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ジミー・リィ(Jimmy Ly)氏は、ニューヨークの老舗ヌードル店、マダム・ヴォー(Madame Vo)のオーナーシェフであり経営者だ。最近、彼は妻でビジネスパートナーでもあるイェン(Yen)氏とともに2号店をオープンさせた。同店はムッシュー・ヴォー(Monsieur Vo)という名にふさわしく、父親、兄弟、叔父への敬意を込めたベトナム料理を提供するが、本家のマダム・ヴォーは、リィ氏の人生において重要な強い女性の料理という存在からインスピレーションを得ている。
新しいレストランのオープニングでリィ・シェフに会う機会があった。私は料理評論家ではないが、ジェームス・ステイシーに倣って、“もうサイコー!”とだけ言っておきたい。私がベジタリアンのように食べまくっていると、リィ氏が挨拶に近づいてきた。私が最初に気づいたのは、彼の腕に飾られていたホワイトダイヤルのセラミックデイトナだった。この人は時計好きで、その由来を知らなくてはと思ったのだ。
我々の多くがそうであるように、その物語は、いつも腕時計をしていた彼の父親から始まる。彼の父は、英語も話せないままアメリカに渡り、起業家として成功を収めた。その過程で、彼はラドー、モバード、ロレックス、そして非常に特別なヴァシュロンの時計を集めた。若いころに所有していたタグ・ホイヤーのようなブランドを知ったのも、父親がきっかけだった。父が初めて買ってくれた時計は、“ネオングリーンのストップウォッチ付きG-SHOCK”だったと、リィ氏は振り返る。「父のようになりたくて、友達に見せびらかしたのです」
それから数年後、リィ氏は本格的に収集の旅を始めることになる。2017年のマダム・ヴォーのオープン直後、彼はベトナムに渡り、そこで初めてオーデマ ピゲのプラチナ ロイヤル オーク クロノグラフを購入した(だから、彼が遊び半分ではないことがわかるだろう)。その後、母親から初めてロレックスのバットマンをプレゼントされ、その時から本当の冒険が始まったのだ。
そして何より素晴らしいのは、時計への情熱を妻のイェン氏と共有していることだ。彼女は彼ほどマニアックではないかもしれないが、私がムッシュー・ヴォーで食事をしたとき、最初に目についたのは彼の時計ではなかった。そう、イェン氏がつけていたブラックセラミックの34mm AP ロイヤル オークが最初に目に飛び込んできたのだ。マジでカッコイイ。
シェフでありながら、時計をつけて料理をするのが大好きなリィ氏。彼のコレクションから4本、そして最近気になっているという特別な場所を紹介しよう。
彼の4本
ヴィンテージのヴァシュロン・コンスタンタン パトリモニー
時計には、それぞれ意味がある。このヴァシュロンに関しては、父親のコレクションの中心的存在であり、彼自身が時計趣味に熱中するきっかけとなった一品であると、リィ氏は考えている。
それにはもっと深い意味がある。このVCもリィ氏の父親から贈られたものだが、彼にではない。「私たちが結婚するとき、父が本当に妻に贈ってくれたのです」とリィ 氏は言う。「あれは、彼女を義理の娘として迎え入れるためのプレゼントで、彼がずっと持ち続けていた時計だったのです」
ペアのロレックス デイトナ
ペアの腕時計を所有する喜びを味わえるカップルは、そう多くはないだろう。だが、リィ氏とイェン氏は、ローズゴールドのデイトナをブレスレットで、そしてイエローゴールドのフラットブラックダイヤルに赤いアクセントを加えたモデル(モダンなポール・ニューマン)をオイスターフレックスブレスレットで所有している。
「このふたつの時計は、ニューヨーク・タイムズ紙に掲載されたことを記念して購入したもので、私たちにとって重要な出来事でした」とリィ氏は言う。「ピート・ウェルズ氏からレビューを受けた最初のベトナム料理店だったので、その記念、つまり私と妻の功績を記念して、これらの時計を買ったのです」
オーデマ ピゲ ロイヤル オーク オートマティック ブラックセラミック キャロリーナ・ブッチ限定モデル (300本限定生産)
先に述べたように、私が彼女に会った夜、イェン氏は34mのブラックセラミック AP ロイヤル オークをつけていた。だが、それは私が期待したものとは違っていた。スタンダードな34mmのセラミック RO(ブラックダイヤル)は、彼女が以前から欲しがっていた時計だったこともあり、気がつけば非常に長いウェイティングリストに載っていた。しかし、彼女がそのウェイティングリストにいるあいだに別のことが起こった。正規販売店から、まだ発売されていない別の時計があり、興味があるのではないかと知らされたのだ。
ある晩、ブティックのスタッフが彼らのレストランに食事に来たとき、イェン氏がたまたま自分のサーモンダイヤルのROをつけていたことが、この後の展開を決定づけたとリィ氏は考えている。それこそがこの特別な、ブラックセラミックにカラフルなダイヤルを組み合わせた限定モデルだ。
もちろん、その知らせを受けたふたりはすぐに正規販売店に出向いてそれを受け取り、今は家の前に堂々とつけているのは言うまでもない。
オメガ シーマスター ダイバー 300M 007エディション
リィ氏がキッチンでつけている時計、つまり彼のシェフズウォッチだ。「この時計は、ジェームズ・ボンドということで、私がただガシガシ使っている時計なのです」とリィ氏は言う。「ダニエル・クレイグがデザインプロセスについて語ったインタビューを見て、戦車でありながら軽量でありたいと話していたのを覚えています。彼はダメージを与えられるようにしたかったようです」
もちろん、リィ氏はシェフであって諜報員ではない(我々の知る限りでは)のだが、それでもこの時計は彼にとって魅力的なのだ。「わざわざダメージを与えるようなことはしていない」と彼は言う。「でも、この時計をつけているときは、少し気が緩むんです。ストレスがないんです。“ああ、時計に気をつけなきゃ!”ということよりも、自分が何をしなければならないかということのほうが心配なんです」
しかも、それだけでは終わらない。「正直に言うと、ダニエル・クレイグは私のレストランで食事をしているんですよ」
もうひとつ
レストラン: ムッシュー・ヴォー
シェフがほかに何を選ぶかって? ここはリィ氏の領分であり、彼の聖域である。彼の新しいレストラン、ムッシュー・ヴォーは、パンデミックの時代に数え切れないほどの試練に耐えてきた場所であり、特別な場所なのだ。2020年の試練がもたらされる以前、ここはマダム・ヴォー・バーベキューの場所だった。
「パンデミックが起きて、私たちは打ちのめされました」と、リィ氏は言う。「その後、隣で火事があり、ブロック全体が板で囲われ、さらにパンデミックも起こりました。次から次へと大変なことが起こったのです。私たちは泣き続け、あきらめるつもりでした」
しかし彼とイェン氏は粘り強く取り組み、その結果、この場所を再構築し、昨年末にムッシュー・ヴォーとしてオープンさせたのだ。この店は雰囲気もよく、料理も最高だ。ダニエル・クレイグに聞いてみて欲しい。