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リシャール・ミルほど特別感の証となった時計ブランドはない。同社は、20年ほどの歴史の中で、数多くの技術的マイルストーンを打ち立ててきた。最近の例を1つ挙げると、私が思いつく他の多くのトゥールビヨンウォッチにとって、危険というよりもむしろ破壊的というべき環境で、成功を収めているプロテニスプレーヤー、ラファエル・ナダル(Rafael Nadal)が同社のトゥールビヨンを着用している(基本的に、それらは極めて繊細な工夫なのだが、期待を覆すのはリシャール・ミル独特の天才的能力であり、トゥールビヨンでも、他の多くの物事でもそれは同様だ)。
とはいえ、こうした技術的成果は、高額な価格設定の前にかすんで見えづらくなることがある。リシャール・ミル体験ストーリーの多くは、時計愛好家の中でもごくわずかな人々しか購入できないことと関連がある。「手頃な価格」という言葉と基本的に無関係な、ごくわずかな人々だ。事実、これらの時計の主な機能は、極めて具体的にオーナーが社会経済的にどこに位置しているか(いわば「超富裕層」だ)を知らしめることであって、リシャール・ミルは長年にわたって、F1と航空宇宙工学に着想を得た設計やデザインの重要な側面を維持することを十分に示して即座に見分けがつくようになったし、現在もそうである(時折、惜しみなく、想像を絶するほどに、模倣されてきたことを付け加えるべきだろう)。
実際、リシャール・ミルのデザインと素材選択の両方において、彼の時計製造はF1マシンと同様のモデルに従っている。つまり、非常に数の限られた製品のユニットあたりのコストをほとんど、あるいは全く考慮に入れずに製造することだ(デザインは意図的な反古典主義であるが、非常に伝統的なラグジュアリーモデルだ。つまり、時間もコストもいくらでもかけるということ)。F1の場合と同様、必ずしも全てのコンポーネントを「社内」で製造する必要はない。F1チームが専門的サプライヤーの恩恵を受けてきたように、リシャール・ミルは必要な性能と美的基準を満たした製造能力をもつパートナーからムーブメントを調達してきた。基本的に、RM(リシャール・ミル)のサプライヤーはヴォーシェ・マニュファクチュールとオーデマ ピゲ ルノー・エ・パピであり、RMはこの戦略によって非常に成功している。結局のところ、ムーブメントは通常、時計の中心的パーツであり、美的観点から不可欠な要素である。
原則的に、RMは全てを社内で行うことが成功の重要な要素であるという、罠になり得る発想に陥るのを避けてきたが、同時にそのブランド要素には自社製造ムーブメントに関係する、議論の余地なき威信がある。今年、RMは最初の自社製キャリバーであるCRMC-1を製造した。これは新しいタイプのダブルスイングピニオン連動機構を備えたフライバッククロノグラフで、RM72-01 ライフスタイル フライバッククロノグラフでデビューを飾った。
同社は、RM 72-01をユニセックスウォッチと呼んでおり(とはいえ、実際の時計愛好家は性別に関係なく、何であれ自分の好みのものを身に着ける傾向があると思う。高級時計製造において男女を区別する製品カテゴリへの執着は、日ごとに古臭さを増している)、4種類のケース素材で発売される。チタン、18Kレッドゴールド、ブラック、またはホワイトセラミックだ。驚くべきことにその価格は、手頃な価格とは思えないとしても、普段RMで感じるほど手の届かないものではない。チタンケースモデルで、2050万円(税抜)からである。
多くの点で、本機のデザインは古典的なリシャール・ミルだ。特徴的なトノー型ケースで、5本のスプラインネジが目立つベゼルが付いている。これにより、スロット付きのネジでは得られない視覚的対称性が実現する。この設計はさらに、従来のようにスロットの狭いエッジにではなく、ネジの直径全体にわたってトルクを(増減させて)均等に分散させるのだ。(事実、これらのネジはむしろボルトのように見える。ボルトとネジの基本的な違いは、前者がナットと一緒にネジの切られていない2つの部品を接続する一方、ネジは部品自体に切られた溝にかみ合うことなのだが)。ケースサイズは38.4 x 47.34 x 11.68mmだ。最後の数字は写真で見る時計の第一印象と一致しないが、実際以上に感じるその厚みは、はっきりと飛び出したベゼルと裏蓋、非常に充実したリューズ、そしてクロノグラフプッシャーによる、このケースの美しさに一部起因するのかもしれない。RMはもちろん、ケースの湾曲した上面と同じ高さにあるクリスタルの厚さを含めないといったような、いかなる種類の不正も行っているとは思えない。
