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「宇宙時代」デザインのすばらしいところは、時代とともに未来的なものからレトロフューチャー的なものへと変化しているところだ。今の時代、未来が『宇宙家族ジェットソン(原題:The Jetsons)』のようになると思っている人はいないだろう。しかし、たとえそれが魅力的でないとしても、1960年代、70年代のデザインには、今振り返って見てもきらりと光るものがある。そして、時計メーカーは今もなお、その美しさと戯れていると思う。
今回紹介するラドーは、その時代を象徴するモデルを現代的に再解釈したものだ。数ヵ月前にこの時計が登場したとき、その姿が1971年に発売されたパテック フィリップのリファレンス3580に似ていることに気づかずにはいられなかった。どちらも縦長のケースで3針、そして幾何学的な形状のインデックスを備えている。一方は正面からほとんど見えないリューズを持ち、もう一方はまったく見えない巻上げ機構をもつ。
ただ、どちらも完全に私の好みというわけではない。私は自他ともに認める70年代ノスタルジーマニアだが、ものごとが次第に『オースティン・パワーズ』のマイク・マイヤーズ的になり、『マホガニー』のダイアナ・ロスから遠ざかるにつれ、自分のスタイルに疑問を持つようになったのだ。私は角張ったデザインが好きだ。太字と金が好きだ。それでも、鋼鉄のシュッとした曲線の魅力はよくわかる。そして、文化史の特定の瞬間に形作られた時計の影響を受けた時計たちのエコーチェンバーに魅了されている。
Steal(お手頃な選択肢)
時計:ラドー ダイヤスター オリジナル60周年記念エディション
イケてる理由:時計マニアというのはアニバーサリーモデルに熱狂するものだ。それがオリジナルのデザインから大きく逸脱していない再解釈の場合はなおさら。60年代、ラドーがダイヤスターで掲げたマーケティングミッションは、傷がつかない、耐久性に優れた時計を世に送り出すことであった。タングステンカーバイド合金である「ハードメタル」を使用したこの時計は、1962年にデザインされ、数十年に渡って使用されている。今にして思えばちょっとおもしろい。この時計は、デザイン的には時代に影響されないとは言い難いからだ。この時計以上に「時代を代表する」ものはないだろう。
少なくとも、この時計には本来時代遅れのものを現代的に見直そうとする誠実な姿勢が感じられる。ラドーが2022年版ダイヤスターのデザインをプロダクトデザイナーのヘーベリ(Häberli)に依頼したのは興味深い点である。それは、この時計が単なる計時装置でなく、視覚的に刺激的なオブジェクトとなるよう意図されているということだからだ。
その魅力は、アルコランプやエーロ・アールニオ(Eero Aarnio)のボールチェアのようなフォルムにある(時計メーカーは互いのデザインを大々的に盗み合うのだが、家具の世界での無慈悲な模倣に比べれば大したことではない)。この時計は、60年代の美学を強調しながらも、現代的な新しい仕上げが施されている。ヘーベリは、この形が持つ力をはっきりと認識しており、若干の幾何学的修正を加えながらも、オリジナルのトノーをそのまま使用した。さらに、60周年を記念して、六角形のサファイアクリスタル(1面が10年を表す)という、シェイプアップの要素も加えられている。この六角形は文字盤に奥行きを与え、また、ファセットがケースに光を反射させるため、ダイヤモンドを連想させる。私はダイヤモンド好きであり、そのためこの点を評価している。
ダイヤスターは、ブラッシュドメタリックなモノクロの外観が特徴的である。直径38mm(38mm × 45mm × 12.3mm)のケースはラドーが「セラモス」と呼ぶ特許取得済みの複合素材でできており、文字盤は滑らかなステンレスをベースに、ロジウムカラーでスーパールミノバ入りの鋭い針が配されている。6時位置には日付表示窓があり、そのすぐ上には2色の曜日表示機能がある。ケースバックはポリッシュ仕上げのステンレススティール製で、「DIASTAR ORIGINAL 60-YEAR ANNIVERSARY EDITION, DESIGN ALFREDO HÄBERLI(ダイヤスター オリジナル60周年記念エディション デザイン:アルフレッド・ヘーベリ)」の刻印がある。この時計には、メッシュブレスレットとテキスタイルストラップが付属している。
私好みではないにしても、この新しいアニバーサリーモデルの見た目はスマートだと言ってよいだろう。ヘーベリデザインは、オリジナルをはるかにすっきりしたものに変えた。ソリアナのカウチを好み、アレッシィのスパイラル灰皿をメタフォラ(Metafora)のコーヒーテーブルに置いている、私の想像上の友人グラフィックデザイナーが身につけるようなものになったのだ。
手頃な理由:このミニチュア宇宙船には、ラドーのCal.R764が搭載されている。これは、ETAのCal.C07.111をベースにした自動巻きムーブメントである。ここで、スウォッチグループの一員であることが効いてくる。ラドー、ロンジン、ミドーはいずれも、ETAのムーブメントを自社仕様にして使用している。スウォッチグループがETAを所有しているため、ラドーをはじめとするグループ企業は、サードパーティから購入するよりも手頃な価格でハイグレードなムーブメントを手に入れることができる。つまり、ここでのお手頃さは、スケールメリットに起因していると言ってもよい。
それは、使用されている素材にもあてはまる。セラミックケースで知られるラドーは、セラミックと炭化チタンの複合素材であるセラモス合金を採用し、オリジナルのダイヤスターの耐傷性を維持したまま軽量化を実現した。スウォッチグループはその専門メーカーも所有しており、ラドーほかの各社は、セラミックケースといった部品を外注せずに社内で生産できるのである。
