trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Breaking News F.P.ジュルヌ クロノメーター・レゾナンス スースクリプションが日本円で約22億円を達成―史上5番目に高価な腕時計に

ニューヨークで開催されたフィリップスのオークション、レゾナンスのオークション履歴、そしてそれらが市場にとって何を意味するのかを見ていこう。


ADVERTISEMENT

それは必然だった。フランシス・フォード・コッポラ氏所有のF.P.ジュルヌ “FFC”がニューヨークで開催されたフィリップスのオークションで1075万ドル5000ドル(同ブランド史上最高額/編注;オークション開催時のレートで約16億7000万円)で落札されたものの、パテック フィリップやロレックスが支配する歴史的な記録リストにF.P.ジュルヌの時計が惜しくも加わらなかったわずか6カ月後、F.P.ジュルヌがついにその高みに到達した。フランソワ=ポール・ジュルヌ氏が自らの手で製作し、市場がその時計を歴史的な存在へと押し上げた。その落札によって、週末に開催されたフィリップスの米国セール総額は7580万ドル(日本円で約120億円)という記録的な額に達した。

 今回で、F.P.ジュルヌ クロノメーター・レゾナンス スースクリプション no.007は史上5番目に高額落札された腕時計となり、チャリティオークションを除けば史上3番目の高額落札記録を持つ時計となった。おそらく F.P.ジュルヌを象徴する最も重要なモデルと言えるクロノメーター・レゾナンスだが、そのなかでも6月13日(土)のオークションに登場したこの個体はさまざまな要素が重なり合ったことで、何としてでも“手に入れるべき1本”と入札者たちに映ったのだろう。その価格はなんと1400万ドル(日本円で約22億円)近くにもなる。ある意味では、この結果は、市場が劇的に変化したことを象徴する締めくくりのようにも映る。この1年足らずで、F.P.ジュルヌはそれまで市場を牽引してきたほかの人気ブランドやリファレンスをしのぐほど、熱い視線を集める存在となった。市場全体の勢いも依然としてきわめて力強く、ニューヨーク、ジュネーブ、香港のオークションでも数々の驚くべき結果を残した。

5004

 ついでに触れておくと、パテック フィリップ Ref.5004はいまや500万ドル(日本円で約8億円)級の時計となったのだ。今回の落札価格は、これまでのチャリティオークション以外の記録(マイケル・オーヴィッツ氏が所有していたプラチナ製のRef.5004が昨年11月に1168万4000香港ドル/当時のレートで約2億3000万円で落札された)を大きく上回るだけでなく、OnlyWatchのRef.5004T(2013年に約400万ドル/当時のレートで約3億9500万円で売却)をも凌駕している。また市場初登場のサテン仕上げのケースを備えたピンクゴールド製のパテック フィリップ Ref.1518は、400万ドル(手数料込み/落札日のレートで約6億4000万円)まであとわずか8000ドル(日本円で約130万円)だった。


F.P.ジュルヌ クロノメーター・レゾナンス スースクリプション no.007、そして1392万2000ドル(日本円で約22億円)で落札された理由

 クロノメーター・レゾナンス スースクリプションは、F.P.ジュルヌを象徴するモデルのなかでも、最初期に製作された個体のひとつである。それぞれ独立したテンプを備えるふたつのムーブメントをひとつのケースに収め、それらを完全に同期させている。この共振(レゾナンス)の概念自体は何世紀も前から存在したものだが、ジュルヌは1998年のプロトタイプで初めて腕時計へ応用し、2000年には市販モデルとして取り入れた。“スースクリプション”シリーズとして製作された20本は、フランソワ-ポール・ジュルヌ氏が初めて手がけた腕時計(トゥールビヨン)の最初の20人の購入者に向けて用意された特別なモデルだった。しかし少し複雑な話になるが、この20本は実際にはジュルヌが最初に製作したレゾナンスではなく(デザイン、フォント、そのほかの美学を改良する過程でプレ・スースクリプションと呼ばれる試作的な個体が先に製作されていた)、スースクリプションのシリアル番号も、必ずしも製作順を反映しているわけではない。

