私が映画好きであることはご存じだろう。だから、ハミルトンがあの有名な“マーフ”の新しいサイズ、つまりより使いやすいサイズで発売すると聞いたとき、私が興奮したのは当然のことだ。さっそくハミルトンに手紙を出し、どのくらいでレビュー用の時計が届くかを確認した。そして3週間ほど前、この時計の紹介記事を書いてから間もなく、この時計は届いた。
これは私にとって重要な時計だ。私もほかの多くの人と同じように、2014年に『インターステラー(原題:Interstellar)』の大画面で見て、物語に時計が組み込まれていることに心を奪われた。あの映画では、マーフなしでは単純にプロットが完結しないほど、マーフは重要な存在なのだ。
そしてこの時計の物語を語る上で、冒頭よりも終盤のほうがはるかに重要である。マシュー・マコノヒー(Matthew McConaughey)演じるクーパーが両腕に時計を持ち、マッケンジー・フォイ(Mackenzie Foy)演じる若きマーフに任務の内容を説明するシーンもそうだ。しかしエレン・バースティン(Ellen Burstyn)演じる最年長のマーフが、宇宙ステーションの病院のベッドで手首に時計をつけているフィナーレは、時計が持つ感情の重みを強く打ち出している。私たちはときどき、そのことを映像で確認する必要があるのだ。
だから、マーフを郵便で受け取り、箱から取り出したとき、私は予期せぬ感動に襲われた。私は42mmのモデルを所有したことがなく(この手首には大きすぎるのだ)、この時計と充実した時間を過ごすのは初めての経験だった。ひと目見ただけで、象徴的な時計を手にしたような気がした。しかし、この時計はまだ製造されてから2年ほどしか経っていないのだ。映画の力は偉大である(よくも悪くも)。
さて、感慨にふけっているところだろうか。さっそく、この時計の核心に触れていこう。言うまでもなく、まず最初に取り組むべきはサイズ。それがトップバッターだ。マーフは、要望の多かった38mmというサイズに小型化されたのだ。しかしこの数字が物語るのは、ほんの一部に過ぎない。ラグからラグまでの長さを52mmから44.7mmにしたことが、このモデルを成功に導いた真の秘訣なのだ。
これによって、時計の装着感に大きな差が生まれる。手首からはみ出すことなくフィットし、洗練された印象を与えるのだ。ロレックスのエクスプローラー(36mm)を引き合いに出すわけではないが、手首の感覚は非常によく似ている。このリサイズに挑戦したハミルトンに賛辞を送りたい。
このように全体の輪郭が小さくなった以外、この時計は根っからのマーフなのだ。ダイヤルもそうだし、時計の名前(カーキ フィールド マーフ)と同じ濃いカーキカラーの数字もそう。ゴールドカラーのレタリングをより無骨にしたような感じだ。しかしダークなダイヤルの背景に文字や数字の色が映え、映画的な正確さのために視認性が犠牲になっていると言わざるを得ない。とはいえ、この時計は通常生産の時計として検討される前に、映画『インターステラー』のために特別に開発されたもので、“ザ・マーフ”であることを考慮すると、低コントラストの美学を許すことができる。
黒を基調としたダイヤルのなかで、数字が浮き上がって見えるのだ。しかも暗いところでは蓄光するのだが、蓄光させるにはかなりの光量が必要となる。その結果、ほとんどの場合、光はかなり薄くなっている。しかし、そのような視認性の問題にもかかわらず、私はこの作品を実際に見て、魅力的だと感じた。
カセドラルハンドは、一部の人たちのあいだで論争になっている。私はこの針が好きだ。無骨なデザインにヴィンテージ感(というかクラシック感)を与えてくれるところが好きなのだ。そして、全体的に針がマットな質感を持っていることも好きなところだ。秒針のモールス信号が消えていることを残念に思う人もいるが、私は実際にこの時計を見て、前回の記事の言葉をもう一度繰り返したい。この印字がなくなったことで、映画で使用されていたプロップピースをより忠実に再現しているのだ。
縮小されたケースに対してオーバーサイズのリューズは、まるで1950年代のミルスペックウォッチのような質感を与えている。また38mmというケースサイズにより、80時間のパワーリザーブを持つシースルーバック用のH-10自動巻きムーブメントがケースバックによくマッチ。ケースにはブラッシュ仕上げが施され、この時計全体が持つツールとしての雰囲気にふさわしい仕上がりとなっている。
前述したように、全体のプロポーションとしては手首へのフィット感が抜群だ。しかしストラップは慣らしが必要で、手首の中心に時計を置くことができないほど硬かった。レビューでストラップを程よく慣らすのに必要な時間はなかったが、とはいえ、このストラップは一度慣らすと、とても使いやすいと思う。そして、私はストラップを交換するのをためらうだろう。この構成は映画に忠実で、もしこれがこの時計を手に取る動機の一部であるなら、私ならこのまま身につけたいと思うからだ。
実機は、とてつもない価値を備えている。895ドル(日本の税込価格は12万4300円)のこの時計は、時計業界の多くの人が気づいているように、セイコーのベビーアルピニストと競合しているのだ。私にとっては、2000ドルの時計のような感覚と装着感を簡単に味わえる。そしてストーリーを感じさせる華やかさがある。我々の時計へのこだわりを、いつも普通の友人と共有できるわけではないが、ポップカルチャーとのタイアップは確かに役に立つ。『インターステラー』は、ほとんどの人が観たことがあるだろうから。
私にとって時計の最大の試練のひとつは、時計を外すのがいかに難しいかということだ。この新しい38mmのマーフを身につけないわけにはいかない。このブランドは過去10年近く、現代的な価値のあるアイコンを生み出す素晴らしい仕事をしており(カーキ フィールド メカニカルを思い出して欲しい)、この新しいサイジングのマーフは特に、価値のあるアイコンにふさわしいものになると思う。
さらに、純粋にファンの要望だけで作られた時計を身につけるというのは、とても満足のいくものだった。我々は情熱的な集団であり、その結果、この時計はキラーウォッチとなったのだ。
ハミルトン カーキ フィールド マーフ 38mm。ステンレススチールケース、100m防水、直径38mm(ラグからラグまで44.7mm)、ラグ幅20mm、シースルーバック。ブラックダイヤル、アラビア数字インデックス、スーパールミノバ。ムーブメント、ハミルトン H-10オートマチック(ベースETA C07.611)、パワーリザーブ80時間。ブラウンレザーストラップ装着。価格、895ドル(日本の税込価格は12万4300円)。