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本稿は2017年5月に執筆された本国版の翻訳です。
もしあなたが常連の読者なら、私がオメガの歴史的に重要なRef.2998の2012年復刻版をどれほど気に入っているか、すでにご存じだろう。ウォルター・シラー(Walter Schirra)が1962年にシグマ7の飛行で着用したモデルだ。どうしてもオメガに返却する気になれなかったので、この記事を掲載した数日後に自分用の1本を購入した。この時計はお気に入りとしてすぐに私のコレクションに定着し、2016年にはその年の“最も身につけた時計”のタイトルを獲得した。2017年も半分が過ぎようとするなかそのタイトルは維持されそうなばかりか、むしろ腕につけている時間が長ければ長いほどありがたみが増していくようだ。Ref.2998の純粋な復刻版としてだけでなく、スピードマスターシリーズの最高の特徴をすべて備えたモデルとして楽しんでいる。
オメガ スピードマスター ファースト オメガ イン スペース セドナ™ゴールド
皆に愛される“FOIS(ファースト オメガ イン スペース)”のモデルであるセドナ™ゴールドのファースト オメガ イン スペースに対して、常に少し複雑な思いを抱いてきた。この時計は間違いなく豪華で、私のFOISのデラックス版である。しかし私はこれをスピードマスターから大きく逸脱したものだと常々思ってきたし、この逸脱がうれしいとは言い難い。2015年にこの時計が発表されたとき、スピードマスター愛好家のほとんどはこの時計を歓迎し、何人かはその魅力を私に伝えようと懸命に説得したが、いくつかの理由から私はその声に耳を貸すことができなかった。
第一に、1960年代のほとんどすべてのクロノグラフに対するスピードマスターの最高、最大の特徴は、その統一されたブラックダイヤルである。パンダの配色は魅力的であり、セドナ™ゴールドエディションのオパライン文字盤とブラウンのインダイヤルは特にうまくいっているが、オメガは敵の領域に侵入しているような感じもする。セドナ™ゴールドエディションを実際に手にしてわかったことは、20年前に別のモデルがこの前例を作ったということだ。
私のオメガFOIS。
第二に、おそらくもっと重要なことだが、私はスピードマスターを貴金属にすることは少々ブルジョア的な動きだといつも感じていた。スピードマスターは手ごろな価格のスポーツウォッチだった(私は今もそうだと思う)し、間違いなくデイリーユースの時計だった。1万8000ドル(当時の日本円定価は税込198万円)のセドナ™ゴールドエディションは、オメガの顧客層の一部にとっては変わらず手ごろな価格だろうが、スピードマスターの精神に則っているとは思えない。
しかし、最近この時計と充実した時間を過ごす機会を得たことで、私の論点のいくつかは再考を迫られたと言わざるを得ない。
パンダ文字盤のスピードマスター。これに文句をつける理由があるだろうか?
