものでありながら、市場にある多様な“ミリタリー”ウォッチよりも、はるかに本物らしく感じられるものだった。

 先述したように、ウェスト氏はユリス・ナルダンと共同で、最初のワンモアウェイブウォッチを手掛けたことがある。チタンケースでできたこのモデルは直径46mm、1000mの高い防水を確保したディープダイブモデルで、鮮やかなイエローのアクセントが特徴だ。大規模に製造され、記憶から消えてしまった、過去の特殊部隊の時計スタイルをそのままコピーしたような時計であり、実際のNavy SEALsが、最もタフな時計を作るよう命じられたとしたらどんな時計ができるだろうと期待させるようなものであり、実際にそのとおりのものだった。

The Original Ulysse Nardin One More Wave watch

オリジナルのユリス・ナルダン ワンモアウェイブ ウォッチ。

 そのオリジナルウォッチのデザインプロセスにおいて、ユリス・ナルダンのチーフプロダクトオフィサーであるジャン=クリストフ・サバティエ氏は、コロナドの基地を訪れてSEALsが訓練する場所を見学してから、デザインに取り組んだという。サバティエ氏とUSユリス・ナルダン社長のフランソワ=グザヴィエ・ホティエ氏、そしてワンモアウェイブのメンバーふたりが、コロナドにある有名なSEALバーの一角でデザインのスケッチをしていると、ほかの現役SEALs隊員がテーブルにやってきて意見を聞かせてくれたという。

The Original Ulysse Nardin One More Wave watch

 しかし2本目の“ミリタリーインスパイアード”のもと誕生した時計は、未来が何を意味するのかを示しており、同様にSEALsののちの人生を語っている。サバティエ氏が新しいデザインをウェスト氏に見せたところ、彼は違うものを求めているというフィードバックをすぐに得ることができたため、生産から発売までの短期間に、多くのデザインワークを行う必要があったという。

The new Ulysse Nardin watch with One More Wave

ワンモアウェイブとコラボレートした、ユリス・ナルダンの最新ウォッチ。

 「確かに最初の時計は、潜水部隊員がつけるようなミリタリータイプで、アグレッシブな印象を備えていました。おそらく私たちワンモアウェイブ全員の大半が、まだ軍にいた時だったからでしょう」とウェスト氏は話す。「ただし今回は、朝はサーフィンをして昼はミーティング、そしてサンディエゴのダウンタウンで、仲間とカクテルを楽しむ、そんなビジネスエグゼクティブが身につけられるような時計にしたかったのです」

 軽量なDLCコーティングのチタンケースを採用しつつ、ブラックカラーをふんだんに使用しているが、それより明るいグレーのストラップと合わせ、またアクセントとして、ウェスト氏がサンディエゴで見たポルシェのカラーパレットやワンモアウェイブが自社のブランディングで使用している、ターコイズカラーを取り入れている。さらにウェスト氏いわく、このような色を選択することは、Navy SEALsで一般的にいわれるような団体を率いる指導者の役割よりも、はるかに難しいことであるということ。

The Ulysse Nardin One More Wave watch.
Ulysse Nardin One More Wave watch caseback
Ulysse Nardin One More Wave watch lume

「オペレーターのなかには確かに、皆さんが想像するような超危なくてタトゥーだらけの人もいますが、もっと頭の切れる人も多くいます。好きな作家やおすすめの本の話をする人もいれば、天気予報士の勉強をしていて、好きな雲の形について話す人もいました。スーパーには、ひそかに最も高い勲章を持つオペレーターである男性もいるかもしれませんが、彼は奥さんに怒鳴られないよう、リストで食料品を選んでいるだけなのです」と同氏。

 それを聞いて「それが私たちにとって最も大切な、“本物であること”です」とサバティエ氏は言う。「これがミリタリーウォッチだと言っているわけではありません。スポーツウォッチであり、ダイバーズウォッチであり、軍の遺産や伝統でもあり、そしてその先の人生という概念と結びついているのです」

A veteran looking at a surfboard.

