ADVERTISEMENT
※本記事は2013年5月に執筆された本国版の翻訳です。 掲載されている相場も執筆当時のものです。
ヴィンテージウォッチの世界は面白い。“ははは”ではなく、“ふむふむ、なるほど”という感じだ。一昔前に販売されていた腕時計の価格の山と谷は、マクロレベルの経済全体、そのブランドや時計が現在どのように認識されているか、そしてある特定の側面がその時代のコレクショントレンドにどのように関わっているかなど、さまざまなことと関連している。このリストでは、我々が今よりももっと高く売れるべきだと思う10本の時計を紹介し、その理由を説明する。なお、このリストにはロレックスは1本も入っていない。
1. ホイヤー ブンデスヴェーア フライバック クロノグラフ(トップの写真のモデル)
世の中には、本物の軍用時計にしか興味がないというコレクターがいる。その魅力は何だろうか? 軍用時計は、A)民間人には支給されなかったため、理論上はかなりの希少価値があるはずだ。B)堅牢性と用途を考慮して設計されているため、一般的によくできている。そして、C)ここでどんな軍隊のことを言っているのかにもよるが、自由な世界を救う役割を果たしている。ここにあるホイヤーは、非常に多くの魅力を備えているが、これらの時計はまだほとんど苦労せずに手に入れることができる。ブラックダイアル、回転ベゼル、“3H”のようなクールなミルマーク、完全に現代的なサイジング(42mm)、そして何といっても手巻きのフライバッククロノグラフだ! これは素晴らしい。ホイヤーはフライバックをあまり作らなかったが、このモデルは特にパイロットのために作られた。また、これらのモデルにはケースバックに超かっこいいシリアルナンバーが付いている。さらにこれらはホイヤーの全盛期に製造されたもので、同社のクロノグラフが世界で最も正当なものであった時代のものだ。モータースポーツとのつながりをもつホイヤーは、ノスタルジーの世界で圧倒的な存在感を放っているが、この時計はモナコと並ぶ存在であると我々は考えている。しかも、3000~4000ドルでいつでも手に入れることができる。
2. IWC マークXI
ミリタリーをテーマに話を続けると、IWCのマークXIは、現在のパイロットウォッチと同じくらい純粋なモデルだ。1948年に発表されたこのモデルは、英国国防省のためにシャフハウゼンで製造されたもので、機能性のみを考慮して作られている。36mmのケースには、現行モデルの原型となったパイロットダイヤルが収められ、素晴らしいIWCのCal.89ムーブメントを囲むように耐磁ケージが配置されている。多くの人が、Cal.89は20世紀の偉大な手巻きムーブメントの一つであると考えており、44日間のテスト期間を経て完成した(気温-5℃から+46℃の範囲で5つのポジションで調整)。ダイヤルは非常にクリーンで、後期モデルでは6時位置に丸で囲んだ“T”の文字が入っている(ロレックスのミルサブと同じだ)。この時計は、IWCのパイロットウォッチの全シリーズや、現在市場に出回っているほぼすべてのパイロットウォッチなど、数え切れないほどの時計に影響を与えた。マークXIにはジャガー・ルクルトを含むほかのメーカーも参加していたが、時計コレクターの間で最も有名になったのはIWCだ。しかも、現在IWCが提供している(※執筆当時)ベーシックなパイロットウォッチ・マークXVII(ETA2892搭載)とほぼ同じ価格で手に入れることができる。マークXIは非常に優れた時計であり、希少性も高いため、本来であればもっと高値で取引されてもおかしくない。しかし、注意したいのは、丸で囲んだT字型のトリチウムダイヤルが採用されたのは1962年になってからであり、1962年以前の発行日となっているマークXIでトリチウムダイヤルのものがあれば、それは交換されたものということだ。
3. ホイヤー 1970年代製のカレラ キャリバー11
