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Hands-On ロンジン スピリット フライバックを実機レビュー

スピリットコレクションで待望の復活を遂げたフライバッククロノグラフは、日常のさまざまなシーンで気兼なくつけることができ、現代のライフスタイルのなかでこそ魅力が際立つ時計だ。

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2月に発売されたロンジン パイロット マジェテックに続き、ロンジンが2023年の新作となるロンジン スピリット フライバックを発表した。本作はロンジンのスピリットコレクションに加わる新モデルで、その名が示すようにフライバック機能付きのクロノグラフだ。価格はレザーストラップタイプが64万1300円、ブレスレットタイプが65万6700円(ともに税込)で、ブラックとブルー、ふたつの文字盤カラーを展開。本日、3月22日より販売開始となる。

 190年以上もの歴史を誇るロンジンにおいて、クロノグラフ、特にフライバッククロノグラフは、極めて重要な意味を持つ存在だ。ロンジンは、1911年に懐中時計に使用していた自社製のCal.19.73をベースとしたクロノグラフを手がけているが、これが世界初の腕時計型クロノグラフだと言われている。それから2年後の1913年には、直径29mmのコンパクトサイズのクロノグラフムーブメント、Cal.13.33Zを開発。これはもともと懐中時計用だったものを、そっくりそのまま腕時計用にダウンサイジングさせた(これは当時、不可能といわれるほどの偉業だった)もので、これはロンジンだけでなく、その後に登場する腕時計用クロノグラフの原型となった。

 早くからクロノグラフの量産化を成功させたロンジンでは、高性能なフライバッククロノグラフの開発も非常に早かった。ロンジンのアーカイブによれば、1925年にはCal.13.33Zをベースに、ふたつの独立したプッシュボタンとフライバック機能を備えた腕時計型フライバッククロノグラフを開発した。その後、1935年6月12日に特許申請、1936年6月16日に世界初の特許登録がなされたフライバッククロノグラフが登場。これこそ、多くのヴィンテージウォッチ愛好家を魅了してやまない、歴史に名高いCal.13ZNである。Cal.13ZNは当時、最も技術的に進んだクロノグラフで、その後のロンジンの名声を支えることになる。

 プッシュボタンを押すだけでクロノグラフ秒針がリセットされ、瞬時にゼロから計測を再開するというフライバック機能は、パイロットが迅速に、異なる飛行ステージのタイミングを連続的に計ることを可能にした実用的な機能で、ナビゲーションを容易にした。ロンジンは長い歴史のなかで、多くの伝説的なパイオニアたちの挑戦を、その優れたハイパフォーマンスウォッチによって支えてきたが、もちろん、フライバッククロノグラフもそのひとつだったのだ。

ロンジンのスピリット コレクションが2020年に誕生した新しいコレクションであることを考えれば、早くもと言うべきかもしれないが、古くからロンジンを知る人にとっては、ついにというべきだろうか。新しいロンジン スピリット フライバックは、同社が自社でのムーブメント製造を止めて以来となるフライバッククロノグラフモデルとなる。これを待ち望んでいた人は、決して少なくないだろう。筆者もそのひとりだが、それゆえ期待も大きく、中途半端なものは受け入れ難かった。だが、このロンジン スピリット フライバックはそんな不安を吹き飛ばしてくれるほど、多くの魅力を備えた時計に仕上がっていた。

 まずは肝心のムーブメントから見ていきたい。本作に搭載されるのは新しいL791.4だ。さすがにロンジンによる完全自社製ではない(そもそもスウォッチ グループに属する1ブランド、という現体制ではそれを期待するほうが非現実的だろう)が、このムーブメントはロンジンだけで使用されるエクスクルーシブキャリバーとなっている。コラムホイール式の自動巻きフライバッククロノグラフであり、シリコン製ヒゲゼンマイを搭載。耐磁性を備え、約68時間のパワーリザーブを実現させた最先端のムーブメントで、COSC認定クロノメーターを取得する高精度なものである。

 ロンジンでは久々となる、そしてコレクション初のフライバッククロノグラフということもあり、期待も高いのだろう。ロンジン スピリットコレクションでは初のシースルーバックが採用された。時計を裏返すと、搭載するL791.4を見ることができ、ローターにはコレクションを象徴する地球儀と“LONGINES FLYBACK”の文字が刻印が施されている。

 サイドから時計を見てみると、風防にはドーム型のサファイアクリスタル風防を採用していることがわかった。ケースの厚みは風防の中央部分(いちばん盛り上がっているところ)まで含めて約17mmあり、42mmのケース径に対して、ラグからラグまでの長さは約49.5mmある。横から見るとより実感しやすいが、ラグは比較的短い。ケース径に対してラグが細く長いほどクラシックな印象になるが、本機は太く短いラグによって、スポーティでモダンな印象を与えている。偉大な探検家たちのためにロンジンが作り出した計器の伝統を受け継ぐという、実用性能に軸足を置いたコンセプトを持つロンジン スピリットコレクションにはふさわしいディテールだと思う。

 今回撮影用に借りることができたのは、ブラウンレザーストラップを合わせたモデルだったが、両サイドボタンプッシュ式のフォールディングクラスプを採用している。ストラップタイプのほかにもステンレススティールブレスレットタイプもラインナップされているが、ともにインターチェンジャブルシステムを採用しており、特別な工具を必要とせず簡単にストラップ交換が可能になっている。本作に限ったことではないが、これは現代の時計においてはもはや標準的な装備になりつつある。