Splurge(豪勢な選択肢)
時計:パテック フィリップ Ref.3580
イケてる理由:この時計は、1962年のオリジナルにインスパイアされたものではなく、1970年代初頭に実際に生産された時計である。この時代は、デザイン的には厳密にはまだ「ミッドセンチュリー」であり、この時計がラドーに似たデザイン言語を持っているのも納得できる。モダン対ヴィンテージの比較というのは、どんな文脈でも難しいものであるが、両者の形状や全体的な宇宙時代の美意識が極めて似ていることを踏まえれば、この比較は妥当なものと言えるのではないだろうか。それに、ほとんどのコレクターは、ヴィンテージだけやモダンだけに限定して探していない。興味深いコレクションというのは、両者がミックスされているものだ。
Ref.3580は、たしかにパテックと聞いて真っ先に思い浮かぶ時計ではない。2番目でもないし、20番目でもない。オークションで高額落札されるような、パテックのほかのモデルとは似ても似つかないものだ。この時計はどちらかというとB面のヒット曲のようなものであり、ヴィンテージマニア向けの隠れた名品なのである。
最初に見たとき、少なくとも私にとっては、この時計はInstagramの「発見」タブに常に表示される、よくわからない作品の1つに過ぎなかった。またよくわからないヴィンテージ品を見つけたぞという感じだったのである。「保存」入りの時計というわけだ。
それから、この時計をじっくり見て、少し調べてみたりした。するとこのRef.3580は、まさに70年代の美学を非常に気品高い控えめな方法で実現した、私が見たなかでも数少ない例のひとつだったのである。そういう意味では、これはやはりパテックらしいと言える。
パテック フィリップは、この作品でこの時代の幅広いデザイン言語を具現化した時計を作りあげたのである。この時計は、超トラディショナルなブランドに70年代の反骨精神を少しばかり取り入れたものになっている(さすがにハミルトンのオデッセイ2001やジラール・ペルゴのキャスケットほどではないが)。ノーチラスが船の舷窓だとすれば、この時計は宇宙船の窓、つまり神秘的な宇宙への開口部をイメージさせるものだ。このデザインは、「サイケデリック建築」などを手がけたデザイン集団アント・ファーム(AntFarm)を思い起こさせる。彼らは、若さとカウンターカルチャーを取り込んだ。そこには、有機的なフォルム、円形の窓、空気注入式の構造など、ブルータリズムへの明確な反動が感じられた。
当時の時計は先進的でアグレッシブなデザインが主流であったが、3580は当時主流だった近未来的なテーマに対するセンスのよい答えだった。当時のパテックには珍しいステンレススティール製で、自動巻きムーブメントのCal.350(のちにCal.1350に変更)を搭載しているのも特徴である。ツマミがなく、ストラップ取りつけ部と巻真がケースの裏側に配置されているため、35.4mm × 40.3mmの楕円形によるすっきりとしたフォルムが実現されている。
ケースは、それがまるで取り外し可能なアタッチメントのように見えるほど、目立つものになっている。時計を縁取るのではなく、時計を包み込んでいるのである。このリファレンスは、シルバーの文字盤とブルーの文字盤の2種類のカラーで生産され、いずれもホワイトゴールドのアプライドインデックスを採用している。航空機や宇宙船の舷窓の話に戻せば、白い文字盤は昼間の窓の眺め、青い文字盤は夜の星の眺めである。
高価な理由:文字盤にパテッのクロゴが入っているというわかりやすい理由もさることながら、Ref.3580は1971年から1980年まで数百本しか製造されなかったため、希少価値も高い。とはいえ、1万5000ドル(約200万円)前後という価格は、ほとんどの人にとっては高額かもしれないが、もしあなたがパテックのヴィンテージで贅沢をしたいと考えているなら、ややお手頃な価格帯における、最後のフロンティアの1つだと思う。
どちらを選ぶべきか
ヴィンテージ版も現代版も、どちらも同じ美のコードを持っている。そのため、これは少しばかり難問だ。基本的には、本物のヴィンテージか、ヴィンテージモデルの再解釈かの選択である。そしてこの場合、これは興味深い選択になる。というのも、ファッションやデザインのトレンドが過去にロマンを求めている現在とは異なり、ミッドセンチュリーのデザインは未来に大きく目を向けているからである。
基本的に、私なら常に迷わず復刻版よりオリジナルを選べと言うだろう。しかし、ラドーのオリジナル記念エディションも捨てがたい。この再解釈版は、じつは1962年のオリジナルデザインをより発展させた、着用しやすいアップグレードがされているからだ。また、このどちらを選択すべきかは、住んでいる場所によっても変わってくるかもしれない。ラドーはアジアで大きな成功を収めており、インドのロレックスと呼ばれることもある。アメリカやヨーロッパではパテックの天下だ。
デザイン面でもパテックに軍配が上がる。よりスリムで、よりエレガントで、より洗練されている。パテックの時計は、その50年後に作られた時計よりも、なぜか現代的に見えてくる。
どちらの時計も印象的で、外で身につければ大きな反響を呼ぶに違いない。あるいは、自宅で身につけ、毛足の長いラグに寝転びながら、デヴィッド・ボウイの『スペイス・オディティ』を聴き、次のロケットに乗ることを夢見るのもいい。
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HODINKEE Shopはラドーの正規販売店である。コレクションを見るにはここをクリック。当店ではまた、パテック フィリップの中古時計も取り扱っている。パテックおよびラドーの詳しい情報については、各ウェブサイトを参照のこと。