 初期からフランソワ-ポール・ジュルヌ氏を支持してきた愛好家たちは、彼がほぼ一貫して追い求めてきた精度への飽くなき探求、そして時計史に名を刻む偉大な時計師たちの系譜を受け継ぐ存在であることに強く魅了されていた。そして彼らは25年以上にわたるジュルヌのキャリアの大部分において、市場が彼をあまり評価していなかった時代にも、彼の時計を執拗なまでに追い求め続けた。市場の逆風にも決して動じることなく、自分たちほどの熱量を持たない人々に対しては、半ば信じられないという態度さえ見せるほどだった。レゾナンスは、そうした歩みを象徴する存在でもあった。

 F.P.ジュルヌのコレクターたちは以前からこのモデルを高く評価してきたが、クロノメーター・レゾナンスが市場で本格的に注目されるようになったのはごく最近のことのように思える。もっとも、あとから振り返ればすべてがはっきりとわかる。2020年、スースクリプションが250万ドル(当時のレートで約2億7680万円)で落札されたことは大きなニュースとなった。その5年前には、ベンでさえ、ジュルヌがオークション市場でどこまで評価されるかについて確信を持てずにいた。さらに11年前、ベンは“オークションシーズンで最も驚いた結果のひとつ”として、“ピサ”限定エディションのレゾナンスが11万4000ドル(当時のレートで約1300万円)で落札されたことを取り上げ、こう記している。「新品のレゾナンスの定価は8万ドル(当時のレートで約900万円)台だが、2次流通市場では製造年代や仕様にもよるものの、おおむね4万ドル台後半から6万ドル(当時のレートで約480万~700万円)台前半で購入できる。この落札価格は、おそらくレゾナンスとしてはオークション史上最高額だろう。この時計がきわめて美しいことは間違いないが、ここまで力強い結果になるとは誰も予想していなかったはずだ」。当時の最高落札額は、市場の外から見れば十分に妥当な水準に映っていたかもしれないが、彼らはこれから起こることを見誤っていた。

Souscription Resonance no. 002

2025年11月に430万ドル(当時のレートで約6億5700万円)で落札された、クロノメーター・レゾナンス スースクリプション no.002

 もちろん2021年にはスースクリプション no.001が(ほかの初代スースクリプションシリーズとともに)出品され、390万2000スイスフラン(当時のレートで約4億7700万円)で落札されている。この価格は、歴史的な重要性を考えれば納得できる部分もあったが、それでも目を疑うような金額だった。2025年11月にジュネーブで開催されたフィリップスで約430万ドル(当時のレートで約6億5700万円)で落札されたスースクリプション no.002は、no.001と比べれば伸び幅は控えめにも見えるが、この個体はno.001ほど希少な仕様ではなかった(そしてシリーズを象徴する“1”という特別な番号も持っていなかった)。

 さらにその翌月、12月には、2006年にシンガポールの小売業者シンシアー(Sincere)向けに製作されたピンクゴールド製ケースにブラックのマザー・オブ・パールダイヤルを組み合わせたレゾナンスが、ニューヨークのフィリップスで369万ドル(当時のレートで約5億7000万円)で落札された。私の知るあるコレクターは、その個体を数カ月前に130万ドル(当時のレートで約2億1000万円)で購入できる機会があったにもかかわらず、見送っている。そしてジュネーブで開催されたフィリップスの春季オークションでは、イタリアの小売業者ピサ向けに製作されたクロノメーター・レゾナンスが300万ドル(当時のレートで約4億7000万円)で落札された。これは2015年の落札価格と比べて約26倍という驚異的なリターンにあたる。だがそれはまだ始まりに過ぎなかった。