サーフボードを眺める退役軍人。Photo courtesy One More Wave.

 ユリス・ナルダンはパートナーシップの一環として、かなりの数の退役軍人用の設備を購入できるぐらいの資金を保証している。また、1万1500ドル(日本円で約153万3000円)の100本限定モデルを購入しなくとも、ウェスト氏とワンモアウェイブらのストーリーが伝えられ、資金を集めるためのさまざまな機会を提供するとのことだ。

 ワンモアウェイブは、ユリス・ナルダンとのパートナーシップにより、2019年から25万ドル(日本円で約3330万3000円)の資金を集め、そのうち2022年だけで10万ドル(日本円で約1332万1000円)以上を調達しているなど、市場で最も真正なミリタリーインスパイアウォッチのひとつを作り上げた。

 ユリス・ナルダンは、SEALsのシンボルでもあるトライデントを文字盤に配置せず、アピールしなかったことを評価している。もしも国防総省との高額な(そしてすでにある)ライセンス契約が邪魔をする可能性がなかったとしても、彼らはそうしなかっただろうか? 真実はわからないがそうしなかったことに感謝する。ユリス・ナルダン  ダイバー クロノメーター “ワンモアウェーブ”は、そのおかげでよりいいモデルに仕上がった。

 この時計は、軍隊生活から民間生活への移行、そして祖国への貢献によって形成された遺産という、重要なストーリーを語ることができる。戦争や奉仕活動、そして多くは他人が払った犠牲によって形成された文化としての我々のあり方を、カモというワードがファッション用語の一部となっているように、私たちの日常生活に深く根付いていることを物語っている。そして、より本物を感じられるようになった。

 最近では、IWCのパイロット・ウォッチ・クロノグラフ “ブルーエンジェルス®”のような時計が軍のエキシビジョンチームをモチーフにしているため、私にとっては受け入れやすい。ブルーエンジェルスの歴史のなかで、26人のパイロットとひとりのクルーが、墜落事故で悲劇的な死を遂げている。この時計があまりにもドラマチックなブランディングをしているため、同チームが行う圧巻の技を、観客に与える喜びを熱く語る精神として鑑賞している。

The Tudor FXD watch

チューダー ペラゴス FXD。Photo by James Stacey

The Tudor FXD watch caseback

チューダー ペラゴス FXDの裏蓋。Photo by James Stacey

 またフランス海軍の戦闘ダイバー部隊として知られる“コマンドー・ユベール”とコラボし、水中ナビゲーション用に作ったチューダー FXDのように、軍用仕様や、リクエストに応じて時計を製作する例もある。しかし、現役の戦闘部隊や特殊部隊の徽章を明らかにしていない状態で使用する場合、その時計のストーリー(よくあるのがそれを購入する理由)は、より不透明なものになる。

 ブレモン、ブライトリング、チューダー、IWCといった数多くの企業が、現役の軍人に敬意を払い、その部隊に所属する人だけが使える“ユニットウォッチ”を製造するなど、正しい行動をとっている。本来はそうあるべきなのである。もしあなたやあなたの仲間たちが、世界で最も過酷な選抜と訓練が行われる部隊に、自分の人生を賭けて入隊し、名誉ある任務を果たしたとしたならば、そのエンブレムを誇らしげに身につけることができる権利を獲得したということになる。

A British SAS Rolex Explorer watch

英国SASのロレックス エクスプローラー。Photo courtesy Sotheby's.

