ADVERTISEMENT
私はおそらく最悪な予言者だと以前述べた。だが、2024年のカルティエが何を用意しているのかという問題に取り組むため、今回もまたボランティアでこの問いに取り組もうと思う。
カルティエはウォッチラインの強みは伝統的な時計製造だけに限られていないため、予測が最も難しいブランドかもしれない。グランドジュエリーメゾンとして、私はジャン・コクトー(Jean Cocteau)がアカデミー・フランセーズに入会した際に使用する剣(アカデミーの会員には剣が送られ、カルティエはジャン・コクトーのために剣を製作している)から、カクテルウォッチ時代をほうふつとさせる“トゥッティフルッティ”ウォッチ(ところで、メゾンはそれを復活させるべきだ)に至るまで、あらゆるものに素晴らしい宝石が使われるのを見てきた。ただしこのことこそ、宝石の欠片もない平凡な私にとって、カルティエの創造性を完全に理解することができずに事態を複雑にしている。
スタッズケース付きのベニュワール アロンジェなんて想像もしていなかった。タイガーストライプの宝石をセットしたクラッシュ? それらは想像を絶するものだ。押すとしぼむ柔らかいクッションウォッチ? いったい何の話をしているんだ? 昨年のバングル型ベニュワールでさえ、私にとっては畑違いだった。
昨年は、プリヴェコレクションのタンク ノルマルに夢中だった。典型的なノルマルにはとても驚かされたが、そうなるだろうとはなんとなく知っていたため、発表まで口をつぐんでいた。そのような内部情報はないし、何かを予測するのに小指ほどの創造性しかないが、その第六感を使ってひとつの予測を立てよう。
今年はカルティエ マキシ オーバルの年になるだろう。
2015年以来、プリヴェコレクションはクロシュ、トノー、サントレ、クラッシュなど、象徴的なモデルを介するのに最適なプラットフォームとなっている。ペブルが2022年のカルティエラインナップに加わり、オリジナル発表以来再登場していない数少ないシェイプのひとつとなった。あと戻ってきていないのはマキシ オーバルだけなのだ。
ここで簡単に言っておくと、これは四半世紀に登場したなかで最も象徴的かつ愛されたカルティエウォッチのひとつである、コレクションプリヴェ カルティエ パリ トーチュ モノプソワールの25周年記念モデルだ。この時計はトーチュが過去、魅力的なヴィンテージのワンプッシュクロノグラフのプラットフォームであったことや、1920年代のヴィンテージミニッツリピーターが、少なくとも2例あったことを利用したものである。カルティエが最近のリリースをどのように扱っているか見てみると、少なくともスケルトナイズや、ときには複雑機構の搭載を繰り返していることから、トーチュが復活するという可能性を挙げている。それが論理的な推測だろう。しかし私はマキシ オーバルに賭けている、というか期待している。技術的にはベニュワール アロンジェと一緒だが、活気あふれる60年代に始まった彼らの活動以来、私たちが見たことがないのは真のマキシ オーバルである。
マキシ オーバルは、これまでで最も“節目”に近い瞬間を迎えている。フィリップスは昨年、カルティエ ニューヨーク製のマキシ オーバルを12万650ドル(日本円で約1815万円)で販売し、一方クリスティーズではカルティエ ロンドン製のものがほぼ同じ価格で落札された。モナコ・レジェンド・グループは2023年春、ロンドン マキシ オーバル(手に入れるべきバージョン)をオークションに出品し、27万3000ユーロ(日本円で約4420万円)で落札され、名高いカルティエコレクションに収蔵された。その1年半前、MLGはグレー文字盤、ホワイトゴールドのロンドン マキシ オーバルを36万4000ユーロ(日本円で約5895万円)で販売したが、ジャン・ジャック・カルティエの天才的なロンドン シェイプドウォッチのユニークなタッチは、今となってはお買い得に感じられる。
タブーとなっている話題を片付けよう。溶けたマキシ オーバルがクラッシュの原因ではない。そんなことはどうでもいい。私たちの古きよき相棒、JJカルティエ(私が勝手にそう呼んでいる)が最も得意としたのは、シェイプの魅力あふれる時計だった。この時計を持っている友人には申し訳ないが、セアントゥールのような時計は、マキシ オーバルの陰に隠れてほとんど活躍していない。同様に、クラッシュはもうひとつ上のレベルにいる。サントレが提供するもの、特に前述のものとは対照的に、1921年以来途切れることのない歴史である。しかし、だからといってマキシ オーバルが悪い時計というわけではない。
新しいマキシ オーバルは、オリジナルの60年代または70年代モデルの30mm×57mmサイズを尊重しており、手首の上で信じられないほどの存在感を放つ。最近、新しいベニュワール アロンジェの近くで1968年製ロンドン マキシ オーバルを見たのだが、後者は私には絶対に合わないと思った。あまりにも細くて短い。マキシ オーバルはカフスで、サントレによく似ているが、活気あふれる60年代に似た動きがある。
カルティエは新しいマキシ オーバルで何をするのか? 私は自分が欲しいものを正確に期待しないことを学んだ。基本的にオリジナルをそのまま復元したものを見たいと思っているが、程度の差こそあれ、カルティエは常に近代的なデザインへと微調整する必要性を感じているようだ。プラチナ製のプリヴェ ノルマルは、シルバーダイヤルとシルバーの針(ほとんど判読不能だ、気をつけて)であり、確かにモダンに感じられた。カルティエ クラッシュとサントレは、さまざまな形で何度も復活を果たしたが、2014年のクラッシュ スケルトンと2017年のサントレ スケルトンは、カルティエが歴史的なデザインを試すことを恐れず、時計を現代へと移植していることを示した。
私の予想が正しければ、イエローゴールドとプラチナ製のマキシ オーバルが展開し、文字盤には垂直グレイン(昨年のタンク アメリカンのような)、または過去のベニュワール アロンジェで見られたようなギヨシェがあるだろう。サントレでも見られたように、文字盤にアラビア数字を配して遊び心を取り入れる可能性もある。さらに、いくつかジェムセットしたモデル、スケルトンを投入すれば、基本的には昨年のノルマルと同じものが完成する。私の創造性は尽きると言ったはずだ。
何を見たいか。モナコ・レジェンドのグレーダイヤルがいいスタートになるだろう。何が起こるにせよ、またカルティエがどれだけ過熱しているかを考えても、マキシ オーバルに声がかかることはことはないだろう。しかし、私が誰よりも先にこれに目を付けていたことは知っておいて欲しい。