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Hands-On ロンジン パイロット マジェテックを実機レビュー

この時計はマジェテックの復刻版ではない。あくまでも現代の技術で進化を遂げた最新のマジェテックなのだ。

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ロンジンが、1935年に発表された歴史的モデル、“マジェテック”にインスピレーションを得た新作、ロンジン パイロット マジェテックを発表した。

 マジェテックとは、かつてロンジンがチェコスロバキア(※)軍の依頼を受けて製造したクッションケースを持つ大振りなパイロットウォッチ、Ref.3582の通称だ。チェコスロバキア陸軍パイロットに供給されたこの時計のケースバックには、“MAJETEK VOJENSKÉ SPRAVY(チェコスロバキア軍の所有物)”の文字が刻印されていた。後年、そこから最初の単語だけを取り、時計コレクターのあいだで“マジェテック”と呼ばれるようになったのだ。

※編注:1918年から1992年にかけて存在した現在のチェコおよびスロバキア共和国で構成されていた連邦国家。

 40〜41mmの大きなクッションシェイプのステンレススティールケース、そしてスタート時間を表示するトライアングルインジケーターを備えた回転式ベゼルを備えることが、オリジナルのマジェテックの大きな特徴だ。加えてブラックの文字盤にはレイルウェイミニッツトラック、そして夜光が盛られたアラビア数字インデックスとコブラ針を用いることで優れた視認性を発揮したという。

 ロンジンは、このマジェテックを1935年から1950年にかけて、3種類の異なるムーブメント(Cal.15.94、15.26、15.68Z)を用いて製造した。マジェテックは、搭載ムーブメントを軸にファースト(前期)、セカンド(中期)、サード(後期)の3つに分類できるが、その違いはムーブメントだけではない。

 そこで、ヴィンテージのミリタリーウォッチに造詣が深い時計ディーラーであり、コレクターでもあるキュリオスキュリオの萩原秀樹氏、そして古くから時計店を営む傍ら、自らも時計を収集し、膨大な数のヴィンテージロンジンをコレクションするとある時計ディーラーの方にも話を聞いた。あくまでもコレクターたちのあいだで語られている情報にはなるが、オリジナル3モデルの違いについて、簡単に解説しておこう。

ファースト(前期)モデル

 ファースト(前期)モデルはCal.15.94を搭載する。Cal.15.94は、1900年代初頭の懐中時計にも使われていたムーブメントだ。ほかにも文字盤はポーセリン(磁器製)で、針はコブラ針。ファーストの針は、時針の首が少し長いのも特徴であるという。

 続くセカンド(中期)モデルはCal.15.26を搭載した。Cal.15.26は、世界大恐慌の影響から生産数が少なかったと言われており、そのためセカンドモデルの製造数も3つのなかで最も少ないといわれる。文字盤はポーセリンからエナメルに変更。さらに針はコブラ針ではなくペンシルハンドが用いられた。

 そして最後にサード(後期)モデルだ。これにはCal.15.68Zが搭載された。文字盤の素材はエナメルからスティール素材にブラックラッカー仕様へと変更となるが、針は再びコブラ針となる。ただし、そのスタイルはファーストのものとは少し異なり、時針の首はやや短くなっている。

 マジェテックはケースバックに“MAJETEK VOJENSKÉ SPRAVY”の文字が刻印されていたことが、その名の由来となったが、実は一般にも販売されたため、そうした市販モデルにはケースバックの刻印はない。そしてファーストモデルでは軍に支給された個体でも、基本的にはこの刻印がないとされている(一部例外もある)。さらにセカンドモデルのエナメル文字盤はペンシルハンドとの組み合わせが通常とされているが、こちらもケースバックの刻印同様、一部例外はあるようだ。なお、これは余談だが、マジェテック(Ref.3582)のデザインは、1935年4月1日、スイス・ベルンの国際工業所有権庁に登録されている。

 お気付きの方もいるかもしれないが、ロンジンは2014年に同じマジェテックをモチーフとしたロンジン ヘリテージ 1935という復刻版を発表している(現在は生産終了)。同じくSSのクッションケースを持ち、光沢塗装されたブラックの文字盤にはレイルウェイミニッツトラック、スーパールミノバ®を施したアラビア数字インデックスとコブラ型針、そして筆記体フォントのロンジンロゴを採用。日付表示があり、コインエッジベゼルはトライアングルインジケーターのない固定式であったものの、見た目の再現度としては非常に高かった。