通りすがりの人に「Cal.11が発売されたのはどの時計ですか?」と聞けば、おそらく無表情で黙って後ろ向きに去って行くだろう(正直に言うと、ほとんどの人は機械式時計のことを知らないのだ)。だが、街行く標準的な時計愛好家に同じ質問をしたならば、「モナコに決まっているじゃないか!」と言われるはずだ。そして、それはまったくの間違いではないが、完全に正しいとも言えないだろう。世界初の自動巻きクロノグラフともいえるホイヤーのCal.11は、モナコ、オータヴィア、カレラの3モデルが同時に発売された。確かに初期のモナコやオータヴィアはコレクターの間で大ブームになっているが、初期のカレラ(極初期の“クロノマチック”カレラを除く)は、今でもちょっとした金額を払えば手に入る。なぜか? ケースがモナコやオータヴィアほどファンキーではないからかもしれないが、我々に言わせれば、最終的には重要なムーブメントを搭載した美しい時計であり、ほかの2つのCal.11勢よりもはるかに汎用性の高い外観をもっている。Cal.11のカレラは素晴らしい時計であり、オータヴィアやモナコが大振りな膨らみのあるケースでクールなレトロ感を醸し出しているのに対し、カレラはそこまで時代遅れではなく、同じくらいクールだ。このモデルの価格帯は、コンディションやダイヤルの構成によって異なるが、良いモデルであれば3500ドルは必要だろう。これがオータヴィアやモナコのように流行したら、2倍の値段になるはずだ(補足:私は4年ほど前に3200ドルで“シフェール”オータヴィアを購入したが、数ヵ月前に9000ドル以上で売却した)。
4. ブライトリング トップタイム
かつてアウトドローモの友人、ブラッドリーが指摘したように、モータースポーツ界ではホイヤーが注目されているが、ブライトリングもなかなかのものだった。ブライトリングのトップタイムにはさまざまな種類があり、伝統的なケースに手巻きムーブメントを搭載し、素晴らし いダイヤルを備えていた。初期のホイヤー カレラが、初期のロレックス デイトナと同じようなもので、価格もほんの少ししか変わらないことを考えると、ブライトリングのトップタイムも、初期のカレラと同じように価格もほんの少ししか変わらないということになる。 見た目が良くて、大手のブランド。これだけで十分だ。2500ドルで未使用の、つまりミント品のトップタイムが手に入るのだ。
5. GUB ランゲ Cal.28
A.ランゲ&ゾーネはその昔、非常に優れた懐中時計を製造していた。今では非常に優れた腕時計を製造しているが、それまではほとんど何も製造していなかった。それは、戦時中にドイツ政府から“GUB”、ないしは“Glashutte Uhrenbetriebe”という名称で、軍用・民生用の安価な時計を製造するように指示されていたからである。GUBはグラスヒュッテにあったすべての時計メーカーを吸収し、一流の時計メーカーを、ごく基本的な時計を製造するシンプルな時計工場に早変わりさせたのだ。しかし、それ以前はランゲ28と呼ばれるムーブメントが生産されていた。ランゲ28は、1994年以前にランゲが設計・製造した唯一の腕時計用キャリバーで、懐中時計用のキャリバーをベースにしており、ランゲ社が製造する最高品質を示す“Q1”マークが付けられている。これらの時計は非常に希少であり、そのほとんどがランゲ自身のサインではなく、ダイヤルやムーブメントに“GUB”のサインが入っているため、価値が薄れてしまうことが多い。ダイヤルの“Q1”とキャリバーの28という数字を見て、それが冷戦時代のドイツで大量生産されたものではなく、オリジナルのランゲの孤高の遺物であり、現在の壮大なブランドの前身であることを知るのは、ごく少数の真の時計マニアだけだ。というのも、ランゲ28が入っていないGUBのサイン入り時計は、汚れたチューブソックスと同じくらいの価値しかないからである。 つまり、ダイヤルに“ランゲ”や“ランゲVEB”と書かれていても、中にランゲ28が入っている証拠にはならないのだ。しかし、これだけの品質と重要性を備えたものを2000~3500ドルの価格帯で手に入れようとすれば、それなりの努力が必要となるだろう。
6. ジャガー・ルクルト メモボックス アラームウォッチ
