trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

In-Depth パテックフィリップが製造したチャリティのためのユニークピースたち

伝説的な同ブランドがどのような社会貢献をしているかを見る。『コレクタビリティ』より掲載。

ADVERTISEMENT

ジョン・リアドン氏(John Reardon)は、著名なパテック フィリップの専門家であり、HODINKEEにもご寄稿いただいている。オークション会社クリスティーズでウォッチ部門のインターナショナル・ディレクターを務めた経歴も持つリアドン氏が、パテック フィリップのヴィンテージモデルについての情報や知識が満載のウェブサイト、「コレクタビリティ・ドットコム」を立ち上げた。この記事はもともと、コレクタビリティ・ドットコムに掲載されたものである。

パテック フィリップに勤めていたころに私はよく、あなたのブランドはどのようなチャリティ活動を支援しているのかと尋ねられた。正直に言うと私はこの質問に答えることができず、世界的な家系や経営者たちはこっそり匿名で寄付することを好むものなのだと静かに告げていた。しかし、この質問を掘り下げていくうちに私は、パテック フィリップが想像通りのやり方や想像を超えるやり方で、いかに社会還元をしているかを知るようになった。この記事で紹介する惜しみのない寄付の数々は、同ブランドが国際社会に還元するうちのほんのひと握りに過ぎないのだろうと私は思う。そしてこれを見ると、パテック フィリップが慈善活動支援をしている分野、特に、子供たちの健康と福祉のための世界的取り組みを支援しているのだということが見えてくる。

 アンリ・スターン・エージェンシーでは、会社や職場の同僚たちによる思い思いの親切な行為を見てきたが、思わず顔がほころんでしまうことがしょっちゅうだった。一例を挙げれば、9.11のときに世界貿易センタービルの貴重品保管室に入れてあったカラトラバを、ある紳士が持ってきた。それは熱と水で完全に破壊されており、文字盤は激しく錆びたムーブメントの中に溶け込み、18Kゴールドケースは色も形も変化してサルバドール・ダリの絵画のような様相を呈していた。最終的にパテック フィリップはその時計を、持ち主個人に対する「希望」のメッセージとして、そして古代ローマ時代の「メメント・モリ(死を忘るなかれ)」の現代版格言のようなものとして、新品の状態にまで修復させた。これはパテック フィリップが示したある種の静かな個人的な慈善活動を具現する小さな行為だった。来る日も来る日も、様々な状況でパテックが人々を助ける正しい行為をしてきたことを私はこの目で見てきた。この手の話のほとんどは決して公にされることはないが、それこそが、いかにパテック フィリップが称賛も世間の注目も必要とすることなく、こっそりと人々を助けているかを明確に物語るものである。 

 より公なところでは、パテック フィリップは多種多様な慈善団体に無数の時計を寄付しており、各団体がそれを世界のオークションに桁外れの価格で出品し、その売り上げはユーロにしろフランにしろ全て受益者のもとにいく。今回私は知っている全ての時計をリストアップしてみた。しかし他にもご存じの品があれば、リストに加えたいのでどうかお知らせ願いたい。これらのウォッチは、チャリティ活動に向けた寛大さのみならず、新たなデザインや独特なメタルへの探求を厭わないパテック フィリップの姿勢をも示している。中でも注目すべきはステンレススティールとチタン製のものだ。


チルドレンオークション、パテック フィリップのユニークピースたち
Children Action

 パテック フィリップは、「第一の人権は子供たちの権利」との信条の下にジュネーブを拠点として慈善活動するチルドレンオークション向けにユニークピースづくりをスタートさせ、2007年にチタン製のRef.6000T(上の写真)を作った。本機はそれ以降3度オークションに出品されたが、一番最近ではフィリップスオークションにて24万ドル(約2579万5000円)で落札された。詳細はこちら

Children Action 2009

  次の一品は、2009年のチルドレンオークションに向けて作られたチタン製Ref.5180T(上の写真)で、ジュネーブのオークションにて52万スイスフラン(約5780万7724円)で落札された。並外れて軽量なこの時計は、パテック フィリップがこの特殊な合金で作った最初のスケルトンウォッチとして知られるもののひとつだ。

Children Action

 2012年6月にパテック フィリップは、クロワゾネ(七宝細工)でジュネーブの風景を入れた一品もの、Ref.5131J(上の写真)を作った。当時、我が妻のアンドラ・リアドン(Andra Reardon)がこれについての記事をHODINKEEに載せた(ちなみに、彼女がHODINKEEに寄稿した最初の女性執筆者だと言えるだろうか?!)。この特別な文字盤には、ジュネーブの旧市街と名物の大噴水が描かれている。このオークションで本機は驚愕の100万スイスフラン(約1億1135万5000円)で落札された。詳細はこちら

