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In-Depth 1970年代のヴィンテージカルティエウォッチのコレクターズガイド

パリのメゾン、カルティエがスイスに時計製造拠点を移した1970年代を振り返る。まずはタンク ルイの徹底的な考察から始めよう。

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1972年は、カルティエの歴史において重要な年であった。まず初めに投資家グループがカルティエ・パリを買収し、続いてニューヨークとロンドンのカルティエ支店を買収した。これによりピエール・カルティエ(Pierre Cartier)の死後に分裂していた3つのメゾンが統合され、カルティエの成長の礎が築かれた。

 ふたつ目の重要な進展は、カルティエがエベルと提携し、時計の生産拠点をスイスのラ・ショー・ド・フォンに移したことである。それまでのカルティエの時計は、スイス製ムーブメントを使用してパリ(またはロンドン)で生産されていた。パリでは70年代まで、限られた数の時計を生産し続けていたが、エベルとともにスイスに拠点を構えたことで、これまで以上に多くの時計の生産を始めたのである。

cartier santos dumont 1970s

1970年代のカルティエのシェイプを一部紹介。サントス デュモン(上)、タンク ノルマル、タンク ルイ(下)だ。タンク ルイについては同記事後半で詳しく取り上げる。

1970s cartier tank normale
1970s cartier tank louis

 これは1973年、カルティエ初となる真の歴史的コレクション、ルイ カルティエ コレクションを発表したことに端を発する。タンクやサントス デュモンなど、カルティエ黄金期のデザインを連続生産に持ち込むとともに、クリスタロー、エリプス、クッサンなど、新しいデザインを取り入れた12本のコレクションとしてスタートした。

vintage cartier watch advertisement

ルイ カルティエ コレクションウォッチを紹介した、1980年代の広告(サントスは後に発表)。Image: Courtesy of eBay

 カルティエは世界で最も人気のある時計メゾンのひとつである。スイス時計産業に関するモルガン・スタンレーの2023年の年次報告書によれば、その年の時計ブランドとしては世界で2番目に大きいブランドであった。それにもかかわらず、ロレックスやパテック フィリップのようなブランドと比較すると、簡単に入手できる文献や情報は依然として少ない。1970年代以前のカルティエの時計は極めて希少なままだが、ただ1970年代に生産量が増加したことで、リファレンスナンバーやシリアルナンバーを理解し、記録し、収集することが容易になった。

 このコレクターズガイドは、1970年代のモデルやダイヤル、さらには生産数についてより理解を深めるために、これらの情報の一部をまとめたものだ。将来的には、より人気のあるモデルについての追加情報を掲載したいとも思っている。

 本記事では、1970年代のカルティエに関する一般的な情報から始め、そして最も人気のあるモデル、タンク ルイ Ref.78086について具体的に深く掘り下げていく。

1970年代のカルティエラインナップと生産数
louis cartier collection watches 1970s

1973年に発表されたルイ カルティエ コレクションのオリジナル12モデル。カルティエは70年代を通じて、ほかにもいくつかのモデルを追加していた。お好きなモデルを選んで。

エベルとの新たなパートナーシップを追い風に、カルティエは1973年に野心的な行動に出た。“ルイ カルティエ コレクション”の一環として、12本の新作ウォッチを発表したのだ。すべてゴールドケース、シンプルなホワイトエナメル文字盤にローマ数字、バトン針、そしてカルティエのサインが入ったETAキャリバー(手巻き)を備えていた。カルティエはその後10年間をとおして、コレクションに新たなモデルを追加し続けたが、これらの核となる特徴はほとんど変えなかった。

 その代わりに、カルティエはシェイプを変えて実験をした。これらは1973年のL.C.(ルイ カルティエ)コレクションの12モデルであり、それぞれが独自のシェイプによって定義されている。

  • ベニュワール(Rref.78094)
  • サンチュール(Ref.78099)
  • クッサン(Ref.78102)
  • クリスタロー(Ref.78096)
  • エリプス(Ref.78091)
  • ファバージ(Ref.78101)
  • ゴンドーロ(Ref.97050)
  • サントス デュモン(Ref.78097)
  • スクエア(Ref.97051)
  • タンク ルイ(Ref.78086)
  • タンク ノルマル(Ref.78092)
  • ヴァンドーム(Ref.78090)

