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Three On Three オーデマ ピゲ ロイヤル オーク 15400、ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ、ピアジェ ポロ Sを比較する

現代の時計の中で最も人気のあるカテゴリーのひとつ、ステンレススティール製ラグジュアリースポーツウォッチと対峙する時が来ました。3本を真っ向から勝負させてみましょう。

※本記事は2017年2月に執筆された本国版の翻訳です。 

ご無沙汰していますが、またまたスリー・オン・スリーです。これまで、1万5000ドル(約165万円)以下のファンキーな独立時計メーカー製の時計2万ドル(約220万円)以下の自社製手巻きドレスウォッチ、さらには大手時計メーカーの強力なクロノグラフなどを比較してきました。しかし今回、現代の時計の中で最も人気のあるカテゴリーの一つである、ステンレススティール製ラグジュアリースポーツウォッチと対峙する時が来ました。ここでは、全ての始まりとなったオーデマ ピゲ ロイヤル オーク、古い歴史をもつマニュファクチュールからは現代風にアレンジされたヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ、そしてこのカテゴリーに新たに加わったお手頃価格のピアジェ ポロ Sをご紹介しましょう。 


ステンレススティール、一体型ブレスレット、そしてラグジュアリースポーツウォッチの歴史

  この話の始まりは、時計製造の長い年表の中では、それほど昔の話ではありません。基本的に、その歴史は1972年のオーデマ ピゲ ロイヤルオークの誕生からスタートします。当時、オーデマ ピゲはまだ小さくて複雑なドレスウォッチを作っていて、販売に苦戦していました。今では考えられないことですが、1960年代の終わり頃には、オーデマ ピゲは本当に崖っぷちに立たされていたのです。その起死回生の秘策は、ステンレススティールのみを使用した初のハイエンドでラグジュアリーなスポーツウォッチを開発することでした。これは2017年の今となっては、当たり前に聞こえるかもしれませんが、当時はそんなことはありませんでした。 

  その結果として生まれたのがロイヤルオークで、1972年に一般公開された時には(アーサーが以下で詳しく説明するように)、それまでに見たことのないような外観をしていました。デザイナーのジェラルド・ジェンタは、大胆で幾何学的なデザイン、複雑なスティール加工、様々な仕上げを施した部品、レザーストラップと交換できない一体型ブレスレット、そして重要なのは、当時のゴールドウオッチと比較しても天文学的な価格設定でした。 

  その後、ジェンタはスティール製ラグジュアリースポーツウォッチの名作を次々とデザインしていきます。1976年にはパテック フィリップ ノーチラスが誕生しました。ロイヤル オークがハードなライン、シャープな面取り、歯切れの良い幾何学的な形状の時計であるとすれば、ノーチラスは曲線とソフトな力強さが特徴です。ダイヤルはクッション型、ベゼルはよりフラットなクッション型で、中央のブレスレットリンクは丸みを帯びた特徴をもつ、まるで泡のような形をしています。ケースの側面から突き出た2つの小さなタブまたは“耳”は、個性を演出し、あまり生真面目な印象にならない程度に十分な遊び心を加えています。 

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  その後何年もの間に、ジェンタの画期的なアイディアを受け、多くのスティール製ラグジュアリーウォッチが次々と作られ、その多くは独特の形状や一体型ブレスレットを特徴としました。特に、1970年代のスポーツウォッチデザインのいわばラシュモア山を形成した、ヴァシュロン・コンスタンタン 222とIWC インヂュニアSLは、すぐに頭に浮かぶ2モデルでしょう。SLはジェンタがデザインしたものですが(ちなみにオリジナルのインヂュニアは彼がデザインしたものではありません)、222はジェンタがデザインしたと誤解されていますが、その由来は異なります。 

オーデマ ピゲ ロイヤル オーク“Aシリーズ” 

パテック フィリップノーチラス Ref. 3700  

IWC インヂュニアSL 

ヴァシュロン・コンスタンタン 222 

  特にヴァシュロンの222は、ロイヤル オークやノーチラスと一緒くたに考えられることが多いのですが、これはよく犯しがちな誤りです(ヴァシュロンでさえ、何年も前からそのような話をしていたにもかかわらずです)。実際に222をデザインしたのは、まだ駆け出しの頃のヨルグ・イゼックでした。222は発売当初、商業的にはあまり成功しませんでしたが、曲線と直線の絶妙な組み合わせ、そして比較的稀少性の高いモデルであることから、最近では非常に収集価値の高いカルトクラシックなモデルとみなされています。現行のオーヴァーシーズコレクションは、そのインスピレーションの源流となった初代222の外観の多くを引き継いでいますが、ブレスレットとベゼルにはいくつかの改良が加えられています。 

1980年代初頭のピアジェ ポロウォッチ、イエローゴールド無垢。画像:Auction.fr提供 

  また、一連の歴史の中にある種の面白い瞬間がもたらされました。このようなことが起こっていた当時、ピアジェはスティール製の時計を全く製造していませんでした。1本も。ゼロでした。1957年、ピアジェ家のマニュファクチュールを経営していたピアジェ兄弟は、今後、貴金属の時計のみを製造することを決意しました。初代ポロは、ポロ Sのインスピレーションの源となったオールゴールドのブレスレットウォッチで、1979年に発表され、事実上、ディスコ文化のライフスタイルを象徴した製品となりました。ロイヤル オークのような時計と同じようなファンキーな魅力をもっていましたが、より派手で、明確な高級感がありました。ポロ Sの“S”はスティールを意味しており、60年前にピアジェが貴金属の時計に力を入れて以来、初めてステンレススティール製の時計を製作したのでした。 