 スースクリプションシリーズのうち、5本はローズゴールドとプラチナのツートンケースに収められている。そのうち3本はシルバーダイヤル(スースクリプション no.001など)、2本はローズゴールドダイヤル(写真参照)だ。シルバーダイヤル仕様の3本のうちの1本であるスースクリプション no.18は、5月にジュネーブで開催されたフィリップスのオークションで629万ドル(当時のレートで約9億8000万円)で落札された。しかしフランソワ-ポール・ジュルヌ氏自身は、スースクリプションシリーズのなかで最も気に入っている意匠として、このローズゴールドダイヤルを挙げている。彼自身がもう1本を所有しており、それは近日開館予定のミュージアムに収蔵される予定だ。つまり市場で入手できるジュルヌ氏のお気に入りの仕様は、この1本しか存在しないのである。

Resonance

Photo courtesy Phillips

 6月13日の土曜日、多数の入札者が“100万ドル(日本円で約1億6000万円)超”と見積もられていたスースクリプション no.007の価格を、あっという間に7桁台半ばから8桁台前半まで押し上げ、最終的にそれは総額1390万ドル強(日本円で約22億円)で落札された。フィリップスの副会長兼アメリカ地域責任者のポール・ブトロス氏は、市場はジュルヌ氏のこの時計に対する個人的な情熱と、この個体を入手できる“一世代に一度”の機会の両方を認識していると語った。

Chronomètre à Résonance for Italian retailer Pisa

クロノメーター・レゾナンス “スースクリプション no.18”。Photo courtesy of Phillips

 5月のオークション前にクロノメーター・レゾナンス スースクリプション no.18を手に取る機会はなかったが、写真で見る限りでは、私はこちらのほうが好みだった。美しい経年変化を遂げたシルバーダイヤルには実に清々しい魅力があり、光の当たり方によって温かみのあるパティーナが見られた。そしてニューヨークでのオークション前日に、ようやくスースクリプション no.007を実際に手に取ることができた。それは思わず息をのむような圧倒的な重厚さと、不思議なほど柔らかな印象を併せ持つ時計だった。

Chronomètre à Résonance "Souscription No. 007"

 経年変化で飴色に変化したインダイヤル、中央の明るいシルバーのギヨシェ彫り、ローズゴールド調のダイヤル、そして驚くほど白く輝く真鍮製ムーブメントはコレクターが初期のF.P.ジュルヌを思い浮かべるときに想像するすべてを体現している。実物も写真で見た印象と同じく、ダイヤルに強いコントラストはないが、それがかえって少しぼんやりとして神秘的な印象を与え、手仕事によるアンティークのようだ(時計自体はそうではない)。ブランドロゴやダイヤル外周にはパティーナと使用による風合いが柔らかなオーラを漂わせている。この魅力的な不完全さは、同じオークションでサテン仕上げを施したローズゴールド製のパテック フィリップ Ref.1518を手にしたときの感覚にも通じるものがあった。少し離れて眺めても、手首に載せても、そして実際に手に取っても特別な感覚を覚える。しかし不思議と、7カ月で2度目となる世界で最も高価な腕時計のひとつを手にしているという感覚はなかった。

Chronomètre à Résonance "Souscription No. 007"

 確かな実績があり、その“理由”も比較的単純だ。ジュルヌ氏が「これこそが最高傑作だ。これは手放さない」と言っているのだから、人々がこの作品を欲しがるのも当然だろう。しかしここ1、2年でコレクター層は確実に拡大しており、新たな著名な億万長者がこの市場に参入している。フィリップスや私が話を聞いたディーラーによると、現代アート市場から時計市場へと関心を移す買い手も増えているという。