 これらのモデルのなかには、ラージモデル(“LM”)とスモールモデル(“SM”)を持つものもあれば、ベニュワールのように区別がないものもある。両方あるものについては、上にLMのリファレンスのみを掲載した。この情報を提供してくれた@cartier_chroniclesことマット・タカタ(Matt Takata)氏に感謝する。これはヨーロッパスター(私は彼らのアーカイブが大好きだ)の当時の広告にも裏付けられている。

 各モデルのケース裏下部には5桁のリファレンスナンバーが、そのすぐうしろにはシリアルナンバーが刻印されている。またリファレンスとシリアルのさらに下には、手彫りのストックナンバー(その時計が販売されたカルティエ支店固有のもの)が記されていることもある。各リファレンスのシリアルナンバーは連続しているため(例えば0001~10000)、あるリファレンスの十分な例を記録すれば、生産数を推定することができるのだ。

cartier 1970s serial numbers

1970年代のカルティエウォッチの裏側にある数字は、最初の5桁がリファレンスナンバーで、それ以降の数字がシリアルナンバーとなり、モデルごとに連番になっている。

 たとえば、私はタンク ルイ(Ref.78086)の生産量を1万5000と見積もっている(つまり、14xxxまでのシリアルナンバーを記録しているということ)。タンク ルイが最も一般的なモデルであると考えられるのは、それが“タンク”に属しているからである。一方でクッサン “バンブー”の生産数はわずか250本と見積もっており、これが最も希少(または最も無名)であると推測される。

 さらに裏にはゴールドのホールマークが刻印されているが、これは長い年月が経つにつれて磨り減っていることがある。

 1973年以降もカルティエは実験を重ね、トーチュやタンクのバリエーションなど、さまざまなモデルやシェイプをコレクションに追加していった。1973年に確立された方式を維持したままで。

 カルティエはこれらの時計の大部分をイエローゴールドで製造したが、ホワイトゴールドで作られたものもいくつかある。例えば、私が記録したタンク ルイのうち10%未満はWGだ。興味深いことに、すべてがいくつかの限られたシリアル範囲に集中している。

1970年代のカルティエの文字盤
cartier 1970s dials

 一般的に、70年代のカルティエには3世代の文字盤が存在する。ほかのブランドでは“マーク”と呼ばれることが多いので、カルティエについても同様の呼称を使用しよう。年代順に、以下のとおりだ。

  • マーク1: カルティエサインの“A”のトップがワイドでフラット。数字にシークレットシグネチャーはない
  • マーク2: カルティエサインの“A”のトップが尖っている。数字にシークレットシグネチャーはない
  • マーク3: カルティエサインの“A”のトップがやや平たい。通常7時位置にシークレットシグネチャーがある
cartier watches vintage 1970s dials

1970年代のカルティエにおける3つの一般的なダイヤルサインを詳しく見ると、カルティエの“A”で最も簡単に区別できる。

 すべてのリファレンスがこれらのダイヤルタイプにすべて沿っているわけではなく、これらのマークのなかには追加のバリエーションを持つものもある。例えばトーチュに関して私が見たことあるものは、後期のマーク3ダイヤルだけなので、このモデルが70年代後半まで導入されなかったことを示唆している。改めて、マット・タカタ(@cartier_chronicles)氏は、このような文字盤の種類を公に記録し始めた最初の人物であり、ここでの彼の協力に感謝する。

 すべての文字盤の6時位置には“Swiss”または“Paris”というサインがある。“Swiss”とサインされた文字盤は、カルティエ・ニューヨーク店を通じて販売されたもので、“Paris”とサインされたものはロンドンおよびパリ店を通じて販売されたものだ。なおサービス用ダイヤルには“Swiss Made”とサインされている。よく見られる誤解として、パリの文字盤が希少であるまたは高い価値があるとされるのだが、これは単にカルティエをパリの高級品店としてロマンチックに捉えているからかもしれない。実際には文字盤に差はない。事実、私がある程度詳しく調査した2モデル(タンク ルイとトーチュ)では、パリ文字盤のほうがスイス文字盤よりもわずかに多いようだ。

vintage cartier service dial

6時位置のサインは、この時計がカルティエのどの店で販売されたかを示し、サービスダイヤルのサインは“Swiss Made”となっている。

 私にとっては、このマーク1、2、3の文字盤の区別のほうがはるかに興味深い。マーク1の文字盤はマーク2やマーク3の文字盤よりもかなり希少である。カルティエのサインとスタイルは、以前のパリ製カルティエウォッチのいくつかの特徴を維持しており、文字盤に独自の魅力を与えている。その希少性について少しだけ触れると、私は数百例のタンク ルイを記録してきたが、マーク1の文字盤はほんの数例しか見たことがない。一方、マーク2の文字盤はマーク3の文字盤よりも多く、おおよそ2対1の割合で出回っている。エナメルはひび割れしやすいため、このような初期の文字盤の多くは、長い年月のあいだにサービスダイヤルに交換されたと推測される。