  さて、事前のレクチャーはここまでにして、時計についてご紹介しましょう。語るべきことは山ほどあります。 


オーデマ ピゲ ロイヤル オーク (Ref.15400)
By Arthur Touchot

ファーストインプレッション

  ロイヤル オークを選んだところで、私は独創的なセンスの持ち主にはなれないだろう。そして、それは全く問題ではない。万能なステンレススティールのラグジュアリースポーツウォッチにオリジナリティは求めてないからだ。 

  この時計の現在の高い人気は皮肉にも、1972年にバーゼルで発表された時に、将来オーデマ ピゲの屋台骨を支える作品(そして競合他社が追随するような製品)として支持するには勇気が必要だっただろう。当時はラグジュアリースポーツウォッチほど矛盾した存在はなかった - 今日の高い評価に変化するために40余年の歳月が必要だったことがそれを物語っていないだろうか? カジュアルシックなセグメントは、おそらく今最もホットなものであり、カルティエでさえもシックカジュアルな“ドライブ”シリーズでそれに取り組んでいる。 

  皮肉なことに、かつては想像を絶するほど高価だったロイヤル オークは、今では市場で最も高価なステンレススティール製スポーツウォッチとは程遠い存在となっている。 他の時計メーカーも類似した時計を作るなど、その可能性を見抜き、このニッチな市場セグメントで揺さぶりをかけようと独自の試みを行っているからだ。ロイヤル オークがどのようなものであったかについて十分に説明したところで、現在のロイヤル オークを見てみよう。 

 Ref.15400は、最新のステンレススティール製ロイヤル オーク(編注:2017年当時)で、モデル名がいみじくも示すとおり(オークは“樫の木”を表す)、家系図の中で最も新しい枝の一つだ。このモデルは2012年に発表され、Ref. 15300は、小さいサイズであることが仕様の主な違いではあるが、それは重要な意味をもっている(それについては後述する)。もちろん、Ref. 15202、いわゆる“ジャンボ”も忘れてはならない。このモデルはオリジナルの39mm径と極薄デザインをキープしており、基本的に1972年に登場した初代ロイヤル オークの復刻版といえる。しかし、価格は割高で、手に入れるのが難しく、よりニッチでコレクター向けの製品と考えられている。もちろん、これは素晴らしいものなので、誤解しないでほしいのだが(新しいイエローゴールドケースも大好きだ)、それでもやはりロイヤル オークの本流とは言い難い。その称号はRef.15400にこそ相応しいと思うのだ。

 さて、ここでオーデマ ピゲの現在のヒーローウォッチについて、もう少し掘り下げてみよう。


ダイヤル

  まず、ロイヤル オークの特徴の中でも最も注目されていながら、最も話題にならないもの、つまりダイヤルから始めよう。話題にならないと言ったのは、このダイヤルが単にグランド・タペストリー( grand tapisserie )と呼ばれ、AP以外の競合他社がこのパターンを採用していないにもかかわらず、この2語が現代の高度な時計学上の文脈で用いられるかのような錯覚を時計初心者に与えるためだ。 

 このグリルのようなタペストリーは、実はジュネーブの有名なダイヤル職人であるローラン・ティルによって作られたもので、パンタグラフ・エンジン・ターニングと呼ばれる非常に古い装飾技術を用いて実現されている。斬新なのは、ティルのダイヤルの埋め方だ。直線的なカットは、同じ工具を使って実現できる装飾に比べて非常に工業的だが、ジェラルド・ジェンタがロイヤル オークのためにこの装飾技法を採用することに決めたのは、まさにこの伝統との融合だった(Ref.15300前のロイヤル オークは、より細いラインとより小さな正方形をもつ、プチ・タペストリーダイヤルを特徴としていた)。 パンタグラフの仕組みはこちらでご覧いただける。 

  このパターンは、より大きく、よりビーフィな(分厚い)Ref.15400も含め、ロイヤル オークのユニフォームとして機能している。現行モデルには、オリジナルのブルーとブラウンの他に、ダークスレートグレーとブリリアントシルバーを基調としたダイヤルの4色が用意されているが、これらはいずれも同シリーズの派生モデルにも引き継がれている。さらに意味のあることに、このモデルの歴史の中で存在し、オーヴァーシーズやポロ Sにも採用されている白地に黒のデイト表示ではなく、ダイヤルカラー毎にマッチしたデイト表示が付いている点だ。これは目立たないわけではなく、それを売りにしていることは理解しているが、私はロイヤル オークの新しいダイヤルの同質性と改善された視覚的な対称性に好感を抱いている。 

