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Photos by Mark Kauzlarich
世の中にある人気のクロノグラフは、多かれ少なかれ同じように見えるのだが、ジャガー・ルクルトの新しいレベルソ・トリビュート・クロノグラフはそのなかでも特に際立っていると思う。今回のWatches&WondersはJLCにとってレベルソの年だった。スリムな新型レベルソや、クレイジーなデュオフェイスのトゥールビヨンもあったり、スティールとローズゴールドで展開したレベルソ・トリビュート・クロノグラフもそれに当たる。どれもレベルソが持つシンプルな伝統とブランドが誇る最先端の時計製造技術の違いを見事に表現したモデルたちだ。
JLCは以前にもレベルソ・クロノグラフをつくったことがある。1991年のレベルソ誕生60周年を機にJLCはレベルソに初めて複雑機構を搭載するようになった。最初は日付とパワーリザーブから始まり、トゥールビヨン、ミニッツリピーターと続いていく。そして1996年には新型のCal.829を搭載したレベルソ・クロノグラフを発表した。ブランド初のシェイプドクロノグラフムーブメントであると同時に、クォーツショック以降に初めて開発された手巻きの一体型クロノグラフでもある(当時のギュンター・ブリュームラインはJLC、ヴァシュロン、IWCが属するLMHグループを率いており、1999年にダトグラフで一体型キャリバーを発表したランゲの復活にも貢献した)。初代のレベルソ・クロノグラフは限定生産品であり、JLCは短命に終わった後続モデルのレベルソ・グランスポーツと、そのアップデート版であるCal.859も2000年代初頭まで生産した。
新しいレベルソ・トリビュート・クロノグラフのサイズはラグからラグまでが49.4mm、幅が30mm、厚みが11mmとなっている。私はSSのバージョンとともにほとんどの時間を過ごしたが、驚くほどクールでスポーティな着こなしができた(レベルソはポロ選手の時計に端を発しているから当然といえば当然だ)。SS製クロノグラフの表面は洗練されたブルーグレーに似たダイヤルとなっており、JLCによると酸化チタンを薄く蒸着させるADLプロセス(原子層堆積法、数ナノメートルの超薄膜を平坦な面に正確に成型する)で実現したサンバースト仕上げを施したとのことだ。クロノグラフのプッシャーは細長いレクタンギュラー形で、時計の感触を邪魔することはない。もしこの時計を時間表示のみのモデルとして身につけるのであれば誰にも気づかれることはないだろう。シャープなドフィーヌ針が2本配置されているだけで、それ以上でもそれ以下でもない。
RGのほうのクロノグラフは、ピュアブラックのダイヤルがケースをさらに引き立てている印象で、SS製よりもドレスアップしている感じだ。刻まれた“Jaeger-LeCoultre”のサインは金箔のようなローズカラーでプリント。これも細部まで考え抜かれたディテールのひとつである。
もちろん、ここまでの話はまだ半分に過ぎない。ケースを反転させるとクロノグラフ側の文字盤が出現し、さらにスケルトンデザインがその新Cal.860をアピール。旧型のCal.859と構造的には酷似しているが、新ムーブメントはクロノグラフ機能とともに時刻を第2ダイヤルに表示している。中央のクロノグラフ秒針は60秒計を中心に回転し、6時位置にはレトログラード式のミニッツカウンターを配している。またムーブメントに施されたコート・ド・ジュネーブ仕上げのブリッジをスケルトン文字盤からはっきりと堪能できるのもポイントだ。SSケースの場合、クールでまとまりのあるモノトーンルックに仕上げているが、一方のRGケースでは色調のメリハリがなくなり、文字盤が少し騒がしいように感じる。
7時位置のコラムホイール(水平クラッチでもある)を見ていると充足感が得られる。目の錯覚だとは思うが、クロノグラフにかかわる機構の感覚を、より体感できるのだ。ムーブメントのブルースクリューと青焼き針もマッチしていて、デザイン全体にまとまりを持たせている。Cal.860は2万8800振動/時で振動し、約52時間のパワーリザーブを確保している。
レベルソ・トリビュート・クロノグラフは私の頼りない手首にもよくなじんでくれて、この薄さが大きなケースの形状をカバーしていた。なんだかキットカットのバーを何本もつけているような気分だ。SS、RGのバージョンともにアルゼンチンの伝統的なポロブーツメーカーであるカーサ・ファリアーノ社(チャールズ王が身に着けるようなブランド)製の、キャンバスとレザーのコンビネーションとオールレザーの2本のストラップで提供。JLCは今回、SSとゴールドの両方にキャンバスレザーのストラップをセットして発表している。SSクロノグラフでは効果的だったし、このような形で身につけたいと思ったのだが、RGのほうはドレスアップした時計をドレスダウンさせようとするあまり、スーツに白いスニーカーを履くオヤジのように少し頑張りすぎているように感じた。
ここまで読んでいただけたらおわかりかと思うが、見た目だけでなく価格も含めて、私はSS製のほうがずっと気に入った。SS製のレベルソ・トリビュート・クロノグラフは321万2000円、RGモデルは563万2000円(ともに税込)となっている。高値ではあるが、高級な自社製クロノグラフの水準からは大きく外れてはいないため比較対象が思い浮かばない。またブティックのみの展開となり、発売当初から入手が困難なようだ。私にとってSS製クロノグラフとは真のスポーツウォッチ(ダイバーズやフィールドウォッチ、ジェンタデザインの時計)とオールドスクールなドレスウォッチの境界線を完璧に超えており、両者のあいだに位置するドレススポーツウォッチというジャンルを定義、または再定義している(新しいショパールのL.U.C 1860などもこれにあたる)。
私はレベルソ・トリビュート・クロノグラフを、Watches & Wondersで真に驚かされたものと呼んでいる。レベルソ・クロノグラフ自体が驚きなのではなく(以前にも存在していたから)、JLCとレベルソが持つ両面のよさ、つまりシンプルで時間表示だけの歴史と、JLCを真の時計メーカーとして際立たせる超複雑な時計製造(ジャイロトゥールビヨンやクアドリプティック)のバランスがとれていて、それがうまく表現されているからだ。レベルソ・トリビュート・クロノグラフは、JLCが誇る時計製造のすべてを美しくも身につけられるパッケージへ凝縮している(もしくは、あったとしても人に気付かれないくらい目立たないものにしている)。クラシックなドレスウォッチをモダンにアレンジしたモデルでありながら、もう一方で素晴らしい新型クロノグラフキャリバーを披露しているのだ。
JLCの両面を見せる、それこそがレベルソを完璧に使いこなすことなのだという風に。