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チャペックの気さくなCEO、ザビエル・デ・ロックモーレル(Xavier de Roquemaurel)氏に初めて出会ったのは2018年ころで、そのときにチャペックの初期リリースをいくつか扱うことができた。当時も今も、 モデル名の発音には苦労するが、GPHGで受賞したケ・デ・ベルグ、トゥールビヨンとGMTを搭載したプラス・ヴァンドーム、そしてハイビートのフォーブル・ド・クラコヴィ クロノグラフなどすべて、そのクオリティは一目瞭然だった(“レゾナンス”ギヨシェが施されたダイヤルは、まるで水面の波紋のように美しく、圧倒されたのを覚えている)。時計づくりに協力したさまざまなパートナーの名前を挙げるという本気の取り組みは新鮮で、私はさらに好感を持った。
ケ・デ・ベルグとプラス・ヴァンドームの複雑で難解な要請から始まったこの時計は、ステンレススティール製スポーツウォッチであるアンタークティックとして、多くの人々を魅了するコレクションへと変化し、2020年の発売時にはこのジャンルに新しい風を吹き込んだことで話題を呼んだ。アンタークティックは、ジェラルド・ジェンタのオリジナルデザインをそのまま模倣したのではない。丸みを帯びたトノーケースの輪郭、複雑なダイヤルのテクスチャ、独自仕様の自動巻きムーブメント、そして本当に個性的なマルチ仕上げのブレスレットなど、独自の路線を歩んでいる。
アンタークティックは発売されると瞬く間に広がり、その後、新しいダイヤルカラーリングの限定モデルをメディアとコラボしながら次々と発表し、昨年8月にはスプリットセコンドクロノグラフも発売された。Geneva Watch Daysで紹介されたときに取材したアンタークティック・ラトラパントは、チャペックのこれまでで最も注目を集めたデビュー作となった。
最初にリリースされた77個の個体は、一時間も経たずに完売した。小規模なインディペンデントブランドが、5万ドル強(約650万円)の価格で初の試みの腕時計を提供するというのは、非常に印象的な偉業である。ネット上では、非常に厳しい時計評論家たちから圧倒的な支持を得ているようだ。このモデルは、スプリットセコンド機構をダイヤル中央に配置した世界初のクロノグラフであると主張していた(私の知る限りでは、それは正しい)。
その直後には、アンタークティック・ラトラパント サンライズという個性的な時計が発売された。このモデルは、2年に1度開催されるオークション、オンリーウォッチ 2021に出品され、予想落札価格の3倍近い24万スイスフラン(約3200万円)で落札された。
今月初めに開催されたWatches & Wonders Geneva 2022で、私はチャペックのブースに立ち寄り、2020年のデビュー以来初めてアンタークティックのコレクションを鑑賞することができた。私の目には、フェア期間中チャペックのブースは、インディーズに特化したカレド オロロジ(Carré des Horlogers)セクションにおいてもっとも混雑しているように見えた。チャペックのブースではアンタークティックの標準的な3針モデルをいくつか見た。新しい38.5mmケースオプション(アンタークティック S)や、極めて珍しく非常に高価で美しい土類金属のオスミウムをダイヤルに使用した38本限定モデル(アンタークティック S フローズンスター)が紹介され、注目を集めていたが、主役は間違いなく新作のアンタークティック・ラトラパント アイスブルーだった。
この新モデルは99本の限定生産で、昨年のオリジナルモデル、アンタークティック・ラトラパントを成功に導いた要素をすべて受け継いでいる。2つのインダイヤル(秒針と30分積算計)とダイヤル外周のミニッツトラックに、赤のアクセントカラーやサファイアのクリスタルディスクに青いフュメ加工を施すことによって、若干の美的調整を加えたモデルである。オリジナルモデルの熱狂的な支持と、オンリーウォッチでのユニークピースの成功を考えれば、アンタークティック・ラトラパント アイス ブルーが1本726万円(税込予価)という価格でありながら、99本すべてあっという間に完売したのも当然である。