競合他社との差別化を図る必要がないというのが、先行者であることの利点だ。 

– アーサー・トゥシェット

  ジェラルド・ジェンタのスケッチを見ると、ロイヤル オークのデザインの初期段階では、ダイヤルは非常にシンプルなものであったが、彼はそのことを気にかけていなかったことがわかる。アワーマーカーは、時針と分針に使用されているのと同じ金の一片から切り出すことができた。デイト表示は最小限に抑えられている。アラビア数字は必要なく、ミニッツトラックも必要ない。また、デイト表示枠は考慮されておらず、シンプルな長方形の開口部からデイトが剥き出しに表示されている。ロイヤル オークは控えめで、優れた基本的時刻表示機能を極めて粗削りな形で表現していると言える。 

  控えめなゴールドをふんだんに散りばめて、ロイヤルオークは、その存在感を高めている。12個の夜光塗料を塗布したバトンインデックス、時針、分針、秒針など、機械加工に必要な小さなパーツは全てホワイトゴールドで作られている。これは高級感を感じさせるが、人間の目には、濃い色のダイヤルに特に映えるだろう。 

  オーデマ ピゲは、1972年に発表された自社モデルを除いて、ロイヤル オークの歴史の中で、既存のデザインに頼ったことは1度もない(他のモデルとは異なる)。先行者であることの利点は、競合他社との差別化を図る必要がないことだ。どちらかと言えば、Ref.15400は基本への回帰であり、ジェンタデザインの進化ではない(センターセコンドはさておき)。ロイヤル オーク以前のモデルでは、そのベストな位置を見つけようと試行錯誤していたAPロゴが、6時位置の元の位置に戻ってきた。また、現行のスタンダードモデルでは、12時位置のダブルハッシュマークも復活しており、ヴィンテージファンには嬉しい限りだ。 


ムーブメント

  ロイヤルオークの発売に選ばれたキャッチフレーズは、“body of steel, heart of gold(鋼鉄の肉体をもち、心優しい)”であり、それはムーブメント自体が入れ替わったとしても、40年以上の間、本質は少しも変わっていない。時を経て、APはCal.2121から自社製の頑丈なCal.3120へとゆっくりと移行していった。Cal.2121はジャガー・ルクルト製エボーシェであるCal.920のAP版であり(当時最も薄型のデイト表示付き自動巻きムーブメントであった)、 Cal.3120は、その後継機として開発された。初代ロイヤルオークは1000本のロットで生産され、APのカタログに多様性をもたらすための計画の一環であったが、現行モデルはカタログの顔となるモデルであり、その成功のために自社製の量産可能なムーブメントが必要となったのだ。 

  Cal.3120の採用は、ロイヤル オークが重量を増した要因であるものの、今なお最も洗練された自動巻きムーブメントの一つだ。実際、Cal.3120はケースの外から見るとドレスウォッチのムーブメントと見間違えるほどだ。そして、サファイアクリスタルの裏蓋からは、他のスポーツウォッチでは見られない光景を見ることができる。圧倒的な印象を与える特徴は、21カラットのゴールド製ローターだ。このローターは1枚のゴールドから作られており、2つの創業家の家紋がエングレービングされている。一般的な180°ではなく、110°の円弧で形成しているため、少し変わった形をしている。ゼンマイをより効率的に巻き上げるために、質量と重心が軸から離れた位置に配置されているため、他のものよりも厚みがあるのだ。パワーリザーブも最大60時間が確保されており、日常使いできる時計としては申し分ない。 

  効率性は、このキャリバーの要だ。それは、コンパクトで構造的に堅牢で、そして装飾の施されたムーブメントに、非常に大きなテンプ(美しいブリッジの下に鎮座する)と、さらに大きな香箱が収まる様子を眺めることができる。 


ケースとブレスレット

  ほとんどの時計は標準的なストラップ装着機構を備えているため、ブレスレットのデザインは、時計本体のデザインの二の次になることがほとんどだ。しかし、ロイヤル オークの場合は、そうではない。オーデマ ピゲは、ケースと一体化したブレスレットを開発した最初のブランドであった。そのために、その両方を念頭にデザインしなければならなかった -レザーストラップを装着したロイヤル オークを見ると、ブレスレットとケースが如何に不可分な存在か明らかになる。それまでステンレススティールを扱った事がなかったオーデマ ピゲが、初めて非貴金属ケースを開発したのだ。 

  多くの理由 -時計を見た時に最初に目に飛び飛んでくる平面、ユニークな造形、そして意外なところからインスピレーションを得ていることなどから、ロイヤル オークのケースとそのワイルドな八角形の形が最も語られる話題だ。それは話の切り口としてはともかくも、それだけでは本質を見失ってしまう。このロイヤル オークがオーデマ ピゲ初の防水スポーツウォッチであること。このことが、デザイナーであるジェンタが紙にペンを置く前に与えられた要件で、ベゼルはダイヤル側に8本、裏蓋側に8本のゴールド製ネジで固定されている。ムーブメントは周囲をゴムパッキンで密封している。 

  ダイバーの潜水ヘルメットがジェンタのデザインにインスピレーションを与えたと考えるのは事実であり、魅力的だが、機能性を考慮することも重要だ。ケースの他には、不必要に複雑になろうとするものはない。しかし、すべての表面は伝統的でハイエンドな技術で仕上げられており、サテン仕上げとポリッシュ仕上げの組み合わせは、ポリッシュ仕上げのベゼルのエッジとエレガントなサテン仕上げのケース、そしてロイヤル オークの複雑なブレスレットにまで至る。 

