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時計界がこれほどまでのオークションシーズンを経験するのは、かなり久しぶりのことだ。いや、率直に言って、これまでになかったことかもしれない。フィリップスは昨秋の結果を上回り、単独セールとして過去最高となる9632万8083ドル(日本円で約151億円)という複数の記録を打ち立てた(彼らの集計によれば43件だが、その多くはかなりニッチなものだ)。オンラインオークションを含めると、史上初めて1億ドル(日本円で約160億円)を突破した。サザビーズは、A.ランゲ&ゾーネの史上最高額記録(懐中時計ではあるが)を更新したが、この記録は、香港オークションで4月末に樹立されたばかりだった。
しかし衝撃的だったのは全体の数字というよりも、どの時計に、どれほどの価格がついたのかだった。一体、何が起きているのだろうか? 我々はずっと見守っていた。遠くから見守る者もいれば、実際に(アンディ・ホフマンのように)オークション会場にいた者もいる。今回は大局的な話だけでなく、5つの具体的な結果に焦点を当て、それが市場にとって何を意味するのかを見ていきたい。
ごく標準的なステンレススティール製アクリヴィア AK-06が今や定価の30倍、380万ドル/日本円で約6億円の時計に
レジェップ・レジェピは、新進気鋭の若手時計師のなかで最も注目されている存在であり、その人気はほかを寄せつけない。これは同世代の時計師たちを貶めるものではなく、むしろ市場の現実を反映したものだ。製造本数がきわめて少ない時計師から時計を買おうと、人々が(信じられないほど)殺到しており、市場に出てくるわずかな個体は天文学的な価格に達している。
参考になるデータポイントは多くない。Everywatchによれば、これまでオークションに登場したアクリヴィア、またはレジェップ・レジェピの時計はわずか12本だ。最近ではクロノメーター コンテンポラン IIの初出品が“約200万ドル(日本円で約3億2000万円)”で落札されたと噂されているが、それ以前の最高額は、2024年にオリジナルのクロノメーター コンテンポランが記録した140万ドル(日本円で約2億2000万円)だった(公平を期すなら、タイムオンリーウォッチとしては高額だ)。アクリヴィアの史上最高額は2024年の120万ドル(日本円で約1億9000万円/AK-01)、そしてAK-06が最後に出品されたのは2023年で、68万ドル(日本円で約1億円)で落札された。ところが今回、そのAK-06が約5.6倍となる価格で落札された。2017年発売時の定価8万3000ドル(日本円で約1300万円)と比べれば、およそ30倍である。
AK-06は、100時間パワーリザーブを備えたきわめて美しく仕上げられた時計だ。また、クロノメーター コンテンポランコレクションよりも着けこなすのが難しく、より個性的な美しさを持っている。しかし人々はレジェップ・レジェピの名がつくものなら何でも手に入れようと躍起になる。レジェピ氏が現在、インディペンデントコレクターのあいだで最も需要の高い時計師であるとしても、率直に言って、この結果は彼のコレクターを含む多くの人々にとって、現実離れしていると感じられるかもしれない。週末にインディペンデントウォッチのコレクターたちと話したが、レジェップ・レジェピの時計を複数所有する彼らは皆、このような価格は5年後、あるいは10年後の市場であればあり得るかもしれないと考えていると語ってくれた。しかし理由はともあれ、ふたりの入札者はこれらの時計にそこまでの魅力を見い出し、持てるチップをすべて投じるように競り合ったのだ。
あるいは、彼らはインディペンデント熱狂に巻き込まれたのかもしれない。大きな結果を残したのはレジェップ・レジェピだけではなかった。現在の“インディペンデントブランドの主役たち”の作品をもっとも多く集めていたのは、実質的にフィリップスだけだった。グルーベル・フォルセイ × フィリップ・デュフォー × ミシェル・ブーランジェによるネソンス ドゥンヌ モントル 1(Naissance d'une Montre 1/現代時計製造における最も印象的な偉業のひとつ)は、165万1000スイスフラン(日本円で約3億3000万円)で落札。パリの若き才能、テオ・オフレが最近発表したタイムオンリーウォッチのプロトタイプは57万1500スイスフラン(日本円で約1億1500万円)という驚くべき価格を記録した。またレデラー(創設者は業界40周年を迎える)も、独自のインヴェルトのプロトタイプを出品し、34万2900スイスフラン(日本円で約6900万円)を達成した。さらに、2006年製のハルディマンのセンタートゥールビヨンも、7万〜14万スイスフラン(日本円で約1400万~2800万円)の予想価格に対して48万2600スイスフラン(日本円で約9700万円)まで競り上がった。
