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Photos by Mark Kauzlarich
ドバイウォッチウィークの基調講演として行われた公の場での異例のスピーチで、ジャン・フレデリック・デュフール(Jean-Frederic Dufour)氏は売上高でスイス最大のブランドであるロレックスが、今後も時計の大半を正規販売店ネットワークを通じて販売し、2023年に買収したブヘラとトゥルノーの小売店を優遇することはないと述べた。デュフール氏は、ロレックスがスイスに拠点を置くブヘラを買収したのはユニークな機会があったからだと語った。「それは私たちの流通ネットワークのきわめて小さな部分であります。それ以上拡大する意図はありません」と、デュフール氏はブヘラとロレックスの小売戦略について述べた。彼は同ブランドが今後も、ドバイの時計小売業界の巨大企業であり、ドバイウォッチウィークの主催者兼ホスト、そして主要なロレックス小売店でもあるセディキ・ホールディングを含む正規小売店のネットワークに依存し続けると語った。「これは一種の魔法のレシピであり、業界が長きにわたって機能してきた方法です」とデュフール氏は述べた。
ロレックスCEOは時計業界に対し、時計製造部門の労働、クラフトマンシップ、デザイン、エンジニアリングの能力を称賛し促進することで、将来にわたって優秀な人材を引き付ける必要性を訴えた。デュフール氏はさらに時計ブランドに対し、顧客と深く長期的な関係を築くように促し、さもなければ、忠実で献身的だったコア顧客との繋がりを失ったとかつて彼が指摘した、自動車産業と同じ運命を辿るリスクがあると述べた。彼はまた、ノウハウを次の時代に伝えるためには見習い制度とトレーニングが鍵となっており、ロレックスだけで現在26の異なる専門分野で約500人の見習いがいることを明かした。
「新参者のいない産業は、少しずつ死んでいく産業のようなものです」とデュフール氏は述べ、機械式時計の復活に貢献した新世代の時計師や独立系ブランドの存在を認めた。デュフール氏は、セディキ・ホールディングの会長であるアブドゥル・ハミード・セディキ(Abdul Hamied Seddiqi)氏とステージを共にしながらこのように発言した。
「彼らは私たちを後押ししてくれます」とデュフール氏は、独立系ブランドや時計師の新しい波について語った。「彼らは老舗ブランドに挑戦しているのです」。
しかしロレックスCEOはまた、時計製造部門に対し、厳しい警鐘を鳴らした。ブランドはスイス経済の主要な柱である機械式時計と時計産業への評価を高めるために必要な次世代の顧客と、深く長期的な関係を育む必要があると述べた。彼は、自動車がますます電子化・デジタル化され、個性や自己表現としての魅力を失っていくなかで、かつては熱烈なブランド愛好者だった顧客を失ってしまった自動車メーカーやブランドを例に挙げた。
同時にデジタル化が進む世界では、新車購入体験がますます冷たく、パーソナルな体験ではなくなっている。デュフール氏は、かつて一部の自動車ブランドがそうであったように、機械式時計は自由や革新、クラフトマンシップといった理念を象徴する憧れの対象としての魅力を失ってはならないと述べた。ジュネーブで開催されるWatches & Wondersやドバイウォッチウィークのような集まりは、そうした理念とそれらを象徴する製品を若い消費者の心に刻み続ける。
「私たちが比較対象とする自動車産業を見てください。自動車メーカーが何をしたかを。世界中からモーターショーがなくなりました。その結果、彼らは最後の消費者とのつながりを失ったのです。そしてその結果、人々は自動車を購入にそれほどこだわりを持たなくなってしまいました。自動車は、いまや単なる移動手段に過ぎないのです」
デュフール氏は、業界はかつてクルマがそうであったように、時計に対する情熱と感情を育む必要があると述べた。ロレックスCEOは運転免許を取得したときの興奮を回想した。それは若い男性にとって新しい自由を意味していたのだ。
「しかし、それはもはや現代では自由とは言えません。そして専門家や、時計を取り巻く私たちが築き上げた世界全体が、若者にとって多くの自由を意味していると思います」と彼は述べた。
スイスの民間企業の経営者たちが、関税をめぐる政府間の貿易協議のさなかにアメリカ大統領と会談した。
これらのコメントは今年、金価格の高騰、スイスフラン高、そして時計を含むスイス製品に対する米国の関税により苦境に立たされている業界における、ロレックスCEOとしての彼の地位と増大する影響力を強調している。デュフール氏は、緊迫した貿易関係を修復するため、今月初めにワシントンD.C.のホワイトハウスでの会合に出席したスイスのビジネス幹部グループの一員だった。そのわずか数日後、トランプ政権は一部のスイス企業による製薬部門および金精錬部門への米国投資増加と引き換えに、スイス製品に対する関税を39%から15%に引き下げる協定をスイス政府と締結したと発表した。しかしこの新しい関税協定はまだ最終決定も発効もされたりはしていない。
ドバイウォッチウィークの傍ら、そして基調講演のあとでデュフール氏は、ホワイトハウスへの訪問はスイス、特に時計産業の経済的苦境に対処するために必要だったと述べた。
「私たちはそうしなければなりませんでした」とデュフール氏は述べた。関税は時計産業に大きな影響を与えており、39%という衝撃的な関税が課せられたあと、「時計業界の人々は凍りついた」とデュフール氏はHODINKEEに対して端的に語った。
Revolution Magazine創設者のウェイ・コー(Wei Koh)氏が司会を務めた基調対談のなかで、デュフール氏はロレックスの工業生産体制を維持するための支出と予算という、めったに明かされない内部事情を垣間見せた。同ブランドは年間約100万個の時計を生産できるようにするためのハイテク機械のアップグレード、修理、交換に年間約1億スイスフラン(日本円で約195億円)を投資していると述べた。
「それは私たちが楽しいと感じるからだけではありません。精度と品質において可能な限り最高の部品を生産できるように、常に最新を維持したいからです」と彼は述べた。ロレックスのトップはまた、ロレックスがAIを機械のプログラミングと稼働支援、ならびに品質管理テストの強化と効率化のために使用していることを明らかにした。
「AIは最終的な品質テストにも役立ちます。人間の目をAIに置き換えることができるからです。これによりサンプル検査だけでなく、100%検査が可能になるのです」と彼は述べた。しかし彼はまた、ムーブメントの組み立てや時計のケーシングからデザインに至るまで、時計を生産するために人間が依然として無数のタスクを行う必要があることを強調した。単一株主であるハンス・ウィルスドルフ財団が所有するロレックスは、世界中に1万5500人以上の従業員を擁し、その約80%がスイスにいる。「彼らは時計職人です。ロボットにすべてを任せられるわけではないのです」と彼は述べた。
ロレックスCEOのジャン・フレデリック・デュフール氏が着用している新しいロレックス ランドドゥエラーのリストショット。
デュフール氏はまた、ドバイのセディキを含む同ブランドの正規販売店ネットワークにとって重要な事業ラインとなっているロレックス認定中古時計(RCPO)プログラムについても議論した。中古ロレックス時計の購入、認定、サービス、販売は、「私たちが顧客に提供したかったサービスの最後のピース」だったと彼は述べた。ブランド認定の中古時計の販売は、新規のより若い顧客を取り込み、デュフール氏が業界の持続力の鍵であると述べた深く長期的な関係を築く方法である。
このプログラムにより、ブランドは顧客に「私たちは常にあなたを見守り続けます。それはきわめて長期的なコミットメントであり、本当に信頼をもたらすものでもあります」と伝えることができる、とデュフール氏は述べた。
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