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HODINKEEのスタッフや友人から、なぜその時計が好きなのかを語ってもらうシリーズ“Watch of the Week”。本記事の著者は、米国中央情報局(CIA)の元諜報員(匿名希望)だ。
カブール国際空港からヴィンテージ級のロシア製MI-17ヘリコプターが飛び立つと、私はアフガニスタンの活気ある首都を見渡し、注目すべき場所を心に刻んだ。2000年代後半、私はCIAに入る前に、アメリカ国防総省を顧客とする民間企業で働いていた。カブールは比較的安全な場所だが、それでも戦場であることに変わりはない。今朝、カブールのダウンタウンで起きた車両運搬式即席爆発装置(VBIED)の攻撃は、常に危険であることを思い知らされるものだ。
私はドイツ製ヘッケラー&コッホMP5サブマシンガンから利き手を離し、癖でついチタン製のブライトリング エアロスペースの両方向回転ベゼルを操作してしまう。リューズを押してデジタルクロノグラフを作動させ、南方のガルデスまでの比較的短いフライトの時間を測る。
元海軍特殊部隊の“バド”はこの時計に気づき、ダイヤルに印刷されたヨルダンの紋章は、私がアルカイダに捕らえられたときに役立つのか、それとも危険に晒すのか冗談交じりに尋ねた。ヨルダンの情報総局(GID)は、世界的なテロとの戦いにおいて多くの成功を収めた有能な情報機関であり、多くのテロリスト集団から恐れられてはいないまでも、尊敬されているという共通認識が、この絶望的な状況で発せられるユーモアの根底にあった。私はそれを笑って受け流す。
遡ること4年前、私は大学生として中東に留学していた。9.11以降に招集された多くの人々と同様、私は若い頃、中東の複雑さを研究し、アラブ世界に親しみを抱くようになった。ヨルダン・ハシミテ王国はアメリカにとって強力な同盟国であり、この地域を理解する上で絶好の学びの場だった。このような思いから、私は言語、文化、時事問題に没頭するためにアンマンを訪れた。
幸運にも、アブドッラー2世・イブン・アル・フセイン国王がワシントンD.C.を頻繁に訪問されているあいだに、何度もお会いすることができたのだが、私は国王陛下と親しいわけではなかった。だから、ホテルのロビーで、いかにもムカーバート(مخابرات:治安部隊を意味する)らしい身なりの良いヨルダン人が近づいてきて、国王がヨルダンの特殊作戦訓練に出席するよう求めているとあっさり告げたときは、驚いた。私はその日の朝、ドバイに出発する予定だったが、国王が出席を“要請”すれば、行かない選択肢がないことを、私は十分に理解していた。
1時間後、私はハシェミット王宮にある国王の執務室に座っていた。比較的カジュアルな会談で、隣国イラクで進行中の戦争と、この地域におけるアメリカのテロ対策を支援するヨルダンのコミットメントの両方について話し合った。
話の合間にアブドゥラ国王は、私の腕に巻かれたジャガー・ルクルトのマスター・ホームタイムを指しながら、時計に興味があるかと尋ねてきた。この時計は父から贈られたもので、特別な意味がある。しかし、これは私の唯一の時計なので、時計コレクターとは思わないと答えた。すると国王陛下は、アラブでは時計は深い意味を持ち、時計を贈られることは最高の栄誉であると説明された。
この地域では、時計は外交的に深い意味を持っていることを知った。外交やビジネスにおいて、政府高官は個人的な関係を認識し、尊重し、アラブ世界のホスピタリティを示すためにスイス時計を贈るのだ。また、中東の湾岸諸国では、王室や軍隊の紋章を時計のダイヤルに入れることが多かった。
アブドラ国王は、自分の腕時計を確認すると、机から立ちあがった。糊のきいた迷彩服に身を包んだ彼は、シグ・ザウエル社製の銃のチャンバーチェックで、弾が装填されていることを確認すると、ホルスターに収めた。私たちは事務所を出て、待機している車列に向かった。陛下は、私に青いベントレーの前席に座るように指示し、自分は運転席に座った。私は、陛下が自らハンドルを握ることに驚いた。
