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セイコーウオッチ 内藤昭男社長に聞いた、アメリカにおけるグランドセイコーの立ち位置

グランドセイコーの新たなマディソンアベニューブティックは、アメリカにおけるブランドの何を表しているのか?

グランドセイコーは、少なくとも美的感覚において、私がまだ完全に理解できていないブランドだ。これは中傷的な意味ではなく、数年前にこの業界に足を踏み入れたばかりの私の現実だ。桜の文字盤と雪白の文字盤の違いを理解するぐらいで、真にグランドセイコーを理解するために立ち止まって時間をかけたことがない。なぜなら1日は24時間しかないし、私は魔法使いではないからだ。

 先週、私はセイコーウオッチの内藤昭男社長にお会いし、ブランド初となるアメリカ旗艦店のオープニングに立ち会うことができた。これは内藤氏がアメリカでの売上の大半を占めると強調した若い層にアピールするために、このブランドがアメリカでどのように事業を継続するつもりなのか、その背景をもう少し知ることができたチャンスである。

GS store

 ただ、内藤氏に会う前に下調べをしなければならなかったため、少し時間を戻そう。私はまず、GSの高精度とミニマルデザインに対する特異な日本的アプローチについて、HODINKEEの古い記事を読んで、おおまかに理解することから始めた。

 私は、1868年の明治維新における日本の過渡期について考えるようになった。社会経済成長の時代であり、封建主義から工業主義へと再構成された時代だ。もちろん、それは極端な物質的発展につながった。建築は木造からレンガ造りへと移り変わり、その後20世紀初頭、特に都市部では鉄骨鉄筋コンクリートが登場した。その結果、多くの大きな石造りのランドマークが誕生していった。丹下健三や、安藤忠雄らが多作した日本建築の隆盛は、のちにデザインの純粋性を象徴するものであった。

 やがて日本の都市開発は、西洋の工業化と伝統的な禅の哲学のあいだで交錯するようになる。西洋風の形をしたこれらの建造物の多くが、日本の伝統的な生産技術によって建てられたということが重要な点だ。西洋のインフラが押し付けられたが、それは日本的な解釈だったのだ。

Madison Ave GS Store

 グランドセイコーの時計に対する理解を深めようとする試みとして、日本の建築における伝統のミックスを考えることが役に立つかもしれないと私は考えた。ケース、ブレスレット、金属の仕上げなど、時計本体は現代の消費者へ向けて非常にミニマルかつモダンに仕上げられ、自然からインスパイアされた文字盤は、伝統を静かに反映しているのだ。自然に対する畏敬の念は、日本の固有文化の一部だ。テクスチャー加工された文字盤を見つめる行為は、ひとときの静寂と落ち着きを与えてくれる。

 時計のデザインをとおして日本的な純粋さを追求した私は、田中太郎氏が作りだした迷宮に迷い込んだ。グランドセイコーを理解する上で、彼のデザイン文法に詳しくなろうとしたのは、(少なくとも私にとっては)それが最も親近感のわく部分だと感じたからだ。クリーンな審美眼を持つ彼は、洗練されたスイスと競い合うにはデザインが同じくらい重要だということを理解しており、私と完璧に波長が合った。当然、私は62GSのヴィンテージモデルを調べ始めた。62GSへの言及をとおして、新しいSBGH341の“桜隠し”と、SBGH343の“桜若葉”について理解を深めることができた。そしてアメリカにおけるグランドセイコーの今後の方向性を説明する内藤氏の話と合わせて、新作をピックアップした。

62GS 1967 watch

1967年製グランドセイコー デイデイト、“62GS”。Ref.6246-9001。

 オリジナルの62GSケースに基づき、SBGH341とSBGH343はともにブライトチタンで製造されている。ケース径は38mm、厚さは12.9mmで、小さなケースサイズでスポーティな時計というのも納得だ。これは理にかなっている。