レジェップ・レジェピやフィリップ・デュフォーと並び、この数年インディペンデントウォッチのオークション市場で特別な存在感を放ってきたのがロジャー・スミスだ。フィリップスでは、彼のシリーズ3として初めて市場に登場した個体が71万1200スイスフラン(日本円で約1億4000万円)で落札され、英国高級時計製造への支持が依然として強いことを示した。もっとも、こうした結果の多くは単に時計製造そのものに情熱を持つ人々だけでなく、これらの時計をメーカーから直接入手できなかった(または、何らかの理由で不運だった)人々によるものだと主張することもできるだろう。すでに昔から作品を手にしている“オリジナル世代”のコレクターたちは幸運だった。そして今回は、そうしたコレクターたちがいまどこへ関心を向けているのかを示唆する結果にもなっていた。
ルイ・リチャードとは何者か。なぜ彼の懐中時計は約510万ドルで落札され、そしてなぜ今、懐中時計市場は突如として急騰しているのだろうか?
3つの質問のうち、最も答えやすいのは最後の質問だ。なぜ懐中時計が熱狂的な人気を集めているのか? それは、それに値するからだ。そしてインディペンデントウォッチが現在のような熱狂を生む以前から、きわめて潤沢な資金を持つコレクターたちが流行などお構いなしに、歴史上最も重要な時計学的オブジェを手に入れるために、しばらくのあいだプライベートで競い合ってきたからだ。しかしほかの人々もそれに気づき始め、価格を押し上げ始めている。
Photo courtesy Phillips
では結果を振り返ってみよう。フィリップスでハイライトロットだったパテック フィリップ Ref.2523が記録的な落札を果たしたあと、次に高額で落札されたのはルイ・リチャード(Louis Richard)のトリプル デテント コンスタントフォース ワンミニッツ トゥールビヨン クロノメーター(Triple Detent Constant Force One Minute Tourbillon Chronometer)で、予想落札価格10万~20万スイスフラン(日本円で約2000万~4000万円)に対し、400万スイスフラン(日本円で約8億円)弱で落札された。この時計の名前は、ディープな時計愛好家を喜ばせるあらゆる要素を詰め込んだ“時計好きが喜ぶ要素を詰め込んだような長い名称”のようなものだ。これは静止、インパルス、解放という3つのデテント機構を備えている唯一の時計であり、クロノメーター精度を追求するスイスの時計師によって作られた。時計はシンプルに見えるが、マット仕上げのステンレススティール(SS)製ブリッジによって、ムーブメントにはどこか未来的な雰囲気が漂っている。さらに輪列をロックすることもでき、トゥールビヨンは調整のために簡単に取り外すことができる。このような時計はこれまでになく、おそらく二度と現れないだろう。買い手たちは、これが当分コレクションから出ることはないだろうと理解し、争奪戦が繰り広げられた。
「これらの時計には追い風が吹いています」と、フィリップスのオークショニアであり、バックス&ルッソと提携するフィリップスのシニアコンサルタントであるオーレル・バックス氏は、オークションの傍らで語った。インディペンデントウォッチと懐中時計の価格は、時計史におけるこれらの作品の重要性を理解している洗練されたコレクターによって牽引されている。彼の言うとおりだ。週末を通じて、我々はこうした時計の主要な顧客ふたり(どちらも匿名を希望し、コメントを非公開にすることを望んだ)と話したが、彼らは時計の歴史的・時計学的な重要性を強調した。これは、着用可能な時計を探すコレクターや、より広範な非愛好家コミュニティで、銀行口座のゼロの数を誇示するための時計を探す人々とは対照的だ。
ルイ・オーデマの“ラ・ロワイヤル”。Photo courtesy Phillips
ポール・ディティスハイム “ミニッツデテント エスケープメント トゥールビヨン”(Paul Ditisheim "Minute Detent Escapement Tourbillon")。Photo courtesy Phillips