 「高級時計の収集は、美術品コレクターを引きつけています」とポール・ブトロス氏は語る。「彼らは、今なお存命である製作者の名前がダイヤルに刻まれた作品を所有するというコンセプトに魅力を感じています。ですからそういう意味で、コレクターは異なる分野を横断するようになってきていると思います。もちろん、これはある程度知識のある層をターゲットにしたモデルケースですが、人々はすぐにレゾナンスが並外れた存在だと理解するでしょう」

 今回のオークションで最大の焦点は、“入札者たちはどこまで資金を出せるのか”ということだった。その答えは、少なくとも私の予想を大きく上回るものだった。この時計は比較的深い理解を必要とするものであるが、それこそがこれほど高額な結果を導いた。推測するに、時計の世界に初めて足を踏み入れる人が、最初や2回目、3回目の購入で1400万ドル(日本円で約22億円)近くも払うとは考えにくい。むしろスースクリプション no.007を手に入れたのは、トップクラスのコレクターのなかでもとりわけ豊富な資金力を持つ人物ではないかと思う。ジュルヌに関する深い知識を備えたうえで、かつてのように重要なジュルヌを安価に手に入れられた時代はとうに過ぎ去ったという現実を受け入れ、その価値観を更新する覚悟と資金力を備えていた人物だったのだろう。


ほかのジュルヌ愛好家もこの波に乗って大きな成果を上げた

 ジュルヌの話に入る前に、ニューヨークで開催されたフィリップスのオークションで、ほかの独立時計師たちの作品が驚くほど(もしかしたら意外なほど)好調な結果を残したことを強調しておきたい。なかでもカリ・ヴティライネンが手がけたものはすべてが黄金に変わる勢いで、彼の名前が入った時計はすべて100万ドル(日本円で約1億6000万円)以上で落札された。序盤に登場したプラチナ製のヴティライネン ヴァントゥイット(Vingt-8) インバースは、111万ドル(日本円で約1億7800万円)で落札され、会場を大いに驚かせたが、そのインパクトさえ、F.P.ジュルヌの記録が樹立されるころにはほとんど忘れ去られていた。カリ・ヴティライネンが所有していた(少なくともそう思われている)ウルバン・ヤーゲンセンのトゥールビヨンとミニッツリピーター搭載のプロトタイプは104万1000ドル(日本円で約1億6700万円)で落札された。2日目にはヴティライネン オブセルヴァトワール(Observatoire)が104万1400ドル(日本円で約1億6700万円)、マスターピース クロノグラフ IIが184万1500ドル(日本円で約2億9600万円)で落札。市場初登場のロジャー・スミス Ref.3を売却してわずか1カ月あまり後、フィリップスは再びRef.3を出品し、前回の記録を更新。2本目のRef.3は約120万ドル(日本円で約1億9000万円)で落札された。私はその場にいたが、会場全体が“もっと上がれ”と応援しているような空気さえ感じられた。それは多くの人がロジャー・スミスを時計師としてだけでなく、ひとりの人物としても心から敬愛していることの表れだったように思う。

Roger Smith

Photo courtesy Phillips

 フィリップスに出品された17本のF.P.ジュルヌも、その大半が市場の熱気に乗るかたちで高額落札となった。38mmのオクタ・クロノグラフは71万1200ドル(日本円で約1億1400万円)、36mmの真鍮製ムーブメントを備えたオクタ・ディヴィーヌは53万3400ドル(日本円で約8500万円)、さらにダイヤモンドをあしらった40mmでプラチナ製のエレガントは35万5600ドル(日本円で約5700万円)で落札された。なかでも、とりわけ驚かされたのがT30で、落札価格は200万ドル(日本円で約3億2000万円)を超えた。率直に言って、1年半以上かけて完売した製造本数99本(きわめて多い本数)の時計としては、この価格は少々信じ難い。しかもわずか1年前には89万ドル(日本円で約1億4000万円)、2年前には35万ドル(日本円で約5600万円)ほどで取引されていた時計だ。だがこれらの結果は、まだオークション初日の出来事にすぎなかった。