 そして、これはOP(オイスター パーペチュアル)のカラーダイヤルの派生ではなく、グランドセイコーなのである。ほとんどの人が本当にピンクダイヤルを欲しがる前から、このブランドはこのような文字盤を生み出していた。グリーンも然り。これらはOPの派生モデルよりもトレンド感が少なく、グランドセイコーが継続しているカラーとテクスチャーに沿っている。彼らは本当にパステルを愛しているのだ。

SBGH341 and SBGH343 watches

 もちろん、文字盤はいつもどおり自然をイメージしたものになっている。テクスチャーはこのブランドのデザインの柱である。ライトグリーン文字盤は、桜若葉の瑞々しい色合いを映し出し、“桜の花びらの合間で陽の光を透かして光る若葉の瑞々しさ”を味わうことができる。ピンク文字盤には桜隠しと呼ばれる、“東北地方で春のはじまりに見られる美しい風景”を凝縮。また“桜と雪が共存し、桜の花を雪が覆い隠す情景をエレガントに映し出す”と表現されている。カッコ内はグランドセイコーの言葉であって、私の言葉ではない。

SBGH341

 38mmというサイズは、より現代的な消費者に向けた多様化の試みのように感じられる。SBGH341 “桜隠し”とSBGH343 “桜若葉”は、“ツールウォッチ”ではないがスポーティなルックスである。グランドセイコーは、マニアのあいだではお洒落なブランドとして知られているが、現在発表されているほとんどのモデルはその対極にある。同ブランドのドレスウォッチモデルは、今では希薄なドレス/スポーツウォッチというハイブリッドなものへと変化している。

 もし彼らの製品の大部分がスポーツとドレスのハイブリッドであるならば、グランドセイコーはドレスウォッチをどのように定義しているのだろうか? 私は内藤氏に、このふたつのあいだに線を引く必要性はあるのかと尋ねた。「我々は、ブランドの拡大や消費者へバリエーションを提供するためだけにドレスラインを作っているわけではありません。常にグランドセイコーの時計としての基本的な価値、つまり読みやすさ、使いやすさ、機能性に忠実であることを心がけています」。これは私の質問への答えではなかったが、このアプローチはブランドのアイデンティティを美的に統一しようとしているのかもしれないと理解した。まさに統一された着こなしに対する私のこだわりのように。そこに方程式は存在し、何が効果的かは明らか。多くのブランドがひしめくなかで、消費者が簡単に自社製品を識別できるようにしたいわけだ。

 さて、“若い層”に話を戻そう。彼らのグランドセイコーへの関心は正確にはどこから来ているのだろうか? 「ミレニアル世代やZ世代は情報に精通しています。彼らは情報の引き出し方を熟知していて、SNSにも積極的に取り組んでいます」。内藤氏は続けて説明した。「ブランドに憧れを抱いていた親の世代とは対照的に、彼らは自分たちにとって真に価値あるものを常に探しています。それが大きな違いなのです」

SBGH343 watch dial

 私はいつもグランドセイコーのことを知性主義の訓練だと思っている。普通の時計の知識を超越したと感じるためには、このブランドを理解しなければならない。グランドセイコーの顧客優位に対する優越感。内藤氏はもっと楽観的であった。“昨今の若者は情報に精通し、彼らは常に本物を探し求めている”と感じているのだ。彼はさらにこう付け加えた。「若い人たちは知的好奇心が旺盛で、ものづくりにも興味を持っています」。この新店舗は、アメリカの若い消費者層に対する大規模な投資であることは間違いない。広く洗練されていて、きっととても費用がかさんだことだろう。

 「ニューヨークに最初のブティックを開いたのは2013年のことです。当時の夢はグランドセイコーを1日1本売ることでした」と内藤氏は笑う。そして「この投資規模に到達するまでは長い道のりでした」と語った。

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詳しくはグランドセイコー公式ウェブサイトをご覧ください。HODINKEE Shopはグランドセイコーの正規販売店です。コレクションはこちらからご覧ください。