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1832年の創業から今年で190周年を迎えたロンジン。そんな同社には、歴史に残る名品が数多く存在している。1927年にアメリカ海軍将校、フィリップ・ヴァン・ホーン・ウィームス大佐とともに作り上げたグリニッジ標準時(GMT)シグナルと針を秒単位の正確さで一致させることができる「ウィームス セコンドセッティングウォッチ」、そしてこの時計をもとにチャールズ・A・リンドバーグのアイデアを具現化させた「アワーアングルウォッチ」などは特に有名だが、ロンジンではこうした名品の数々を幾度も復刻させてきた。それらの復刻モデルは、ロンジン レジェンドダイバー、ヘリテージ ミリタリー、ヘリテージ アヴィゲーション、そしてヘリテージ クラシックといったモデルとしてよみがえり、現在高い人気を得ている。そんな人気の復刻モデルに新たなモデルが加わる。それがロンジン ウルトラ-クロンだ。
我々HODINKEE Japanは、このロンジン ウルトラ-クロンの実機を日本でいち早く試す機会を得ることができた。そこで実機のレビューを交えながら、新作のロンジン ウルトラ-クロンについて紹介しようと思う。では、さっそく実機のレビューを……と、いきたいところだが、まずはこの時計がどんなモデルの復刻版であるかを触れておかねばなるまい。
ロンジンは、1963年に水銀電池で動力を得る電磁テンプ式ムーブメントCal.400を開発。そして翌64年にはマリンクロノメーターに搭載されるクォーツムーブメントCal.800を発表した。その一方で、拡大していくエレクトロニクス、クォーツテクノロジーに対抗するための自動巻きムーブメントの開発も進めた。それが1967年に発表されたCal.430だ。これは1959年に天文台コンクール用にロンジンが開発したCal.360と同じ3万6000振動/時の高振動という特徴を備えたムーブメントで、このキャリバーの開発と同時に、それを搭載するコレクションとして考案されたのがウルトラ-クロン(Ultra-Chron)だ。ウルトラ-クロンは、当時の電子時計(当時は音叉式ムーブメント)の精度に匹敵する機械式時計であり、ある意味、ロンジンの機械式時計の頂点に立つ存在として生み出されたコレクションだった。
同コレクションでは、3万6000振動/時の高振動ムーブメントを搭載したさまざまなモデルが作られた。そのなかでも月差1分、日差にして2秒という高精度を実現したCal.431を搭載した初のダイバーズウォッチとして開発されたのが、ウルトラ-クロン ダイバーだ。41mmのステンレススティールケースに200mの防水性能、レッドペイントの分針、逆回転防止ベゼルにはレッドのミニッツ目盛と夜光トライアングルを配した。1967年11月から第1シリーズ(Ref.7970-1)の製造を開始し、1970年代まで製造が続けられた(第5シリーズとなるRef.7970-5まであるが、3万6000振動/時のCal.431を搭載するのは第4シリーズとなるRef.7970-4まで)。
今回、幸運にもオリジナルのウルトラ-クロン ダイバーと比較することができた。さて、いよいよここからはオリジナルと比較しながら、ロンジン ウルトラ-クロンの実機レビューをお届けしよう。
まず何と言っても、オリジナルと復刻モデルを見比べてわかるのがその再現度の高さだ。針やインデックス、ダイヤルデザインなど、オリジナルの特徴が見事に再現されているのがよくわかる。特に見事だったのがベゼルの表現だ。オリジナルのベゼルはベークライトのインサートを備えていたが、復刻版ではサファイアベゼルインサートを採用することで、透明感のある独特の雰囲気を巧みに再現している。レッドのミニッツ目盛りはレッドラッカーで分針ともマッチ。輝度の高いスーパールミノバを数字と12時位置のトライアングルに使用し暗所でもしっかりと機能する。さらにロンジンでサファイアベゼルインサートが採用された時計はこれが初であることも付け加えておこう。