セドナ™ゴールド FOISの実物を見てすぐに、その豪華な美しさに衝撃を受けた。私の時計とは似ても似つかないが、なんとも美麗だ。数年前から時計の写真を撮っていて気づいたのだが、見栄えのいい時計ほど撮影がしやすい。写真を見てもらえればわかることだろう。目の保養と呼ぶべき時計があるとすれば、この時計のことだ。
スピードマスターの存在意義に目をつむれば、この時計が相当カッコいいことは認めざるを得ない。
これはFOISのエディションのひとつ(オメガは昨年別のパンダ文字盤を発表したが、こちらはブルーとホワイトでステンレススティール製ケース)だが、私が持っているものとは似ても似つかない。親しみを感じるが、視覚、触覚的にまったく新しい体験を提供してくれる。
この新しい文字盤を無視するのは難しいが、ここに見られる要素はすべてオリジナルのFOISと同じだ(これにはもっとたくさんゴールドが使われているが)。
あまりに見た目が異なるため、このふたつの時計に共通点があることを忘れてしまいがちだ。ケースの大きさ(39.7mm)、90以上のドットが付いた外付けのタキメータースケール、時・分針のアルファ針、インダイヤルのバトン針などオメガはそのすべてをそのまま温存しているし、機械的な面でも目新しいものは何もない。どちらの時計も、ウォルター・シラーの時計に搭載されていたものとは異なるレマニアをベースとしたCal.1861を用いている。このムーブメントはオメガが1968年から使用しているものをベースにしている。
しかし今回の変更はかなり重要だ。オメガはゴールドを使用することにしたわけだが、それもただのゴールドではなく、レッドゴールドとピンクゴールドの中間のような温かみのある色調を実現するために、ゴールド、銅、パラジウムを組み合わせたユニークで独自のものを選んだ。それを引き立てるためにオメガはブラウンのセラミック製ベゼルを生み出したのだが、これもまた真っ黒なセラミックよりも豊かなニュアンスを生み出している。
そしてゴールドであるがゆえに、その特徴的な外観に加えて、この時計の最も慣れない特徴のひとつは重さである。予想されるとおり、セドナ™ゴールドバージョンは手首にずっしりと重く感じられる。これはスピードマスターのオーナーの多くが慣れ親しんでいるものではないだろう。スピードマスターの大部分(多くのバリエーションがあるわけだが)はSS製であり、古典的なモデルのいずれかを着用したことがある人なら、大体どのモデルも似たようなつけ心地だ(プレムーンとムーンウォッチのケースを比較すると若干の違いはあるが、一般的に、どの通常サイズのスピードマスターも同じような着用感だ)。
結婚指輪が伝統的なイエローゴールドとオメガ特有のセドナ™ゴールドのいい比較対象になっている。
オリジナルのFOISと、このゴールドエディションを直接的に比較することはできないが、私がこの現行バージョンに無くて寂しいと思う特徴のひとつは、時を告げる機能とクロノグラフの明確な区別である。私はこのポリッシュ仕上げされたSSとペイントされたバトン針による区別の表現は素晴らしいと思っていた。セドナ™ゴールドバージョンでは、すべての針(と植字されたロゴ)がゴールドである。もちろん、ゴールドの針と白いバトンのコントラストは、あまりに鮮明すぎかもしれない。
日本市場向けのゴールデンパンダ。Photo: Kirill Yuzh and Omega Forums
オリジナルのFOISとセドナ™ゴールドエディションで興味深いのは、前者がウォルター・シラーのRef.2998の特徴を懸命に再現しようとしているのに対し、後者はその逆方向へ自信を持って一歩を踏み出していることだ。しかし、オメガがゴールドのパンダ文字盤を持つスピードマスターに挑戦するのはこれが初めてではない。日本のコレクターは伝説のゴールデンパンダを覚えている人もいるだろう。1997年に発表された伝統的な白黒パンダダイヤルのYG製ムーンウォッチの40本限定モデルだ。正直なところ、よりソフトなセドナ™ゴールドとブラウンのベゼルおよびインダイヤルを備えた新エディションのほうが、ゴールデンパンダよりもはるかに好みだ。しかしこの時計がスピードマスターの歴史のなかでどのような位置付けにあるかを理解することは重要である。
この時計はシーホースのメダリオンと“The First Omega In Space”、“October 3, 1962”という文言が彫られたソリッドケースバックを備えている。
では、セドナ™ゴールド FOISはどんな人に向いているのだろうか。ヘリテージモデルを何本か持っていて、もうちょっと華やかなものが欲しいというスピードマスター愛好家なのか(この時計はその点では満足できる)。それともそのストーリーにはあまり興味がなく、デザインが新しくてもそうでなくても、ただ見栄えのする時計が欲しいという人なのか。本当のところはわからないが、この時計としばらく過ごしてみて確かなのは、このあまりにスピードマスターらしからぬゴールドのスピードマスターに、1万8000ドル(当時の日本円定価は税込198万円)出すような人間になりたいということだ。
詳しくはオメガ公式サイトをご覧ください(編注;本モデルはすでに生産終了しています)