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Introducing H.モーザー ストリーム ライナー フライバック クロノグラフ オートマティック

H.モーザーは、ステンレススポーツウォッチの分野に同社初の自動巻きクロノグラフを投入した。

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私は以前、ちょっと前にこんな文章から始まるレビューを読んだのを覚えている。「時計レビューでは、客観性を追求していますが、時に個人的な思い入れを強くいれてしまいそうになる時計が登場します」 今回発表された新しいH.モーザーのストリーム ライナー フライバック クロノグラフ オートマティックが、様々な観点から私のかなり好みのモデルであることが分かった。

 本機は、モーザーによる新しい取り組みがいくつか含まれている。同社初の自動巻きクロノグラフであること、ステンレススティールの一体型ブレスレットを持っていること、アジェノー社のクロノグラフムーブメントを初めて採用したことといった点だ。アジェノー社といえば、2017年にファベルジェの時計に搭載されたアジェングラフと呼ばれるクロノグラフムーブメントで知られている。同ムーブメントは、シンガーのトラック1にも採用されたものだ。

 ストリームライナーというモデル名の由来は、時計をぱっと見ればすぐに明らかになる。ケースは、多くの一体型ブレスのような抽象的な形状ではなく、人間工学に基づいてデザインされている。例をあげれば、マークニューソンの初代のアイクポッドやポルシェデザイン by IWCのオーシャン2000も非常に強い類似性がある(少なくとも私はそう思っている)。特に後者のモデルについては、一体型ブレスレットのジャンルにおける魅力的なモデルだと考えてきた(エベルのスポーツクラシックも同様に多くのヒントが隠されている)。

 一体型ブレスレットを持つ時計の曲線的なデザインを採用することは、1990年代っぽさ(悪い意味で)が出てしまうという可能性があるが、もし上手く取り入れることができれば、目にも手首にも心地よい滑らかさを与えてくれるものだ。これはより直線的なスティールウォッチのデザインからは得られないものである。

 この時計が機能している理由の一つとして、視覚的に乱雑にならないよう非常に美しくまとめているからだと考える。これは必ずしもいつも成功するとは限らないが、モーザーが普段から努力している部分であり、本モデルについては私に言わせれば、かなりうまくいっていると言えるだろう。

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 クロノグラフは、面白いことに非常に最悪なデザインが生まれてしまいやすいものだと私は感じてきた。様々な要素を入れられる余地があるからこそ、複雑なハードウェアになりがちである (複雑な時計がガスメーターのように見えないようにするのは難しいというのは私のお気に入りのジョージ・ダニエルズの言葉だ)。だがクロノグラフに関しては、本当にレス・イズ・モア、つまり余計なものは無いほうがいいのだ。視認性が向上するだけでなく、ほぼ常に純粋に美学的観点からも見栄えが良くなる。特に一体型ブレスレットを持つモデルであれば、ブレスレットとケースの結合部分についてもシンプルなほど視覚的にも機能する。


ケース、ブレスレット、そしてダイヤル

 数字から見るとストリームライナーは、42.3mm x 14.22mmと大きめな時計だ(詳細は後述するがムーブメントのためである)。ただこのサイズはデザインによくマッチしているように見える。40mm未満のケースではむしろ上手くいかないのではないだろうか。読みやすくするために少し文字盤をワイドにする必要性が出てくるだろう。その点ストリームライナーは、時計の各要素を個別に見て取るだけの十分な余裕がケースにある。そして各要素がはっきりとしており、余分なものは一切ない。

 繊細で非常に丁寧な放射状のサテン仕上げが施されており、ヴィンテージのステンレススポーツウォッチを彷彿とさせる仕上げを随所に確認できる。例えば、オメガ フライトマスターはケースの放射状のサテン仕上げが特徴であるのにも関わらず、見当違いのポリッシュ仕上げをメンテナンス時に施されてしまっているケースなども見かける。モーザーはここで間違いのない仕上げを行っていると言えるだろう。

 ブレスレットは、ケースからクラスプに向かってテーパードが効いており、ベゼルのサテン仕上げもブレスレットまで続いている。ケース側面の面取りも同様にブレスレットにも続いている。私が思うに一体型ブレスレットの大きな課題の一つは、ブレスレットをやりすぎてケースよりも目立ってしまったり、その逆が発生してしまいう可能性があるということだ。しかしモーザーは、ちょうどいいバランスで作り上げてきている。ブレスレットのリンク形状は、はるか昔に絶滅した三葉虫を連想させる。三葉虫と同様に自然の力、つまり有機的で美しい形をしているのである。

 ダイヤルとそれを構成するパーツは、ブレスレットがケースとマッチしているのと同様に、全体のデザインバランスがうまく統一されている。時針と分針の丸みを帯びた夜光といった要素や、エレガントに先を曲げた2つのクロノグラフ針。こういった要素は、モーザーの時計作りにおけるデザイン言語の一貫性を示している。レビューのためにお借りした実機では、2つのクロノグラフ張りが互いに正確に重なり合っている。ラトラパンテやスプリットセコンドクロノグラフといったハイエンドの時計に見られるような処理がこのフライバッククロノグラフにもなされているのである。タキメーターは、傾斜のかかった部分に配置されることで視認性を高めている。

