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本稿は2018年12月に執筆された本国版の翻訳です。
私は1970年に生まれ、今や多くの人々がそのスタイルを忘れてしまったと思われる70年代を子供として過ごした。そんなわけで、ちょっとばかり服装にはこだわりがある。別にスタイルの権威に間違われることはないだろうが、私の目には70年代ファッションの消滅はかなり誇張されて伝えられているように映る。暖かみのあるブラウンを基調とした色みに、大きなアビエーター、イエローゴールドの時計、そしてサファリスーツまでもが復活し始めているのがわかるだろう。ベルボトムのパンツやポリエステルのジャンプスーツには少々抵抗があるが、このかなり極端な時代のアクセサリーについて問われれば、レザーのカフ、つまり“ブンド”スタイルのウォッチストラップを挙げたい。
まずその歴史を簡単に説明しよう。時計のカフ付きストラップの定義は、ストラップを通す幅広のパッドの上に腕時計を乗せるという緩やかなものだが、実は1970年代よりもはるか以前から存在していた。1920年代までさかのぼると、初期の腕時計のいくつかにはレザーカフに装着されていた形跡がある。おそらく、真鍮製のウォッチケースが汗で変色するのを(そして、それに伴って必然的に生じる肌の変色を)防ぐためだろう。しかしよくあるケースだが、これらのストラップは軍用に配備されたおかげでより本格的かつ機能的になっていった。
ドイツ空軍は、パイロットの時計を厚い革パッドに装着した最初の航空隊である。戦闘機や爆撃機のコックピットは、極端に寒くなったり暑くなったりするため、金属製のウォッチケースがむき出しの手首に当たっているのは不快だった。さらに、コックピット内で火災が発生した場合、レザーのカフストラップがあれば高熱で肉が溶ける可能性のある皮膚からケースを遠ざけることができる。ドイツ連邦共和国(Bundesrepublik)のパイロットが最初にこの目的で使用したことから、このストラップには“ブンド”という愛称が付けられ、以後定着していった。
ブンドストラップは1970年代、戦闘機のコックピット以外でもその力を発揮した。がっしりとしたレザーのカフは、大流行したトールブーツやフリンジ付きのスエードジャケットを引き立てる完璧なリストアクセサリーだったのだ。エルヴィス(Elvis)はブンドストラップをつけていた。マイルス・デイヴィス(Miles Davis)もだ。ニーナ・リントは、ユニバーサル・ジュネーブのクロノグラフに幅広のレザーカフを付けていた。しかし、ブンドストラップが頂点に上り詰めた証拠を確認したければ、マックイーン、レッドフォード、ニューマンという男性像の聖三位一体を見れば十分だ。スティーブ・マックイーンは、ドイツ空軍が着用していたようなハンハルトのクロノグラフを身につけていた。ロバート・レッドフォード(Robert Redford)はスパイスリラー映画『コンドル(原題:Three Days of the Condor)』で、シルバーのリベットが付いたブラックのバンドにドクサのダイバーズウォッチ、サブ 300T シャークハンターを着用している。
そして何より、ポール・ニューマンがその名を冠したクロコダイルブンドストラップのロレックス デイトナを愛用していたことはあまりにも有名だ。この3人は1970年代のスタイルのアイコンであり、月面着陸からニクソンの失脚、ベトナムとの泥沼のあいだで一時的に世界の頂点に立ったアメリカの、日焼けしたアスリート精神と奔放さを象徴していた。
ブンドには主にふたつのスタイルがある。ひとつは幅広の長方形のパッドが手首全体を包み込むフルカフ。そしてもうひとつはテーパー型で、時計ケースの輪郭にほぼ一致するように丸みを帯びており、多くの場合はラグの少し先で終わっている。私はどちらかというと後者が好きだ。フルカフのスタイルは、ちょっとストラップの主張が強すぎる。ブンドはスポーツウォッチ、特にスピードマスターやオールドホイヤーなどのヴィンテージや、ビンテージスタイルの時計によく似合う。
ブンドストラップの時計は手首から高い位置にあるため、ドアの枠やテーブルの縁に引っかかる危険性がある。私は1969年製のドクサ T-グラフを厚手のコードバン製ブンドに装着しているが、手首からの高さはトータルで17mmと堂々たるものだ。とても気に入っているが、その威厳のある厚みを考慮しなければならない。ドレスシャツは着られないし、地下室からランドリーバスケットを運ぶときは特に気を使う。ダイビングウォッチにレザーを合わせるのは冒涜的だと感じる人も多いだろう。だが、私はレザーが象徴的なラギッドさを醸し出して時計を水中という厳格な領域から解き放つことで、ありきたりなラバーやメタルバンドよりも汎用性を高めていると思う。それに、シェルコードバンのストラップなら少々の水は大丈夫だ。何より、レッドフォードがやっているなら誰も異論はないだろう?
レーガンが大統領に就任したころからブンドストラップの人気は下降線をたどり、それ以来、もうひとつのミリタリーストラップであるNATOのような再評価の声は聞こえてこない。しかし、復活のうわさもささやかれている。チューダーのヘリテージ レンジャーやモンブランの1858 ジオスフェールなど、いくつかの時計ブランドはブンドスタイルのストラップを装着している。どちらもアウトドアの雰囲気が強く、偶然にもダビデ・チェラート(Davide Cerrato)氏がデザインしたものだ。2017年に興ったポール・ニューマン デイトナへの空前の注目も、ブンドストラップを世間に知らしめた。
ブンドに合わせたヴィンテージのダイビングクロノは、繊細なドレスウォッチとは正反対の存在だ。装着するだけで声が1オクターブ低くなり、ひげを剃るのをやめて腕相撲を始めたくなる。忘れ去られた10年間のスタイルを受け入れ、それを今思い出しているのだ。大胆さとエキゾチシズムの時代であり、男性主人公が胸にワックスを塗らず、口ひげがセクシーだった時代だ。まあ、私はまだ口ひげに慣れないが。でも、いつか理解できるかもしれない。
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