なお、オリジナルは日付表示を備えていたが、復刻版では日付表示がない。オリジナルには日付表示がなく、復刻版で追加されるという例は多いが、このロンジン ウルトラ-クロンのように逆になることは珍しい。これは日付表示を好まない人が多い愛好家たちへの配慮だろうか? その理由は定かではないものの、復刻版のシンメトリックな見た目は見ていて気持ちがいいし、また日付を調整する必要がないため扱いやすかった。何本も時計を持ち、頻繁につけ換えることが多いなら、これを評価する人も多いだろう。
ケースサイズはオリジナルが41mmであるのに対し、復刻版は43mmと2mmアップしている。オリジナルはラグ部分が大きく張り出したクッションフォルム。復刻版もクッション型ではあるが、オリジナルよりもややオーバル型に近い形状を持つ。フロント部分にサテン仕上げ、エッジにポリッシュ仕上げ、そしてケースサイドに再びサテン仕上げを施しており、オリジナルのようなダイナミックな雰囲気を残しつつ、しっかりと現代的で洗練された印象を与えている。ケースバックに目をやるとオリジナルも復刻版も中央に「LONGINES」と「ULTRA-CHRON」の文字とウルトラ-クロン共通のモチーフである波マークをあしらう。復刻版ではさらにウルトラ-クロンの正式名でもある「ULTRA-CHRONOMETER」の文字やリファレンスナンバーの「L2.836.4」、防水性能などの文字を刻印するが、デザイン的な再現度はダイヤル側と同様、かなり高いだろう。
ケースはラグと一体となったフォルムで、見た目にはなかなかのボリューム感がある。重量も実測値で約110.5gと、そこそこの数値だ。もちろんそれなりに重いのだが、43mmのケースサイズに対してラグからラグまでは実測値で約49mm、肉厚なレザーストラップとのバランスもいいのか、実際につけてみるとその不安は杞憂だった。レザーストラップがなじんでからは手首へのフィット感も高まり、重さはほぼ気にならなかった。ただし、筆者の手首周りのサイズは約19cmと比較的がっしりとしているため、手首が細い人も同じように感じられるかというと、難しいように思う。筆者よりも手首が細い人やフィット感を特に気にする人は、絶対に時計を腕に乗せてみることをおすすめする。
ちなみに、今回実機に触れることができたのはレザーストラップ仕様だったが、ステンレススティール製ブレスレット仕様もラインナップしている。フラットな形状のコマと、ビーズ・オブ・ライス(もしくはグレイン・オブ・ライス)、その名のとおり米粒が連なったような細長く丸みを帯びたコマを組み合わせた、1960年代の時計によく見られたレトロなデザインを採用している。実はこのブレスレットもオリジナルモデルにインスパイアされたもので、まさに細部にまで抜かりなくウルトラ-クロン ダイバーのDNAが宿っているのだ。
また、どちらにも交換用の赤いラインが入ったブラックナイロンNATOストラップが付属するのだが、これが生地も作りもしっかりとしたもので、定環にはさりげなくウルトラ-クロンを示す波マークがアクセントとして加わり、オリジナルの尾錠も付く。このNATOストラップにつけ換えるとまた雰囲気が変わるため、よりカジュアルに、よりスポーティにつけたいとき、特に気温が高くなるこれからの季節には大活躍すると思う。
さて、今回実際につけてみて、非常に魅力的に感じたのがダイヤルの仕上げだった。太陽の光が直接差し込む明るい屋外とそれ以外では、ダイヤルの表情が変わるのだ。公式資料を読むと、本機のブラックダイヤルにはグレイン加工が施してあるようだ。これは粒子加工とも呼ばれるもので、ダイヤル表面がざらざらした質感に仕上げられている。これが太陽の光が直接差し込む明るいところではダイヤルに陰影を生み、針やインデックスの存在を浮き立たせることで視認性を高めていた。また、室内やダイヤルに直接太陽光が入らない状況ではダイヤルの陰影が薄れ、こちらもブラックダイヤルと白ベースのインデックスでコントラストが効いていて、よく目に入り、とても見やすくなっていた。表情の違いというだけでなく、どちらの条件でもしっかりと視認性が確保されているところは大きな魅力だと思う。