Children Action

 時は2015年へと進み、チタン製Ref.5396T(上の写真)がチルドレンオークションに出品された。これは100万スイスフラン(約1億1135万5000円)で売れた。この一点もののタイムピースには、「Children Action 2015」と記したサファイアのケースバックと、文字盤にブルーでアクセントを入れたマーカーとブルーの針が付いており、通常の5396モデルとは明確に違いを際立たせたものとなっていた。

Children Action

 一番最近のチルドレンオークション向けのユニークピースは、2018年に落札された(上の写真)。このチタン製のRef.5524Tは、ジュネーブのクリスティーズ主催のオークションで、230万スイスフラン(約2憶5611万7000円)の値が付いた。ケースが独特であるだけでなく、文字盤にはそれまでに見たこともないサテン仕上げが施されていた。裏蓋には「Children Action 2018」と彫られていた。詳細はこちら


東華、パテック フィリップ チャリティウォッチ
Tung Wah

 2009年3月に、オークション会社のサザビーズが東華病院グループのためにチャリティオークションを開催し、サンレイ仕上げを施した特殊なブルー文字盤の、裏蓋に「TWGH 2008」と彫られたRef.5970P(上の写真)が作られた。本機は約80万ドル(約8598万5000円)で落札された。


シンガポールのドームクロック
Singapore

  2015年にパテック フィリップは、シンガポール建国50周年を記念して七宝細工の時計を3本製作したことを発表した。これらの時計はシンガポール国内を旅した後、3つともフィリップ・スターン氏(Philippe Stern)主催のチャリティディナーにて出品された。私はこの祝賀ディナーでチャリティ・オークショニアを務めるという驚くべき栄誉に浴したが、寛大な入札者たちのおかげでその晩、3つの世界記録が塗り替えられた。時計をシンガポール国内に留めておくという目的のために、このオークションでは電話やオンラインによる入札は許可されず、競売の入札は全てディナーに参列したゲストのみに限られた。3つの時計は合わせて245万シンガポールドル(172万米ドル=約1億8434万5000円)をもたらした。最後の時計は100万シンガポールドル(約7524万3000円)で落札された後、その晩すぐさまシンガポール国立博物館へと寄付された。それは、シンガポールとパテック フィリップと、純粋な慈善活動とを称える美しい瞬間だった。


パテック フィリップのオンリーウォッチへの出品作

 パテック フィリップは気前よく、2005年からオンリーウォッチ・オークション向けに他にはないユニークピースを作っている。それらの落札で集まった資金は、特に子供に影響を及ぼす神経筋変性疾患であるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療法研究に直接充てられる。隔年開催のこのチャリティオークションでは、パテック フィリップの出品作が最高落札ロットとなっているが、唯一の例外が、同ブランドが2005年に初めてオンリーウォッチに出品したものだ。下にその概略を述べている。以下のリストはオンリーウォッチ・オークションで落札された全てのパテック フィリップ製ウォッチである。

2005年 アンティコルム、モナコ、Ref.5099/101RG、12万ユーロ(約1405万2000円)で落札
Only Watch

 興味深いことに、パテック フィリップが作った最初のオンリーウォッチ出品作は、Ref.5099/101RG、ジェムセッティングを施した一点もののカブリオレだった。ヒンジ付きの蓋には、イベントのテーマである「快復」と「希望」(上記参照)を表すエングレービンングと宝石があしらわれている。その象徴する要素は次の通り。
1)太陽が「希望」、「強さ」、「輝くエネルギー」を象徴する7つのイエローサファイアの石で表されている。
2)本質的に太陽と関連する月は5つのダイヤモンドで表し、「感受性」、「保護」、「愛」を示している。
3)ダイヤモンドを敷き詰めた大きなハートは、「慈善」、「受け入れの気持ち」、「寛大さ」を示す。
4)6石のイエローサファイアを敷き詰めた小さなハートは子供のハートを表しており、そこから「進化」と「思いやり」の未来へと向かう一筋の光が差している。
5)次第に幅広となる水平の帯で示された地平線は、「希望」と「快復への道」を象徴している。特筆すべきは、この美しい一点ものの時計が唯一、オンリーウォッチで最高落札額を記録しなかったパテック フィリップの出品作だということ。
 初開催の2005年オークションで最高値の栄誉に輝いたのは、リシャール・ミルがデザイナーのフィリップ・スタルク氏(Philippe Starck)とコラボで制作した一品もののRM005-1で、落札価格は28万5000ユーロ(約3337万3000円)だった。

2007年 アンティコルム、モナコ、チタン製Ref.5712T、52万5000ユーロ(約6147万7000円)で落札
Only Watch

 2007年にパテック フィリップは、オンリーウォッチ向けの初のユニークピースのチタン製ノーチラス、Ref.5712Tを作った。初のチタン製ノーチラスとして知られるこのウォッチは、トップコレクターたちがぜひとも所有したいと競り合うオークションの花形であった。これは最近のノーチラスマニアが出現する何年も前だということを留意して欲しい。現在なら本機は、優に何百万ユーロ(何億円)という値がつくことだろう。