まだアンタークティック・ラトラパント アイスブルーを購入できることを期待して本稿を読んでいるのなら、残念ながらそれはもう不可能である。しかし、この記事やここに載せたジェームズのすばらしい写真を握りつぶしてしまうよりも、チャペックが過去数年間に製作した作品のファンとして、また、より一般的にはラトラパントのメカニズムの愛好家として、私はアンタークティック・ラトラパントについての個人的な印象を少し記録しておきたかったのである。
前述したように、チャペックは時計製作のために提携しているすべてのパートナーに対して、非常にオープンである。ここだけの話、わかる人にはわかると思うが、スイスの時計製造の世界においてこのような姿勢は賞賛に値する。そのオープンな姿勢からチャペックは、アンタークティック・ラトラパントに搭載されている自動巻きCal.SHX6をはじめ、独自仕様のムーブメントの多くをクロノードと共同で設計および製造しているのである。クロノードはル・ロックルを拠点とするムーブメントメーカーで、ジャン・フランソワ・モジョン(Jean-Francois Mojon, 時計業界でもっとも優秀であり、もっとも過小評価されている技術者のひとり)が経営している。その顧客リストには、MB&F、エルメス、HYT、ハリー・ウィンストン、リンデ・ヴェルデリン、トリローブ、ウルバン・ヤーゲンセンといったスイス時計業界の大物たちが延々とその名を連ねている。
自動巻きCal.SHX6は、スプリットセコンド機構以外にも充実したスペックを備えており、このモデルを語るうえで欠かせない存在である。2万8800振動/時、49石で動作し、5Nのリサイクルローズゴールド製の回転ローターで巻かれたシングルバレルにより60時間動き続ける。サファイアクリスタルのケースバックから見えるCal.SHX6は、ハンドポリッシュで面取りされたマットなビーズブラスト仕上げのブリッジ、サテンペルラージュ仕上げの歯車、そしてブラックポリッシュ仕上げのネジで構成されており、繊細な流線型に仕上げられている。この外観からはダイヤル側に何があるのか気づくことはないだろう。
多くの人にとって、アンタークティック・ラトラパントの魅力はスプリットセコンドの複雑機構が覆われていないことである(それが魅力を損なっていると考える少数派もいるが)。まず、Cal.SHX6のオープンワークが見えることがいかにクールであるかを強調したい。チャペックは、高級時計製造のいかにもアカデミックな部分をさらけ出し、時計製造においてもっとも威信ある複雑機構のひとつの動作を誰にでも見えるように公開した。典型的なスプリットセコンド・を所有する人のほとんどが、そのクロノグラフの機能を多かれ少なかれ理論的に理解していたかどうかが明らかにされたのである。
座って1日中いじりながら、水平クラッチの噛み合いや、特許出願中のラトラパンテクランプの動き、そしてたとえば6時位置と12時位置にある対向するツインコラムホイール(両方ともブラックポリッシュ仕上げ)が、互いに反対方向にふたつのプッシャーレイアウトの動作と連動して動作する様子を、リアルタイムで確認できるのだ。(2時位置のプッシャーはストップ、スタート、リセットを、10時位置のボタンはラトラパントの機構を司る)。クロノグラフのクランプ、コラムホイール、水平クラッチ、そしてすべてのギアとレバーが噛み合って複合的に作用し、動いたり止まったり再始動したりする様子は、まさに圧巻としか言いようがない。
そして、この配置が一体型ではなくモジュール型ムーブメントであることの代償であることも理解しておく必要がある。Cal.SHX6がケースバックから見て非常にシンプルに見えるのは、ラトラパントクロノグラフ機構を搭載したモジュールを追加して改良した、いくぶん単純な自動巻きムーブメントだからなのである。これは購入者にとって必ずしも問題ではないことだが、しかしアンタークティック・ラトラパントは、このカテゴリーのヘビー級モデル(パテック フィリップ、ヴァシュロン・コンスタンタン、A.ランゲ&ゾーネ、パルミジャーニ・フルリエなど)よりも、ブライトリングのナビタイマー ラトラパンテやプレミエ B15 デュオグラフ、バルジュー 7750ベースのオメガやIWCやハブリング・ツーなどと共通点が多い。Cal.SHX6はモジュール構造のため、クロノグラフが作動してスプリットセコンドホイールが停止したときに生じる摩擦を軽減する隔離機構もない。
