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Entry Level 最も安価なタグ・ホイヤーは、大衆のための1本だ

1986年以来、タグ・ホイヤーのフォーミュラ1はファーストウォッチとして愛用されてきた。そして、ラストウォッチとしてもである。

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我々の多くは自分のコレクションに没頭するあまり、多くの人が時計についてどのように考えているのかを忘れてしまっている。ほとんどの人は、1本目の時計を買って以降、どうやって決めたのかについて考えることはないだろう。しかしある種の時計は、コレクターの世界以外で多くの注目を集めることができている。タグ・ホイヤーのフォーミュラ1はそのひとつだ。人混みを見渡せば、少なくとも一人はタグ・ホイヤーのフォーミュラ1を腕にしているのを目にすることだろう。ここ数十年のあいだ、私がみんなの腕で最もよく見た時計のひとつなのだ。

 フォーミュラ1シリーズは、テクニクス・アヴァン・ギャルド(TAG)がホイヤーを買収した翌年の1986年から、何らかの形で登場している。フォーミュラ1は合併後に登場した最初の時計で、テクニクス・アヴァン・ギャルドの影響が存分に発揮された。その目的はブランドの近代化であり、その実現のためにクォーツに目を向けたのである。

 ホイヤーはモータースポーツ界で大きな力を発揮し、有名ドライバーの腕には時計が、優勝した車にはロゴが刻まれていた。ウィリアムズF1チームの主要スポンサーであったテクニクス・アヴァン・ギャルドは、その後、マクラーレンをサポートするようになった。レースで培ったノウハウを生かし、ETA社製のクォーツキャリバーをメタルやグラスファイバー製のケースに収め、プラスチックベゼルを採用したクロノグラフや時刻表示のみのモデルも開発した。この時計は楽しくてカラフルで、90年代のテイストに完璧にマッチし、大ヒットを記録した。ストラップは手首のサイズに合わせてカットできるよう、ガイドが成形されていた。200m防水で、経過時間表示ベゼルがついている。ここでもスタイリッシュな時計であることに加えて、便利なものであることがわかる。

 私は高校生の初めの頃、この時計を1本持っていた。どうやって手に入れたのかさえ覚えていないが、私はそれが気に入っていた。発売当時、タグ・ホイヤーのフォーミュラ1にはある種のプレステージがあった。単純に、つけていてかっこいい時計だった。私の時計は、鮮やかな赤と緑で、ティーンエイジャーにぴったりだった。誰でも簡単に楽しめるというのが、最初からフォーミュラ1が優れていた理由だ。数十年後の2000年代初頭になっても、私は90年代のこのモデルを身につけることに喜びを感じていた。

 そして、その後数十年にわたり、タグ・ホイヤーはオリジナルに忠実な処方を維持した。手頃な価格で派手なカラーリングの印象的なデザインを持ち、若い消費者に語りかけるようなモデルだった。

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 このコラムでは、有名ブランドのエントリーモデルについて紹介している。ときには2万1650ドル(約290万円)のパテック フィリップ、またあるときには1500ドルの無名のドイツ製ツールウォッチなどだった。しかし、タグ・ホイヤーのフォーミュラ1がエントリーレベルの時計として興味深いのは、実際にそうであり、富裕層やすでに知っている人だけのものではない、ということだ。我々の多くは、この時計があったからこそ、ここにいる。私はセイコーのダイバーズウォッチを通して時計の世界に入ったが、タグ・ホイヤーのフォーミュラ1によって容易に時計の趣味の世界に入ったのかもしれない。フォーミュラ1は、時計を買うだけの可処分所得を持つ、活動的な若いプロフェッショナルを購買層として正確に狙ったことで、まさにクールな時計となったのだ。

 2022年になっても、タグ・ホイヤーが出す時計のなかで最も手頃な価格帯の時計であることに変わりはない。時刻表示のみのモデルで15万4000円(税込)という価格は、ある人にとっては憧れの的であり、ある人にとっては楽しみやすいものでもある。しかし、オメガのスピードマスターやシーマスターのようなほかのアイコンのコストを考えてみて欲しい。あるいは、ロレックスのサブマリーナーでもいい。これらはすべてタグ・ホイヤーのフォーミュラ1と同じくらい知名度があり、もちろんすべて機械式だが(タグ・ホイヤーはそうではない)、既知の時計を手に入れるという点では、フォーミュラ1は法外な金額を出さずに最も簡単に手に入る。多くの人がいい時計が欲しいと思っているが、必ずしも機械式である必要はないのだ。タグのフォーミュラ1は、そのような人にぴったりなのだ。そして、それはほとんどの時計購入者に当てはまる。

 「15万円もあれば、価値ある面白い機械式時計がたくさん手に入る」と思われるかもしれないし、その通りかもしれない。しかし、「いい時計」を買うために、時計の専門家であるあなたに助けを求めてくる人のことを思い出そう。500ドルのスイス製時計から話し始めて、80時間作動するがそのあとまた巻き上げなければならないとか、日本のダイバーズウォッチはかつてゴールドスタンダードだったが、その後、少し技術的に劣るものに取って代わられたとか。そして、もし彼らが中古を買うことに抵抗がなければ、そこには「ネオヴィンテージ」の世界が広がっている、などなどだ。

 そして、彼らは混乱する。なぜなら彼らはずっとタグ・ホイヤーのフォーミュラ1が欲しかっただけなのだから。巻き上げる必要がなくスタイリッシュで、そして最も重要なのは、歴史がきちんと刻まれている時計だということだ。もしかしたら、この時計がきっかけで時計収集にのめり込むかもしれないし、歴史などどうでもよくて、ただ大きな広告に載っているような時計が欲しい人にもいいかもしれない。

 そしてまた、多くの人がそうなのだ。多くの人にとって、タグ・ホイヤーのフォーミュラ1は完璧なエントリーレベルの時計だ。そして何より素晴らしいのは、このほかを探す必要がないことだ。この時計は、エクジットにふさわしい時計でもあるのだから。

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HODINKEEはタグ・ホイヤーの正規販売店です。全コレクションはこちらから、またフォーミュラ1のセレクションは上記からご覧いただけます。
タグ・ホイヤーは、LVMHグループの一員です。LVMH Luxury VenturesはHODINKEEの少数株主ですが、HODINKEEは編集の独立性を完全に保っています。

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いい時計の基準は人によって違う。この時計を好きになることは無いが、好きな人がいるのは理解できるし、好きな理由も説得力がある時計だと思う。