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※本記事は2015年1月に公開されたUS版の翻訳です。
全ての腕時計コレクターの夢といえることがある。リサイクルショップ、店仕舞いセール、ガレージセール、カーブートセール、フリーマーケットなどで、超レアで貴重な腕時計を見つけることだ。そしてその夢がこのほど、ザック・ノリス(Zack Norris)にとって現実のものとなった。アリゾナ州フェニックスのリサイクル店「グッドウィル」に、ゴルフバックを引っ張って運ぶ中古のカートがあればと思って入った彼は、店の外へ出るときに、腕時計売り場に立ち寄ってカゴの中を漁ってみた。電池切れのフォッシルの腕時計(そのほとんどは15ドル〈約1600円〉前後であったと彼は言う)でいっぱいのカゴの中に、興味を引く1本の時計が、下向きになって入っていた。文字盤には「LeCoultre Deep Sea Alarm (ルクルト ディープシー アラーム)」とある。価格はと見ると、5ドル99セント(約600円)。
彼は、ルクルトという名前は知っており、その腕時計がジャガー・ルクルト製で、おそらく5ドル99セントよりはるかに高価なものだということも分かっていたが、だがそれが、3万5000ドル(約365万円)以上の価値をもつ1959年頃のヴィンテージもののルクルト ディープシー アラームであることには気づいていなかった。値札によると、その腕時計は前日の1月16日に売りに出されたものであった。ゴルフ用の手押しカートに関しては収穫がなかったが、それよりはるかに良いものを手にして、彼は、43番街とサンダーバード通りの交わる一角に建つその店を出た。彼は1月17日午後5時6分41秒に、その腕時計の取引を、なんと5ドル99セントで完了したのだ。
ザックのストーリー
ザックがヴィンテージ腕時計に魅了されるようになったのは、数年前に、オメガ シーマスターを遺産で譲り受けたのがきっかけだ。それ以来、彼は、HODINKEEのTalking Watchesの動画を全て視聴し、Facebookの「ヴィンテージ・ウォッチズ」グループのメンバーになり、また、中古販売セールに行ったときには、ヴィンテージウォッチを注意深く見るようにもなった。彼は既に幸運をつかんでもいた。10月に、フェニックスのブラス・アラマディオ・アンティークモールで、ヴィンテージもののエニカ シェルパ ウルトラダイブを、41ドル43セント(約4300円)で入手していたのだ(そしてそれを「オメガ・フォーラムズ」に投稿した)。ザックはそれ以来、1000ドル(約10万4000円)以上するその希少な時計を頻繁に着けている。
また彼は、それを見つけた同じ日に、買い得品をうまく利用することについての教訓を学んだ。オメガ シーマスター600が30ドル(約3100円)で売られているのを見たのだが、買わずに、2時間後に買おうと戻ってきたときにはもう売れた後だった。
件の時計について
ルクルト ディープシー アラーム(もしくは、ルクルトDSA)は、ジャガー・ルクルトがこれまでに作った腕時計の中でも最も価値あるもののひとつだ。合計で1000本に満たないそれらは、1959年からアメリカ市場向けに作られた(「LeCoultre(ルクルト)」の銘入りは通常アメリカ市場向けで、「Jaeger-LeCoultre(ジャガー・ルクルト)」としてあるものはその他の市場向け)。異なる文字盤に「Jaeger-LeCoultre」と銘を入れたヨーロッパ市場向けもあるが、それらはもっと数が少ない。これらは、ダイバー向けのアラーム付き腕時計としては最初に作られたモデルだ。
ザックは先週、買った時計を時計士に評価してもらおうと、スコッツデールのオリバー・スミス・ジュエラー(ジャガー・ルクルトの正規販売店)に持ち込んだ。時計士が中を開けてみると、無傷のムーブメントが現れた。裏蓋の中には、ケース番号「775340」の上に、「857」のレファレンス番号が記されていた。正規の銘が入ったルクルトのムーブメントCal.K815には、シリアル番号1389359が振られていた。
2011年にアルキュリアルが4万2960ユーロ(約543万円)で売却したルクルト DSAのケースのシリアル番号は、775072、同じオークションで、4万8166ユーロ(約609万円)で落札されたジャガー・ルクルト DSA(ヨーロッパ市場向け)のケースのシリアル番号は、775234であった。つまりこれは、まさに希少な腕時計であり、これらの後に作られたもので、おそらく1959年に遡る。2013年にアルキュリアルが3万1176ユーロ(約394万円)で売却したジャガー・ルクルト DSAのケースシリアル番号は、793759で、2013年にアンティコラムが2万7500ユーロ(約348万円)で売却したルクルト DSAのケースシリアル番号は775255で、ムーブメントのシリアル番号は1377495であった。
数週間前に、本日1月26日のハンプトンエステート・オークションに出品される、2本のルクルト ディープシー アラームをご紹介したのを覚えておられるだろうか。ロット番号239は、ケースシリアル番号793670、ムーブメントシリアル番号1332412、そしてロット番号247は、ケースシリアル番号793678、ムーブメントシリアル番号1377111だ。
ザックのDSAは、時針の夜行素材がややとれてはいたが、しかし磨きが施されたりもせずに、全体的に良好な状態だ。固定されたアルミニウムベゼルの状態が、特に良い。DSAのベゼルはとりわけ繊細で、傷が付いたり退色したりしやすいのだ。時刻合わせのリューズ(4時位置のもの)は交換されているが、アラーム用のリューズはオリジナルのもののようだ。
裏蓋の方は、本来なら小さなペグがついており、それがムーブメントに触れて裏蓋が振動することによって、アラームがより力強くなるわけだが、そのペグが折れているのも明らかになった。これはヴィンテージもののメモボックスによく見られる問題だ。通常は、同じ場所に再びペグを溶接で取り付けたりする。しかし、依然としてアラームはちゃんと機能するし、その様子をザックがYoutubeの動画に投稿している。
素晴らしい結末
ご想像に違わず、ザックがFacebookの「ヴィンテージ・ウォッチズ」グループに自身が入手した掘り出し物を公開すると、問い合わせやオファーが殺到した。彼の投稿に気づいたとき、私はすぐさま彼に、その時計の価値に関する概要をメッセージに書いた。彼はそれがどれほどの価値のものなのか判断できなかったからだ。それを売ると決めた場合には、公正な価格を得て欲しいと私は思ったのだ。
ザックは、その時計を非常に気に入ってはいたのだが、それを売却して得られる資金をもっと良い使い道に充てることができるのだと気がついた。婚約者との10月の結婚式の費用の足しになるし、夢の腕時計であったオメガ スピードマスター プロフェッショナルが入手できるし、生活の質全体を上げることが可能になる。装着するにしてもしまい込むにしても、この時計は自分にはあまりにも貴重過ぎると結論付けたのだ。
