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オーデマ ピゲの新作、サンドゴールド(SG)のロイヤル オーク オートマティック フライング トゥールビヨンを初めて見たとき、ステンレススティール(SS)を見ているのかと錯覚するほどよく似ていた。オーデマ ピゲが発表したばかりのこの新作は、素材を掛け合わせたゴールド合金を使用することで、ピンクとホワイトの中間に見える柔らかい雰囲気を生み出していた。しかし、コンベンションホールの明るいブルーの照明のもとでは時計は純白に見えた。会場のプレス関係者の輪を抜けて私が近づき、少し影がかかって初めて、ケースからバラ色の色調が浮かび上がってきた。“単なる新しい素材”というには、かなり印象的だった。しかし、これは1度きりの経験だ。初見で、手品のトリックを学ぶようなものだと思った。
オーデマ ピゲの新作、SGのロイヤル オーク オートマティック フライング トゥールビヨンを2度目に見たときにも、私はやはりSSモデルを見ているのだと思った。ニューヨークで行われた別のプレス向け内覧会で、友人のペリー・ダッシュが日陰で手首に巻いているのを見たのだ。「SS仕様を出したなんてクールじゃないか」と、私は思っていた。そして近づいてみて、「また騙されたなんて……」と恥ずかしくなった。
Ref.26735SGは、ほかの仕様であれば最も注目を集めるモデルになっただろう。確かに私の目にも留まったが、ロイヤル オークを愛する者として、オーディエンスがどのように反応するかは私にも分からない。今回、ジョン・メイヤーが注目株のロイヤル オーク パーペチュアルカレンダーを披露してショーを持ち上げたのちに、この時計はいわばスペシャルゲストとして登場した。この時計は先述したように、“単なる新素材 ”として脇役に追いやられてしまうという可能性が高かった。だからこそ、私がInstagramに投稿したこの時計の数枚の写真がとても反響を呼んだようで、率直に言って嬉しい驚きだった。
否定的な意見もあながち間違いではない。Ref.26735ST(“ST”はスティールを表す)は、2022年に発表された初のオープンワーク仕様のロイヤル オーク フライング トゥールビヨンであり、このムーブメント自体は新しいものではない。興奮させる要素がそれだけならすぐに飽きてしまうかもしれないが、私の立場からすれば、Cal.2972は決して失望するようなものではない。このムーブメントは、最初からオープンワーク化されることを前提に設計されていることを物語るような、すっきりと明確で意図的な、美しい準左右対称的な構造をしている。フライング トゥールビヨンは、6時位置に誇らしげに鎮座している。オープンワーク化された時計は決して視認性に優れているとは言えないが、幾何学的な模様が針とムーブメントをより簡単に見分けることに貢献している。2022年にはすでにCal.2972はオープンワーク(またはスケルトン)ウォッチのスタンダードを確立しており、瞬く間にこのクラスのトップに躍り出たのである。
新作Ref.26735SGで最も注目すべき点は、SGという新しい素材であることは確かだが、色だけがそのすべてではない。数週間前にこの時計について書いたとき、オーデマ ピゲの新しいSG素材はより変色しにくく、長期間にわたる耐久性が期待できるというプレスリリースでの簡単な言及を見逃していた。そもそもローズゴールド(RG)の耐久性を心配する人は(私を含め)多くないが、実はRGは特に繊細で、海水や塩素にさらされると変色しやすい素材だ。この問題を解決しているブランドはほとんどなく、ロレックスとオメガがその例外として顕著である。
また、色がすべてではないと言ったが、それが大きなセールスポイントであることは間違いない。時計製造に使われるゴールドのほとんどは18Kか14Kの合金で、純金にほかの素材を混ぜることで硬度と耐久性を高めている。使用する素材を選ぶことで、堅牢性、硬度、色の変化が生じる。今でこそ、このような混合は綿密に研究され、テストされ、最終製品に影響を与える不純物がないかチェックされているが、1950年代以前は、配合は野放図で自由なものであった。4色のゴールドケース(イエロー、ホワイト、ローズ以外の4色目を言えたら、ボーナスポイントをあげよう)は珍しいものではなく、よく見られるものだった。なお、1950年代以前に製造されたホワイトゴールド(WG)のケース(例えばカルティエ)を見ると、実はロジウムメッキされたイエローゴールドであることが多い。
このような独自のカラーミックスは、市場で最高のRGを扱うブランドはどこか(ンン、ゴホン…オーデマ ピゲ)といった議論や、A.ランゲ&ゾーネのハニーゴールドケース(HG)がなぜ特別なのかを語るのが楽しい理由の一端を担うものだ。HGといえば、新しいSGを論じるうえで素晴らしい出発点だ。ランゲのレシピはピンクがかった色合いで、ソフトなイエローがかった雰囲気にあるが、SGはさらにソフトな色調だ。ベージュの色調は、18Kゴールドのケースを強化するために使用された20%の銅と5%のパラジウムのバランスのおかげで、明確にWG寄りに仕上がっている。この新作を見る直前、ミラノのブティックでベージュのディスプレイの前を通り過ぎたとき、私はこの時計に対して「まるでロロ・ピアーナのようだな」と呟いた。しかし、ゴールドのロイヤル オークのように派手な時計と同じくらい“クワイエット・ラグジュアリー”な時計だ。