  このブレスレットのデザインは、逆説に根ざしている。このブレスレットは、硬さとしなやかさ、力強さとエレガントさ、カジュアルさとラグジュアリーを同時に表現している。全てを同時に実現しようとするときの問題は、もちろん、適切なバランスを見つけることが課題となる。ブレスレットは、リンクの形状と自然な重さがブレスレットに堅固さを与え、サテン仕上げはAP社の生産ラインの近代化を物語っているが、ブレスレットの(クラスプに至る)傾斜とサイドの絶妙な研磨技術は、同社の伝統的なルーツを思い出させる。 

このブレスレットのデザインは、逆説に根ざしている。このブレスレットは、硬さとしなやかさ、力強さとエレガントさ、カジュアルさとラグジュアリーを同時に表現している。 

– アーサー・トゥシェット

 ブレスレットを1本作るのも非常に大変な作業で、実際、最初の試作品はゴールドで作らなければならなかった。ロイヤルオークのブレスレットは、20本以上のリンクとその倍の量の鋲で構成されており、ブレスレットの側面は滑らかに磨かれているが、密接に連結されているため、まるで1枚のスティールからレーザーで切り出されたかのように見える。実際には、機械加工、研磨、手仕上げ、ブレスレットにさまざまなパーツを組み立てるのに約6時間を要するが、その分(ありがたいことに)、最も細かく調整されたスティールブレスレットと称されるほど高い水準にある。これほどまでに人手をかけて作られたスポーツブレスレットは他にないだろう。 

  オーデマ ピゲのデザインは自信に溢れている。Ref.15400は、センターセコンド針が付いていることと、サイズが大きくなっていること -もっともその差も僅差である(直径2mm分)- を除けば40年前にスケッチされたモデルと大きな違いはない。ロイヤル オークの新しいサイズは、同時期に他社の時計が敢行した飛躍と比較して、僅かに前進したに過ぎない。純粋主義の愛好家はそれを悔やむが、私自身スイス時計業界の単なる流行を反映した、この仕様変更に対する彼らの懐古趣味を理解はできる。少し手首が太い男性ならば、不満を感じることはないだろうから、正当化されうるサイズ変更である。私は歴代ロイヤル オークを、何度も繰り返し着用してきたので、最初の時のように装着感の素晴らしさに驚かなくなってきたが、その適応力の高さには今でも驚いている。シンプルで、無骨で、カジュアルであることは言うまでもない。 


最終的な結論

  ロイヤル オークの影響は、ジュー渓谷では肌で感じられなかったかもしれないが、現在の住民に聞けば、ロイヤルオーク以前の時代と以降の時代があることを教えてくれるだろう。それまでのオーデマ ピゲは、年間約6000本の時計を生産していたが、その全てが貴金属で作られていた。 

  その後、マニュファクチュールとして復活し、トレンドの発信者となり、今最もホットなタイムキーパーの王者となった。現在の生産数は年間2万5000~3万本と推定されているが、その大部分は初代ロイヤルオークに何らかの形で関連している。この時計は、他にも多くの愛好家が腕に着けている時計であり、それが悪いことだとは全く思えない。 

  そこで、独創性に欠けると言われるリスクを冒して、私は現代の最も重要な時計ラインの一つである、真の歴史と多才なスタイル、そして高品質の時計製造を兼ね備えた時計を手にしている。このモデルの中にはプロポーションが優れているモデルもあるが、過去にオーデマ ピゲがこのモデルの中でも特に優れたものを製作していたという事実に注目しているのであれば、とっくにRef.15400を選んで頂いていることだろう。 


ヴァシュロン・コンスタンタン オーヴァーシーズ
By Jack Forster

  オーヴァーシーズの歴史は、信じられないかもしれないが、1975年にヴァシュロンがRef.2215またはRef.42001(製造中にナンバリングシステムが変更された)と呼ばれる時計を短期間生産したことにまで遡る。しかし、オーヴァーシーズの始祖として最もよく知られているのは、1977年に発売された222で、発売時には3つのバリエーションが用意されていた。 

 222のブレスレットは、Ref.2215/42001よりもケースと一体化しており、細長い六角形のミドルリンクがケースの上部と底部にある同じ凹みにはめ込まれている。ムーブメントは極薄のヴァシュロン製Cal.1121が採用された。今日のオーヴァーシーズ・オートマティックには、時計と同時期に発表されたムーブメント、Cal.5100が搭載されている。2016年SIHHで発表されたこのモデルは、デイト付3針モデル極薄自動巻きモデル極薄パーペチュアルカレンダー後にワールドタイマーを追加)など、刷新されたオーヴァーシーズラインとして発表された。この新ラインの特徴の一つは、ブレスレットとストラップ交換システムで、工具を使わずにブレスレットを付属の2種類のストラップ(レザーまたはラバー)のいずれかに簡単かつ迅速に交換することができる。システムは非常によく機能し、非常に安全性が高い;唯一の難点は、非OEMストラップを使用することができないということだ(ブレスレット一体型の時計に関しては、アフターマーケットのストラップに通常考慮されることがそのまま適用できるとは思えないが)。 

