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MB&Fのスピンオフブランド、M.A.D.エディションから、3作目となるM.A.D.3が登場した。ここ数年、同ブランドの時計を手に入れようと何度も抽選に応募してきた人にとっては、この新作がまた運試しに挑む機会となるかもしれない。シリーズの画期的な第1作は、他ならぬマクシミリアン・ブッサー氏の発想から生まれた。その後に登場したまったく趣の異なる第2作を手がけたのは、著名な時計デザイナーであり、MB&Fとのコラボレーションでもたびたび知られるエリック・ジルー(Eric Giroud)氏である。そして今回の第3作では、MB&Fからはかなり離れた立ち位置にいるものの、時間の表現について常に非常によく似た哲学を持ち続けてきたひとりの時計師が選ばれた。
コルム ゴールデンブリッジの一例。Photo courtesy of Das Kunst- und Auktionshaus Kastern GmbH & Co.KG.
カラブレーゼ氏によるバラディン。Photo courtesy Christie's.
ヴィンセント・カラブレーゼ(Vincent Calabrese)氏は、同時代の多くの時計師ほど広く名を知られているわけではないかもしれないが、時計界のレジェンドであることに疑いはない。コルム ゴールデンブリッジを象徴する、ムーブメントが宙に浮かんで見える構造を生み出した人物であり、独立時計師たちによる時計製造の団体、スイス独立時計師アカデミー(Académie Horlogère des Créateurs Indépendants、一般にはAHCIとして知られる)の共同創設者でもある。そして、その名のもとには数十件におよぶ特許があり、複雑機構を独創的な方法で実現してきた。その一方で、時間をどのように表示するかというコンセプトにも、常に挑み続けてきたのである。そう考えると、カラブレーゼ氏とブッサー氏はまさに理想的な組み合わせだったのだろう。そしてここに、鮮やかで彩度の高いカラーリングをまとったM.A.D.3が完成した。M.A.D.1、M.A.D.2と同様に、新作M.A.D.3の価格は2900スイスフラン(約55万円)である。
M.A.D.3は、これまでに登場した3つのエディションのなかで、最も独創的なルックスとはかけ離れたデザインである。もちろん、それは意図したものだ。今回のコラボレーションでM.A.D.3がオマージュを捧げたのは、カラブレーゼ氏がバラディンという時計で手がけたワンダリングジャンピングアワーである。M.A.D.3はオリジナルのカラブレーゼ氏の作品に非常によく似ている。というより、そのままと言ってもいいほどである。バラディンとM.A.D.3はいずれも、文字盤の外周にミニッツトラックを配し、その内側に設けたカラーディスクが回転する構造を採用している。このディスクには現在の時刻を示すための開口部が設けられ、ディスク上に印刷された矢印が現在の分を指し示す。1時間が進むにつれて、分針の役割を担う矢印は文字盤上を回転していく。時刻が切り替わる数分前になると、時刻の数字がゆっくりと回転して視界から外れ、60分を迎えると次の時刻を示す数字が現れる。その上には秒針が配置され、先端にはスタイライズされたブロードアロー型の針先が備わっている。
もちろん、バラディンのデザインをM.A.D.3へと落とし込む際には、少し現代的な雰囲気を加えるため、いくつかのアレンジが施されている。M.A.D.3では、外周のミニッツトラックがサファイア製のリングになっており、その裏側には夜光塗料が施されている。時刻表示の数字にも夜光が施され、面取りされた開口部からその数字が姿を現す。斜めから見ると、M.A.D.3の文字盤で回転する部分にはかなり大きなカーブがつけられており、アロー型の秒針もそのカーブに沿っている。立体的な造形が加わったことで、全体にもう一段深みが生まれているのだ。また、バラディンの一部のモデルでは文字盤にカラブレーゼ氏の名前が記されていたが、こちらには当然ながら「M.A.D.3」とプリントされている。さらに現代的なアレンジとして、時計上のすべての文字にサンセリフ体が用いられている。
MB&Fのオーナー向け公式オーナーズクラブ「Tribe」とブランド関係者向けには、エレクトリックピンクのカラーリングが用意される一方、よりスタイリングしやすいブルーは一般向けの抽選販売となる。どちらのモデルも、サンレイ仕上げを施した文字盤中央部のカーブによって、見る角度が変わるたびにグラデーションカラーがドラマチックに表情を変える。ワンダリングジャンピングアワーを備えているにもかかわらず、M.A.D.3はこれまでで最もオーソドックスに構成された文字盤を採用しており、個人的にはその仕上がりが実に素晴らしいと思う。サファイア製のミニッツリングが放つ光沢から、文字盤そのものの大胆なカーブ、さらには時刻表示の数字に施された夜光に至るまで、この文字盤には奥行きや質感、ディテールがふんだんに盛り込まれている。M.A.D.2もユニークな文字盤デザインを備えていたが、M.A.D.3ほどオーソドックスな仕上げやディテールを取り入れる余地はなかった。
文字盤はエリック・ジルー氏がデザインしたケースに収められ、バラディンにオマージュを捧げながら、過去のM.A.D.エディションの要素も取り入れている。ステンレススティール製ケースは直径40mm、厚さ12.7mmで、M.A.D.1に見られたきわめて短いフローティングラグを採用することにより、ラグ・トゥ・ラグもわずか43.7mmに抑えられている。ポリッシュ仕上げのベゼルに設けられた3段のステップは、ラグを3段に仕立てた一部のバラディンのケースを思わせるデザインだ。ケースの防水性能は30mである。
