トップ画像:年差±1秒の精度を誇るシチズン キャリバー0100
2015年にHODINKEEに入社して最初にしたことのひとつは、クォーツ時計に関する記事を何本か充実させることだった。1969年から存在し、不可逆的かつ永久的に現代の時計製造の流れを変えたことが、読者の興味を引くかもしれないという仮説を前提に、カーラ・バレットと私は“クォーツウィーク”と呼ぶ企画を立ち上げた。今にして思えば、私たちは楽観的過ぎたのかもしれない。予想通りの反発があり、私が最も鮮明に覚えているコメントのひとつは、「ジャック・フォースターはHODINKEEをメチャクチャにした・・・昔のHODINKEEはよかったのに」というもので、それに対して他のコミュニティのメンバーが「えっ、昔って先週のこと?」と突っ込んでいた。
7年目(6月1日現在)になり、もちろん社内はかなり変わったが、変わらないことがあるとすれば、クォーツがいまだに一部の人に誤解されていることだ。これは、マニアックなコミュニティの心理的なダイナミズムの自然な現れだと思う。私たちは皆、同じ小さな王国の一員でありながら、それぞれの村に独自の「やるべきこと」と「やってはいけないこと」があるようなものなのだ。“我々は時計王国最大の村ではないが、隣の村とは違い、デイト窓の存在を認めない”と主張する具合だ。
しかし、F.P.ジュルヌがクォーツのエレガント(Élégante)を発表したとき、カーラ・バレットに言ったように、「クォーツは...偉大な発明です。ブレゲが、1800年当時にクォーツを発明するチャンスがあれば、きっと取り組んだでしょう!」である。クォーツは、表面的には、私たちが時計や時計製造の面白さを感じていることの対極にあるもので、確かに電池の存在など、明らかな違いがいくつもある。しかし、その裏側には、意外なほど多くの共通点があるのだ。
1969年のクリスマスに発売されたセイコーアストロンは、瞬く間に機械式時計を凌駕するクォーツ式時計となった。その後、時は流れてクォーツ式時計はあらゆる面で大きな進化を遂げたが、その原理は1969年当時から変わらない。
クォーツ式時計には、いくつかの基本要素がある。水晶振動子、バッテリー、そして水晶に電気を送り、振動数をカウントする回路である。水晶は変形することで電気を発生するが、逆もまた然りである(いわゆる圧電材という)。水晶を特定の形にカットして、特定の電圧の電流を流すと、水晶は正確な周波数で振動する。ほとんどのクォーツ式時計は、音叉型にカットされた水晶振動子を持っている。
クォーツ式時計は、一般的に3万2768Hzの周波数で振動するように設計される。計測回路が振動数を記録し、3万2768目のカウントを終えると表示部(これがもうひとつの重要な部品)を1秒進める。(3万2768は2の15乗なので、振動を1つの信号に分割すると表示を増加させることが非常に簡単になる)。この振動子の周波数は、従来のテンプでは考えられないほど速く、他の条件が同じであれば、クォーツ式時計が優位に立てる部位である。一方で、非常に高品質な機械式時計が低品質のクォーツ式時計を精度面で凌駕することも確かな事実ではあるが、振動子の周波数安定性は物理法則上、クォーツに軍配が上がる。3万6000振動のハイビートムーブメント、アキュトロンのような音叉ムーブメント、そしてクォーツ式時計と、時計の精度向上は、高振動の追求が大きな要因となっている。世界で最も正確な時計、シチズン 0100は、特別にカットされた838万8608Hz(2の23乗)の振動数を持つ水晶振動子を搭載している。
しかし、実用的で安価、かつ耐久性のあるクォーツ式時計が普及するためには、多くの技術的なハードルを越えなければならなかった。1880年に水晶の圧電特性が発見され、クォーツ式時計の理論的な基礎が築かれ、1927年にベル研究所でジョセフ・ホートンとウォーレン・モリソンによって最初の実用的なクォーツ式時計が完成した。しかし、この時計は決して携帯可能なものではなく、第一世代のクォーツ調速機構は、卓上用の大型のものだった。
手首サイズに縮小するにはさらに42年の歳月を要した。最大の問題は、電源供給と回路の小型化だった。1950年代後半に第一世代の電子時計が登場するまで、時計ケースに収まるほどの蓄電量を持つ電池は実現しなかった(1960年にハミルトン エレクトリック500とその後継のアキュトロン)。1969年には、スイスと日本の研究者がクォーツ式時計の実用技術を手に入れ、アストロンの発売からわずか4ヵ月後に、ベータ21ムーブメントを搭載したスイス初のクォーツ式時計が発売された。
クォーツ式時計は機械式時計に比べれば、無機質で完全無欠のデバイスのように思われるかもしれない。ちょうど巡航ミサイルと優雅に振るうフェンシングの剣くらいロマンに差がある。しかし、機械式時計と同じように、クォーツ式時計にも品質には大きなばらつきがある。最も低品質なものでは、金属をプレス加工し、穴石を使用していないムーブメントがあり、せいぜい月差±15秒程度だ(それでも多くの機械式時計よりはるかに優れているが)。一方、グランドセイコーの9Fキャリバーのような超高精度、高品質、長寿命のムーブメント、ロンジンのVHPやブローバのプレシジョニストなどのハイビートクォーツムーブメント、そしてもちろん、年間±1秒の精度を持つシチズンのCal.0100がある。水晶振動子は他の機械式振動子と同様に振動数が外的影響を受けやすく、そのなかでも温度は最大の変動要因となり(機械式時計と同様)、最も正確なクォーツムーブメントはほとんどの場合、何らかの形で温度補正機能を組み込んでいる。
機械式時計とクォーツ式時計がもたらす喜びが同等であると言うつもりはない。クォーツ式時計が携帯用時計として機械式時計を追い越したのは、水晶振動子の優れた安定性によるものであり、また、クォーツムーブメントの品質にも、興味深い、そして劇的な違いがあることを指摘したに過ぎない。
最後に、水晶振動子と機械式振動子は同義である。古典的な調速振動子の方程式で説明できるように振動し、電気的に駆動されるが、振り子時計にも電磁気的に衝撃を与える高精度の時計が存在する。クォーツ式時計は、機械式時計に対する劇的な否定というよりも、腕時計の進化における次の論理的飛躍、必然的な論理的ステップ-なのである。
詳しくは、「A Week On The Wrist シチズン エコ・ドライブ キャリバー0100を1週間レビュー(動画解説付き)」、「ジラール・ペルゴ クォーツキャリバー350」(現在では標準的な3万2768Hzの周波数を持つ史上初のクォーツ時計)、カーラ・バレットが担当したスイス製第1世代クォーツメンドメントBeta21搭載機 をご覧いただきたい(パテックもあり)。
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