 2日目も勢いは衰えず、オクタ オートマティック・リュヌ “ナクレ”が48万2600ドル(日本円で約7700万円)で落札され、その3ロット後には、オクタ・クロノグラフ “スイス・ファイン・タイミング(Swiss Fine Timing)エディション(かつては特別仕様のなかでも比較的人気が伸び悩んでいた)”が手数料込みで200万ドル(日本円で約3億2000万円)の大台を突破した。しかし私が最も衝撃を受けたのは、スイス・ファイン・タイミングのクロノメーター・スヴランだった。10万~20万ドル(日本円で約1600万~3200万円)の推定落札価格に対し、入札開始価格はなんと50万ドル(日本円で約8000万円)だったのだ。

CS

これが約200万ドル(日本円で約3億2000万円)相当のクロノメーター・スヴランの外観だ。Photo courtesy Phillips

 競りが終わってみると、最終落札価格は手数料込みで196万8500ドルに達していた。世界限定8本の時計にこの価格が付いたことは、(私の正直な意見では)理屈では説明しきれない。この時計に100万ドル以上を費やす人が8人もいるのだろうか? とはいえこの結果によって、それまでクロノメーター・スヴランの最高落札記録だったフランソワ-ポール・ジュルヌ氏がジョージ・ダニエルズ氏に贈った個体の148万2000ドル(日本円で約2億3800万円)を更新した。もっとも、その驚きも次のロットによってあっという間にかき消されることになる。続いて登場したのは、世界限定5本のうちno.1となるトゥールビヨン・スヴラン・アニバーサリー “香港”だった。チタンケースにルテニウムダイヤルを組み合わせたきわめて魅力的な1本だが、その魅力は435万5000ドル(日本円で約7億円)という落札価格にも表れていた。要するに、この週末のフィリップスは、記録づくめの慌ただしいオークションとなったのである。


記録の現状、その意味、そして市場予測

 時計収集は記録を破ることが目的ではないが、それでも良くも悪くも、新たな記録が生まれるたびに市場の関心は確実に高まる。今週初め、スースクリプション no.007の出品者は創業当初からF.P.ジュルヌの時計を購入してきた身として、その価格が急騰していることに驚きを隠せないと語った。私を含め、こうした価格が現実離れしているのではないかと疑問に思う人もいる。しかし購入者たちはそうは思っていないようだ。

Paul Newman's Paul Newman

ポール・ニューマンのロレックス “ポール・ニューマン” デイトナは、チャリティ目的ではない時計としては史上最高額の記録を今も保持している。Photo by Hodinkee

 2017年に記録されたロレックス ポール・ニューマン デイトナの最高落札額を更新することは、ほんの数年前までは到底不可能に思われていた。しかし今では、それはもはや時間の問題とさえ受け止められている。この1年で、コレクターズウォッチ市場の頂点に位置する時計たちはさらに一段上のステージへと到達した。こうした結果は市場全体にも波及効果をもたらしており、とりわけこの1年のF.P.ジュルヌは機械式以外のモデルを含め、新たな高みに達した。またこの12カ月間に誕生した記録破りの結果が過去数年間よりも多く見られ、これは市場で活動する人々の全体的な変化を示唆している可能性がある。その考察に入る前に、まずは市場で実際に何が起きているのかを見ていこう。

FFC's FFC

フランシス・フォード・コッポラのFFC。

 フランシス・フォード・コッポラのFFCが最近記録的な価格で落札されたことに加え、昨年秋にはステンレススティール(SS)製のパテック フィリップ Ref.1518が手数料込みで1420万スイスフラン(当時のレートで約27億1100万円)で落札された(2016年の1100万スイスフラン/当時のレートで12億2000万円から大幅に更新)。この結果は、いわば歴代高額落札ランキングにおける“ドミノ倒し”の始まりとなった。この落札により、モハメド・テューフィック王子のピンク・オン・ピンクのRef.1518(2021年に957万ドル/当時のレートで約11億5000万円で落札)はトップ5から外れた。5年前、テューフィック王子の時計(ピンク・オン・ピンクのRef.1518のなかで最高峰と評された)の落札価格は、ほとんど信じがたいほどだった。今では、その記録は次々と塗り替えられている。

