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昨年発表された、ピンクゴールド製の新作レベルソ・トリビュート・モノフェイス・スモールセコンド(美しいミラネーゼメッシュブレスレットを備えたモデル)は、ここしばらくのジャガー・ルクルトの新作のなかでも、特に際立った1本だったと言えるだろう。しかし、その注目を集めた期間はやや短かった。今年は新たに登場したマスター・コントロール・クロノメーターラインに話題をさらわれ気味だったからだ(ちなみに、このモデルの実機レビュー記事も近日公開予定なので楽しみにしていて欲しい)。それでも先月のWatches and Wondersで、ブランドは“Or Deco Cocktail”というプラットフォームにさらなる可能性があることを示した。新素材を採用した2本を含む、3種類の新作レベルソ・トリビュート・スモールセコンド “Or Deco Cocktail”を発表したのである。
昨年発表されたモデルはいま見てもなお、圧倒的な存在感を放っている。
これらの新作を見逃していた人も多いかもしれない。その理由のひとつは、ブランドが数週間後に本格的な発表を控えているためだ。5月21日から31日まで、今夏にオープン予定の新ブティック、マイアミ・デザイン・ディストリクトで、“レベルソ・ストーリー”シリーズの没入型ポップアップイベントを開催するのである。この企画では、歴史的なハイジュエリーモデルを含む希少なピースにスポットライトを当てる予定であり、今回の3本を含め、そのコンセプトに連なる新作レベルソも初披露されるというわけだ。しかし、これらの時計がサウスビーチへ送られる前に、私たちはニューヨークで実機を見る機会を得た。そして、マイアミでの華々しいお披露目に先駆けて、いまの言葉で言うなら“裏話を明かす”ことができるのである。
なかでも新鮮味という点で際立っているのは、新たに加わった2種類のホワイトゴールドモデルだろう。基本構成は共通しており、ケースサイズは45.6×27.4mm、厚さ7.56mm。ケース素材をWGとし、手巻きのジャガー・ルクルト製Cal.822を搭載する。どちらのモデルもシルバートーンのグレイン仕上げダイヤルを採用し、時・分・秒表示は同じくシルバートーンの針とインデックスによって表示される。
昨年のオリジナルモデルとの違いは、やはりセッティングされたストーンにある。ひとつは46個のバゲットカットエメラルド(合計約0.95ct)、もうひとつは46個のバゲットカットブルーサファイア(合計約1.36ct)を配している。そして今回加わったローズゴールドモデルはアップデートが施され、サファイアモデルと同数・同カラットのルビーをセットした仕様となった。なお、3モデルすべてに約42時間のパワーリザーブが備わる。
重要なパートナーをSNSに“ソフトローンチ”する投稿のように、今回の新作もまずは写真という形で静かにお披露目された。もちろん、私たちの読者の多くがレッドカーペットでのウォッチスポッティングに少々食傷気味なのは理解している。結局のところ、これはブランド側が仕掛ける商業的なゲームであり、ときにはやりすぎに感じられることもある。しかし、それでも巧みに展開しているブランドは、決して無計画にこれを行っているわけではない。
メットガラに登場した、俳優のティリク・ウィザーズ(Tyriq Withers)氏。Photo by Theo Wargo/FilmMagic via Getty Images, courtesy Jaeger-LeCoultre.
今回に関して言えば、ジャガー・ルクルトは非常に巧みだった。WGの2モデルを、メットガラに出席した俳優のティリク・ウィザーズ氏とフィン・ウルフハード(Finn Wolfhard)氏に着用させたのである。(ファッションにそこまで詳しくない私の目から見ても)それぞれの装いに自然になじんでいた。そしてブランドにとっても、Watches and Wonders後の新作を、わざわざ各メディアに売り込むことなく自然にローンチできる絶好の機会となった。実際のところ、これらのモデルを見せてほしいと頼んだのは私のほうだったのである。
メットガラに登場したフィン・ウルフハード氏。Photo by Lexie Moreland/WWD via Getty Images, courtesy Jaeger-LeCoultre.
