時計のデザインが、ぬるくなった紅茶や軽くトーストしたパンと同じように無難な方法で行われることが多くなった。そのため、なじみのあるものは無害でマンネリ、おそらく少し退屈なものにさえなってしまう。無難なダイバーズウォッチのキャラクターを否定するつもりはないが、せっかく既知の素材をベースにしたコラボレーションをするならレシピに手を加えてみてはどうだろう? なぜスパイシーにしないのか?
時計のデザインに対してまったく異なる視点を持つイギリスのふたつの時計メーカーが手を組み、ブレモンの実用的な高級ダイバーズウォッチ、S500 スーパーマリンにスパイスを加えた。オリジナルのS500は僕がよく知る時計だ。2011年、僕はブレモンと“高級”ダイバーズウォッチというふたつのアイデアを知った。それは大きかった。硬化スティール製でありながら驚くほどエレガントだった。夜光は明るく、ベゼルにも付いていた。そしてロレックスのように見せようとはしていないところが素晴らしい。僕は当時も今もこの時計が大好きなのだ。
それ以来、ブレモンは成熟し、ラインナップも徐々に拡大。最近ではロンドン郊外の新社屋(ザ・ウィング)に移転し、より多くの製造を管理して自社製ムーブメント(ENG300)を製造することを目指したのだ。スーパーマリンコレクションも成熟と多様化が進み、40mmサイズのS300(僕のお気に入りS302もある)、まったく新しいS2000、スーパーマリン クロノグラフ、GMT搭載のデサントⅡとS502 ジェット、そしてもちろんベースモデルのS500もアップデートされている。
この新しいコラボレーションは無数のスーパーマリン要素に加え、明らかにジョージ・バンフォードのものであることを示す外観を備えている。250本限定生産のバンフォード S500スペシャルエディションは、S500のなかで唯一のオールブラックで、期間限定モデルだ。印象的なカリフォルニアダイヤル、ブラック/ブラックベゼル、鮮やかなブルーのアクセント、そしてユニークなスピア型時・分針(そして新しい秒針)など、バンフォードらしさはノーデイト仕様にとどまらず、さらに進化を遂げている。
サイズは現行のS500と同じ。つまり小さくはない。幅は43mm(ベゼルを挟んで)、厚さは16mmで、ラグからラグまで51mmというサイズである。ブレモンの時計はケースバック、ミドルケース、ラグ/ベゼルのみっつの要素をすべて一緒にマウントするスリーピースケース設計を採用しているものが多く、彼らはこれを「トリップティック(Trip-Tick)」と呼び、通常より複雑な設計になっている。ケースバックに合わせたミドルケースのエレメントは40mm強の大きさだ。
42mm以上のサイズがお好みであれば、S500は、その大きさを活かした美しいプロポーションの時計だ。初代のデザインに衝撃を受けてから10年以上経った今でも、僕のお気に入りの大型ダイバーズウォッチのひとつだ。
このS500が僕の手首に合うか合わないかはストラップ選びで決まる。純正ストラップはパッド入りの黒い帆布にライトブルーのステッチが入ったもので、見た目はいいのだが、僕にとってはあまり心地よくない。通常であれば、なじんでくれば問題ないと思うが、僕のテスターはかなり使い込んでいたが、それでも手首になじんでいないのだ。僕は骨張った7inch(17.78cm)の手首だが、S500は22mmの(薄い)レザーストラップやNATOのほうが装着感がよく、快適だった。
さて、肝心のバンフォードだ。
前述したように、S500のバンフォードらしさは特定のカラーウェイ(ブラックとライトブルー)、新しいダイヤル、新しいハンドセットを軸に展開している。プレス用の画像を初めて見たとき、僕は数分ごとに角度を変えて眺めた。あるときはその先鋭的なデザインに好感を持ち、またあるときはパンチの効いたカラー、大胆なダイヤル、そしてまったく不釣り合いなハンドセットに、S500の美学がいかに上書きされてしまったかを嘆いた。このふたつの見方の緊張感がデザインのポイントなのかもしれない。
もし、あなたがすでにブレモンに興味がないのなら、この時計はあなたを改心させるものではないだろう。しかし、このブランドが好きな人にとって、このバンフォードは話題になるものであるように思える。S500 バンフォード スペシャルエディションはスパイスが効いていて、好きか嫌いか、どちらかなのだ。250本という本数からすると、特に辛いメニューに挑戦してくれる人が何人かいればいいという感じなのだろう。
時計内部には、ブレモンがBE-36AEと呼ぶムーブメントが搭載されている。このムーブメントはETA 2836から始まり、ノーデイト(ファントムデイトポジションなし)用に改良され、さらに耐衝撃性が強化されている。2万8800振動/時で、ETA規格の38時間のパワーリザーブを提供し、ISO 3159規格のクロノメーター認定を取得している。
内部では、ムーブメントは耐衝撃性のあるムーブメントマウントに搭載されている。ベゼルインサートはマットブラックのセラミック製で、ポリッシュ仕上げのマーキングが施されている。夜光はスーパールミノバで、サンドイッチフォーマットのダイヤルと大きなマーカーから十分な輝きを放っている。僕を含むISO6425マニアなら、夜光ベゼル目盛と並んで、500m防水と内蔵されたヘリウムガスバルブがないことに気づくはずだ。
S500は厚みのある時計だが、それを考慮しても、ダイヤルと風防のあいだにかなりの空間があるように思える。これは黒一色のデザインであることと、アプライドのダイヤル装飾がないことに関係しているのだろう。この奥行きはサンドイッチマーカーの陰影を作るのに役立っているようだが、最初は気になった。
リューズの動きはしっかりとしており、ベゼルはグリップ感があり、軽く、クリック感も十分だ。暗いところでは視認性に欠けるが、大きめの針と特大のマーカーで視認性を確保している。ケースのDLC処理と同様に、ベゼルとダイヤルもきれいに仕上げられているが、針(特に分針)のエッジ仕上げは、僕がブレモンに期待する品質には達していない。
価格はブレモンの通常モデルとほぼ同じだ。 S500 バンフォード スペシャルエディションは4995ドル(約67万円)で販売されている。参考までに、ベースのS500はラバーストラップで4395ドル(約59万円)、GMT搭載のS502 ジェットはバンフォードデザインと同じ価格だ。
ムーブメントが目的であれば、ブレモン×バンフォードは非常に高価に感じられるだろう。しかし、硬化スティール製ケースの美しく個性的なダイバーズウォッチに興味があるなら、S500は確かに一見の価値がある。僕は比較的シンプルでメンテナンスが容易なムーブメントを搭載した、よくできたツールウォッチが好きなのだが、この点では時々孤独を感じる。自社製ムーブメントの魅力もわかるが、ETA、つまり自動巻きムーブメントのシボレー・スモールブロックでもまったく構わないのだ。それと特にスーパーマリンコレクションのブレモンの外観がとても気に入っている。
バンフォードとのコラボレーションは、S500に独自のルック&フィールを堂々と与えている。既知のデザインに、楽しく、ユニークで、大胆で、明らかにスパイシーなテイストを加えているのだ。つまり、このモデルは非常にバンフォードらしいと同時に紛れもなくブレモンなのだ。