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スーパールミノバの発明以来、時計製造における最も興味深いトレンドのひとつは、時計ブランドがこの夜光素材を視認性のためだけでなく、装飾的な目的にも使用する意欲的になったことである。スーパールミノバは、夜間にダイヤルの視認性を確保するために、危険で有毒な寿命の短い放射性物質の代替として生まれた。ルミノバは、ラジウムやトリチウムのように常時発光しているわけではないが、前者の危険性や後者の比較的短い寿命でもないため、1990年代半ばから後半にかけトリチウムに代わって導入されて以来、スーパールミノバは退屈するほど長いあいだ使用できることが判明している。
つまり、光を蓄えて発光する能力が失われることを心配することなく、時計の恒久的なパーツとして使用することが可能なのだ。ムーンフェイズディスクにこの素材を使用するのは、暗闇でも読めるという実用性もさることながら、より趣向に富むという点でまさにうってつけの場所である。
アーノルド&サンは、特大のムーンディスクと大きなダイヤル開口部を持つムーンフェイズ表示を得意としており、シングルムーン、ダブルムーン、いずれの仕様も展開している。この旧正月(今年は寅年)には、スーパールミノバでコーティングされた月を搭載したパーペチュアル・ムーンウォッチを製作した。本機は夜には非常に魅力的な光のショーを見せてくれることだろう。
“パーペチュアルムーン”という名称は少し語弊があるかもしれない。この時計は永久カレンダーではないので、なぜ同社が“パーペチュアル”と呼ぶのかは完全には不明だが、122年で1日の誤差という、ハイエンドウォッチのなかではともかくも、従来のムーンフェイズ表示の2年半よりはるかに優れた精度で表示できることを指しているのだろう(高精度ムーンフェイズウォッチの進化は、ここ20年ほどのあいだに現代の時計製造の大きな特徴となっており、なかには信じられないような精度を達成した時計もある)。
名前の意味はともかく、この時計に実際に触れてみれば、とても魅力的な時計に映るはずだ。暗闇で光るものは、ちょっと不思議な感じがして、大人の趣味や洗練された感覚とは無縁の、より感性の部分に訴えかけてくる。確かに、ちょっとしたカラクリ志向ではある。人気シェフのトーマス・ケラーのサーモンコルネ(円錐形のクラッカーに生クリームとサーモンのタルタルが入ったもの)を思い起こさせる。メニューを読めばそれが何かは完全にわかっているはずなのに、どうしても脳がアイスクリームコーンと感じてしまい、彼の術中にハマってしまうようなものだ。パーペチュアルムーン イヤー・オブ・ザ・タイガーの暗闇で光る巨大な月もまた同じである。カラクリ的であるかもしれないが、それは批判的視点をほとんど瞬時に通過してしまう。
この時計の他の部分もそれなりに印象的だ。今年は旧暦の寅年のため、ダイヤルには壬寅(みずのえとら)が描かれており、その表面にはスーパールミノバが施された滝が描かれる。寅のモチーフはうまく表現されているが、もし私がこの時計のひとつを手にしたとしたら、暗い部屋でUVフラッシュライトを手に雰囲気を盛り上げたいと思ったときに、巨大な月の円盤に夜光を光らせ、それがトーチのように灯るのを楽しむ以外にはないだろう。もし十分に凄い芸なら、一発芸でも十分評価されるものだ。
アーノルド&サン “イヤー・オブ・ザ・タイガー”パーペチュアルムーン。ケース、18Kレッドゴールド、42mm×12.16mm、フロントとバックにサファイアクリスタル。30m防水。
ダイヤル:スペキュラーヘマタイト製、18Kローズゴールドにエングレービングされた壬寅(みずのえとら)、ローズゴールドパウダーとスーパールミノバを手作業でペイントした風景画。空はブラックアベンチュリンガラスで表現、スーパールミノバによるハンドペイントの星、月はスーパールミノバを塗布したマザー・オブ・パール製。
ムーブメント:Cal.A&S1512、手巻き、34mm×5.35mm、パワーリザーブ:90時間、27石、振動数:2万1600振動/時。時、分表示。122年に1日の誤差のムーンフェイズ、ケースバック側に第2ムーンフェイズ表示。
8本限定生産、価格 5万2900スイスフラン(約662万8000円)。
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アーノルド&サンについての詳細は、公式Webサイトまで