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春の装いでは軽快さが求められる一方で、朝晩の冷え込みや天候の変化もまだ無視できない。そんな時期に頼りになるのがコートだ。ブルゾンやジャケットに比べて、それ1着で全体のムードを整え、スタイルを完成へ導いてくれるのがコートの強みでもある。実用性を備えながら、装いの方向性まで決める存在だからこそ、そこに合わせる時計にも着こなしの考え方が表れる。今回は英国ブランドの名門、マッキントッシュの協力のもと、スタイリスト・石川英治さんが、HODINKEE Japan編集部の各エディターに合わせてコートをセレクト。そこへ各自が時計を選び、それぞれのバランス感覚で春のスタイルを形にした。袖元まで含めて立ち上がる個性を楽しんで欲しい。
ヴィンテージ由来のシャツや古いデイデイトでバランスを
コート:HUMBIE SL(ハンビー SL)30万8000円(税込)/マッキントッシュ
僕はこれまでに3、4着ほどのマッキントッシュを所有してきたが、いわゆる王道であるシングルタイプのステンカラーをセレクトしたことはなかった。コートに限らず、なるべく人と被りたくない天邪鬼としては、この鮮やかなオレンジのハンビーは珍しく、ワードローブに加えるという観点からもよい選択に思えた。ただ、こうした主張の強いアウターと合わせる場合、他のアイテムのトーンを抑えないとなかなかこなれない反面、コートだけが目立って面白みに欠けるコーディネートにもなりかねない。面白くもこなしの難しいアイテムを選んでくれたものだと思ったが、そうしたときには自分が一番着慣れているアイテムをまずチョイスすることにした。
黒のシャツやグレースラックス、ブーツはベーシックなアイテムだが、ここにヴィンテージ調のデニムシャツをラフに切るのが自分流。このシャツは1950年代のウェスタンシャツをベースにしたデザインで、背中にハギが入る仕様。ウエストのシェイプはややゆるくなり着丈も現代的にアレンジされて着やすくなっているところが気に入っていて、古そうなのに昔にはないシルエットという特別感。このハンビーのような個性の強いアウターにも負けない強さがある。
合わせた時計は最近購入した、ロレックス デイデイトのYGモデルで、1967年製かつ文字盤が退色した、通称“ゴースト”。こちらはリアルなヴィンテージ品だが、ヴィンテージを思わせる現行品、クラシックなブランドの最新作という、それぞれにギャップをもたせる意図でセレクトしてみた。現代的に解釈されたデニムシャツと、伝統を重んじながらポップで楽しげに仕立てられたマッキントッシュが相乗効果を生み、時計自体にもクラシックさとは異なる表情が見えるようだ。
伝統的なゴム引きコートであるハンビーは、高い防水性はもとより、かなりの保温性があることも再認識。春先はシャツやカットソー、何なら半袖にこのコートで出かけることもできそうだ。合わせるアイテムのストーリーを作ってくれそうな(何なら作らなければという気にさせられる)、マッキントッシュのモダンな感性を謳歌したい。
実用とロマンを重ねる、防水コートとヴィンテージパテック
コート: クレイガン(CLAIGAN)38万5000円(税込)/マッキントッシュ
マッキントッシュのコートを着るのは今回が初めてでした。ゴム引きコートといえば高い防水性とクラシックな佇まいを思い浮かべますが、石川さんに選んでいただいたのは大きなフードが印象的な、どこかアクティブな空気をまとった一着です。伝統的でありながら、シルエットやディテールには現代的な軽快さがあり、いわゆる“守り”のアウターというよりも、外へ出かけたくなるような前向きなムードを感じました。少し雨が降る街に、防塵防滴のライカ Q2を持ってそのまま繰り出し、写真を撮り歩く——そんなシーンが自然とイメージできる点が、とても魅力的に映りました。
そんなコートに合わせたのは、ヴィンテージのパテック フィリップ Ref.565です。ブランド初の防水ケースを備えたモデルとして知られ、フランソワ・ボーゲル社によるスクリューバックケースを採用することで、当時としては高い実用性を実現していました。もちろんヴィンテージゆえに現代的な防水性能を過信することはできませんし、あえて雨の日に着けたいかというと少し迷うところではありますが、防水性のあるコートと組み合わせることで、普段よりも気負わずに使えるように感じます。
コートが持つ実用性と、この時計が体現する機能的な進化とが、さりげなく重なり合う点にも惹かれました。また、独特なケースシェイプも選んだ理由のひとつで、伝統を踏まえながらもどこかモダンな表情を持つコートとの相性のよさを感じています。
パテックフィリップ Ref.565 ※ヴィンテージ品