vintage cartier paris tank 1960s

1965年頃にパリで製造されたカルティエ タンクは、実際に手に取ると、70年代以前のカルティエウォッチの優れた職人技がすぐに感じられる。しかし、1970年代初頭のカルティエの文字盤は、長い年月を経て進化する以前から、同様の“カルティエ“”のスタイルを保っていた。

搭載されるキャリバー

 1970年代のカルティエウォッチにおいて、ムーブメントはセールスポイントではない。ほとんどのムーブメントには、カルティエのサインが入ったシンプルな手巻きのETAムーブメントが搭載されている。カルティエのCal78-1は、ETA2512のカルティエバージョンに過ぎないのだ。特別興味を引くムーブメントではないが、信頼性は高い。一部のモデル、例えばカルティエのRef.17002 タンク “ジャンボ”では、自動巻きムーブメントが採用されている。

フルセット
vintage cartier watch tank box and papers

 1970年代製のカルティエウォッチで、ボックス、ペーパー、オリジナルの保証書が揃ったフルセットが残っているものはあまり見かけない。例えば、これまで見かけたタンク ルイのうち、箱と保証書が残っていたのは10%にも満たなかった。赤いカルティエのボックスは、おそらくiPhoneのパッケージをふたつ重ねたくらいの大きさで、そこにゴールドの縁取りが施されているなど、古きよき時代を象徴した贅沢なセットである。また書類、証明書、保証書はすべて赤で統一されている。

通常カルティエウォッチはレザーストラップに装着されていることが多いが、カルティエのサイン入りビーズオブライスブレスレットに装着されている1970年代のものは存在感が際立つ。Image: courtesy of The Hairspring

 もともとこれらの時計は、内側に“Cartier Paris”と刻印された数種類あるレザーストラップに、ゴールド製デプロワイアントクラスプを合わせたものが一般的だった。カルティエのビーズオブライスブレスレットが付いたものを見つけるのは簡単なことではない。

その後
cartier tank 96065

次世代モデルのタンク ルイ Ref.96065は、超薄型のFP(フレデリック・ピゲ)社製Cal.21、ギヨシェ文字盤、さらに薄いケースを備えたモデルとしてアップデートされた。Image: courtesy of Amsterdam Vintage Watches

 こうしたオリジナルの1970年代モデルの多くは、1980年代半ばまで生産され続けた。その後、カルティエは次世代の時計製造へ移行を始めた。カルティエはETAキャリバーを廃止し、フレデリック・ピゲ社のムーブメントを使用するようになっていくのだ。ほとんどの場合、手巻きの超薄型FP社製Cal.21を使用している。1970年代のフォルムを踏襲しながらも、新しいリファレンスナンバーとムーブメントを採用し、さらにスリムになったモデルも多い。たとえばタンク ルイ Ref.96065は78086に置き代わり、最終的にエナメルダイヤルをギヨシェ装飾へと変更した。エクストラプラット(エクストラフラット)とも呼ばれるが、これは薄型のFP社製キャリバーを採用することで、ケースをさらにスリムにすることができたからである。これらのモデルのいくつかは、カルティエが1998年から2008年にかけて製造したCPCPの基礎を築いた。

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タンク ルイ(Ref.78086)で実践する

1970年代のカルティエウォッチの基本を説明したところで、次は具体的なリファレンス、タンク ルイ カルティエ Ref.78086を見てみる。前述したように、私はオークション、ディーラー、Chrono24のようなマーケットプレイスで販売された数百の例を記録してきた。新しい時計は常に発見されるので、これらの情報が最終的なものであるとは主張しない。

 タンク ルイ Ref.78086は、おそらくよく知られている典型的なカルティエ タンクである。23mm×30mmの薄型レクタンギュラーゴールドケースにレザーストラップがついていて、ブルーカボションがセットされたリューズで巻き上げる、手巻きムーブメントを搭載している。