そうして私たちはUH-60ブラックホークが2機待機しているヘリポートに到着した。アブドラ国王が操縦席に乗り込み、機体を操縦する。機内は驚くほど快適であった。革張りで高級感あふれる機内は、スパルタンな戦闘機というより、プライベートジェット機のようだった。
あっという間にアンマン郊外の軍事基地に着陸した。その後数時間、ヨルダンの特殊作戦部隊が行う模擬攻撃、人質救出シミュレーション、射撃のデモンストレーションを見学した。陛下は、現在の能力について、また訓練や装備、資源について必要なことはないかと、オペレーターに熱心に質問されていた。外国人は私一人。国王は間髪を入れず、戦術の説明や隊員の簡単な紹介をされた。デモンストレーションとベドウィン伝統茶をご馳走になったあと、ヘリコプターのところに戻ると、陛下は私と握手をして、待機しているトヨタのランドクルーザーに目配せをして、1台のヘリコプターに乗り込み、飛び立ったのである。
座席の上にふたつの箱が置いてあるのに驚いた。ひとつ目は、伝統的なジャンビーヤの短剣(جنۢبية)と近代的な武器を融合させたヨルダンの戦闘用ナイフが入っており、刃には「アラブ軍」(al-Jaysh al-Arabiالجيش العربي)と彫られていた。ふたつ目は、ヨルダンの金の王冠とアラビア文字のAbdullah bin Al-Hussein(عبدالله بن الحسين)がダイヤルに刻まれたブライトリングのエアロスペースの入った箱だった。私が箱を開けると、2人の厳格なヨルダンの警備員が儀礼を破ってちらりと振り返り、そのモデルを見ようとした。彼らは同時に手首を上げ、それぞれがヨルダン官給品のブライトリングのナビタイマーを着けていることを見せてくれた。当時はよく知らなかったが、パイロットウォッチらしい情報量の多いダイヤルにしては、何年経っても印象に残る時計である。彼らは、君主への貢献によってこの時計を手に入れたと説明したが、具体的にどのような行動によってこの時計を下賜されたのかを問いただすと、黙ってしまった。CIAの工作担当者(ケース・オフィサー)になると、このような尋問が自然にできるようになるのだが、私はクイーン・アリア国際空港までの静かな道中、この話題には触れないようにした。
エアロスペースを手首につけると、チタンとクォーツムーブメントの軽さにすぐに気がついた。サイズ調整のためにいくつかブレスレットのリンクを取り外す必要があったが、これは後日、ドバイの免税店で調整してもらうことができた。
1時間後、ランドクルーザーは駐機場でドバイ行きのロイヤル・ヨルダン航空のボーイング737に乗り込んだ。私は機内の最前列に案内され、すでにスタンプが押されているパスポートを渡されると、待ちくたびれた乗客たちは怪訝な顔をした。私が乗り遅れないようにと、飛行機は5時間遅れで出発した。王国所有の商用機ならではの特権が発動されたというわけだ。私は恥ずかしかったが、信じられないような体験の高揚感で頭が一杯だった。
この旅がきっかけで、中東や諜報活動、国家安全保障に興味を持つようになったように、この時計も時計愛好家としての私に大きな影響を与えることになる。
ブライトリング エアロスペースは、機能的なツールウォッチだ。クロノメーター認定の“スーパークォーツ”のデュアルデジタル画面には、デジタルクロノグラフ、セカンドタイムゾーン、デイ&デイト、アラーム、カウントダウンタイマーなどの実用的な機能が搭載されている。諜報活動において、時間が重要な秘密作戦を行う際に役立つ機能だ。CIAで海外勤務をしていたときは、本部にいる相手がいつオフィスに来るか確認するために、第2時間帯をワシントンD.C.にセットして、安全な通信をチェックしたものだ。特にデジタルタイマーは、アフリカの首都での監視活動の記録や、ISISメンバーの拘留報告、監視検知ルートの足取りを記録するのに使用した。