 筆者がこのロンジン スピリット フライバックを見て感動したのは、きめ細やかなディテールだった。アラビア数字アワーインデックスと時・分針に施されたしっかりとスーパールミノバ®、そして文字盤外周に施されたポリッシュのエングレービングサークルはコレクションに共通して見られるものだ。また、ケース上面のエッジに施された均一な太さのポリッシュ仕上げ、艶感のある双方向回転ベゼルに与えられたセラミック製インサートは、時計に立体感を与えるとともにスポーティななかにも適度な上品さを加えている。

針の中心部から放射状に広がるインダイヤルのアジュラージュ装飾。

文字盤6時側に施された5つの星はアプライド仕様で、表面が鏡面になっているので光を受けてキラキラと変化する。

 ケースを正面から見ると、ラグには文字盤中心部から広がるような放射状の、そしてサイドにはケースに対して並行になるようにサテン仕上げが施されている。こうした細部にわたるていねいな仕上げが、本作を無骨なツールウォッチではなく、実用性能は担保しつつも洗練された印象を持ったハイパフォーマンスクロノグラフという印象を見る人間に与えているようだ。

 本作において、筆者が感動したポイントがふたつある。ひとつは、文字盤外周に施されたポリッシュのエングレービングサークルに1時間単位でくり抜いたダイヤモンドシェイプインデックスと同じダイヤモンドシェイプマーカーが先端に付いたクロノグラフ針だ。これらはピッタリと重なるように大きさや針のバランスが調整されており、作動時に視認性を高めるだけでなく、少なくとも使用する際の気持ちよさ、清々しさを与えてくれた。

 加えて言えば、アラビアのアワーインデックスと文字盤外周のインデックスに届くように長さを調整された針も、筆者が心引かれたディテールだ。これは本作に限った仕様ではなく、ロンジン スピリットコレクション全体に見られるものだが、こうしたインデックスにリーチする適切な長さの針は、かつての天文台クロノメーターなど、実用性を尊ぶ高精度ウォッチには欠かすことのできないディテールだった。このような適切な長さの針を持つ時計というのは、現代においてどれほど存在するだろう。実はさまざまなブランドの時計を見ても意外と少ないのではないだろうか?

 そしてふたつ目のポイントは、フライバッククロノグラフの操作感である。本作の実機レビューに際して、とある時計ディーラーからロンジンのCal.30CHを搭載したフライバッククロノグラフをお借りし、比べることができた。Cal.30CHは実に70年以上も前に作られたものだが、よくメンテナンスされた個体で今なおしっかりと作動するものだった。とはいえ、その操作感はスタート・リセットボタンともに押し心地は固めで、指先に“ガチッ”としたレバーの作動による振動が伝わってきた(Cal.30CHに限らず、当時の中級機に当たるクロノグラフはそうしたものが多い印象だ)。そうした確実に伝わる操作感がいいという人もいるだろうが、少なくとも筆者にとっては快適と思えるものではなかった。一方、ロンジン スピリット フライバックではボタンを押した時に伝わってくる指先の感触はちゃんと押した感触はあるものの、伝わる振動は滑らか。極めて上品な感触で、とても心地のいいものだった。

 ロンジン スピリット フライバックは約17mmと、シャツの袖口に収まるような薄い時計では決してない。だが、細部にまで配慮の行き届いたディテールを持つがゆえに、そして上品な感触を備えているがゆえに、ロンジン スピリット フライバックはツールウォッチが活躍するようなスポーティなスタイルだけでなく、上質なジャケットなどを合わせたタイドアップしたスタイルにも映える洗練された雰囲気を醸し出しているように筆者には思えた。そして、本コレクションが懐古趣味ではなく、多くのパイオニアたちの挑戦を支えてきたロンジンのハイパフォーマンスウォッチの精神を今に受け継ぎ進化した、スポーティでモダンな時計なのだという作り手の思いが、本作からしっかりと感じられたのだ。

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基本情報

ブランド: ロンジン(Longines)
モデル名: ロンジン スピリット フライバック(Longines Spirit Flyback)
型番: L3.821.4.53.2(ブラックダイヤル/レザーストラップ)、L3.821.4.53.6(ブラックダイヤル/ブレスレット)、L3.821.4.93.2(ブルーダイヤル/レザーストラップ)、L3.821.4.93.6(ブルーダイヤル/ブレスレット)

直径: 42mm
厚さ: 17mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: ブラック、ブルー
インデックス: アプライドのアラビア数字
夜光: アラビア数字・スクエア・トライアングルにスーパールミノバ®
防水性能: 10気圧
ストラップ/ブレスレット: 微調整が可能なフォールディングクラスプ、ブラウンレザー、またはブルーファブリックストラップ、トリプルセーフティプッシュピース式開閉システムを備えたSSブレスレット。ともにインターチェンジャブルシステムを採用


ムーブメント情報

キャリバー: L791.4(ロンジン エクスクルーシブ)
機能: 時・分表示、9時位置にスモールセコンド、 フライバッククロノグラフ(センターにクロノグラフ秒針、3時位置に30分積算積算計)
直径: 30mm
パワーリザーブ: 約68時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 2万8800振動/時
石数: 28
クロノメーター認定: あり。COSC
追加情報: シリコン製ヒゲゼンマイ


価格 & 発売時期

価格: 64万1300円(レザーストラップ)、65万6700円(ブレスレット)。ともに税込
発売時期: 2023年3月22日より
限定: なし。通常コレクション

詳細は、ロンジンの公式サイトをクリック。