スタイリングとしては、コートの持つアクティブな空気感を活かしながらも、全体がラフに振り切れすぎないよう意識しました。そこで、インナーには薄手のブラックのタートルネックを合わせ、ボトムスはグレーのスラックスで引き締めています。足元にはブラウンのスエードブーツを選び、程よく柔らかさを加えました。袖口から覗く時計は35mmと小ぶりなサイズ感ながら、しっかりと個性をアピールしています。
今回の組み合わせには、機能性と審美性のあいだを行き来するような、自分好みのスタイルになっていると思います。実用的でありながらも、どこかロマンを感じさせる——そんな要素同士を重ね合わせることが、いまの気分です。
英国発祥のブランドには、同じく英国に縁のある時計を。
コート:HUMBIE SL(ハンビー SL) 13万9700円(税込)/マッキントッシュ
マッキントッシュのハンビー SL(HUMBIE SL)に合わせたのは、マーク11。「英国発祥のブランドには、同じく英国に縁のある時計を」というのを、今回のポイントにしたかったからだ。ただしその組み合わせの理由は、単なる出自の一致だけではない。むしろ意識したのは、身に着けるもののセレクトそのものが、その人の価値観やライフスタイルを映すメッセージになるということ。
ハンビー SLは、マッキントッシュらしい端正さと、やわらかな素材感がもたらす穏やかな表情が魅力だ。クラシカルで品のよい佇まいがあり、一般的には薄型のドレスウォッチや、端正なケースラインを持つ繊細な時計を合わせるのが王道かもしれない。だが、そうしたセレクトは自分のライフスタイルとは異なるものだし、自分が日々の装いに求めるのは、単なる“きれいさ”だけではない。クラシックな装いでも、実用性と堅牢さなど自分の好みを貫きたいという意図がある。そうしたときに、英国軍用時計の名作として知られるマーク11を合わせるという選択は必然だった。
高い視認性、実用本位の設計、そして過剰な装飾を排した佇まい。マーク11は飾るためではなく、役割を果たすための時計だ。クラシックなコートにあえて合わせることで、そのストイックさや、無骨なニュアンスで自分のライフスタイルや好みを自然ににじませることができると思ったのだ。加えて、なぜその時計を選んだのか? という、出会う人との会話の糸口になるかもしれないという考えもあった。
一方で、全体の調和も大切にしたい。そこでストラップには、1954年に英国軍が初めて採用したナイロン製ストラップ、Ref.No.6B/2617と同じデザインを再現したバークアウトサイダーズ(Barkoutsiders)のものを選んだ。しかもこれはサルカン(連結金具)幅をヴィンテージと同じ1.8mmに変更し、長さも英国軍の仕様書に定められた280mm(尾錠を除く)に合わせた、キュリオスキュリオ(Curious Curio)の別注タイプ。無骨な出自を持ちながらも、ナイロンならではの柔らかな質感がハンビー SLの素材感、コートのクラシックな印象にもなじむのではないかと思ったのだ。
英国という共通点を入口にしながら、最終的にこの組み合わせが語るのは、自分らしさ。自分の生活に根ざした道具を選ぶこと。そのうえで、素材やディテールへの配慮で全体を整えることだ。ハンビー SLに何を合わせようかと思いを巡らせ、そしてマーク11とナイロン製ストラップを選ぶ過程は、とても楽しいものだった。決して王道の組み合わせではないかも知れないが、これが“自分にとっての正解”なのだ。
時計はマーク11。ストラップは、バークアウトサイダーズの英国軍 Ref.No.6B/2617レプリカNATOストラップ キュリオスキュリオ別注仕様(アドミラルティグレー) 7700円(税込)
“乗馬”をテーマに、エレガントとスポーツのバランスを探る
コート:ROXBURGH(ロックスバラ)36万3000円(税込)/マッキントッシュ
本企画の担当として、僕はスタイリストの石川さんとともにプレスルームでの見立てに立ち会った。部員それぞれの個性や好みに合わせ、石川さんの手によって次々とアイテムが選別されていくなか、僕に割り当てられたのがこのロックスバラというモデルだった。マッキントッシュと聞けば、まず端正なシングルブレストのダンケルドなどが脳裏をよぎるが、このロックスバラはゆったりとしたAラインを描き、現代的なオーバーサイズシルエットを特徴とする。既存モデルを振り返ると、ウールやアルパカといった柔和な質感のものが主流という印象を持っていたが、本作にはブランドにおいて伝統的なゴム引き素材が採用されていた。