Patek 1518 steel

2025年11月にフィリップスで落札された、記録破りのSS製パテック フィリップ Ref.1518。

 さらにジュネーブで開催されたフィリップスのオークションでは、5月にクロワゾネエナメルダイヤルを備えたパテック フィリップ Ref.2523が796万1000スイスフラン(当時のレートで約16億円)で落札され、このリファレンス史上最高額を更新した。続く春の香港オークションでも印象的な結果を残し、第1世代のピンクゴールド製のRef.2499は約1025万5000ドル(当時のレートで約16億3000万円)で落札され、アジアで落札された腕時計として史上最高額を記録するとともに、このリファレンスの新たな世界記録も樹立した。現在の高額落札ランキングは、以下のとおりである。

  1. パテック フィリップ グランドマスター・チャイム Ref.6300A-010: クリスティーズ(ジュネーブ)― 2019年11月9日―3100万スイスフラン(当時のレートで約34億円)
  2. ロレックス デイトナ “ポール・ニューマン” Ref.6239: フィリップス(ニューヨーク)―2017年10月26日―1775万ドル(当時のレートで約20億円)
  3. パテック フィリップ Ref.6301A Only Watch―2024年5月10日―1570万スイスフラン(当時のレートで約26億9800万円)
  4. パテック フィリップ Ref.1518(SS製): フィリップス(ジュネーブ)―2025年11月8日―1420万スイスフラン(当時のレートで約27億1100万円)
  5. F.P.ジュルヌ クロノメーター・レゾナンス スースクリプション no.007: フィリップス(ニューヨーク)―2026年6月13日―1392万2000ドル(日本円で約22億円)

補足: チャリティ目的のOnly Watchで販売された

Patek 2523

ローズゴールド製のパテック フィリップ Ref.2523、ゴッビ・ミラノのサイン入り。2019年、アジアで販売された時計としては史上最高額となる900万ドル(当時のレートで約9億8000万円)弱で記録を樹立した。写真はシンガポールでオーナーの手首に装着されている様子。

 しかしチャリティオークションに出品された時計(多くのコレクターがそうしているように、売却益は寄付として計上できる)を除外すると、その顔ぶれはさらに歴史的意義の大きい、きわめて重要な作品へと絞られる。そして同時に、次々と最高額の記録を打ち立てているF.P.ジュルヌが近年の市場でいかに大きな影響力を持っているかを証明している。

  1. ロレックス デイトナ “ポール・ニューマン” Ref.6239: フィリップス(ニューヨーク)―2017年10月26日―1775万ドル(当時のレートで約20億円)
  2. パテック フィリップ Ref.1518(SS製): フィリップス(ジュネーブ)―2025年11月8日―1420万スイスフラン(当時のレートで約27億1100万円)
  3. F.P.ジュルヌ クロノメーター・レゾナンス スースクリプション no.007: フィリップス(ニューヨーク)―2026年6月13日―1392万2000ドル(日本円で約22億円)
  4. パテック フィリップ Ref.1518(SS製): フィリップス(ジュネーブ)―2016年11月12日―1100万スイスフラン(当時のレートで12億2000万円)
  5. フランシス・フォード・コッポラ氏のF.P.ジュルヌ “FFC”: フィリップス(ニューヨーク)―2025年12月6日―1075万5000ドル(当時のレートで約16億7000万円)
  6. パテック フィリップ Ref.2499(第1世代、ピンクゴールド製): フィリップス(香港)―2026年5月29日―約1025万5000ドル(当時のレートで約16億3000万円)
  7. パテック フィリップ Ref.2523(南米大陸クロワゾネダイヤル): フィリップス(ジュネーブ)―2026年5月9日―796万1000スイスフラン(当時のレートで約16億円)
  8. パテック フィリップ Ref.1518(モハメド・テューフィック王子のピンク・オン・ピンク): サザビーズ(ニューヨーク)―2021年12月9日―957万ドル(当時のレートで約10億8000万円)
  9. パテック フィリップ Ref.2523(ローズゴールド製、ゴッビ・ミラノのサイン入り): クリスティーズ(香港)―2019年11月27日―896万7000ドル(当時のレートで約9億8000万円)
  10. パテック フィリップ Ref.2523(ユーラシア大陸クロワゾネダイヤル): フィリップス(ジュネーブ)―2021年5月8日―768万2000ドル(当時のレートで約8億3000万円)