CIAケース・オフィサーとしての不確実で予測不可能な職業人生において、ブライトリングのエアロスペースは信頼でき、予測可能な不変の存在として機能した。CIAでのキャリアで培った人脈や友情を表現する婉曲的な言葉である「王子や泥棒」と握手するときにも、ブライトリングは一緒だったのだ。中東の諜報部員や外交官に会うと、私はこの時計を熱心に見せ、諜報部員としての信用を得ようとしたものだ。
この時計は、20年近い冒険の傷跡を残している。複数の紛争地域を旅し、キリマンジャロにも登り、ザンビア、モザンビーク、ジンバブエの三国国境地帯でサファリに出かけたときも、この時計は一緒だった。また、子供の入浴、スーパーでの買い物、ゴミ捨てなど、平凡ではあるが、私の人生にとって重要な場面でもこの時計は供にあった(映画ではさまざまに描かれるが、CIAのケース・オフィサーも普通の人間なのだ)。
ブライトリングは、国家安全保障の分野でカルト的ともいえる人気を博している。ブライトリングは、国際標準遭難周波数121.5MHzで信号を発信するビーコンを搭載したブライトリング エマージェンシーを筆頭に、冒険生活にふさわしいブランドとして、その認知度を高めてきた。航空に強いルーツを持つブライトリングは、着用者が冒険好きであることを示すと同時に、実用的なツールにおける優れたクラフトマンシップを発揮するブランドだ。
ブライトリングのプロフェッショナルシリーズはいわゆる“ビーター・ウォッチ”であり、HODINKEEのジェームズ・ステイシーによって“気を使わない時計ではなく、気を使わなくてもいい時計”と明確に定義されている。多目的ツールであり、優れた諜報員のように、一見すると何の変哲もないものだ。
トップシークレットの権限を得るために必要な身辺調査の際、この時計はある程度の精査を受けることになる。この時計を受け取ったことで、外国に忠誠を誓うという利益相反の可能性はないだろうか? 幸いなことに、CIAはそうではないと判断してくれた。CIAに入局してからは技術担当者と親しくなり、時計を分解して追跡装置や盗聴装置がないかを調べてもらった。この仕事では油断は禁物で、パラノイアのように疑心暗鬼になることが大切なのだ。“Trust but verify(信ぜよ、されど検証せよ)”とロシアの諺にあるように。
この時計がきっかけで、私は生涯を通じて時計にこだわり続け、時計は金庫にしまっておくものではなく、本来の目的のために使うものだという信念を深く持つようになった。次の時計、IWCのXVIIを購入するまでさらに8年かかったが、それまでの私のコレクションは、ブライトリングとジャガー・ルクルトのマスター・ホームタイムの2本だけだった。数年後、私は2本目のブライトリングを購入した。ブラックスティール製で、ダイヤルにスタイリッシュなアラビア数字を配したエティハド航空アビエーター8“中東”限定モデルで、すべての始まりとなった時計へのオマージュとして購入したのだ。
現在、私の時計コレクションは広がり、客観的に見てブライトリングのエアロスペースよりも「価値」のある時計がたくさんある。この時計を身につけることは、現役時代よりは少なくなった。しかし、この時計を身につけると、私は自分の過去を思い出す。この国への貢献と、決して語ることのできないいくつかの物語を。この時計が私のコレクションから外れることはないだろう。そして、私のひ孫の一人が、旅の伴侶としてこの時計を腕にしてくれることを願っている。
この記事は、CIAの出版前分類審査委員会により、機密情報の漏洩を防ぐための審査が行われた。
この記事に対する報酬の代わりに、@watchesofespionageはサード・オプション基金への寄付を選択した。この組織は、CIAの特別活動センターのモットーに因む。Tertia Optioは、軍事力が不適切で、外交が不十分な場合のアメリカ大統領の第3の選択肢を意味する。サード・オプション基金は、包括的な家族支援プログラムを提供し、舞台裏でひっそりと奉仕する人たちを支援することに専念している。
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