午前10時30分(アメリカ東部時間)より少し前のニューヨーク。ティファニーネーム入りダイヤルを備えたパテック フィリップのRef.5711/1A-018が535万ドル(約6億740万円)、総額650万3000ドル(約7億3830万円)で落札された。これは今週初めに発表されたオークションで直前になり追加されたもので、売却益はすべてザ・ネイチャー・コンサーバンシー(Nature Conservancy. ※1951年に設立された世界的な自然保護団体)に寄付される。このオークションは、フィリップスがニューヨークで開催する2年ぶりの、そして432パークアベニューの新しいスペースで行われる初めてのライブウォッチオークションでもある。我々はその場に居合わせ、次のような光景を目にした。
オーレル・バックス(Aurel Bacs)氏は14分39秒のあいだ、的確に舞台の主役を務めた。2万ドルから始まった入札は、5万ドル(小売価格)に跳ね上がり、さらに50万ドルに達したが、これはスティール製の5711におけるそれまでの最高記録だったと思う。ロンドンのティファニーでも100万ドルの入札があり、その後は50万ドル単位で入札が行われ350万ドルまで上昇。400万ドルを超えたあたりからは10万ドル単位で入札されるようになった。
この時点で、フィリップスのスペシャリストであるクララ・ケッシ(Clara Kessi)氏とマルセロ・デ・マルコ(Marcello de Marco)氏が担当する電話入札者のあいだで、500万円の大台に乗るまでバトルが繰り広げられた。すると、会場にいたザック・ルー(Zach Lu)というコレクターが飛びつき、5万ドル単位での入札が始まった。クララ氏担当の入札者は、オーレル氏のハンマーが宙に浮くほどの勢いで落札しかけたが、ニューヨークのオンライン入札者が観衆に衝撃を与え、価格を525万ドルにまで引き上げた。そしてイギリスのオンライン入札者が530万ドルに引き上げたあと、もう一人のニューヨークのオンライン入札者(パドル番号9252)が535万ドル(約6億740万円)ですべてを勝ち取り、落札されたのだ。
これにオークションプレミアムを加えると最終的な総合価格は650万3000ドル(約7億3830万円)となり、オークション史上8番目に高い時計となった。
これは非常識なことなのだろうか? 私はそうは思わない。先週の月曜日に発表されたこの時計はすぐに賛否両論を巻き起こした。一部のファンはその外観やビヨンセのようなサプライズを気に入っていた。一方、懐疑的な人たちはティファニーネーム入りダイヤルを備えたパテック フィリップのRef.5711/1A-018を今日の時計市場の問題点を象徴するような、意図的に手に入らない価格が高くなるほどいい顕示的な高級品だとした。ケースバックのテキストは特に非難された。この時計の美しさや市場での位置づけについては、合理的な考えを持つ人々のあいだでも意見が分かれるところだが、この作品とそのオークションでは慈善事業のために650万ドル以上の資金が集まり、さらに時計業界にとっても、ほかでは起こり得なかったような大きな注目を集めることになった。
このようなことは5年前、10年前、15年前にはなかったことだ。犠牲になっている多くの人々にとっては足かせにもなっている。ただ、繰り返しになるが、収益はすべてザ・ネイチャー・コンサーバンシーに寄付されるのだ。また、オンリーウォッチとは異なり、最終的な値札にはプレミアムがついている。フィリップス、ティファニー、パテックの3社は、この時計のオークションでは1ドルたりとも得ていない。
また、ここ数日の議論のなかで失われていたことを指摘しておきたい。Ref.5711/1A-018の全170本はアメリカのティファニーのみ、パテック フィリップを販売するニューヨーク、ビバリーヒルズ、そしてサンフランシスコのティファニー・ブティックのみで販売されることになっている。それ以外の場所でパテック フィリップにどれだけお金を使ったかはまったく関係ないのだ。そのため、この一週間、香港やUAE、ロンドンに住むコレクターたちが動揺していたことは想像に難くない。この時計が、たとえニューヨークのオンライン入札者に落札されたとしても、こうした事情が価格を上げる大きな要因になったと思う。
この結果には、何かふさわしいものがあると思っている。ニューヨークはティファニーとパテック フィリップの関係が生まれた場所だ。最後の、そして最も高価なノーチラス 5711がそこで生まれたのは当然のことなのだ。
今週末から来週にかけての、さらなるオークション情報をお楽しみに!
フィリップス・ニューヨーク・ウォッチオークションの詳細は、こちらでご覧いただけます。