2009年 パトリッツィ&CO、モナコ、ピンクゴールド製Ref.5106R、53万5000ユーロ(約6264万8000円)で落札
Only Watch

ジャン-クロード・ビバー氏とのTalking Watchesにも登場した一点ものパテック5106R。

 2009年にパテック フィリップは、オンリーウォッチ向けの初の複雑機構、天球図を備えたユニークピースRef.5106を作った。これは他でもない、ジャン-クロード・ビバー氏(Jean-Claude Biver)が競り落としたのだが、その全てのいきさつはこちらの記事でお読みいただける。この天球図付きウォッチにはエンジンターンドベゼルが付いており、それが本機を通常モデルのRef.5102とは全く異なった外観にしている。本機は、パテック フィリップがチャリティウォッチに初めて全く新しいレファレンスナンバーを割り振った作品という事実は興味深い。

2011年 アンティコルム、モナコ、SS製Ref.3939A、140万ユーロ(約1億6394万円)で落札 
Only Watch

 オンリーウォッチ向けに、より複雑な機構をもつ価値の高い時計を作るという歴史的な歩みや動向は、このSS製のミニッツリピーターRef.3939で明確化された。詳細はこちらで。SS製のミニッツリピータートゥールビヨンは、それまで空想上の憧れの時計であった。幸運な落札者にとってこの時計は、夢の実現であると同時に、非常に価値ある報われたチャリティ行為となったことだろう。

2013年 アンティコルム、モナコ、チタン製Ref.5004T、295万ユーロ(約3億4454万5000円)で落札
Only Watch

  他に追随を許すことなく、2013年には、パーペチュアルカレンダーを備えたチタン製クロノグラフが出品された。美しい特製の文字盤付きだ。この作品の呼び物はもちろんケース素材なのだが、赤い秒針が話題をさらった。特別にあつらえられた格子柄の文字盤には、赤いエナメルステッチを施した同柄ストラップを合わせている。この時計が出品された当時、多くの人がこれまで見てきたパテック フィリップの中で「最もクールでスポーティな」ストラップが付いているとコメントした。

2015年 フィリップス、ジュネーブ、ブルーエナメル文字盤SS製Ref.5016A、730万ユーロ(約8億5483円)で落札
Only Watch

 2015年の出品作は、ユニークな文字盤をもつ印象的なグランド コンプリケーションだった。落札価格も同じく印象的で、パテック フィリップのモダンウォッチとしては当時の世界記録だった。詳細はこちら。SS製ケースは品の良い控えめなものと言わざるを得ないが、 ブルーのエナメルは強い魅力を発散している。それまでのRef.5016には見たことのないブルーエナメルの文字盤には、6時位置に「EMAIL」の文字が入っているが、これは新たなオーナーにとってはかすかな印どころか、本機がref.5016Sの全モデル中のキングなのだと思い起こさせるものとなる。2016年11月にSS製Ref.1518が落札されるまで、このユニークピースRef.5016Aがオークション史上最高落札価格の腕時計だった。つまるところ、記録は破られるためにあるのだ。

2017年 クリスティーズ、ジュネーブ、チタン製Ref.5208T、620万スイスフラン(約6億8985万4000円)で落札
Only Watch

 パテック フィリップ Ref.5208Tの出品は、 明確な主張であった。この格別な時計についてティエリー・スターン氏(Thierry Stern)による執筆記事はこちら。デザインの手掛かりをRef.5004Tからとってはいるが、模様入りの文字盤中央は明確にオンリーウォッチに向けたユニークピースだ。オンリーウォッチはこのとき初めて前回を超える落札価格を出さずに終わったが、 それでもその額は十分な称賛に値する素晴らしいものであった。既にこのときパテック フィリップは、次のオンリーウォッチ出品作でいかにオークションの落札記録を塗り替えるかについて思いを巡らせていたに違いないと考えることができる。

2019年 クリスティーズ、ジュネーブ、SS製グランドマスター チャイム Ref.6300A、3100万スイスフラン(約34億4927万円)で落札
Only Watch
Only Watch

 パテック フィリップは期待を裏切らない。最終決着を下し、報道でも広く取り上げられたのは、2019年11月のクリスティーズにおけるグランドマスター チャイムの落札価格である。この時計は、記憶に残る入札合戦の中で次々と記録を塗り替えていった。フィリップスが2017年に出品した有名なポール・ニューマンの『ポール・ニューマン』ロレックスの落札価格1770万ドル(約19億671万1000円)を追い抜き、あろうことか、2014年にサザビーズが出品したヘンリー・グレーブズ『スーパーコンプリケーション』の2400万ドル(約25億8537万1000円)の落札額まで超してしまった。現在、懐中時計も腕時計も含めたウォッチと呼ばれるもの全てのオークション世界記録となるこのSS製グランドマスターチャイムの落札価格は、この先何年も破られることはないであろう目を見張るものだ。詳細はこちら。パテック フィリップが現在王座を維持しており、次に何を出してくるのだろうかと想像するのは胸が躍る。