  私はこの新しいオーヴァーシーズの大ファンで、その第一印象は、サテンとポリッシュ仕上げが織りなす美しさと、非常に高い品質基準で作られた製品だということだ。ブレスレットは魅力の多くを占めている。リンクはヴァシュロンが好んで使用しているマルタ十字のモチーフを反映しているが、オーヴァーシーズの新作モデルの場合は、それが強引であるとは感じない。ヴィンテージの222愛好家の中には、このリファレンスのケースに見られるゴールドのマルタ十字が欲しいと思う人もいるかもしれないが、私はオーヴァーシーズに物足りなさを感じることはない。このブレスレットの詳細は後ほどご紹介するが、簡単に言えば、とてもしなやかで、その構造がこのブレスレットにしなやかな堅さを与え、官能的な満足感を与えてくれる。実際、これがオーヴァーシーズ・オートマティックの第一印象だ。 


ダイヤル

  スティール製ラグジュアリースポーツウォッチのダイヤルをデザインするというのは、ちょっと難しい課題だ。なぜなら、ある程度のエレガンスが尊重される必要がある一方で、シンプルにし過ぎるとスポーツ/エレガントな時計が備える機械的なフィーリングを失ってしまうからだ。ヴァシュロンは、新しいオーヴァーシーズコレクション全般と、特にオーヴァーシーズ・オートマティックのバランスをうまくとっている。ルミノバをふんだんに使用した優れた視認性に(デイリーユースを明白に意図した時計としては当然のことだが)、余計な装飾は一切ない。このような時計は、全体のデザインと特定のデザイン要素で視覚的に統一されているので、控えめにした方が良いというのが鉄則なのだ。 

スティール製ラグジュアリースポーツウォッチのダイヤルをデザインするというのは、ちょっと難しい課題だ。なぜなら、ある程度のエレガンスが尊重される必要がある一方で、シンプルにし過ぎるとスポーツ/エレガントな時計が備える機械的なフィーリングを失ってしまうからだ。 

– ジャック・フォースター

  ダイヤルは、様々なブルーの濃淡を慎重に使い分けることで、荒涼さから解放されている。例えば、セコンドトラックのリホート(編注:ダイヤル外周上にある立体的なインナ-リング)は、やや明るめの濃淡で、盛り上がったアワートラックとアプライドマーカーが生み出す質感が、他の方法では間延びした印象になってしまうだろうダイヤルに深みを与えている。針とダイヤルの構成部品の品質は素晴らしく、ダイヤル全体同様、針は凛としていながらも控えめな仕事をするために存在しているような印象を与える。 


ムーブメント

  前述したように、オーヴァーシーズ・オートマティックのムーブメントは、新作コレクションと同時に発表されたが、多くの点でハイグレードで基本的なジュネーブスタイルの自動巻きムーブメントの典型例となっている。そのプロポーションは、ミッドセンチュリーを彷彿とさせる。直径30.6mm(13 1/4リーニュ)、厚さ4.5mm、60時間のパワーリザーブと2万8000振動/時のテンプを備え、日常的な使用においても高い信頼性と精度を発揮するように設計されている。ムーブメントにはジュネーブ・シールも刻印されている(もちろん、ジュネーブ・シールは2012年の規格改正以降、ムーブメントだけでなく時計全体に適用されている)。ローターは22カラットゴールド製だ。 

  今回スリー・オン・スリーの中でご紹介する他のムーブメント(AP Cal.3120とピアジェ Cal.1110P)との組み合わせで見ると、Cal.5100にはいくつかの魅力的な点がある。このムーブメントは恐らく、時計の動力として最も優れたプロポーションをもつものだ;Cal.1110PとCal.3120のサイズ共に小さく、前者は25.6mm、後者は26.6mmとなっている。Cal.5100は、非常に魅力的なブリッジレイアウトと、より明らかに繊細な仕上げをもつAPのCal.3120のようなビジュアルの美しさもなければ、Cal.1110Pのような経済性もないが(それ自体が優秀さを自負するものではない)、徹底した仕上げの素晴らしさと静謐な佇まいは、時計全体の外観と優れてマッチする。 


ケースとブレスレット

  オーヴァーシーズ・オートマティックのブレスレットとケースは見事な一体感を備えている。仕上げは終始一級品だ。ロイヤルオークのようなアグレッシブな角張ったデザインではないが、ケースの側面やベゼルの構成には十分なシャープさがあり、その効果は誇張されて見えることなく、時計に明瞭さを与えている印象だ。ベゼルとブレスレットのリンクはどちらもヴァシュロンのマルタ十字のモチーフを彷彿とさせるが、やり過ぎた印象はもたない;十分にデザインが練られているため、シンボルというよりは、純粋に抽象的な幾何学的形状だと捉えられるだろう。 

  しかし、オーヴァーシーズ・オートマティックは、ロイヤルオークとポロ Sの両方と一味違った素晴らしい隠し味をもっている:ブレスレットを2つの付属のストラップのいずれかに交換することができるクイックチェンジシステムは、シンプルで安全性が高く、基本的に瞬時に時計の外観と感触を一変させることが可能だ。繰り返しになるが、欠点は、非ヴァシュロン(正確には、非オーヴァーシーズ)のストラップを使用することができないことだが、ポロ Sのストラップ用のブレスレット交換をDIYできないという事実、間違いなくロイヤル オークにも用意されていないことを考慮すると、この2本よりオーヴァーシーズは、はるかに汎用性の高い時計だと言える。 