ザックに届いたオファーの中に、エリック・クー(Eric Ku)からのものがあった。Talking Watchesにも出演いただいたことのある、著名なロレックス・ディーラーでありコレクターでもある。ザックは、Talking Watchでエリックの出演回を見ていたため、彼がどのような人物であるかを知っていた。そしてエリックが自分の腕時計に興味をもってくれたことに痛く感動した。あの動画で覚えておられると思うが、エリックは、既に素晴らしいルクルト ディープシー アラームを所有しているが、それがあまりにも新品なので、恐ろしくて着けることができないのだ。そしてこのほど、傷付けることを気にせずにもっと頻繁に装着できる、オリジナルの状態のものをひとつ見つけたいという結論に至った。
エリックは、ザックに3万5000ドル(約365万円)以上の値をオファーした(ザックの言い方を借りれば買ったときの6000倍だ)。ザックは取引の一環として、オメガ スピードマスター プロフェッショナルを入手させてくれること、そしてサンフランシスコエリアのエリックの元に直接届けるのが可能ならばということで、オファーを受け入れた。配送途中で盗まれたり紛失したりした過去の問題を考えると、保険をかけていたとしても、送るのは心配だったのだ。
エリックはこれに同意し、翌日となるこの水曜日の1月21日、ザックはサンフランシスコ行きの便に乗り込み、エリックと1日を過ごした。ふたりは、オールドポート・ロブスター・シャックでロブスターロールとフレンチフライのランチを食べながら、腕時計の話をした。次の日、エリックはザックを空港まで車で送り届け、ふたりは友人として楽しい気分で分かれた。
3つのコメント
First, I believe that the watch was indeed purchased at the Goodwill located at 4147 W Thunderbird Road in Phoenix. People raised questions on the Facebook post and on Watchuseek about the veracity of his claim of finding the watch at a Goodwill. I called the Goodwill store and told the person that answered the story and she in turn expressed shock before she referred me to a manager who said he would not confirm whether an item was sold at the store, but told me to describe the receipt over the phone and then verified that the information on the receipt sounded legitimate. After having spoken and corresponded with Zach over a period of a week, and the watch now being in Eric Ku's possession, I have no reason to doubt Zach's story. Yes, the Goodwill employees probably would have been able to determine that the watch was worth a lot more than $5.99 if they had simply searched for "LeCoultre Deep Sea Alarm" online, but I would imagine that wasn't part of their standard protocol for putting for sale all the donated items they receive. I can imagine that searching Google for values and information would probably be a waste of time for the vast majority of items they receive, although I have heard that some Goodwill locations now ship out their watches to an e-commerce site.
Second, this certainly ranks as one of the great recent vintage watch finds I am aware of and these discoveries are part of what makes this hobby of watch collecting so fun and interesting. To give a few other examples of great finds, I know of someone who found a super-rare Blancpain AM Milspec watch in all-original condition for under $10 at a Salvation Army in the Kansas City area, I know a gentleman who paid $10 for a gold Vacheron Constantin wristwatch from the 1920s in a bucket of bric-a-brac at a Washington, DC flea market.I think one of the great historical finds was a World War I-era Omega wrist chronograph with service certificate purchased at an antique stall in Wales that was later on Antiques Roadshow in the UK and found to have been T.E. Lawrence's watch - the man popularly known as Lawrence of Arabia. The hunt is definitely part of the fun. And while people may generally recognize a brand name like Rolex, a name such as LeCoultre or any number of other brands may remain obscure to most people and as a result are more likely to be found in these sorts of scenarios.
