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Photos by Mark Kauzlarich
今月、第10回となるドバイウォッチウィークのために業界のトップネームたちが、急成長するアラブ首長国連邦の都市に集結したことで、ドバイは時計界の中心に躍り出た。主催者であるアハメド・セディキの創業75周年を記念するこのショーには時計業界における真の“名士録”ともいえるのエグゼクティブたちが集まり、90以上のブランドを迎え、前回(2023年)比113%増となる4万9000人以上の訪問者を集めた。
今回のドバイウォッチウィークでは、多くの“初めて”があった。そのひとつが ロレックスのCEOであるジャン・フレデリック・デュフール(Jean-Frederic Dufour)氏からの基調講演であり、その発言についてはすでにこちらの記事で紹介している。そしてもうひとつの初めての試みが、時計業界のCEOたちによるラウンドテーブル(CEO Roundtable: Horology Edition)だ。オーデマ ピゲ、ブライトリング、ショパール、ウブロという業界を代表する4ブランドのリーダーたちが集い、親密かつ率直なディスカッションを繰り広げた。私はこのパネルのモデレーターを務め、質問役として登壇するという光栄な機会を得た。その様子は、ドバイウォッチウィークの公式YouTubeチャンネルで全編を見ることができる。
この話のなかでも特に重要な要素のひとつは、オーデマ ピゲのCEOであるイラリア・レスタ(Ilaria Resta)氏によって提起された。ブランドはパンデミック後のブームに続く業界全体の低迷に対処しているが、スイス時計業界のメーカーやサプライヤーはラグジュアリーなタイムピースへの需要の減速から、より深刻な経済的苦境に直面している。景気回復の見通しが見えるなかでも、エグゼクティブたちは業界が生産需要、注文、およびサプライヤーとの相互作用をよりよく調整する必要があると警告する。そうしなければ再び“好況と不況”のサイクルを繰り返す危険性があり、それがスイスの時計製造における特殊な製造能力を低下させる可能性があるのだ。
家族経営のオーデマ ピゲのCEOであるレスタ氏は、強いスイスフランから金価格の高騰、消費者需要の落ち込み、そして最も明確な要素である米国の関税に至るまで、この部門が直面する課題である“完璧な嵐”にサプライヤーとパーツサプライヤーが巻き込まれていると述べる。メーカーがこれらの重要なサプライヤーのニーズによりよく応えなければ、業界全体が引きずり下ろされることになるだろう。
左からジュリアン・トルナーレ(Julien Tornare)氏、ジョージ・カーン(Georges Kern)氏、モデレーターである私、アンディ・ホフマン(Andy Hoffman)、そしてイラリア・レスタ(Ilaria Resta)氏とカール‐フリードリッヒ・ショイフレ(Karl-Friedrich Scheufele)氏。
「この低迷はすぐに終わり再び成長することを願いますが、私はすべての人たちが業界としてこの数年間に何が起こったか、マッスルメモリーとして覚えていて欲しいのです。なぜなら、実際にはこのテーブルにいない人々、すなわち私たちのサプライヤーがいます。彼らは私たちとは異なる物語を生きてきましたから」とレスタ氏はドバイウォッチウィークのCEOラウンドテーブルの議論で述べる。
「彼らにとってこの状況は極めて深刻化しました。彼らは受注が一夜にして急増し、また急減するのを目の当たりにしたのです。私たちはこの危機を乗り切れると確信しています。しかし私たちが責任ある成長に戻らない場合、サプライヤーとの真のエンドツーエンド連携によるエコシステムとサプライチェーンを構築しなければ、この状況は再び繰り返されるでしょう」と彼女は述べる。
オーデマ ピゲは最新の製品と、重要なヴィンテージピースの両方を特徴とする、最大かつ最も訪問者の多い単一ブランドの展示会を開催し、ドバイウォッチウィークで存在感を示したが、同ブランドはこれに関してすでに動きを見せている。今夏、オーデマ ピゲは高精度加工とマイクロメカニクスに関与する重要なスイスのサプライヤーであるインホテック社(Inhotec SA)の過半数の株式を購入した。この取引でオーデマ ピゲはインホテック社に財政的および戦略的な支援を提供し、パーツサプライヤーはほかのブランドへの供給を続けている。
「彼らの側で被害者が出るならば、それは業界全体の被害となります。これは警戒すべき重要な点です。私たちはブランドについて話をしていますが、より広範な生態系については話していません」とレスタ氏は述べる。
Photo courtesy Chopard