  実際にこの機能をどのくらい使用するかは、個人的な好みや習慣に左右されるが、作業は非常に簡単だ - 数秒しかかからないだろう- しかも、思ったよりも高頻度でそれを行うことになるだろう。興味深いことに(後から振り返ると、意外と知られていないが)、ストラップに装着すると、時計は全く異なる生物となり、ケースデザインの多様性とは何かを物語っている。レザーストラップはジャケットとの相性が抜群で、ブレスレットに装着しているときよりも、より控えめなパートナーとして、とても快適で、とても気楽な週末用の時計となる -晴れた秋の午後、落ち葉をかき集めるときに身に着けるのを想像してみてほしい。 


最終的な結論

  今回のヴァシュロン オーヴァーシーズ・オートマティックは、ロイヤル オークの影から光の中へと踏み出し、独自のアイデンティティとフィーリングをもっている。ロイヤル オークほどわかりやすいアイコニックモデルではないし、ポロ Sに比べて価格面での優位性はないものの、222がもっていた装着性と、すっきりとしたラインの組み合わせは、これまでのオーヴァーシーズのどのバージョンより、さらに私が考えられる他社製のブレスレット一体型スティールウォッチよりも、非常に好感がもてる仕上がりとなっている。これはロイヤル オークに代わる選択肢といえるだろう。 

基本的な特徴である、美しく仕上げられたケースとブレスレットが一体化した腕時計は、この種の時計では通常考えられないほど、多くの万能性をもつものとして、確実にそこにある。 

– ジャック・フォースター

  オーヴァーシーズ・オートマティックの比較の一番興味深いポイントは、オートマティックと基本的なデザインの多くを共有しているオーヴァーシーズ・ウルトラシンだ:一見しただけではどちらがどちらか判らないほどよく似ている。オートマティックはスティール製であるが、ウルトラシンは、ホワイトゴールド製だ。しかしながら、かなり薄い7.5mm×40mmのケースは、オートマティックの11mm×41mmと対照的だ。なお、ウルトラシンはデイト表示をもたない。 

  これは明らかに価格比較ごっこではない - 2つの時計は、数万ドルの価格差で差別化されており、手でもっても手首に巻いても、全く異なる生き物を扱っていることが明白だ。しかし、同時に、他の文脈でそれぞれを見てみると、オーヴァーシーズ・オートマティックがウルトラシンの多くの機能を提供しているため、時計製造に関しては、“収穫逓減の法則”がいかに成立し難しいかを明らかにしている。この2本が対極に立つのは、2、3の理由からである -ウルトラシンはホワイトゴールドを採用しているからだ;ウルトラシンはヴァシュロン製のCal.1120(APのCal.2120に相当)を採用しており、これは世界で最も薄い自動巻きムーブメントにして、素晴らしい作品だからだ。 

  しかし、基本的な特徴である、美しく仕上げられたケースとブレスレットが一体化した腕時計は、この種の時計では通常考えられないほど、多くの万能性をもつものとして、両モデルが確実にそこにある。690万円という定価(発表当時)は、ウルトラシンをとてつもなく入手しにくくしているが、自動巻き機構はウルトラシンが提供するものの多くを占め、また、時計自体が非常に魅力的な外観と感触で際立っている。確かに、ロイヤル オークよりも少しニッチな印象を受けるが、それも魅力のひとつだと思う。 


ピアジェ ポロ S
By Stephen Pulvirent

ファーストインプレッション

 2016年に発表されたピアジェ ポロ Sは、時計愛好家の間で物議を醸したモデルのひとつです。7月に発表された瞬間、周囲の時計愛好家たちからは“ノーチラスのコピーだ!”、“アクアノートにそっくりだ!”という声が上がりました。どう思いますか? 彼らを完全に非難しているわけではありません。ざっと時計を見てみると、クッションのような形をしたリブ編みのブルーダイヤル、平面的なサテン仕上げのスティール製ベゼル、スティール製のリンクブレスレットがあり、ジェラルド・ジェンタの古典的なモデルに類似していることは否定できません。

 しかし、ポロ Sの議論をこれで終わらせるのは大きな間違いです。

  ポロ Sは、ピアジェが新たな市場と顧客層の開拓に向けて大きな一歩を踏み出したことを示す興味深い時計なのです。ステンレススティール製の高級スポーツウォッチを、1万ドル以下の価格帯のカテゴリーに、意味のある形で導入したのです。手にした時には、身に着けて楽しい時計であり、他のどの時計とも一線を画す独自の外観と手触りを与えてくれると感じました。

ジャックはオーヴァーシーズを、アーサーはロイヤル オークを手首に装着していますが、僕は自分の手首に何が装着されるのか少し心配していました。

しかし、良い時計は時に驚きを与えてくれます。

– スティーブン・プルビレント

 送られてきた同じ時計を初めて開梱したとき、何を期待していいのかよく分かりませんでした。ポロSの発表会で実際に見たことはありましたが、実物の写真や時計業界に横行するひどいプレス用レンダリング画像以外のものを見たのは数ヵ月ぶりのことでした(それはまた別の機会に)。ジャックはオーヴァーシーズを、アーサーはロイヤルオークを手首に装着していましたが、僕は自分の手首に何が装着されるのか少し心配していました。