チャールズ・フロッシャムの“1分間トゥールビヨンを搭載したミニッツリピーター スプリットセコンド クロノグラフ”。Photo courtesy Phillips
だからこそ、素晴らしいルイ・オーデマのラ・ロワイヤル “スーパーコンプリケーション”が、個人のコレクターに250万スイスフラン(と少し/日本円で約5億円)で渡ったのだ。今回はクロノメーターとトゥールビヨンが焦点だったようで、ポール・ディティスハイム(Paul Ditisheim)の時計(こちらも精度追求で知られる人物)は、おそらく歴史上最も精度を追求した時計師による最も高精度な時計のひとつであることに加え、トゥールビヨンケージが20世紀のトゥールビヨン脱進機のゴッドファーザーであるアルバート・ペラトン=ファーブル(Albert Pellaton-Favre)によって作られた可能性が高いという事実から、130万スイスフラン(日本円で約2億6000万円)近くで落札された。チャールズ・フロッシャムの時計も素晴らしい結果を残した。挙げればきりがない。そして、シャルル・ド・ゴール将軍のアガシの懐中時計が146万スイスフラン(日本円で約2億9000万円)でブランド記録を樹立したことは言うまでもない。
Photo courtesy Sotheby's
高騰したのはスイス時計や英国時計だけではない。サザビーズでは、9本のみ製作されたA.ランゲ&ゾーネの懐中時計グランド・コンプリケーションのひとつが158万7007スイスフラン(日本円で約3億2000万円)で落札され、ブランド史上最高額となった。知名度は高くないが、重要なドイツの時計師リチャード・ミクロシュ(Richard Miklosch)氏が製作した、スプリングデテント脱進機とレギュレーターダイヤル(デジタルアワー付き)を備えたユニークなフライング・トゥールビヨン。これは5月9日に小規模なオークションハウス、Cortrieで、予想落札価格2万~4万ユーロ(日本円で約370万~740万円)に対し90万ユーロ(日本円で約1億6000万円)で落札された。ドイツ時計学校(フライング・トゥールビヨンが発明された場所)でカール・ゲイツ(Karl Geitz)によって製作されたスプリングデテント脱進機付きフライング・トゥールビヨン、スクールウォッチでさえ(とはいえきわめて重要で印象的なもので、多くのクロノメトリー賞を獲得した)、35万5000スイスフラン(日本円で約7000万円)で落札された。
カール・ゲイツ “スプリングデテント脱進機付きフライングトゥールビヨン”。Photo courtesy Phillips
ベテランコレクターであり学者でもあるヘルムート・クロット博士は、懐中時計市場は確実に復活したと語る。彼自身、今回高額落札された複数の時計をかつて所有していたという。彼はいくつかのロットに入札し、サザビーズのロット32、A.ランゲ&ゾーネのトリプルコンプリケーションを33万2799スイスフラン(日本円で約6700万円)で落札した。
バックスは、ルイ・リチャードを“スイスの歴史上最も重要なクロノメーター”であり、市場はそれを認識したと語った。さらに彼は懐中時計の市場は大きく変化し、ほんの数年前なら同じ個体も、今回の結果の“ほんの一部”にしかならなかっただろうと指摘した。しかしこれは、一過性ではない大きな変化のように感じられる。
F.P.ジュルヌ クロノメーター・ア・レゾナンス “スースクリプション No. 18”が記録を更新するも、ほかの記録的な結果には不可解な点も
ここ最近オークションに登場したレゾナンスのなかでも、とりわけ魅力的だったかもしれないF.P.ジュルヌのクロノメーター・ア・レゾナンス “スースクリプション No. 18”は、ツートンケースとシルバーダイヤルを備え、487万5500スイスフラン(日本円で約9億8000円)で同リファレンスの記録を更新した。これは、2021年に“スースクリプション No.1”(同じ構成)が記録した価格を90万スイスフラン(日本円で約1億8000万円)上回る。だがF.P.ジュルヌがここまで高騰すること自体、もはや驚きではない。特に2025年にニューヨークのフィリップスで同ブランドが信じられないような結果を達成したあとだとなおさらだ。そのオークションでは、フランシス・フォード・コッポラの個人的なFFCがブランド記録を樹立し、前回のレゾナンスの記録は400万ドル(日本円で約6億3600万円)弱で樹立された。だから、なぜいけないのか? この世界では、240万ドル(日本円で約3億8000万円)の差はたいしたことではないだろう?