オーデマ ピゲの素材工学における優位性についての私の認識は、これからも変わることはない。もちろん、ほかのブランドが先んじることもしばしばあった。例えばIWCは、1986年にダ・ヴィンチ パーペチュアルカレンダーで初のセラミックケースの時計を発表し、現在では最もリーズナブルなセラミックウォッチのいくつかを製造している。しかし、オーデマ ピゲはそのほかセラミックやフロステッドゴールドのような素材をブランドアイデンティティと不可分な存在としており、ほかのブランドでは見られないようなセラミックウォッチをファンは熱望しているのだ。オーデマ ピゲが昨年Only Watchから撤退したとき、彼らが提案した時計は基本のベースは同じロイヤル オーク フライング トゥールビヨンだったが、ケースはセラミックでブリッジはブルーチタン製だった。私はこの時計を手に入れるため、オーデマ ピゲに対し「カネに糸目はつけない」とばかりに信じられないほどの努力した複数のオーデマ ピゲの顧客から話を聞いた。しかし、オーデマ ピゲにおける成功はセラミックに限らない。オーデマ ピゲがコンセプト・スーパーソヌリRD#1をテストしていたとき、ブランドは想像しうる最悪の素材、信じられないほど高密度でひどい音がするはずのプラチナを使用していた。この素材を意のままに加工するのは大変なことなのだが、それでも私が聞いたなかでこの時計は最高の音を奏でるリピーターのひとつとなっている。
本作でこのゴールド合金を開発したオーデマ ピゲのパートナー、ラ・ショー・ド・フォンのPXプレシノックス社の功績を称えなければならない。オーデマ ピゲにはゴールドに関する特許はなく、この製品の名称を作ったのは彼らである。それをうまく使った点については、実にオーデマ ピゲらしい。
SGの採用は、ただでさえ素晴らしいCal.2972の美観をさらに向上させた。針とマーカー(WG製)はムーブメントに対してコントラストを強めており、ブリッジはSG調に処理され、ロジウムメッキされた歯車と香箱から際立つ一方で、ケースにマッチしている。そして、これを面白いと思ったのは私だけかもしれないが、ローターには18Kピンクゴールドが使われている。ロジウムコーティングが施されており、まるでホワイトゴールドのように仕上がっている。
しかし、最も重要なことは、オーデマ ピゲがこれまで何度も私を騙してきたマジックをどのように成功させたかということである。それを説明する最善の方法は、上と下の実機写真を見てもらうことだ。
私は、すべての画像で一貫した照明と色になるよう、信じられないほどの努力をしている。最初の画像を撮る前に色補正をする照明環境の調整だけでなく、ポストプロダクション(画像編集)に何時間もかけている。どのような反射素材も、その撮影環境に影響を与える。それが光の物理学的な仕組みだ。物理学や写真のマニアの方なら、研磨された金属では、入射角(入ってくる光)と反射角(出てくる光)が等しく、その環境にあるものは何でも色に影響を与える(研磨された金属から90度の角度にあるものは何でも色がかぶってしまう)ことを熟知しているだろう。ロイヤル オークに見られる多くのファセットのように、サテン仕上げされた金属でも色かぶりが目立つことがある。しかし、SGほど撮影時の色ずれを経験した色はない。ブラウンのレザーの上に置かれたこの時計は、周囲のイエローやレッドの色調を弾き飛ばし、オーデマ ピゲの現在のRG合金に近いものに落ち着いたように見えた。
しかし、寒い日にこの時計を外に持ち出し、直接冷たい光を当ててみるとどうなったか。硬い光はコントラストや奇妙な影を作り出した。時計の写真を撮るには最悪だが、私が新しいフライング トゥールビヨンに騙され続けている理由がわかるだろう。実際、私がこの時計を持って写真を撮りたいと言ったとき、対応してくれた人物が無意識に近くにあったWGのRef.16204(オープンワーク仕様のジャンボ)をうっかり手に取ったあとで、それが目当てのトゥールビヨンではないと気づいたほどだ。私が正気を失っていなかったことを知り、そのことが証明されたように感じた(同時にとても安心した)。
多くの場合、読者諸兄が目にするのは、下の画像のようにゴージャスなロイヤル オークだ。41mm×厚さ10.4mmと、ロイヤル オークの真骨頂(ほかのすべてのロイヤル オークが基準とする39mm×8.1mmのジャンボサイズ)と呼べるものではないが、あながちかけ離れたものでもない。私の約18.5cmの手首には、ジャンボへの(しばしばうんざりするほどの)こだわりがあるにもかかわらず、間違いなくこのサイズは私の体格に似合っている。これこそが私が身につけなければならない時計だというなら、フィット感にも仕上げにも文句はない。しかし、27万ドル以上と噂され、さらに1年に製造される本数が100本以下と推定されるため、誰かがつけているのを目撃することは当面ないだろう。
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オートマティック フライング トゥールビヨンサンドゴールド オープンワーク、Ref.26735SG。直径41mm、厚さ10.6mmの18Kケース、50m防水。SG製オープンワーク仕様ムーブメント、SG製インナーベゼル、SG製アプライドインデックス、夜光塗料付きロイヤル オーク針、フライング トゥールビヨン、時・分表示、自動巻きキャリバー2972、2万1600振動/時、パワーリザーブ65時間。18K SG製ブレスレット、APフォールディングクラスプ。価格:27万ドル(日本での価格は要問い合わせ)。
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オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オートマティック フライング トゥールビヨンサンドゴールドの詳細については、公式Webサイトをご覧ください。