 注目すべき点はいくつかある。まずチャリティオークションを除いた歴代落札記録トップ10のうち、5本がここ約217日間(多少の前後はあるが)のあいだに記録されたということだ。つまりこの7カ月間は驚異的な落札結果が続いたことになる。レミー・ジュリア・ブトロス(Remy Julia Boutros)氏とクロノメーター・レゾナンス スースクリプション no.007の出品者は、これらの落札結果にはコレクションと市場のふたつの異なる見方があると私に語った。出品者は特に、オークション市場を金融市場と同じように、“市場”として見ていると私に話した。

 この約217日間、世界の金融市場では、ハイテク主導の歴史的な強気相場が続く一方で、インフレへの懸念や、中東の緊張による大規模な地政学的変化にも直面してきた。S&P 500は年初来で約12.3%上昇し、過去最高値を更新したが、企業績予想の大幅な下方修正を受けて、市場には多少の変動やセクターローテーションが見られた。しかしこれは当然ながら、金融市場とハイテクセクターが主要な要因として挙げられる。ホルムズ海峡が開いているか閉じているか、あるいは特定の日にイランが爆撃されるかどうかを知る洞察力があれば、時計でもっと多くの利益を上げることができるだろう。

 「市場は長年収集してきたコレクターの枠を超えて成長しているが、昔からのコレクターのなかには今も収集を続けている人もいます」とブトロス氏は語る。「市場は人々が想像するよりも大きいのです。ですから、10年以上収集を続けている既存のコレクターも今なお収集を続けていますし、新しいコレクターもいます。そしてもちろん、長年収集を続けてきたコレクターのなかには様子見に徹している層もいます」

Journe

 フィリップスの会場やオンライン上のコレクターのあいだでは、スペースXのIPOが世界初の兆万長者を生み出しただけでなく、“スペースX株を保有していた多くの時計購入希望者の懐に大量の現金を注ぎ込んだ可能性がある”というのがちょっとしたジョークになっている。もしかしたらマスク氏自身がマーク・ザッカーバーグ氏を抜いて、世界で最も著名な億万長者(あるいは兆万長者)の時計コレクターになろうとしているのかもしれない。それが真実かどうかはまだわからないが、今週末は多くの人が、かなり高額な時計を購入したがっていたのは確かだ。

 そして歴代高額落札ランキングの上位7件が、すべてフィリップスによるものであることにお気づきかもしれない。フィリップスは、こうした記録破りの時計の分野で確固たる地位を築いているようだ。だがサザビーズやクリスティーズが再び上位に食い込めないという意味では全くない。実際、“トップセールス”に懐中時計を含めると、サザビーズは“ラ・グロス ピエス”を773万6000ドル(当時のレートで約12億1200万円)で売却し、ユーラシア大陸クロワゾネダイヤルを備えたパテック フィリップ Ref.2523を上回った(しかしヘンリー・グレーブス Jr.のパテック フィリップ スーパーコンプリケーションに抜かれて再びトップ10圏外となった)。だが今回のようなオークション結果はフィリップスに大きな追い風をもたらし、少なくとも今後F.P.ジュルヌ作品を売却する際には、売り手はまずフィリップスにアプローチするだろうと思う。