ケースバックから見ると、M.A.D.エディションのラインナップとしてはおなじみのデザインに見えるかもしれない。ラ・ジュー・ペレ社製の自動巻きCal.G101を搭載し、ローターには回転時に仕掛けが現れる意匠が施されている。ローター外周に開けられた穴からは文章の断片が見えるが、その全容が明らかになるのはローターが高速で回転しているときだけだ。そこには「Il est assez aisé de plaire aux autres, bien plus ardu d'être fier de soi」と記されており、訳すと「他人を喜ばせるのは比較的容易だが、自分自身に誇りを持つことははるかに難しい」という意味になる。ブランドによれば、カラブレーゼ氏がバラディンのために開発した機構は独創的ではあったものの、大量生産には適していなかった。そこで今回M.A.D.エディションの時計として提供するのに必要な生産規模に対応できるよう、ワンダリングジャンピングアワーのモジュールを新たに開発し直したという。
付属のメタルボックスは、ひねると開口部が開き、内部に収められたM.A.D.3が姿を現す。
そこまで手をかけた甲斐は十分にある。この価格帯としては、M.A.D.3の仕上げは驚くほど洗練されており、それと同じくらい重要なのが操作感のよさである。M.A.D.2とは異なり、こちらは瞬時に時刻が切り替わるジャンピングアワーではない。カラブレーゼ氏がバラディンで手がけた機構を再現するよう設計されており、1時間が終わる数分間をかけて時刻がゆっくりと進む仕組みだ。時刻を合わせる際も、切り替え時にはモジュール全体が驚くほどスムーズに動くうえ、両方向に操作できるため、操作上の制約を気にする必要がなくストレスもない。もちろん、時刻が切り替わる瞬間には、時刻表示の開口部に一瞬ほとんど何も表示されない状態が現れる。だが、それもまたこの時計の魅力のひとつである。
あえてひとつ指摘するとすれば、M.A.D.3はオリジナルの創作というよりも、オマージュウォッチという印象が強い。もちろん、これはカラブレーゼ氏の作品に敬意を表するという意図に基づいたものではある。それでも、ブッサー氏による宇宙船を思わせるデザインのM.A.D.1や、ジルー氏がターンテーブルから着想を得て遊び心たっぷりに仕上げたM.A.D.2からすると、大きな方向転換である。両モデルにはそれぞれのデザイナーらしさが刻まれながらも、完全にオリジナルの創作として成立していた。一方、M.A.D.3には同じような感覚がそこまで感じられない。とはいえ、この価格帯を考えれば、興味深い1本に仕上がっていることに変わりはない。
着けてみると、M.A.D.3がこれまでのM.A.D.エディションで最も普通の時計らしいルックスを備えているのも不思議ではない。各モデルが発表されるたびに議論を呼ぶポイントのひとつが、デザインの大胆さと着けやすさが反比例する関係にあることだ。M.A.D.2の登場時にも、M.A.D.1が持つ「MB&Fらしさ」に魅了された熱心なファンのなかには、新作のデザインを以前ほど好意的に受け止めなかった人もいた。
一方で、M.A.D.2が備えたオーソドックスなラグとシルエットは、まったく新しい層の顧客にもその魅力を広げることになった。今回も同じことが起こるのではないかと思う。このデザイン言語によって、より幅広い顧客に向けた時計が再び提示されたからだ。私のように手首が細めの場合、M.A.D.3はM.A.D.2のややふくらみのあるケースやラグよりも、少し厚みがあるにもかかわらず着けやすい。時計に詳しくない人の目には、腕に着けたM.A.D.3はごく普通の時計に見えることだろうM.A.D.1が時計愛好家の集まりに着けていくのにぴったりの1本だとすれば、M.A.D.3はカラフルな文字盤が好みなら、毎日気軽に着けられる時計である。
3作にわたるM.A.D.エディションの展開から明らかになったのは、ブランドの立ち上げ当初に多くの人が考えていたような“手の届きやすい”MB&Fではないということだ。むしろ、異なるデザイナーの仕事を紹介するためのプラットフォームなのである。MB&Fのブランド価値が、ほかでは決して見つけられないほど創造性に富んだハイエンドなデザインから生まれているのに対し、M.A.D.エディションは、ひとつのデザイン言語を持たないことによってこそ、その創造性を示している。
いまや、M.A.D.エディションは、それぞれが自分の好きなものになり得ることが明らかになった。このような“何でもあり”という姿勢は実に新鮮で、時計ブランドを構築するという従来の論理に真っ向から逆らっているからこそ、自由な感覚をもたらしている。ただし、そんななかでもブランドを貫く軸となっているのが、比較的手の届きやすい価格設定だ。興味深いデザインや複雑機構の解釈を、一定の価格帯で提供しているのである。一般向けに用意されたブルーダイヤルのM.A.D.3 ヴィンセント・カラブレーゼを手に入れるには、MB&Fのウェブサイトから抽選に応募する必要があった。抽選は9月1日14時(中央ヨーロッパ夏時間)から1週間にわたって実施された。(編注:本稿の公開時点では、抽選受付はすでに終了している。)
詳しくはM.A.D.エディションの公式サイトをご覧ください。
Photos by TanTan Wang
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