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ジン(Sinn)は1961年にコックピット計器やパイロット用クロノグラフの製造からスタートし、数十年経った現在でもパイロット用ウォッチに重点を置いている。60年代以降、常に機能を追求したクロノグラフの製造に力を注いできたが、おそらくこのシリーズで最も価値のあるものは、時間表示のみのセグメントに存在するのだ。
ジンの556は、ドイツのメーカーが手がける飾り気のないパイロットウォッチモデルだ。ジンのラインナップのなかでは最もリーズナブルで、ブレスレットタイプで26万4000円(税込)だ。そしてこの価格では、何が得られるかよりも何が得られないか、つまりここには飾り気はなく、その絶対的なシンプルさが魅力なのだ。ベースモデルである556には、2種類のダイヤルが用意されている。556.Mはバトンマーカーと数字を排除したダイヤル、556.Aは3、6、9、12にスタイリッシュなアラビア数字が配されている。
両モデルでは556.Mが最も魅力的だと思うが、それはジンのラインナップとしてもスポーツウォッチとしても、ユニークなポジションを占めていることが関係していると思う。ジンのファンの多くは、ミリタリーの伝統やブラッシュ仕上げ、そしてきちんと仕事をするジンの製品に引かれているのだ。また、ジンは好きだけどブランドの歴史はよく知らないし、さほど興味もない、と言う購買層もいる。彼らは機能的でありながらカジュアルなものを好む。556.Mは、その両方からファンを集めている。ツールとしてのパイロットウォッチというルーツを隠し、エレガントに見せられるのだ。
このモデルは、ふたつのデザインの世界をまたぐことで、どちらの方向へも向かうことができる。26万4000円(税込)の基本価格より少し多くのお金を出すと、最近リリースされた明るい色の556限定版のスポーティでカラフルなモデルに手が届く。あるいは、ジンの時計はハードな場所で逞しい男性が使うのがベストだという信念があるなら、サテン仕上げのスチールケースと赤い秒針を持つ556.I.RSがぴったりだ。
理念やイデオロギーはさておき、この時計はただ見事に装着できるのだ。38.5mm×11mmのケースは、手首にぴったりとフィットして、時計が消えていくような感覚が好きな人にはちょうどよいサイズだ。7.5インチ(約19cm)の私の手首では、確かにその通りになった。また、この時計はあらゆるストラップによく合い、20mmのラグ幅はいろいろなオプションを持っていることを意味する。付属のブレスレットは、Hリンクのデザインを踏襲したジンらしいデザインだ。ツールとしての美学とエレガンスがここにある。
556では手ごろな価格を実現するために、定評のあるセリタSW200-1を採用している。ジンのツールウォッチは、たとえ珍しくて有用な機能を持つモデルであっても、概して整備が容易で交換も簡単な人気のムーブメントを使用している。ジンの自社製ムーブメントのバグがすべて解決されているかどうか心配する必要はないし、世界のどこにいても時計店に時計を持ち込んで修理してもらうことができ、ジンに送り返してもらう必要もない。SW200-1は、ただ仕事を確実にこなしてくれるのだ。
556には、残念ながらシースルーバックが採用されている。これは個人的な好みだが、何か特筆すべきことがない限り、私はそれを見る必要はないと思っている。この時計の欠点を挙げるなら、日付表示窓は確かに少しの助けにはなるが、正直なところ必要ないと思う。ジンは小さな変更でスピンオフモデルを作ることが得意なので、556.MやIで日付窓のないものを作ってもいい時期かもしれない。
556.Mは、最も視認性の高いデザインのひとつだ。ダイヤルのデザインを構成するのは、太くて長い長方形のアワーマーカーと、短くて薄い長方形のミニッツトラックのふたつだけだ。3、6、9、12のマーカー(3のマーカーは日付のため短い)とその他のインデックスとのあいだに区別はない。しかし、これは視認性に悪い影響を与えるものではなく、12時位置の異なるマーカーを基準に目の方向を決めるような視覚的な指標は必要ないことを証明している。繰り返しになるが、絶対的なシンプルさがこの時計をヒットさせているのだ。
556が、ブレスレットを除いて、新品で1000ドル以下で手に入る時代だったことを思い出す。その時代はとうに過ぎ去り、残念ながらもう戻っては来ない。ほかのすべてが上がってしまったので、556は26万4000円(税込)になってもまだ大いにその価値がある。比較対象も同様で、それらはすべてこれより少し高い価格だ。ジンはまだ小規模なメーカーで、大幅なコストダウンのためのスケールメリットは期待できない。だから556はまだ、硬派なツールウォッチの世界の入り口に立っているのだ。
556の理念は何年経っても変わっていない。それはレシピがとてもシンプルだからだ。ミニマルなダイヤルデザイン、信頼性の高いムーブメント、ドイツの魅力、そして怒りや呆れを感じさせない価格。もし、これがベストバリューの万能ツールウォッチでないなら、Ich weiß es nicht(もう知らない)。
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