 2012年、ロレックスは世界で最も苛烈で厳しい秘密部隊のひとつ、英国特殊空挺部隊(SAS)の現役隊員だけが購入できる、エクスプローラーII Ref.216570別注の限定モデルを発表した。ケースサイドにSASのモットー、“Who Dares Wins(あえて挑む者が勝つ)”が刻印され、また裏蓋にはSASのロゴを描いている。そしてこの時計の一部は市場に出回っている(希少な時計がもたらすお金を必要とする退役軍人を責めることはできない)が、ロゴは隠されておりその出自は正しいところからのものだった。

 しかし私がいちばん問題にしているのは、商業的なアレンジによって生み出された時計だ。想像してみて欲しい。カリフォルニア州コロナドの海軍水陸両用基地近くにある、Navy SEALs隊員のたまり場として有名なバー、McP'sかDanny'sに、Navy SEALsのトライデントを文字盤にあしらった腕時計を身につけて入店したとする。そのトライデントを得るために血と汗と涙を流し、訓練や任務中に“仲間”を失った人の隣に座ったとしよう。彼らはあなたをどう見るだろうか。そしてあなたはどう感じるだろうか?

 確かに、さまざまなブランドから長年発売されてきた腕時計の多くには、その収益を非営利団体に寄付するものも存在する。しかしワンモアウェイブのダイバーのほうが、より本物らしさを感じられることに私は何度も思いを馳せる。この時計は、軍事との結びつきを強く意識してはいない。むしろ軍のことにまったく触れずに、そのよさをアピールすることができる。

A Tudor Submariner from the Marine Nationale

2013年に掲載したHODINKEEの初期の記事にて、チューダーの“マリーンナショナル”について語っている。

 時計界では次のような議論が繰り広げられる。これらの時計、あるいは軍が支給したヴィンテージウォッチは“ストールン・バロー”(軍歴詐称者)と呼ばれ、これは兵役をしたと嘘をついたり、軍服のラックに勲章を付けたりする偽者の軍人であるという議論である。このような強い意見もあるが、私はこれには賛同できない。チューダー サブマリーナーを持って、1974年にフランス海軍に入隊したと言って回るのならそれはそれでいい。しかしHODINKEEの友人で、元CIAのケースオフィサー、“Watches of Espionage”が最近サイトで言っていたように、“入手困難な希少価値が高いタイムピースにお金を費やすよりも、もっと簡単で効果的な盗人猛々しい形がある”。犯罪でなくとも、悪趣味であったりダサかったりすることはあるのだ(なおアメリカの法律で軍歴詐称者は犯罪)。

 現代におけるミリタリー関連の時計については、購入者が何に心を引かれるか、1度考えてみて欲しい。これらの時計の多くは、美術館や退役軍人会など、利益の一部を用いて善意の活動を支援している(そしてこれが原因で売れずに苦しむのは見たくない)。ただ重要な非営利団体を支援することが目的なのであれば、直接寄付することを検討して欲しい。ブルーエンジェルやサンダーバードなど、軍事エキシビジョンチームを心から愛している人は、もっと力も注いでみて欲しい。そして、あなたやあなたの親、あるいは祖父母、大切な人が兵役に就いていて、その人たちをより身近に感じることができる時計があるのなら、それも非難することはできないだろう。

 結局は意思表示なのだ。ロレックスやチューダーのサブマリーナー、オメガのシーマスター、パキスタン空軍が支給したオメガのレイルマスターなど、軍事的に証明された時計を欲しいと思うのは、それは何か影響力を与えるからではなく、歴史を象徴するものだから欲しいのだ。そして祖父の時計がいつか箱のなかから出てきたり、あるいは祖父が持っていたトランクに保管されている書類や封筒のなかに隠れているかもしれない、という期待も持ち続けたいと思う。

The Ulysse Nardin One More Wave

 いずれにせよユリス・ナルダンが行動したように、より多くのウォッチブランドが、現代に通用する方法で過去に敬意を払いつつ、より創意に富んだ方法を見つけ出すことを、私は期待し続けるだろう。

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ワンモアウェイブの詳細や寄付については、公式ウェブサイトをご覧ください。ユリス・ナルダンとのコラボレーションについて、詳しくはユリス・ナルダンの公式ウェブサイトをご覧ください。