Third, there is no question that the Deep Sea Alarm is one of the hottest watches on the planet. Just a few years ago, basically no one had heard of these outside of dedicated Jaeger-LeCoultre collectors. Less than a decade ago, DSAs were selling for $1,000 to $2,000. It's amazing how much they have appreciated recently. Zach was flooded with offers just as Hampton Estate Auction told us they were flooded with inquiries after I wrote about their two DSAs coming up for auction. In sum, credit is due to Zach for spotting an amazing watch in a less than likely setting, and to Eric for offering him fair market price for the watch and buying him his dream watch that he can wear every day.
Now excuse me while I head out to my local Goodwill store.
[UPDATE: In response to a lot of comments about whether Zach would make a donation to Goodwill, I reached out to Zach today to ask him about it and he told me he did make a donation to the store. He is keeping the amount he gave private.]
まず一つめに、私は、この時計は間違いなく、フェニックスのウェストサンダーバード通り4147番地にあるグッドウィルの店で買ったものだと信じる。グッドウィルで時計を見つけたというザックの話の信憑性について、Facebookの投稿やWatchuseekで疑問の声が上がった。私はグッドウィルの店へ電話をしてみた。電話に出た相手にこの話をすると、彼女は驚いたといって店長に話を通してくれて、店長は、店で商品が販売されたかどうかは確認できないが、電話口でレシートを説明してくれないかと言った。そしてレシートにある情報を検証し、正規のものに思われると言った。私が1週間をかけてザックと電話やメールのやり取りをし、そして件の腕時計がエリック・クーの所有となった今、私にザックの話を疑う理由はない。いかにも、グッドウィルの従業員は、オンライン上で「ルクルト ディープシー アラーム」で検索をかけていさえすれば、この時計に5ドル99セント以上の価値があると判断することができたかもしれない。しかし、受け取った寄付品の全てをセールに出すに当たり、そうすることは彼らの通常の作業手順の中に含まれてはいなかったのだろうと私は推測する。受け取る大量の物品について、その価値や情報をGoogleで検索するのが時間の浪費であることは想像できる。まあ、グッドウィルでも今は、時計をオンライン販売サイトに出荷している店舗もあるという話は聞いたことはあるにしてもだ。
2つめに、これは実に、 私の知る最近のヴィンテージウォッチの中でも素晴らしいもののひとつに位置づけられるが、こうした発見が、腕時計コレクションというものを楽しく興味深いものにしてくれる要素でもある。他にも素晴らしい掘り出し物の例を2、3挙げると、超レアなブランパン AM ミルスペックの、完全にオリジナルな状態のものを、カンザスシティーエリアの「サルベーションアーミー(救世軍:慈善団体)」で、10ドル(約1040円)以下で見つけた人を知っている。また、ワシントンDCのフリーマーケットで、古いガラクタの入ったバケツの中に、1920年代のゴールドのヴァシュロン・コンスタンタンの腕時計を見つけ、10ドルを支払ったという紳士も知っている。そしておそらく歴史的に素晴らしい掘り出し物のひとつだと思われるのが、第一次世界大戦時代のオメガのクロノグラフ腕時計だ。ウェールズ地方のアンティーク屋台で購入された従軍証明付きのものだったが、それはのちにイギリスのテレビ番組『アンティークス・ロードショー』に登場し、トーマス・エドワード・ロレンス(Thomas Edward Lawrence )のものであったことが判明した。「アラビアのロレンス」として知られる人物だ。ハンティングは明らかに楽しみの一つだといえる。そして、人々は一般的に、ロレックスのようなブランド名は知っているが、ルクルトや他に幾つもあるブランドは、たいていの人には分かりにくく、結果として、こういった成り行きの中で見つけられる可能性が出てくるというわけだ。
3つめとして、ディープシー アラーム(DSA)は、この地上でもっとも人気の腕時計のひとつだ。ほんの数年前には、基本的にジャガー・ルクルトの熱烈なコレクター以外には誰も耳にしなかった。10年も遡ることのないつい昔、DSAは、1000ドル(約10万4000円)から2000ドル(約20万9000円)で売却されていた。ここ最近の評価には驚くべきものがある。ザックにオファーが殺到したが、ハンプトンエステート・オークションも、来たるオークションで2本のDSAが出品されるとの記事を私が執筆した後、問い合わせが殺到したのだという。要するに、賞賛に値するのは、ありえない設定の中で驚くべき逸品を見つけ出したザック、そして彼に公正な市場価格を提示して、彼が日常的に装着できる夢の時計を購入してあげたエリックだということだ。
さて、私も失礼して、地元のグッドウィルの店に行ってみるとしよう。
[後日談:ザックがグッドウィルに寄付をするかどうかという多くのコメントに応え、私が今日、ザックにそれを問い合わせたところ、彼は店に寄付をしたと答えてくれた。いくら寄付したかは非公開にしている]