正直なところ、当初は他の部員が手にするコートに比べ、色もディテールも控えめなこの一着に、一抹のもの足りなさを感じたのも事実だ。だが、いざ袖を通してみると、その思いは一変した。細部に至るまで、実に理にかなったギミックが凝縮されていたからだ。そもそもこのモデルは、乗馬用コート、すなわちライディングコートをルーツに持つ。それを象徴するのが、シルエットを絞るためのウエストベルトと、レッグストラップの意匠である。これらは本来、馬上で風にあおられ、裾がはためくのを防ぐために考案された実用的なディテールだ。1920〜30年代に見られた、スポーツや乗馬に由来するコートにも通じる設計であり、後年はバイカー用のモーターサイクルコートにも同様の思想を見ることができる。その出自からして非常に男心をくすぐるディテールであり、古着をあさっていてレッグストラップ付きのコートに出くわすと、つい強く心を惹かれてしまうのである。
もちろん、現代の都市生活において、これらのディテールが本来の意味で実用的かと言われれば、必ずしもそうではない。しかしミニマルな外装の裏側に、確かな歴史の裏付けを感じさせるディテールが潜んでいる。その事実に、僕はすっかり心を掴まれてしまった。石川さんと仕事を共にして3年以上が経つが、こうしたものに弱い僕の性質は見事に見抜かれていたのだろう。
コートのゆとりあるサイズ感から、デニムジャケットをインに挿したレイヤードスタイルを試みてみた。洗いざらしのストライプシャツもブルーを選ぶことで、ガチャついた印象にならないよう調整している。また、このコートの持つ柔らかな雰囲気を生かすべく、パンツもわずかにテーパーの効いたワイドな一本にした。おおよそ春秋の僕のいつものスタイルなのだが、乗馬に由来するディテールが、このコートを羽織る僕の気持ちを少し高揚させてくれる。
ピアジェ ポロ デイト 212万800円(税込)
そこに合わせる時計には、その名のとおり貴族のスポーツ、ポロをイメージしたピアジェ ポロより3針のデイトモデルをセレクトしてみた。ピアジェ ポロもまた1970年代より続く歴史のあるモデルでありながら、本作ではシェイプ・イン・シェイプの42mm径ケースと水平方向に走るストライプが、モダンなスポーツテイストを醸す。パリッとハリのあるゴム引きのロックスバラとも、そのような点からリンクする時計である。ちなみに、ゴム引き素材に合わせてラバーストラップにしてみた。しかしどちらも、スポーツを出自に持ちながら、その背景をことさらに語りすぎないところに惹かれる。由来を知ればいっそう面白いが、見た目はあくまで端正で都会的。そのさじ加減が、この日の自分の着こなしにはしっくりきた。
フィールドパーカーにプリマルナを添えて、ラフさと品のよさを両立する
コート:JOHNSTONEBRIDGE(ジョンストンブリッジ)18万9200円(税込)/マッキントッシュ
マッキントッシュというと端正なコートのイメージが強かったが、石川さんに選んでもらったジョンストンブリッジは、いい意味で少し印象が違った。ネイビーをベースにした落ち着いた色味に肩まわりのチェックが効いていて、きれいにまとまりすぎない。見た目にはしっかり存在感がある一方で、実際に着ると重たく見えず、普段の自分の服装にも自然になじんだ。フィールドパーカーらしい雰囲気はありつつも街着としてまとめやすく、雨が降るか迷う日や、朝晩で気温差のある日にも選びやすいコートだと思う。私は黒をベースにした服を着ることが多いので、このくらいボリュームがありながら色数を増やしすぎないコートは取り入れやすいと感じた。
そこに合わせたのはロンジンのプリマルナである。こうしたコートにはスポーティな時計を合わせる選択肢もあると思うが、今回は少し違う方向に振りたかった。丸みのあるケースが手元をやわらかく見せてくれるし、ネイビーのストラップもコートの色と自然になじむ。フィールドパーカーの軽さを生かしながら、時計で少し品のよさを足せるバランスがちょうどよかった。
ロンジン プリマルナ 41万3600円(税込)
全体として意識したのは、カジュアルに寄せすぎないこと。コート自体にしっかり存在感があるので、時計まで強いものを合わせるより、少し静かなものを選んだほうがまとまりやすい。とはいえ、きれいに整えすぎるとこのコートのよさも薄れてしまう。白や黒をベースにした服に、少し尖った要素を入れるのは普段から意識していることで、今回でいえばそれがフィールドパーカーに合わせたプリマルナだった。今回の組み合わせには、自身の思想がそのまま表れていると思う。
Photopraphs by Keita Takahashi Supervised by Eiji Ishikawa Special Thaks to MACKINTOSH Roppongi Hills
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