最後に

 この6月のオークションでは、F.P.ジュルヌ以外にも注目すべき結果がいくつかあったが、現在起こっている“ジュルヌ・ブーム”に関しては、ひとつの記録が次の記録を呼び、市場が自らを膨らませ続け、やがて多くの人が手の届かない価格帯へと押し上げられてしまうというウロボロス現象を想定せざるを得ない。F.P.ジュルヌの新規コレクター、特にテクノロジー業界の富裕層をはじめとする、ブランドとの長い付き合いがないその他富裕層のあいだでは、記録的な成長(およびそれに関する見出し)を“買え、買え、買え”という市場からの強力なシグナルとして捉え、“株価は上がる一方だ”というミームの期待を抱いている人が多いだろう。しかし昨年10月に12万5000ドル(当時のレートで約1900万円)のピークに達したビットコインで見たように、上がったものは必ず下がる。ビットコインは1週間前に6万ドル(日本円で約970万円)を下回った。ポール・ブトロス氏でさえ、売り手に期待を抑えるよう促している。

 「だからこそ、私たちは控えめな推定落札価格を設定しているのです」と、ブトロス氏は語る。「市場が今後どう動くかは、誰にもわかりません。ですから次のオークションシーズンでも、私たちはこれまでどおり、引き続き保守的な推定落札価格を設定します。期待値を人為的にあおるようなことはしたくありません。できる限り現実的な期待値を保つよう努めますが、市場は市場です。その動きは私たちの誰にもコントロールできるものではありません」

Journe

 今でも(少なくともフランソワ-ポール・ジュルヌ氏本人を除いた)ブランドで働く人でもほとんど知らないような事柄までを理解している、ブランドの歴史に精通した教養豊かで豊富な資金力を持つコレクターが存在する。コレクターたちと話をしていると、彼らは、私が気づきもしなかったようなごく細かな仕様や背景に価値を見いだし、それを巡って本気で競り合うこともいとわないのだと感じる。実際、私自身はジュルヌ研究家ではないが、そうしたコレクターのなかには、タイミングさえ合えば、今回のスースクリプション no.007のような1本にも迷わず手を伸ばす人がいるのだろう。

 それでも多くの入札者がクロノメーター・レゾナンス スースクリプション no.007(確かに重要な時計だ)の重要性を確信し、その価値を約1400万ドル(日本円で約22億円)まで押し上げ、そしてこれがきわめて重要な1本であることにも異論はない。しかし一方で、“個人が所有するF.P.ジュルヌの腕時計のなかで、最も重要な1本か”と問われれば、答えはおそらく違う。その称号に最もふさわしいのは、フランソワ-ポール・ジュルヌ氏が生涯で2本目に製作した“15/93”だろう。ジュルヌ氏本人は今も1本目を所有しているため、彼が生涯で15番目に完成させた1993年製のその個体は、F.P.ジュルヌというブランドの原点に最も近づける存在と言える。この“15/93”は、2024年にジュネーブで開催されたフィリップスのオークションで732万スイスフラン(当時のレートで約12億7000万円)で落札され、当時は独立時計師による腕時計として史上最高額を記録した。しかし今、その記録は2度も塗り替えられたのだ。

F.P. Journe 15/93

 「もし“15/93”が今市場に出たら、一体いくらになるでしょうか?」。クロノメーター・レゾナンス スースクリプション no.007の出品者は、そう私に問いかけた。同じことは、トゥールビヨン no.01についても言えるだろう。私は「わかりません」と答えたが、「ただ、今夜の友人とのディナーはあなたがごちそうする番でしょうね」と付け加えた。今からどこへ行くのか尋ねると、彼は「ニューヨークピザを1切れ食べに行くよ」と答えた。