同じことは、同じオークションで約160万ドル(日本円で約2億5000万円)で売れたオクタ・クロノグラフ スースクリプションの記録的な価格についても言える。これは、この春フィリップスに出品された真鍮ムーブメントのオクタ・クロノグラフよりも間違いなく重要だが、それでも新たな個体はさらに60万ドル(日本円で約9500万円)高かった。しかしそれだけにクリスティーズのトゥールビヨン・スヴラン Ref.Tが、同リファレンスの以前の記録に及ばなかったのは驚きだが、243万9000スイスフラン(日本円で約4億9000万円)は十分すぎる額だ。フィリップスに出た個体より、ほぼ100万スイスフラン(日本円で約2億円)高かった。
F.P.ジュルヌの市場を理解するのは難しい。フランソワ-ポール・ジュルヌ氏が、ムーブメント数、モデル数、クロノメトリーへの献身、時計史への理解、そして絶大な商業的成功という観点から見て、おそらく存命の偉大な時計師のひとりであることに疑いの余地はない。また彼が長いあいだ市場で過小評価されており、さまざまな人々(ディーラーや企業も同様)が市場を独占しようとしたり、あるいは強制的に作り出そうとしたりしたことも事実だ。今やコレクターたちはこのブランドに熱狂しており、エレガントのような時計が記録的価格で取引されていることが一部の人々には理解できないかもしれないが、その勢いは衰える気配を見せない。
少なくともある購入者によれば、とても価値のある壁掛け時計だ。Photo courtesy Christie's
もし、ジュルヌのクォーツ時計に10万ドル(日本円で約1500万円)超という価格が理解しがたいなら、オクタ・リザーブ・ド・マルシェのように見える単三電池で動く販促用ウォールクロックが20万ドル(日本円で約3000万円)超で落札された事実はもはや説明できないだろう。ジュルヌのコレクターたちが今やブランドに多額の資金を投じているため、価格が一定レベルを下回ることを許容できないのは理解できるが、ブランド製ですらない時計を、その10分の1の価格でさえも購入するということは、もはや論理だけでは説明できない側面もあるということを示している。
しかし今回レゾナンスが記録更新した直後のとどめは、フィリップスが再び他の4つのツートン仕様のスースクリプション作品のひとつを販売すると発表したことだった。今度はローズダイヤルだ。出品されるのはNo.7で、予想価格は100万ドル(日本円で約1億5000万円)超。ジュネーブに出品された個体はシルバーダイヤル仕様であり、3本存在するため、希少性では劣る。それでも市場の関心は強かった。価格を記録的なものに押し上げるにはふたりの入札者が必要であり、ジュネーブのふたりのうちひとりは欲しい時計を手に入れて去った。だが、その時点ではまだローズゴールドダイヤル仕様が間もなく市場へ現れることを知らなかった。しかもそれは2本しか存在せず、もう1本はフランソワ-ポール・ジュルヌ氏本人が所有している。つまり少なくとも当面のあいだ、この時計を手に入れる唯一の機会になるのである。
カルティエ ミステリー トーチュの日本円で約5000万円という結果は、人々がカルティエ市場の謎を解き明かそうとしていることを示唆
プレビューでは取り上げなかったが、オークションできわめて良い結果を出した時計のひとつが、サザビーズの“The Shapes of Cartier”シリーズから出品されたカルティエ ミステリー トーチュだ。この時計は25万6000スイスフラン(日本円で約5000万円)近くで落札された。複数の関係者は、この時計をジャガー・ルクルト製(大部分がジャガー・ルクルト製で、メゾンのために公式にリブランディングされたものか、あるいはあとからスタンプを追加してカルティエ製と見せかけたもの)として一蹴したが、実際にジャガー名義でほぼ同一の個体もいくつか存在している。いずれにせよ、当時のカルティエの腕時計として広く知られる特徴を体現したモデルとは言い難い。それでも一部の顧客にとっては十分に魅力的で説得力のある存在だったようだ。結果は全般的に堅調だった。