ショパールの共同社長であり、家族経営ブランドの時計製造部門責任者でもあるカール‐フリードリッヒ・ショイフレ(Karl-Friedrich Scheufele)氏は、同ブランドがスイスのル・ロックルにあるダイヤルメーカーのメタレム社(Metalem SA)を通じてパーツサプライヤーが直面する圧力を直接見てきたと述べる。
「私たちは彼らが今何を経験しているかを知っています。浮き沈みです。私たち(ショパール)は高度な垂直統合を実現したメーカーですが、依然としてサプライヤーに依存しています」とショイフレ氏は述べる。彼はグランドソヌリ、プチソヌリ、ミニッツリピーター、そしてストップ秒機能付きの60秒トゥールビヨンを特徴とする新しいL.U.C グランド ストライクの注目度の高い発表を主導したが、これはショーで最も話題となり、精神的にも物理的にも絶賛された時計のひとつであった。「これらのサプライヤーが再び立ち直ることができなくなるか、または姿を消すことでそのサプライチェーンが崩壊するならば、業界全体が危機に瀕します」と彼は述べる。
ドバイウォッチウィークでのCEOラウンドテーブルは、トップエグゼクティブが時計業界の現状について初めて公の場で率直かつ踏み込んだ議論を交わした場となった。この議論は、スイス政府と米国側が米国に輸入されるスイス製品に対する関税を39%から15%に削減する合意を発表したわずか数日後に行われたものだ。その合意は、米国の貿易政策の変化の下で苦しんできたスイス時計メーカーにとって待望の安堵をもたらした。オーデマ ピゲのレスタ氏は、提案された合意を“より管理しやすい”関税水準であり、業界にとっての“ある程度の正常さ”への復帰と呼んだが、過去2年間にわたり時計製造を混乱させてきた高水準の不確実性が続くことを予想しているとも述べた。ショパールのショイフレ氏は、過去に多くの課題を乗り越えてきた業界は少なくとも今、重要な米国市場を巡ってより確実性を持って“半分満たされた”状態にあると述べる。
ブライトリングCEOのジョージ・カーン(Georges Kern)氏は、来年に“House of Brands”としてハイエンドのユニバーサル・ジュネーブと、手ごろな価格のギャレというふたつのブランドをさらに立ち上げる準備をしているが、これらは彼が30年のキャリアで見てきたなかで時計業界にとって最も複雑な状況であると言う。それでもなお、今こそブランドとエグゼクティブがその価値を証明する時期であると彼は述べる。「私はサイクリストですが、上り坂になると競争相手との違いがわかります。平坦な道では誰でも走れるのですが、山で実力を発揮できる人はほんのわずかなのです」と彼は言う。
ウブロのトップであるジュリアン・トルナーレ(Julien Tornare)氏は、時計だけでなく、一般的なラグジュアリーブランドがリベンジ消費に牽引されたコロナ禍後のブームに続き、さまざまな要因からの強大な圧力にさらされていることに同意する。多くの新規参入者が生き残りに苦戦するなかで、今こそ伝統的な時計ブランドがその独自性を際立たせるものに磨きをかける時期であると彼は述べる。「私たちは以前ほど簡単に状況を感じ取れないため、事態がいつ好転するかも不透明です。非常に厳しい状況ですが、今私たちは魅力を高める基盤づくりに取り組まなければなりません。市場シェアを獲得できるのは、まさにこの時なのです」と彼は言う。
創立150周年の年に、リューズから完全に操作・設定可能なパーペチュアルカレンダーの導入に続き、新しいプッシャーと薄いプロファイルを持つRD#5など、着用者の体験に焦点を当て話題となる新しい時計を製造してきたオーデマ ピゲのレスタ氏は、不確実ではあるが、今は方向転換して新しい目的地を策定する時期ではないと述べた。「確かな時も不確かな時も、同じ灯台が必要なのです」とレスタ氏は言う。「こうした状況で私たちが犯すきわめて多くの誤ちは、方向性を変えること。この方向転換が危機に拍車をかけます」
オーデマ ピゲ RD#5.。Photo by Mark Kauzlarich
各リーダーはトップ5に名を連ねる一部の業界リーダーを除き、多くの主要ブランドで売上げが低下し輸出が減少した過去2年間と比べて、2026年はスイス時計にとってより成功する可能性について楽観的な見解を示した。ショパールのショイフレ氏は、来年は過去2年間よりも“明るい”可能性があることに自信を持っていると述べる。ブライトリングのカーン氏は、より多くの世界市場がプレミアムな機械式時計への嗜好を育み、業界がより多くの顧客に届くための新しい方法を見つけるなかで変化していくであろうラグジュアリー製品と時計の未来に対して依然として強気だ。
「世界にはより多くの富や、デジタル化に対するある種の反動があり、そして認定中古プログラムがあります。それゆえ、私は業界に自信を持っています」とカーン氏は述べた。「もはや時間を読むための単なる道具ではありません。それは本当に感情と喜びの対象なのです」
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