 フュメダイヤルのグラデーションのかかった色、そして縦にいれられたグリフェ仕上げといったほんの少しのスパイスがやりすぎたデザインになることを防いでいる。ストリームライナーのレーシングスタイルのミニッツトラックはわずかにヴィンテージ間を感じさせるが、それでいて非常にモダンにも感じさせている。ちなみに針のインサートは、グロボライトと呼ばれるものでセラミックとスーパールミノヴァを組み合わせて作られている。


ムーブメント

 ムーブメントは、キャリバーHMC 902が搭載されている。これは、アジェノー社で開発されたアジェングラフをベースに大幅に手が加えられたものだ。開発にはコンプリケーションのスペシャリストであるジャン・マルク・ヴィダレッシュ氏が携わっている(同氏は、ヴァン クリーフ&アーペル ポエティックといった複雑機構をデザインした人物だ)。

 このムーブメントの初代バージョンは、2017年のファベルジェのVisionnaire Chronographに初めて採用されている。そのムーブメントには、経過した秒、分、ならびに時間を示すための3つの同軸のクロノグラフ針があり、時針と分針は文字盤の端に表示されていた。また、シンガーのトラック 1というクロノグラフにも採用されてる表示方式だ。どちらも技術的に興味深い時計ではあったが、視覚的には複雑になっていた。そのため毎日身に着ける視認性の時計としてではなく、メカニズムを賞賛すべき時計だと感じた。

Caliber HMC 902, by Agenhor

 このムーブメントは、クロノグラフの設計において、斬新な技術革新がいくつもなされている。フリクションホイール付きの水平クラッチや高度なカムシステム、そしてクロノグラフレジスターを瞬時にジャンプさせることが可能になっている点などがそうだ。ムーブメントのレイアウトも従来のクロノグラフの構造から大きく外している。通常クロノグラフの時計は、2つの層で構成されている。一階層目には、ぜんまい、香箱、脱進機、輪列などが配置され、クロノグラフのモジュールはその上に重ねられる形式だ(つまりクロノグラフは文字盤のすぐ下にあるのだ)。しかしHMC 902では、クロノグラフモジュールはプレートの中央にあり、最も注目すべきは輪列と同じ階層にあるということだ。

 ムーブメントの巻き上げ方式は自動巻きだが、ローターはダイヤルの下にあるため、ケースバックから見た時にムーブメントを遮らないようになっている。注目すべき点は他にも多くある。ムーブメントは合計434個の部品からなり、55個の石がセットされている。従来の水平クラッチやコラムホイール式のクロノグラフよりもずっと複雑なのだ。クロノグラフの制御を行うメインプレートは、厚みが7.3mm(比較するとヴァルジュー / ETA 7750は7.9mm)であり、通常よりもわずかに広い34.40mmとなる(7750は31.25mm)。


実際に着けて作動させる

 ストリームライナーの滑らかで美しい形状、しなやかなブレスレットはとても着け心地が良い。ブルヘッドスタイルのクロノグラフは、たいてい不格好(ファンはそれが魅力であるというが)だが、ストリームライナーの場合レトロクールとコンテンポラリーエレガントを両立しており、満足感が高いのだ。

 ストリームライナーは、私がこれまで見てきた中で最も視認性の高いクロノグラフのひとつだ。時間の表示とクロノグラフレジスタの表示は、ぱっと見てすぐに分かる。秒針は上に赤いクロノグラフ針があり下には白い針が配置されている。

 作動中のクロノグラフの精度も非常に高い。秒針が60のマーク部分を通過すると瞬時に正確にジャンプする。2万1600振動/時の振動数は、1秒を1/6に分割し、60マークの直前と直後の両方で止めることでずれが生じないか手巣をを行ってみたが、正確に表示された。

 この時計の唯一の欠点をあげるとすれば、実際に手に取って体験するのが難しいという点かもしれない。ストリームライナーは、100本限定であり、あなたのコレクションに追加するには、480万円(税抜)だ。

 しかしストリームライナーは、これまで私が見てきた中でも最も価値のあるクロノグラフのひとつと言えるだろう。非常に良く考えられたデザインであり、もしあなたもムーブメントマニアであるならばHMC 902は鳥肌ものだ。この時計は、2020年も引き続き一体型のブレスレットを持つSSスポーツウォッチがデザインされることを証明している。ストリームライナーはこれまでのようなデザインの派生ではないようだ(青文字盤にしなかったという点も称賛に値するだろう)。プロポーションが適切に調整され3針モデルも登場するのではないかと楽しみである。あなたが購入するしないに関わらず様々な次元において注目すべき時計である。

写真, ティファニー ウェイド(Tiffany Wade)

H.モーザー ストリーム ライナー フライバック クロノグラフ オートマティック

ケース

・ステンレススティール製
・4時位置にねじこみ式リューズ
・12気圧防水
・フライバック機能付きクロノグラフ

ムーブメント

・キャリバー HMC 902 自動巻きムーブメント(アジェノー社がH. モーザーのために開発)
・コラムホイール式クロノグラフ
・フリクションホイール付き水平クラッチ
・デュアルバレル
・54時間のパワーリザーブ
・55石
・2万1600振動/時

その他

・一体型ブレスレット(Dバックル付き)
・文字盤は、グリフェ仕上げを施したフュメ
・世界100本限定
・480万円(税抜き)

さらなる詳細は、H.モーザーの公式サイトをご覧ください。