Photo courtesy Sotheby's
Photo courtesy Sotheby's
Photo courtesy Sotheby's
カルティエの市場は、依然として足場を固めようとしているようだ。その背景にはサザビーズ香港のオークションでの不可解で驚くべき結果がある。HODINKEEが匿名で取材した複数のコレクターは、記録が次々と更新されたこの結果を、通常の範囲をはるかに超えたもの、あるいは多少好調なオークションでさえ予想し得ないものだと感じていた。記録を更新したカルティエ ロンドンのクラッシュやパリ オーバルを含む一部結果の落札者は、元プロサッカー選手で現在は高級品リセラーに転身した坂本真介氏だったようだ。坂本氏は昨年、ジェーン・バーキンのプロトタイプ “バーキン”を1000万ドル(日本円で約15億9000万円)で購入しており、目をつけたものにはいくらでも支払う覚悟があるようだ。もっとも、彼が時計市場のほかのプレイヤーたちの評価を気にかけているかどうかは定かではない。そして逆に市場側も、彼がこれほど活発に参入したオークションの結果をどう受け止めるべきか、困惑している。
カルティエ パリのクラッシュは38万3000スイスフラン(日本円で約7700万円)で、ブルーの数字を備えたカルティエ ロンドン タンク サントレは15万4000スイスフラン(日本円で約3000万円)で落札された。カルティエ パリ ドライバーは13万スイスフラン(日本円で約2600万円)弱だった。これらはすべて堅実な結果に感じられたが、どのオークションでも好調な日にあり得る結果の範囲内だった。そのため潜在的な混乱や不確実性にもかかわらず、サザビーズでカルティエ ロンドン タンク ノルマルと、フィリップスでブレスレット付きのゴールド製タンク バスキュラントのロットを落札したディーラーのマイク・ヌーボー(Mike Nouveau)氏は、いくつかの注目すべき例外を除いて、オークション市場は全体的に強力だと述べている。
「(カルティエ)クラッシュの価格は上昇し続けています。通常のクラッシュもレアなクラッシュも両方です。価格は上昇の一途をたどっています。言うまでもなく、カルティエの勢いは依然としてきわめて強いですね。パテック フィリップもとても好調で、私も購入するのが難しいほどです。ロイヤル オーク以前の真のヴィンテージオーデマ ピゲも堅調なようで、また言うまでもなく、A.ランゲ&ゾーネとF.P.ジュルヌも急騰し続けています。つまり4桁リファレンスのロレックスを除けば、あらゆるものが値上がりしているように見えます」とヌーボー氏は語る。そういえば……
パテック フィリップ Ref.2523が日本円で約16億円の時計になる一方、ロレックスは失速
F.P.ジュルヌ、インディペンデントブランド、懐中時計の市場が急激かつ大幅な価格高騰(およびボラティリティ発生の可能性)を見せている一方で、4桁価格帯のロレックスからは人気が離れている現状(ミルサブや4桁価格帯のデイトナが、ここ数年ほど著しい上昇傾向を示していないことからも明らかだ)だ。これらを踏まえると、パテック フィリップは依然として理にかなった上昇トレンドを維持する唯一の安全資産であると言えよう。
Photo courtesy Phillips