精巧なケース構造は、リシャール・ミルの時計における最も特徴的な側面の1つだ。長年にわたり、RMのデザインにおいてケースとムーブメントがうまく統合される程度にはばらつきがあったとはいえ、それでも、それらは魅力的なデザインの中心的要素となってきた。ケースとムーブメントの統合は美しくかつ機械的である。基本的にムーブメントはそれぞれケースに合わせてカスタムメイドで組み上げられるため、(はるかに)安価な時計製造につきもののスペーサーやムーブメントリングは必要ない。RM 72-01には、例えば、精巧なケーブルサスペンションシステムを備えたRM 27-04のような工学技術は使用されていないが、それでも多くのリシャールの時計同様、ケースとムーブメントの間のインターフェースであるエラストマーショックブロックにムーブメントが取り付けられている(もちろん、コストはRM 27-04の約5分の1だ)。こうした技術的個性を投射された時計としては、30m防水というのは少し低い数字に思えるが、通常使用において(多くの高級クロノグラフと同様)この数字は十分すぎるものだ。
要するに、本機のケース構造と全体的な美学は、極めてリシャール・ミル的なものだ。次にCRMC-1ムーブメントを見てみよう。
Cal.CRMC-1
リシャール・ミルのムーブメントは通常、特に技術的な側面をもつ時計においては(ただし、例えばボンボンウォッチなどは除外する。これについては普遍的な合意があると思う)、非常に技術的な時計製造と、ムーブメントの、時に極めて伝統的な仕上げ技術の組み合わせであり、多くの場合、貴金属と工業用金属のコンビネーションも含まれている。Cal.CRMC-1は長年にわたって確立されたこの流れを汲んでいる。自動巻きで、サイズは29.1mm x 31.25mm x 6.05mm、パワーリザーブは50時間だ。巻き上げはスケルトンのプラチナローターで行われる。
もちろん、これはリシャール・ミル初のフライバッククロノグラフではない。たとえば、2007年に発表されたRM 011は、デュボア・デプラモジュールのヴォーシェ製キャリバーRMAC1による、年次カレンダー付きのフライバッククロノグラフだった。しかしRMによれば、CRMC-1は全てレ・ブルルーのワークショップで製造されている。ムーブメントの伝統的な仕上げには、手作業で研磨された側面や面取りが含まれる。ただし、ムーブメントプレートとブリッジはグレード5のチタンである。
技術的に言えば、このムーブメントは既存の、そしてもちろん、伝統的な機械的ソリューションと、いくらかの新しいソリューションの組み合わせだ。クロノグラフの切り替えはコラムホイールメカニズムによって行われる。ほとんどのフライバッククロノグラフと同様、クロノグラフ動作中に下部プッシャーを押すとクロノグラフはリセットされるが、停止はせず、下部プッシャーをリリースすと、クロノグラフは即座に動作を再開する。上部プッシャーでクロノグラフを停止してから下部プッシャーを押すと、クロノグラフはゼロにリセットされ、完全に停止する。
しかし、このムーブメントの最も珍しい特徴はクラッチシステムだ。クロノグラフの最も一般的な3つのクラッチメカニズムは、水平クラッチ(例えば、ヴァシュロン・コンスタンタン ヒストリーク・コルヌ・ドゥ・ヴァッシュで使用)、垂直クラッチ(ロレックス デイトナで使用)、そしてETA/バルジュー7750とその無数のバリエーションで最も一般的に使用されている、スイングピニオン機構である。
これらはそれぞれ固有の特性と利点をもつ。水平クラッチシステムには歴史があり、またもちろん、昔ながらの機械美を備えている。垂直クラッチはクロノグラフが既に動作中の輪列に加える負荷を減らし、水平クラッチシステムで発生することのある、クロノグラフ秒針のわずかな針飛びを減らすか、あるいは全くなくしてしまう。スイングピニオンはコンパクトかつシンプルで、信頼性が高い。どのシステムを使用するにせよ、通常、クラッチシステムは1つしかないのだが、Cal.CRMC-1は私が知る限り、独自のダブルスイングピニオン連動機構を使用しているのだ。
従来の水平クラッチシステムでは、クロノグラフの動力はムーブメントの4番車から供給される。この歯車は通常1分で1回転するから、ギアリングの観点からすれば、この歯車を使ってクロノグラフの秒針を駆動させるというのは単純明快だ。一方で、クロノグラフの輪列を駆動させる場合の欠点は、4番車が香箱から最も遠い(隣のホイールはガンギ車)ため、エネルギー量が最も少ないことである。そのため、クロノグラフをオンにすると必然的にテンプホイールの振り角が低下し、精度の安定性に悪影響を与える可能性がある。とはいえ、完成度が高くてしっかり調整された水平クラッチクロノグラフなら、一般にこの振り角の低下は実用に問題のない程度にまで最小化できる。
