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Talking Watches モリッツ・グロスマン・ジャパン代表 工藤光一氏の時計コレクション

ファッションと時計の世界で審美眼を磨いてきた工藤光一氏。かつて憧れた1本から、意外な魅力をみいだした時計まで多彩なコレクションを通して、自分にとっての“本物”を選ぶ楽しさを明かした。

モリッツ・グロスマン・ジャパンの代表を務める工藤光一氏は、ファッションと時計の両分野で経験を重ねてきた人物だ。アパレル業界でキャリアをスタートし、神田のS&Jハイストン(編注;1970年代後半から1980年代前半に起こったサーフィン・スケートボードブームの時代に一世を風靡した伝説的なスポーツ&セレクトショップ)を皮切りに、フランスやイタリアを中心に良質なブランドを日本に紹介してきたほか、ナポリ屈指のサルトリア(仕立て工房)であるコスタンティーノ(イタリカ・ジャパン)の日本担当も務めた。

 時計業界に身を置くようになったのは1997年で、きっかけはフランク ミュラー ジャパンへの転職だったという。なぜフランク ミュラーだったのか、何がきっかけだったのか? その答えは動画のなかで語られているが、以来、複数の輸入代理店などを通じて高級時計の輸入・販売に携わってきた。関わったブランドにはA.ランゲ&ゾーネ、ロジェ・デュブイ、ユリス・ナルダン、パルミジャーニ・フルリエ、クロノスイス、ベル&ロス、ハリー・ウィンストン、モーリス・ラクロア、タイメックスなど、多くのブランドが名を連ねる。

この1冊の本との出合いが工藤氏が時計業界に身を置くきっかけとなった。

 工藤氏に転機が訪れたのは2012年のこと。かつて自身が携わったブランドの出身者たちが集まるモリッツ・グロスマンと出合い、2014年6月に日本法人を設立。翌2015年には東京・小石川の播磨坂に世界初のオンリーブティックとして、モリッツ・グロスマン ブティックがオープンした。ブランドを再興したクリスティーネ・フッター氏とは、工藤氏がA.ランゲ&ゾーネを担当していた時代からの旧知の仲。工藤氏は同氏の信頼を得るパートナーとして、ブランドの魅力を日本の時計愛好家たちに向けて発信している。

 そんな工藤氏が所有するコレクションには、どんな時計が並ぶのだろうか? 


フランク ミュラー カサブランカ クロノグラフ

 時計業界におけるキャリアのきっかけとなった時計として紹介してくれたのが、このフランク ミュラー カサブランカ クロノグラフだ。ただし、工藤氏がブランドと出合った1997年当時に購入したものではなく、後年(コロナ禍)に手に入れたものだという。出合った当時は高くて手が出なかったが、原点の時計だけに、いずれ手に入れたいと探していたといい、ようやく好みにマッチする個体を見つけて購入した。

 本作は、トノウ カーベックスのオリジナルとなる2851ケース(縦45mm×横30mm)に連なるワンサイズ上の5850ケース(縦45mm×横32mm)を持つクロノグラフで、当時からサイズバランスがよく好きだったという。今はほとんど出番はないそうだが、思い出深い1本としてコレクションに収まっている。


マハラ スパルビエロ

 知る人ぞ知るブランドであるマハラ。1980年代に生まれた、イタリアンデザインを特徴とするスイス・ジュネーブ発の時計ブランドで、2000年にフランク ミュラーに買収された。このスパルビエロは、イタリアの爆撃機の計器をモチーフとしたコレクション。当時はまったく興味がなかったものの、ここ数年、気になる存在になっていたそうで、気が付けば4本も購入していたという。

 所有する4本はいずれも32mmサイズで、ダイヤルのデザインもほぼ同じだが、リューズがゴールドのものや、ラグのあいだにゴールドが施されたものもあるなど、少しずつ仕様が異なるところが興味深い。なぜそのような仕様違いが生まれたのか? その考察は動画のなかで本人が語っている。 


オメガ メガクォーツ 32KHz

 1970年代にオメガが開発した初期の高性能クォーツウォッチ。ハンガリー・ブダペストのコレクターから購入したという1本。カレンダーがドイツ語表記のモデルで、状態が非常によく、価格も手頃だったことから手に入れた。

 高性能がゆえにムーブメントが大きく分厚く、ケースもそれに伴って大きく分厚い。ものとしての迫力には心を引かれるものの、今の工藤氏にとっては重く着けづらいため、ほとんど身に着けることはないとのこと。


エテルナ スモールセコンド(手巻き)