 そのような時計をすでに手がけていたのに、なぜ再び同じマジェテックをモチーフとした時計が製作されたのだろうか? ロンジンは、単に見た目をオリジナルに寄せた復刻版ではなく、進化を遂げた現代版マジェテックを作り上げることで、軍用パイロットウォッチとして名を馳せたマジェテックの精神を現代に甦らせたかったのではないか。新しいロンジン パイロット マジェテックを実際に手に取ることで、筆者にはそう感じられたのだ。そしてこの新作とオリジナルモデルと見比べることで、その考えは確信に変わった。

ロンジン パイロット マジェテック(写真左)と、オリジナルマジェテックのセカンドモデル(写真右)。

 前述したとおり、マジェテック最大の特徴は大きなSS製クッションケースに、スタート時間を表示するトライアングルインジケーターを備えた双方向回転式ベゼルを備えているところにある。新しいロンジン パイロット マジェテックもディテールは異なるが、オリジナルに通じるユニークなクッションケースとトライアングルインジケーター付きの双方向回転ベゼルを持つ。

 ただし、その構造は進化を遂げている。スタート時間を表示するトライアングルインジケーターは、オリジナルでは回転ベゼルと風防が一緒に回転する仕様で、防水性をそれほど高く保つことはできなかった。一方、新作のロンジン パイロット マジェテックでは風防を固定したまま、ベゼル内側9時位置に歯車を設けてベゼルとトライアングルインジケーターの動きを連動させる特許取得のギア機構を採用。これに加えて、ねじ込み式リューズを採用したことで、オリジナルでは実現できなかった高い防水性(10気圧防水)を確保した。

 さらに詳しく見ていこう。スモールセコンドは、オリジナル同様、文字盤6時側にバランスよく配置されており、視認性は極めて良好だ。オリジナルでは文字盤12時側に筆記体でロンジンのロゴ、そしてスモールセコンドの上に“ANTI-MAGNETIQUE”の文字がプリントされている。ロンジン パイロット マジェテックでは、文字盤12時側にセリフ体のロンジンロゴ、そしてスモールセコンドの下に小さく“SWISS MADE”表記をプリントし、よりすっきりとした印象を与えている。なお、ケースサイズは本機が43mm、オリジナルは40〜41mmで、新しいロンジン パイロット マジェテックのほうが大きい。

 そしてケースバック。オリジナルにはニックネームの由来でもある“MAJETEK VOJENSKÉ SPRAVY”の文字とともに軍の管理ナンバーを刻印。一方、ロンジン パイロット マジェテックでは、“LONGINES PILOT MAJETEK”の文字に加え、“CHRONOMETER OFFICIALLY CERTIFIED”、“MAGNETIC  RESISTANT”、“10BAR〔100METER〕”などの時計のスペック、そしてシリアルナンバーと型番が刻印されている。

 また、ロンジン パイロット マジェテックは4つのネジでケースバックを固定するネジ止め式だが、オリジナルは裏蓋とケースの凹凸を合わせてはめ込むスナップバック式だ。ただしオリジナルの裏蓋は2種類あり、ファーストはネジ止め式で、セカンドからはネジ止めがなくなり、普通のスナップバックケースに変更となったというのが、コレクターたちの定説である。

 ロンジン パイロット マジェテックは、ベージュのトップステッチをサイドに施したブラウンのレザーストラップを基本とするが、初回のスペシャルボックスにはリサイクル素材のポリエステルファイバーを使用したNATOタイプストラップも付属(バネ棒外しも同梱)するため、ストラップを付け換えてふたつのスタイルでつけることができる。なお、初回のスペシャルボックス以降は、レザーストラップ仕様はRef.L2.838.4.53.0として、NATOストラップ仕様はRef.L2.838.4.53.8として、それぞれ販売されるようだ。

 ムーブメントにも触れておきたい。新しいロンジン パイロット マジェテックでは約72時間パワーリザーブを実現したロンジンの自動巻きエクスクルーシブキャリバー、L893.6を搭載する。オリジナルモデルに採用された3つのムーブメントは、いずれもせいぜい35時間前後のパワーリザーブだったことを考えると、これは倍近い性能だ。