1950~60年代のジャガー・ルクルト製自動巻きメモボックスは、ヴィンテージウォッチのなかでも最もお買い得なモデルだ。ジャガー・ルクルトは世界で最も優れたマニュファクチュールのひとつであり、その地位は今も昔も変わらない。そして、メモボックス アラームウォッチはジャガー・ルクルトの真髄を表している。メモボックスは、手巻きと自動巻きの両方のバージョンがあり、ケースやダイヤルも無数にある。それらのほとんどは、多くの人から愛されるダイビングウォッチ「ポラリス」に搭載されているのとまったく同じムーブメントを使用しており、通常は1万5000~2万ドルで販売されている。また、最新のジャガー・ルクルトのメモボックスと比較しても、文字通り、ほんのわずかなコストで手に入れることができるのだ。それはなぜか? 世の中には多くのモデルがあるが、それでもクールであることに変わりはない。特にスティールケースにブラックダイヤルのモデルを見つけることができれば、なおさらだ。オリジナルの自動巻きSS製メモボックスが2500ドル前後ならおすすめするが、特別なものはそれ以上、奇抜なものはそれ以下の価格となるだろう。中央のダイヤルには注意して欲しい。しばしば交換されているからだ。
7. ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ ピゲ&IWC製のゴールドドレスウォッチ
ヴァシュロン・コンスタンタン、オーデマ ピゲ、IWCなどの一流ブランドの美しいヴィンテージドレスウォッチは、思ったよりもずっと安く手に入れることができる。60年代の金無垢ドレスウォッチを手に入れるには、どれほどの費用が必要なのか話をすると、ほとんどの人が衝撃を受ける。なぜか? というのも、当時のドレスウォッチは多くがイエローゴールドだったからだ(ローズゴールドもあるし、ごく希にホワイトゴールドもあるが、その場合、値段はもっと高くなる)。だが、ここではゴールドの話をしており、フォーマルな場面で使う時計の話をしているのだから、あまり大きなものはいらないだろう。繰り返しになるが、時刻表示のみの比較的シンプルな、時に時代遅れに見える時計は世の中にたくさんあり、よく探せばお買い得なものが見つかるはずだ。これらの時計の仕上げは3万ドル以上で販売されている同ブランドのドレスウォッチと同様に素晴らしいものだが、ソリッドケースバックからは見ることができない。しかし、それを気にする必要はないだろう。IWCのイエローゴールド無垢のドレスウォッチなら、ケースサイズ、ダイヤル、コンディションにもよるが、2000ドル〜4000ドルの間で購入したいところだ。APやヴァシュロンなら4000ドル〜6000ドルの範囲で、掲載したモデルのように特別なものの場合はそれ以上の値段になるだろう。しかし、これらの時計が18金無垢のケースに収められていることや、誰が作ったものかを考えると、とてもお買い得だと思う。
8. オメガ クロノストップ
クロノストップは、オメガの歴史のなかでも奇妙で忘れられがちなものの一つだが、我々にとっては、ただただ素晴らしいものだ。時計以上の機能をもち、完全なクロノグラフではないクロノストップは、実質的には60秒タイマーだ。変わったダイヤルやケースもあったが、我々のお気に入りは手首の下に装着する“ドライバーズ”バージョンで、クラスプは特定のブレスレットを使用することを目的としていた。少なくともオメガは当時、何かに挑戦していた。この時計は中古品市場ではたいてい不人気で、400ドル〜800ドルの間で入手できる。
9. カルティエ 機械式ムーブメントを搭載したタンク
1910年〜1960年代にかけて、カルティエは年間100本以下のタンクを製造していた(もちろんすべて機械式だ)。 1969年には年間約800本のタンクを製造していたが、それでもまだ多くはない。ヴィンテージタンクの素晴らしいところは、ピアジェやオーデマ ピゲ(上の写真)のように、多くの素晴らしいムーブメントが搭載されていることだ。つまり、20世紀最高のデザインハウスの最も重要なデザインのひとつであり、非常に優れた手巻きムーブメントが搭載された時計が、ほとんどの場合、1万ドル以下で手に入れることができるのだ。
10. これまで製造されたほぼすべてのメカニカルセイコー
ヴィンテージのセイコーに関して、「おぉ、これはお金を払うべき素晴らしい時計だ」ということ以外に何か言うことがあるだろうか? セイコーは1913年から、グランドセイコーは1961年から機械式時計を製造しており、クールなデザインや興味深いハイビートのムーブメントがたくさん存在する。価格はセイコー5のような100ドル以下のものから、GSの初期モデルのような数千ドルするものまで、かなり幅がある。しかし、スイス製ではなく日本製だからといって、安売りされる理由にはならない。コレクション用ならグランドセイコーがおすすめだ。古き良き時計を楽しみたいのであれば、ヴィンテージのメカニカルセイコーであればどれもいいだろう。