それでも、時計製造企業は何十年にもわたって代替クラッチメカニズムを試してきた。そういうわけで、水平クラッチおよびスイングピニオン機構の両方が実現したのだ。そして、リシャール・ミルの新しいムーブメントは、クロノグラフの秒針と分針に2つの異なるスイングピニオンという別個の駆動システムを使用している。この新しいキャリバーはムーブメントの異なるパーツから駆動エネルギーを引き出しているわけだ。
Cal.CRMC-1は、ダブルスイングピニオン連動機構を使用して負荷を分散する。クロノグラフ秒針は動作中の輪列の4番車によって駆動するのだが、分針はモーションワーク(日の裏装置)の歯車によって駆動する。日の裏装置は、時計の時針と分針を動かすもので、香箱に連動しているため、4番車、ガンギ車、レバー、テンプへの動力伝達経路から切り離されている。もちろん、2つめのクラッチシステムによって摩擦荷重は増えるのだが、日の裏装置が香箱の回転によって直接駆動するため、実際のパワーロスはおそらく無視できるレベルとなるのだ。
価格が大空のかなたに設定されているため、リシャール・ミルの時計について語り、評価する際に、「それだけの価値があるか」という質問を全く避けるのは難しいだろう。まあ私は常に、聞きなれた次の話を思い出す。ランボルギーニが欲しくて、実際に購入する財力があるのなら、すべき質問は「それだけの価値があるか」ではなくむしろ、「何色か」だ、というあの話である。
リシャール・ミルも同じなのだ。チタンモデルが2050万円(税抜)からという価格設定が示す通り、この時計のターゲットは価値と価格の一般的な比較考量を重要とは感じない人々であり、RMで確かに得られるもの(そしてこれは長年にわたって真実となってきたのだが)とは、議論の余地なくユニークな、時計製造技術、ケーステクノロジー、ムーブメントサスペンションテクノロジー(RMがトップクラスの耐衝撃技術を自由に操れることには異論がない。リシャール・ミルが行ったように、耐衝撃性を実証するために自社のトゥールビヨンウォッチを床に投げて、平気でいられるようなブランドオーナーはほとんどいないはずだ。さらに、史上最強のテニスプレーヤーの1人が同社の時計を手首に着けていることは言うまでもない)のコンビネーションであり、否定しようのないユニークなデザインと、社会経済的威信の極めて強力な組み合わせでもある(ところで、ワシのような目をしたジェームズ・ステイシー<James Stacey>が私に指摘した。ダイヤルの数字は3、8、11で、聖書の創世記3章8-11節において神はアダムとイブにリンゴを食べたかと尋ねている...。RMは我々の間の裕福な遊蕩者たちに向けて、かすかで自己認識に満ちたブランドアピールをそこに込めたのではないだろうか!)。
私は発足当初からこのブランドをフォローしてきたが、ここ数十年で興味深いことが起こっている。リシャール・ミルのデザイン言語はますます、ブランド独自のポストモダン古典主義を定義づけるように見え始めているのだ。革命の成功に必須の特徴だろう。革命は確立された制度になってゆく傾向をもつが、この新しいムーブメントは同社がこれまで以上にゲームを楽しんでいることを示すようで、リシャール・ミルの時計製造に興味深くて思慮深い、新たな次元を加えるものである。
リシャール・ミル RM 72-01 ライフスタイル フライバッククロノグラフ:ケース、ブラックまたはホワイトセラミック、チタン、および5Nレッドゴールド。それぞれにマッチするリューズとプッシャー; サイズ、38.4mm x 47.34mm x 11.68mm、30m防水。5スプラインRMスクリューで固定された、3つのパーツからなるケース構造; サファイアクリスタルの前面および背面。ムーブメント、Cal.CRMC-1、秒、分、24時間積算計を備えたフライバッククロノグラフ、コラムホイール制御システムとダブルスイングピニオン連動機構。リューズ位置を表示するファンクションインジケーター、セミ瞬間日送り。振動数、2万8800振動/時、ベリリウム銅製フリースプラング・アジャスタブルマステンプと高速回転ゼンマイバレル、39石; パワーリザーブ50時間。セラミックベアリング内で回転するプラチナローターによる自動巻きシステム。グレード5 チタンモデルで2050万円〜(税抜)※セラミックスモデルは来年以降の販売を予定。
詳細はリシャール・ミル公式サイトへアクセス。
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