あえて気になる点を挙げるとしたら、ポリッシュ仕上げの時針だろうか。暗所では角度によって針がブラックアウトしてしまうのだ。とはいえ、時針には夜光が施されているため、そこの部分がブラックアウトすることはない。時間の読み取りに大きな影響を与えるものではないので安心して欲しい。
そして最後に、この時計最大の特徴であるムーブメントについても触れておこう。本機が搭載するCal.L836.6は、オリジナルが搭載するCal.431と同様に3万6000振動/時という高速振動を実現した新型の自動巻きムーブメントだ。時計に耳を当ててみると、ロービートのムーブメントでは決して聞くことのできない「チチチチチ……」という、高速の心地よいリズムが聞こえてくる。このCal.L836.6は、ロンジンではオリジナルのウルトラ-クロンコレクション以来となる、3万6000振動/時のハイビートキャリバーなのだ。
それだけではない。Cal.L836.6はロンジンとしては初めてのTIMELABによるクロノメーター認定を受けたエクスクルーシブなムーブメントでもある。TIMELABは、ジュネーブに本拠を置き、時計に関するさまざまな認定を行う機関。同ラボは独立した中立の立場で運営されており、 TIMELABのクロノメーター証明を公式に取得するには、ムーブメントだけでなく時計全体に対して15日間にわたり、実際の使用状況を想定したさまざまな位置と温度で、ISO 3159:2009の厳格な規格への適合を確認するテストをクリアする必要がある。TIMELABでのクロノメーター認証を受けた時計はこれまでゼニス、そしてルボア(Lebois&Co)と、極々一部のブランドに限られていたが、ここにロンジンの名も新たに加わることとなったのだ。本機では、その証としてTIMELAB認定証明書そのものではなく、TIMELABの認定を受けたことを保証するロンジンの保証カードが付属する。TIMELABでのクロノメーター認証を受けた時計は、まだまだ珍しい存在だ。TIMELAB認定証明書そのものが付属するわけではないのが少し残念だが、TIMELABによる数少ないクロノメーター認定を受けているという事実は、時計への思い入れを高めてくれると感じている。
基本情報
ブランド: ロンジン(Longines)
モデル名: ウルトラ-クロン(Ultra-Chron)
型番: L2.836.4.52.8(レザーストラップ)、L2.836.4.52.9(SSブレスレット)
直径: 43mm
厚さ: 13.6mm
ケース素材: ステンレススティール
文字盤色: グレインブラック
インデックス: アプライドバー
夜光: あり。輝度の高いスーパールミノバをベゼルの数字と12時位置のトライアングル、時・分針、アワーインデックスに使用
防水性能: 300m(30気圧)
ストラップ/ブレスレット: レザーストラップ、およびSS製ブレスレット。
追加情報: 交換用赤ラインの入った尾錠付きブラックナイロンNATOストラップ、およびストラップ交換ツールの入った木製特別ウォッチボックスで販売
ムーブメント情報
キャリバー: L836.6
機能: 時・分表示、センターセコンド
直径: 25.6mm
パワーリザーブ: 52時間
巻き上げ方式: 自動巻き
振動数: 3万6000振動/時
石数: 25
クロノメーター認定: TIMELAB認証
価格 & 発売時期
価格: レザーストラップ仕様は45万9800円、 SSブレスレット仕様は48万7300円(ともに税込予価) ※価格は予告なく変更になる場合があります。
発売時期: 2022年6月発売予定。特別仕様モデル
詳細は、ロンジン公式サイトをクリック。
Photographs:Keita Takahashi