フィリップスに出品されたパテック フィリップ ワールドタイム Ref.2523は、南米地図が描かれたクロワゾネダイヤルを備えたモデルが唯一市場に出回った個体だった。そしてその結果は予想どおり高額で、796万1000スイスフラン、約1020万ドル(日本円で約16億円)だった。これは電話で入札していた(おそらく顧客と通話中だった)ダヴィデ・パルメジャーニ氏の手に渡った。これにより、チャリティ以外のオークションで売られた腕時計としては史上3番目に高価なものとなり、オークションで売られた腕時計全体では5番目に高価なものとなった。さらにランキングを付け加えるなら、ヴィンテージのパテック フィリップの腕時計としては(SS製のRef.1518に次いで)3番目の高値、またクロノグラフ機能のないヴィンテージ腕時計としては最高額での落札となった。
プレビューでも指摘したとおり、これらのRef.2523のバリエーションは、Ref.2499やRef.1518の最も希少なバリエーションと並び(あるいは凌駕さえする)、ヴィンテージコレクターにとって究極の聖杯だ。これほどの関心を集める可能性があるのは、ほんの少数(アスプレイRef.2499、ローズゴールド製のファーストシリーズ Ref.2499、ムハンマド・アリ・タウフィーク王子のピンク・オン・ピンクのRef.1518など)だけだろう。なぜか? それらは紛れもなく希少でありながら、その重要性が十分に理解できるからだ。
Photo courtesy Christie's
例えば、クリスティーズに出品されたオーデマ ピゲ(AP)のユニークなクッション型クロノグラフを挙げよう。間違いなく、これは長らく市場に出回ったAPの腕時計のなかで、歴史的に最も重要だった。初期のAP製クロノグラフウォッチ3本のうち、現存するのはわずか2本であり、これはそのうちの1本である。もう1本はAPの博物館が所蔵している。213万4000スイスフラン(日本円で約4億3000万円)という落札価格は、APの腕時計としては過去最高額である。フィリップスも5月10日に、Ref.5503のトリプルカレンダー クロノグラフを100万スイスフラン(日本円で約2億円)強で落札した。堅調な結果ではあるが、市場の関心を十分に反映しきれていない状況を示している。
イエローゴールド製のロレックス デイトナ “ポール・ニューマン” Ref.6239は約120万スイスフラン(日本円で約2億4000万円)で落札され、このリファレンスとしては記録更新となった。しかし同オークションに出品されたRef.6241 “ジョン・プレイヤー・スペシャル”は、同仕様における歴代上位11件の価格には及ばなかった。Photo courtesy Sotheby's
重要なパテック フィリップの時計そのものだけでなく、その市場が時を経てどのように成長し、変化してきたかを検索し、研究し、理解し、体系化することができる。最高のRef.1518、Ref.2499、Ref.2523などを探し求め、現在市場に出回っているものが自分の求めるものかどうか、また価格が適正か、あるいは自分に有利な値動きをしているかを判断することができるのだ。そのダイヤルは、ミルサブやポール・ニューマン デイトナのものよりも(より信頼性の高い真贋鑑定のもとで)研究・評価・理解ができる。多くの4桁のロレックスとは異なり、真の希少性がある。しかし一方で、APは買うか買わないかの二者択一を迫る。二度とチャンスは訪れないだろう。そして一部の人々にとっては、それは収集とは感じられないかもしれない。だからといって、APの落札価格が記録を更新したことが重要でないというわけではない。それは単に着実な価値上昇という点において、ヴィンテージのパテック フィリップがいかに安定した価値を持つ存在であることを改めて印象づけたと言える。
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