 しかし、良い時計は時に驚きを与えてくれます。


ダイヤル

  ポロ Sのダイヤルは議論の的になっています。パテック フィリップのノーチラスのダイヤルに似ています。少し四角いクッションのような形をしていて、水平のブルーのリブ、そして針やデイト窓までもがパテック フィリップ ノーチラスのダイヤルを思い起こさせます。Ref.7118レディス ノーチラスのダイヤルに似ていると言っても過言ではありません。 

  一部の人は、これでポロ Sに見切りをつけてしまったのではないでしょうか。彼らはこれ以外見えないだろうし、他の部分に目を向けることに興味がないのです。それはそれで仕方ありません。僕は理解していますし、その人たちを責めたりはしません。しかし、多くの人にとって、ノーチラスは彼らの価格帯から外れているか、面白くないだけなのです。そのような方のために、ポロ Sは説得力のある競合製品としてだけでなく、それ自体が価値のある時計を提案するのです。 

  ひと目見ただけで、このダイヤルのブルーがいかに鮮やかで明るいかがわ分かるでしょうか。グレーがかったブルーでもなく、ソフトなブルーでもなく、まさにブルーなのです。水平方向のリブがその効果を増幅させ、手首のわずかな動きでダイヤルの色を変えることができます。角度によっては光っているように見え、別の角度から見ると深いネイビーのように見えるのが、こちらの画像でもお分かりいただけると思います。ダイヤルはホワイトとグレーのバージョンもありますが、本当はブルーの方が良いんですよね。ダイヤルのパターンが途切れるのは、ダイヤル端のミニッツトラック、12時位置のピアジェの表記、そしてデイトウィンドウの上の6時位置にある“Automatic”の表記だけです。 

  さて、そのデイト表示についてお話ししましょう。私はアシンメトリー(非対称)なデイト表示が好みです。私が最初に手にしたヴィンテージウォッチは、3時位置にこのようなものを備えたユニバーサル ジュネーブのポールルーターでした。6時位置では、左右対称なので、アシンメトリーな効果が少し抑えられています。ホワイトのポップさがブルーのフィールドを乱していますが、これはピアジェのメイン顧客をターゲットにしたものであり、デイト表示のある時計は、それがない時計よりも圧倒的に売れているということを覚えておいてください。 

  針とマーカーは非常にバランスが良く、見事に仕上げられています。また、昼間でも夜でも読みやすい明るさを両立しています。秒針の末端に象られた「P」は、私には少し安っぽい感じがします。ピアジェはよせばいいのに、もう少しブランド名を強調したかったのでしょうか?しかし、それは大したことではありませんし、全体のデザインを損なうほどではないでしょう。 


ムーブメント

  おそらくポロ Sの最もエキサイティングな点は、既存の自社製キャリバーを流用したり、低価格のムーブメントをどこかから調達したりするのではなく、ピアジェがこのモデルに新しい専用設計の自社製ムーブメントを搭載したことでしょう。Cal.1110Pは、時、分、秒、日付を表示する自動巻きムーブメントです。厚みはわずか4mm、2万8800振動/時、27石で駆動します。パワーリザーブは約50時間で、ハック機能を備えているので、秒単位で正確に時刻設定することができます。 

この時計が超高級ムーブメントを搭載した時計の半額であることを考えると、Cal.1110Pはポロ Sが総合的に高い価値を示していると思います。 

– スティーブン・プルビレント

  ピアジェによると、Cal.1110Pは800Pを進化させたもので、マニュファクチュールの次世代の自動巻ムーブメントであることを意味しています。Cal.800Pはロービート(2万1600振動/時)であり、石数は少なく(25石)、パワーリザーブは85時間と長くなっています。Cal.1110Pの仕上げは、サーキュラー・コート・ド・ジュネーブ装飾、地板のサーキュラー・グレージング、ブリッジの小さくも鮮明な面取り、青焼きネジ、スレートグレーのローターなど、より洗練されたものとなっています。 

  しかし、ムーブメントの構造、特にブリッジやホイールの配置や形状に注目すると、Cal.1110PはカルティエのCal.1904-PS MCと非常によく似ていることに気づくでしょう。実際、ほとんど同じように見えます。唯一の違いは、1904-PS MCがスモールセコンドを備えているのに対し、Cal.1110Pはセンターセコンドを備えていることです。これは驚くべきことではありません。両ブランドはリシュモングループの一員であり、リシュモンは研究開発のリソースやノウハウを多かれ少なかれブランド間で共有しているからです。 

  結局のところ、Cal.1110Pは、このような時計を駆動するために必要な技術を全て備えた、素晴らしい仕上げの完全に優秀な自動巻きムーブメントなのです。しかし、オーデマ ピゲやヴァシュロン・コンスタンタンのキャリバーに見られるような派手な装飾は欠けています。耐磁性、ジュネーブ・シール、セラミック・ボールベアリングなどはありません。この時計が超高級ムーブメントを搭載した時計の半額であることを考えると、Cal.1110Pはポロ Sが総合的に高い価値を示していると思います。 