PRチームはスタイリストと連携し、メットガラのようなイベントでタレントがどんな装いをするのかを事前に把握したうえで、それに合う時計を提案していく。もちろん、その時計はほかのブランドの候補と比較検討されることになる。そこにはスタイリストやタレント本人への報酬が発生することもあり、ときにはかなり高額になる場合もある。となれば、あるブランドがほかの倍のギャランティを提示したり、時計そのものを提供したりすれば必ずしも公平な勝負とは言えない。またブランドアンバサダー契約によって着用が決まっているケースもある。PR担当者はさらに、時計がしっかり写るよう事前にフォトグラファーへ働きかけも行う。かなり“作られている”と感じる場面もあるし、おそらくそういうケースのほうが多い。それでも、ときには実にうまくハマることがあるのだ。
もちろん、熱心な時計愛好家たちが、レッドカーペットで誰かが着けていたからという理由だけで時計を欲しくなるわけではない。だが現実には、そうした愛好家層はブランド全体から見ればごく一部だ。ブランドが本当に取り込みたいのは、より広い一般消費者層なのだ。そう考えると、広告予算の一部をウォール・ストリート・ジャーナルへの紙面広告ではなく、プロダクトプレイスメント(広告手法のひとつ)に使うべきかと言われれば、私はそれを責める気にはなれない。こうしたプロモーションは、“我々”のためのものではないのかもしれない。だが、それによって製品そのものの魅力が損なわれるわけでもない。では実際に効果はあるのか? ジャガー・ルクルトの担当者たちは、あると断言していた。ブランド関係者のひとりによれば、メットガラ翌日には、あるティーンエイジャーがブティックを訪れてレベルソを試着したいと申し出たという。TikTokでその時計を見て興味を持ったそうだ。もちろん、まだ購入客ではない(少なくとも現時点では)。しかし、そうした露出こそが、長期的にブランドの存在を人々の記憶へ植え付けていくのである。
その長期的な視点は製品そのものにも表れている。WG製のミラネーゼブレスレットは、いま市場に存在するもののなかでも屈指の装着感を誇る。たしかに重量感はある。しかし、ゴールド特有のあたたかみがそれを心地よさへと変えているのだ。しかもこのブレスレットの製造は決して容易ではない。先週話を聞いたCEO、ジェローム・ランベール(Jérôme Lambert)氏によれば、時計価格のかなりの部分を、このミラネーゼブレスレット自体が占めているという(一般的な量産品よりも繊細で、テーパーも美しく仕上げられているからだ)。仮にこれをステンレススティールで製造した場合、コストは天文学的な水準に跳ね上がり、おそらく誰も買わない価格帯になってしまうだろうとランベール氏は示唆していた。私見では、プラチナで製造するとなれば、ほとんど不可能に近いはずだ。そう考えると、WGはまさに理想的な選択肢と言える。そして、このWG仕様は“Cocktail”モデルだけに留まらない。ストーンセッティングを省いたWG製“Or Deco”も近く登場予定であり、さらに小型化したPGモデル(40×24.4mm、厚さ7.56mm)も控えている。
ジャガー・ルクルトとしては、このモデルを“Cocktail”ウォッチとして成立させている要素が、ストーンセッティングにあるという考えなのだろう。もし細かく言うなら、この点に関してだけは私の感覚と少しズレがある。もちろん、私はこうしたストーン使いが嫌いではない。節度ある華やかさに惹かれるタイプだということは、いまさら隠すまでもないだろう。ケースの曲線に沿ってストーンが流れるように配されている点も実に美しい。ただ、個人的にはもう一歩踏み込んでもよかったのではないかと思っている。たとえばケース背面側まで回り込ませるとか、あるいはダイヤルを囲うようなセッティングにするとかだ。というのも、私のなかにある“カクテルウォッチ”の定義とは、意図的でありながらも洗練された華美さを備えた時計だからである。そして、それはジャガー・ルクルトが長年得意としてきた表現でもある。今回のモデルを、以下に挙げる過去の作例と見比べてみると、その違いはよりはっきり感じられるはずだ。
リシュモン傘下の姉妹ブランドは、この分野ですでにかなり高い水準を築いている。ヴァシュロン・コンスタンタンのレ・キャビノティエプログラムでは、ムーブメントの複雑機構にもメティエダール装飾にも上限を設けず、完全な一点物を製作している。またカルティエが復活させたNSOプログラムも同様に、既存デザインに縛られないきわめてハイエンドなビスポークピースのみを手がけるようになった。その流れで考えるなら、ジャガー・ルクルトもより装飾性を突き詰めた本格的なカクテルウォッチへ踏み込んでいくべきではないだろうか。装飾を施したケース、凝ったブレスレット、そうしたすべてを含めてである。実際、そのための基盤はすでに存在している。ブランドにはメティエ・ラール®工房があり、特定モデルに採用されているエナメルケースバックのようなメティエダールプロジェクトで手一杯になっている可能性はあるものの、技術力そのものは備わっている。実際、あの見事なレベルソ・シークレット・ネックレスも生み出しているし、キャリバー101 シークレットも、私が思い描く方向性に近い実に素晴らしい作品だった。率直に言って、私はこうしたモデルをもっと見てみたい。
レベルソ・シークレット・ネックレス。Photo courtesy Jaeger-LeCoultre
Drawing courtesy Jaeger-LeCoultre
いくつか気になる部分はあるものの、それでも私はこの時計を魅力的な1本だと感じている。なにより、今後のレベルソ・トリビュートコレクションの方向性を示すモデルになっているからだ。特に、ストーンセッティングを省いたWGモデルが控えているというのは歓迎すべきニュースである。一方でいくつかの情報筋によれば、これらのモデルの予想価格は約9万5000ドル(日本円で約1500万円前後)とされており、オリジナルモデルから大幅な価格上昇となる見込みだ。ただし各仕様30本限定ということを考えれば、行き先がすべて決まる可能性はかなり高いだろう。その先にどんな展開が待っているのか、いまから楽しみでならない。
詳しくはジャガー・ルクルト公式サイトをご覧ください。
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