繰り返しになるが、モジュール型のラトラパンテ機構が本質的に間違っているわけではないが、アンタークティック・ラトラパント アイスブルーの定価が726万円(税込予価)であるのと比較して、上記のブランド(ブライトリング、IWC、ハブリング・ツー、オメガ)のSS製モデルは、新品でも中古品でも通常1万5000ドル(約190万円)以下で取引されている。
しかし、アンタークティック・ラトラパントは、高級機械式時計にふさわしい質感を備えていることをここに記しておきたい。なんと120m防水であり、42.5mm×15.3mmのSS製ケースは、サテン仕上げとポリッシュ仕上げのコントラストが見事な装飾である。一体化されたケース構造で複雑機構の美しさは、魅力的でありながら本質的に現代的であり、今日の時計製造では本当に珍しいものである。また、多くの“スケルトン”や透かし彫りの腕時計と異なり、この時計は視認性に優れている。
ブルーに塗られた秒針は、クロノグラフモジュールの特徴的なホイール、輪列、カム、レバーのダークグレーとライトグレーを背景に容易に識別することができる。さらに4時位置の30分積算計と7時位置の秒針は、それぞれの表示を確認するまではその存在を忘れてしまうような配置になっている。この中心から外れた配置は、ケ・デ・ベルクやプラス・ヴァンドームのダイヤルにも見られるチャペックの特徴である。
最後に、“チャペック”を意味する文字 “C” をモチーフにしたポリッシュ仕上げのセンターリンクがついた、一体型のSS製ブレスレットを紹介しよう。これは3針モデルのアンタークティックやアンタークティック Sに採用されているブレスレットで、工具を使わずにブレスレットを付属のラバーまたは革のストラップと交換できる“イージーリリース”システムが搭載されている。個人的には、このブレスレットは、たとえばオーデマ ピゲのロイヤル オークやブルガリのオクト フィニッシモなどの一体型デザインのような、ストレートな魅力はないように感じる。しかし個性的であり、ジュネーブで数分間腕につけてみた限りだが、かなり快適だった。
アンタークティック・ラトラパントは、衰える気配のないすばらしいインディペンデントブランドによる、印象的な時計だ。私は、このブランドのハイビートなクロノグラフであるフォーブル・ド・クラコヴィ(いまだにうまく発音できない)の思慮深い構造と美学を好む一方、チャペックがさまざまな分野で実験して成功するのを見るのを清々しく思う。
私が望むのは、チャペックが今後、リリースに対してバランスの取れたアプローチを取ることである。アンタークティック、アンタークティック S、そしてアンタークティック・ラトラパントは、これまでで最大のヒット作だが、私はこのブランドが創業から数年のあいだに築いたアイデンティティを維持していくことを望む。次のアンタークティックのコレクションは絶対に見てみたいが、チャペックのさまざまなラインのさらなる発展にも期待したい。
チャペック アンタークティック・ラトラパント “アイスブルー”:42.5mm×15.3mm、SS製、ブルーのフュメサファイヤクリスタル製ミニッツリングとPVD蒸着によるカウンターを装備したオープンワークのスプリットセコンド・クロノグラフ、スーパールミノバのソード型の時針と分針、120メートル防水、チャペック独自の“イージーリリース”システムを搭載した一体型SSブレスレット、オプションの革またはラバーストラップ。60時間パワーリザーブとモノプッシャースプリットセコンド・クロノグラフモジュールを備えた自動巻きCal.SXH6、2万8800振動/時、49石、2コラムホイール、クロノグラフ水平クラッチ、特許申請中のスプリットセコンドクランプ、292個の部品、可変慣性バランスホイール、チャペックのロゴ入りのリサイクル5NロRG製ローター。ハンドポリッシュの面取りを施した美しいショットブラストのブリッジ、ハンドポリッシュの面取りを施したリニアサテン仕上げのクロノグラフレバー、サテンペルラージュ仕上げのホイール、ブラックポリッシュ仕上げのネジ、スタッド、コラムホイール。99本生産予定、価格は726万円(税込予価)
Photos by James Stacey
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