タンク ルイの文字盤
cartier 1970s dials

タンク ルイ Ref.78086のダイヤルタイプ。

 カルティエがタンク ルイを発表したのは1973年のこと。新しいリファレンスに取って代わられる80年代まで製造されたため、上記の3つの文字盤タイプが存在する。

  • マーク1: “A”がワイド。数字にシークレットシグネチャーはない
  • マーク2: “A”が尖っている。数字にシークレットシグネチャーはない
  • マーク3: “A”がやや平たい。通常7時位置にシークレットシグネチャーがある

 一般的に、これらは古いものから順にリストアップされていると考えることができる。

 ただし今のところ、各ダイヤルタイプに対して広範なシリアルナンバー範囲を定義することさえ困難である。特にマーク2と3はシリアルナンバーが重複しているので、しばらくはふたつとも並行して生産されていたのではないかと思われる。

 初期のマーク1の文字盤は圧倒的に希少だ。私はほんの一握りしか見たことないが、すべて3桁のシリアルナンバーが付いていた。これらの文字盤は、60年代のタンクに見られるプリントに似ているので、私はとても気に入っている。

 マーク2ダイヤルは、シリアルナンバーが数百番台から現れ始める。私はマーク1ダイヤルよりも前のシリアルでマーク2ダイヤルを記録しているが、そのシリアルナンバーは6xxx番台までに及ぶことがある。

 マーク3ダイヤルは、1xxxまでのシリアルナンバーで見られるが、6xxx~7xxxの範囲ではより一般的になる。マーク3ダイヤルを使った初期の例はオリジナルである可能性もあるが、どこかの時点で交換または修理されたのではないかとも思う。

リューズの種類
vintage cartier tank louis crowns

 文字盤と同様、タンク ルイにも3種類のカボションリューズがある。

  • タイプ1: リューズが高く、先端がとがっている
  • タイプ2: リューズが短く、先端がとがっている
  • タイプ3: 先端が丸みを帯びたスタビークラウン

 いずれのタイプも、より簡単に巻き上げることができるように、ローレット(凹凸のある)ベースを介してケースに接続されている。繰り返しになるが、一般的に、これらのタイプは早期から後期にかけて列挙されていると考えることができる。

 タイプ1のカボションリューズが最も高く、先端が長く尖っている。これらは製造開始時から確認でき、6xxx~7xxxのシリアルレンジではある程度一般的だ。

 タイプ2のリューズはタイプ1のものよりも明らかに短いが、それでも先端は尖っている。これらは若いシリアルナンバーでも観察されるが、7xxx~8xxxシリアル範囲ではより一般的なリューズタイプとなる。

 最後に、タイプ3のリューズは最初のふたつのタイプよりも短く、先端が丸く尖っていない。これらは主に、10xxx~14xxxのシリアルナンバーで見られる。

 3タイプはおおよそ同じくらいの頻度で見られるが、私は高いリューズタイプが最も望ましいと考えている。これが最初期のリューズタイプだと推測しているが、オリジナルの高いリューズの多くは、あまりにも突き出ているためにカボションが非常に簡単に欠けてしまうため、長い年月のあいだに失われ、交換されてきたのだと思っている。

ケースとホールマーク
vintage cartier tank white gold

初期の“マーク2”ダイヤルと長い“タイプ1”リューズに注目。Image: courtesy of Wind Vintage

 すべての1970年代製カルティエウォッチがそうであったように、タンク LCのほとんどはYGでつくられていたが、カルティエはWG素材の例もいくつか製造していた。私が記録した例の10%未満がWGで、そのすべてに生産前期でつくられたシリアルナンバーを持っていた。興味深いことに、私が見た完全な連続データが揃っていいたもののうち、すべてがいくつかの狭い範囲に集中していたようだ。これはヴィンテージウォッチによく見られる現象で、ケースが数回に分けて製造された可能性を示唆している。

 WGのほうが希少性が高く、また繊細で身につけやすいというイメージがあるため、WG製タンクはYGよりも約2倍の価格となっている。まあ、もしそれが見つかればの話だが。YGのタンクLCは週に何度でも見つけることができ、日曜日には2回見つかるかもしれないが、WGの例は1年のうちに数本しかお目にかかれないかもしれない。

cartier tank case hallmarks

裏側とミドルケースにはタンク ルイの特徴的なホールマークがある。ケースサイドのリューズの下にホールマークがあるが、しばしば磨耗して消えてしまうことがある。下にある1枚目の写真では、ホールマークが消えかかっているもののまだ確認できる。2枚目の写真のほうが、ホールマークがはっきりと表れている。

vintage cartier tank hallmark case
vintage cartier tank hallmark case

 年月を経るうちに、多くのヴィンテージタンク ルイのケースは磨かれてしまうことが多い。正直なところ、LCはもともと丸みを帯びた、洗練されたプロファイルを持っているので、ケースプロファイルのラインを見ただけで判断するのは難しい。しかし、ケースに存在するホールマークはコンディションを評価するのに役立つ。