 またオリジナルも文字盤で“ANTI-MAGNETIQUE”をうたっていたが、インナーケースなどのムーブメントを磁気から守る構造を備えていたわけでもないため、磁気を気にせず使うことは出来なかったに違いない。一方のロンジン パイロット マジェテックは、耐磁性シリコンヒゲゼンマイを採用。耐磁性能について明確な数字が公表されているわけではないが、“MAGNETIC  RESISTANT”を刻印しているということは、おそらくは1種耐磁時計に相当する4800A/mまでの耐磁性能を有しているのだろう。これは磁気を発生する機器に5cmまで近づけてもほとんどの場合、性能を維持できる水準とされている。うっかりバッグのマグネットに触れたり、スマートフォンのスピーカーに置いてしまうような場合でなければ、まず磁気帯びの心配は少ない。

 新作にあって、オリジナルにはないもの。その最たる例がリューズガードだろう。ロンジン パイロット マジェテックはリューズガードを備えることで、より一層タフな作りとなり、見た目にも力強い印象を与えている。ケース厚は見た目のボリューム感を裏切らない13.3mm。風防はボックス型のサファイアクリスタルを採用する(ちなみに、オリジナルは外周から中央にかけてなだらかに盛り上がるドーム風防だ)。そして9時位置のケース外側には、初代モデルが誕生した年である“1935”を刻む記念プレートが施された。

 正直に言うと、本機を最初に目にしたとき、なぜリューズガードを付けたのか不思議でならなかった。リューズガードがないほうがオリジナルのイメージに近い雰囲気になったことは、かつてのロンジン ヘリテージ 1935が証明している。マジェテックに着想を得た時計なら、オリジナルに近づけるべきだろうと。だが、時計のスペックやディテールの詳細を知るにつれ、リューズガードの採用は必然のディテールだったのではないかと思うようになった。この時計はマジェテックの復刻版ではない。あくまでも現代の技術で進化を遂げた最新のマジェテックなのだ。

 実際につけてみると、そうしたロンジンの開発陣が込めたであろう新しいマジェテックへの思いとともに、歴史的なストーリー、唯一無二の存在感など、単なる新作の1本として見ただけでは測れない魅力が詰まったモデルなのだということが時計からヒシヒシと感じられた。デザインこそクラシックだが、43mmの大振りなサイズはリューズガードの存在も相まって、シックな装いに映えるような大人しい印象の時計ではない。オリジナル同様、スポーティなスタイルでガシガシと毎日使い込んでこそ、その魅力がより一層際立つ。筆者には、そんな時計に感じられたのである。

 約3日間のパワーリザーブに、優れた耐磁性能。日常で使用するにも十分な性能だ。価格は税込で55万円(初回のスペシャルボックス入り)。ロンジンでは、COSCクロノメーター認定を受け、シリコンヒゲゼンマイが採用されているモデルが20万円台から購入可能であることを考えると、やや高価な位置づけというのが、筆者の正直な感想だ。だが、ロンジン パイロット マジェテックは、ほかのコレクションでは得ることができない圧倒的な存在感だけなく、確かなヘリテージが存在しながら、現代のパイロットウォッチとして進化を遂げたものなのだという満足感を、ユーザーに与えてくれるに違いない。

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基本情報

ブランド: ロンジン(Longines)
モデル名: ロンジン パイロット マジェテック(Longines Pilot Majetek)
型番: L2.838.4.53.9

直径: 43mm
厚さ: 13.3mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ブラックマット
インデックス: スーパールミノバ®を使用したエンボス加工のインデックスとアラビア数字プリントインデックス
夜光: ロジウムメッキの時・分針、アラビア数字とエンボスインデックス
防水性能: 10気圧
ストラップ/ブレスレット: ベージュのステッチ付きブランレザーストラップ、リサイクル素材からできたカーキグリーンのNATOストラップのセット。ストラップ交換ツール付属。※初回スペシャルBOX仕様


ムーブメント情報

キャリバー: L893.6
機能: 時・分表示、6時位置にスモールセコンド
パワーリザーブ: 約72時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万5200振動/時
石数: 26石
クロノメーター認定: COSC
追加情報: シリコン製ヒゲゼンマイ


価格 & 発売時期

価格: 55万円(税込)
発売時期: 2/22より

詳細は、ロンジンの公式サイトをクリック。

ペンシルハンドのセカンド(左)とコブラ針のサード(右)モデル。これらはキュリオスキュリオのオーナーである萩原氏の私物だ。

こちらは本稿の製作に協力してくれた、時計店オーナーが所有するオリジナルコレクション。右からファースト、セカンド、サードモデル。こちらはすべてコブラ針だ。