ケースとブレスレット

  この記事で紹介する全ての時計と同様に、ポロ Sはケースとブレスレットが話題となる時計です。ダイヤルとベゼルのファンキーな形状にもかかわらず、この時計は、日常使いできる時計なのです。スティールケースは、今回紹介する時計で最大の42mmです。しかし、厚さは9.4mmで、それは同時に、最薄(11mm厚のオーヴァーシーズと比較した場合、大差で)でもあります。100m防水で、全体にポリッシュ加工が施されています。ハイポリッシュ仕上げからの唯一の例外は、ベゼル上面の水平方向のサテン仕上げです。これは、スティール製ラグジュアリースポーツウォッチというジャンルの特徴であり、ベゼルに幾何学的な形状を与える仕上げを採用していますが、このモデルではそれがうまく機能しています。 

  42mmのポロ Sは、僕が普段使っている時計よりも大きめです。40mmに近ければいいのですが、この時計がメインストリームをターゲットにした時計であることを考えると、ピアジェが少し大きめのサイズを選んだ理由がよくわかります。正直なところ、42mmというこの時計の大きさに対し、僕の手首は確かに細く感じます。ケースが非常に薄いので、その分、重心が低くていい感じに収まっています。 

  ケースについての不満は、作りにあります。ヴァシュロン・コンスタンタンとオーデマ ピゲのケースは、どちらも精密な機械加工が施されており、鮮明な角度、様々な仕上げ、そして正確なラインが施されています。それに比べて、ピアジェ ポロ Sのケースは少し甘い印象を受けます。エッジがはっきりとしておらず、全体的な形状も少し物足りない感じがします。ケースを打ち抜くことは、(CNCマシンで個別にフライス加工するよりも)はるかに安価な方法です。その理由は理解できますが、最終的な仕上がりには説得力が足りません。 

  この時計のブレスレットもまた、興味深い難問を抱えています。実際には一体型のブレスレットではありません。ロイヤル オークやオーヴァーシーズのような時計と一体型のブレスレットに見えるように、エンドリンクがしっかりとはめ込まれています。これもまた、より大衆向けの時計なので、ポロ Sに標準的なストラップを使用したり、ブレスレットを簡単に元に戻すことができるのは利点です。 

  技術的な問題はさておき、ブレスレットはとても素敵です。私の好みからすると少し光沢がありますが、リンクは手首に心地よくフィットし、サイズ調整がされているので、多くのサイズの手首にフィットします。オーヴァーシーズやロイヤル オークと比較してすぐに気づくのは、このブレスレットは完全に平坦に置くことができ、テーブルの上に置いても自立しないことです。これは良いことでも悪いことでもありません -単に全く別の生態をもつというだけのことです。 


最終的な結論

  全体的にポロ Sには驚かされました。実際に時計を手にする前に聞いていた噂では、私の好きな時計のジャンルを飄々と模倣したようなものを予想していました(これは、一般的にピアジェが非常に過小評価されている時計メーカーだと思っている人からの意見です)。私が最終的に見つけたのは、この時計は非常に価値があり、通常は大口の時計愛好家のために用意されているスタイルを新たな顧客に提供しているということでした。 

  ポロ Sから学ぶべき重要な教訓の一つは、時計は孤立して存在するものではなく、また完全にフラットで平等な競技場に存在するものでもないということです。ポロ Sが他の有名時計に大きな借りがあるという事実を無視するのは間違いです。ポロ Sとパテック フィリップ ノーチラスを並べて比較するのは、まるで互いの代替品であるかのように評価するのは、同じようにひどい間違いでしょう。同様に、ポロ Sはオーヴァーシーズとロイヤルオークの両方にとって、完全にマッチしていないように見えたとしても、貴重な対抗馬だと感じました。 

  ポロ Sは、ジェラルド・ジェンタの作品には感心するが、BMW 3シリーズ1台分を時計になど費やしたくないという人のための時計です。また、豪華なステンレススティールのスポーツウォッチのカテゴリーに潜り込む方法を探しているコレクターの方にもオススメです。僕は、この時計を真のラグジュアリースポーツウォッチであると断言します。ムーブメントからフィット感、仕上げに至るまで、この価格帯のモデルの中では一線を画しており、現代のピアジェのあり方に新鮮さを感じさせてくれます。 


真っ向勝負

付録:ノーチラスはどこに行った?

  今頃になって、あなたはおそらく一つの疑問を抱いていることでしょう。一体何がパテック フィリップ ノーチラスに起こったのか?それは良い質問です。僕たちがこの企画のためにアイディアをまとめ始めたのは2016年9月でしたが(途中で少し脱線してしまいました)、僕たちはモデル40周年を迎えるノーチラスに、全く新しいコレクションを期待していました。僕たちはそれがこのレビューでその途中で時計を含めることは愚かなことだと思ったため除外したのです - 代わりに、当面入手可能な時計で勝負することを選びました。 

  2016年10月にはいくつかの新しいノーチラスを手にすることができましたが、期待していたものではありませんでした。メインコレクションに変更はなく、40周年を記念してダイヤモンドをちりばめた限定モデルが発表されました。まあ、先のことを考えてのことですから仕方ありませんね。

動画/写真撮影:ウィル・ホロウェイ