 オメガ メガクォーツ 32KHzとは対照的に、非常に小ぶりなCal.600を搭載するエテルナ。エテルナと言えば、自動巻きのエテルナ マチックが有名だが、工藤氏が手に入れたのは手巻きのスモールセコンドウォッチだ。

 東京・森下の有名アンティークウォッチ専門店「ケアーズ」の川瀬氏に時計のムーブメントで最もおすすめのものは何かと尋ねたところ、オメガの30mmキャリバーやロンジンのCal.10.68、Cal.12.68という回答ではないかという予想に反し、返ってきたのは手巻きのエテルナだったそうだ。その理由が、長年ヴィンテージウォッチの修理・メンテナンスにこだわる川瀬氏らしいものだったことから思わず納得。今年、たまたま好みのダイヤルを備えたモデルと出合い、購入したという。


ラルフ ローレン スリム クラシック コレクション 867 モデル

 カルティエのタンクを手に入れた工藤氏が研究の末に“タンクの新解釈”、“21世紀のタンク”として心を引かれた1本。それがこのラルフ ローレンの角形ウォッチだ。

 カルティエのタンクとはバランスがまったく異なり、ラグ幅もバックル幅も本家のタンクとは違うサイズ感であるが、それが手首に着けたときの迫力のある存在感につながっていると話す。また、工藤氏はケースやダイヤルに施されたギヨシェなどの大胆なスタイル、それとは対照的な華奢なピンバックルなど、そのバランス感にユニークさをみいだしている。ケースは27.5×27.5mmの角形で、ケース素材は18KWG。手巻きのCal.RL430(ピアジェ製)を搭載するドレスウォッチであるが、この時計はカジュアルに着けてこそより魅力的なのではないかと話す。


モリッツ・グロスマン ベヌー ヘリテージ 37 アラビック ジャパンリミテッド

 現在携わっているモリッツ・グロスマンについては、アンティークの懐中時計のほか、もちろん腕時計もコレクションしている。そのひとつがモリッツ・グロスマン ベヌー ヘリテージ 37 アラビック ジャパンリミテッドだ。

 工藤氏の仕事では、当然ながらモリッツ・グロスマンのプロダクトを日本で販売し、ブランドの魅力を広めることが大きなウェイトを占めるが、それだけではなく日本市場に向けた限定モデルを本国とともに作ることも重要だ。むしろ、この日本限定モデルの存在が、モリッツ・グロスマンの日本における評価を高める大きな原動力になったと言っても過言ではない。日本法人が設立されてから10年以上経つが、これまでに10種類以上の日本限定モデルがリリースされてきた。

 もともと小径サイズのムーブメントは、本国ドイツではレディス向けに作られたものだそうだが、それにスモールセコンドを加えて仕立て直したものが日本限定モデルには多い。本作もまさにそうした時計のひとつで、ブランドのファーストモデル「ベヌー」のスタイルをベースに、37mmの小ぶりなケースにクラシカルなアラビアインデックスと美しいブラウンバイオレットの自社製針を収めている。


時計収集の原点、そして工藤氏にとっての時計とは?

“本物”であること。自分にとっての“本物”は何かを見分けて、集めることが大切だと思っています。

– 工藤光一氏

 ファッションと時計。工藤氏が歩んできたふたつの世界をつなぐのは、ものをよく見て、その価値を自分の感覚で確かめる姿勢なのだろう。服の仕立てや素材に目を凝らすように、時計の造形や細部のつくりを見つめる。そして、その仕事のどんなところに心が動くのかを探っていく。“本物”という言葉に添えられた“自分にとっての”という一節には、そんな工藤氏のものとの向き合い方が表れている。

 今回のコレクションにも、その眼差しは一貫していた。4本を集め、わずかな仕様の違いにも目を向けたマハラ。独特のバランスに魅力をみいだし、カジュアルに着ける楽しみを語ったラルフ ローレン。そして、かつて憧れた姿を忘れず、年月を経て手に入れたフランク ミュラー。それぞれを選んだ理由に耳を傾けると、工藤氏が何を美しいと感じ、どんな出合いを大切にしてきたのかが見えてくる。

 工藤氏にとって時計とは、自らの美意識と、歩んできた時間を確かめるための存在なのかもしれない。経験を重ねれば、以前は気に留めなかったものにも新たな魅力が見えてくる。その発見を楽しみながら、自分にとって大切なものを選び取っていく。そうして集まった時計には、持ち主だけの物語が宿る。工藤氏のコレクションはそんな豊かさを教えてくれた。


動画で紹介しきれなかった工藤氏所有の時計たち

Video by Michiko Takio, Yosuke Sato、Video Direction and Edit by Marin Kanii、Video Produced by Yuki Sato、Photos by Kyosuke Sato(Watches)