  • まず、ケース裏側にいくつかのホールマークが刻印されているか
  • 次にリューズすぐ下のミドルケースにホールマークがあるか。このふたつ目のホールマークは、ケースが研磨されているために消えているか、ほとんど見えないことが多い

 ホールマークが残っていたり、手付かずのシャープなケースを見つけるのはいいことだが、ヴィンテージロレックスのスポーツウォッチに比べれば、それほど大きな問題ではないと思う。ケースは数回研磨するだけで、シャープなエッジや面取りの多くを失うことがあるからだ。

ほかのタンクに関する注意
vintage cartier tank

カルティエ “タンク”のさまざまなシェイプ。

 カルティエはLMタンク ルイと並行して、21mm×28mmサイズの小型なタンク ルイ Ref.78087も生産していた。以前、小型のタンクを所有していたのだが、その小ささが合わず約1週間で手放してしまった。私でさえ小さすぎたのだ。1970年代中頃、カルティエはさらに大きなタンク ルイであるタンク オートマティック Ref.17002を導入。“ジャンボ”とも呼ばれているが、サイズは28mm×35mm(現在の“ラージ”タンクとほぼ同じサイズ)であり、実際にはかなり装着しやすい。

 カルティエは70年代にレベルソ、アロンディ、ステップド タンクといったほかのタンクも製造していたが、それはまた別の機会に触れるとしよう。


タンク・ルイおよび1970年代のカルティエの収集
cartier tank louis 78086

マーク1ダイヤルとタイプ2のリューズがついたタンク ルイ カルティエ。 Image: courtesy of Antiquorum

 現在のタンク ルイ Ref.78086は、コンディションにもよるが6500ドルから1万ドル(日本円で約100万~155万円)のあいだで見つけることができる。これらの時計は希少なものではなく、今すぐインターネットで検索すれば、少なくともいくつか入手可能なものを見つけることができるだろうが、やはりコンディションのいいものを手に入れるのが最善だろう。つまり、エナメルダイヤルにヒビやひどい汚れがなく、ケースが酷く傷ついたり過度に磨かれたりしていないこと、そしてできればすべてのパーツが一貫性を持って“合理的に”組み合わさっている個体だ。

 私にとって最も望ましいタンクLCは、マーク1ダイヤルと長さのあるタイプ1リューズだ。特にマーク1ダイヤルは非常に希少であり、後期の文字盤よりもプレミアが付くに値するモデルだ。ただしどちらか一方が、他方よりもプレミアムを要求すべきではないと思っているので、6時位置の“Swiss”または“Paris”のサインに注意を払ってはいない。

cartier tank ellipse vintage

ヴィンテージカルティエのエリプスには、きっと素敵なストーリーがある。

 それ以上に、コレクターたちはヴィンテージカルティエのこの時代、そしてすべての時代について学び続けている。これらの時計の多くは、オリジナルオーダーや遺品から飛び出して、予期しない場所で発見されることが多い。それらには魅力的な彫刻やバックストーリーがあり、コレクションの世界では日々そのようなものが少なくなっている。

vintage cartier tortue

70年代のカルティエ トーチュ。ヴィンテージカルティエには実にさまざまな種類がある。

 今年の初め、私はスティーブ・マックイーン(Steve McQueen)のかつての妻、ニール・アダムス・マックイーン(Neile Adams McQueen)の遺品であるカルティエ ヴァンドームを、落札する1歩手前までいった。その裏面には、1980年の結婚式の日に2番目の夫に贈ったものであることを示す刻印があった。当時の大物俳優のひとりであり、時計収集の世界にも大きな影響を与えている人物と、少し遠回りながらも繋がれることは、楽しいものになっただろうと思う。

 ヴィンテージカルティエの世界では、このような時計がまだ発見されるのを待っているものの、見つけるのは容易ではないという事実を示すために述べた。そして、ヴィンテージカルティエのおもしろいところは、ほぼすべての人に何かしらの魅力があることだ。このコレクターズガイドが、あなたの探索に少しでも役立つことを願っている。