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Ochs und Junior(オックス・ウント・ユニオール)は、多くの点で特異な存在である。2006年にルートヴィヒ・エクスリン博士とビート・ヴァインマンによって設立されたこの会社は、伝統的な高級時計製造における高度な技術と考えられてきたものを排除し、代わりに素材、デザイン、特に複雑機構エンジニアリングの根本的な簡素化を指針としている。同社は年間130本程度と比較的生産数が少ないが、現在の規模を超える成長を目指す野心はなく、創業者の純粋な美的基準を満たすことに徹しているのだ。
高級時計の世界にあまり馴染みのない方は、エクスリン博士の作品が現代の時計製造にどれほど大きな影響を与えているかをご存じないかもしれない - 彼はユリス・ナルダンで最も有名な数々の時計の開発責任者を歴任しており、その中には画期的な天文学的コンプリケーション「トリロジー・オブ・タイム」や初代「ユリス・ナルダン フリーク」などが含まれる。また、エクスリン博士は、ベースムーブメントに9つの部品を追加するだけという、劇的に簡素化された機械式カレンダーを導入した初代MIHウォッチのデザインも手がけた。さらに彼は、プラネタリウムとテルリウムを搭載した高さ7フィート(約2.1m)、重さ1トンもの巨大な天文時計「チューラー天文時計(チューリッヒに本社を置き、130年の歴史をもつ同名の時計・宝飾店のために建造された)」の設計に携わったことでも知られる - この天文時計は2万5772年周期の春分点歳差(※)も計測することができる。このように非常に複雑な機構を作るという豊富な経験は、哲学博士号をもち、理論物理学と天文学の博士研究員(ポスドク)として研究を行ったエクスリン氏に、複雑さを避けることそのものの価値への称賛と、彼の実績のとおり、可能な限りシンプルな解決策を見つけることで複雑な仕組みを実現する方法を探求したいという強い願望の原動力となっている。その極端な例として、ベースムーブメントにたった9つの部品を追加しただけの「オックス・ウント・ユニオール パーペチュアルカレンダー」がある。
※歳差とは、自転している物体の回転軸が、円を描くように振れる現象のこと。地球の自転軸も歳差運動をしており、天文学上の現象として、春分点(太陽が赤道を南から北へ横切る点)、秋分点(太陽が赤道を北側から南側へ通過する点)が、黄道(天球上で太陽が1年間に動く大円の経路)に沿って少しずつ西向きに移動する。これを歳差と呼ぶ。この歳差の周期は約2万5772年とされている。
デイ/ナイトウォッチ(2018年の発売時にスティーブン・プルヴィレントが取材)も同様の流れを汲んでおり、時刻、日付だけでなく、昼夜の時間数、日没と日の出の時刻を表示する。これらの時計は、ダイヤルの端で上下に動く可動式のシャッターシステムを採用している。シャッターは2つの領域を定義し、その境界は地平線を表しており、下の領域は夜、上の領域は昼を表す。また、太陽と月の相対位置を読み取ることができ、その位置から、ダイヤル中心を地球として視覚化することで、月の位相を導き出すことができる - すなわち、太陽と月が対極にあるときは満月、重ね合うときは地球と太陽の直線上に月があるので、新月ということになる。
モデルを問わず、デイ/ナイトウォッチの美学は、機械製造と素材のありのままを語らせるという基本的なオックス・ウント・ユニオールの哲学に根ざしており、この点において、いくつかの近代建築にもみられる共通の思想が垣間見える(例えば、ル・コルビジェは、デザインにコンクリートの質感を印象付けるために打ちっ放しのコンクリート壁を取り入れた;インドのチャンディガルのモデル都市のために彼が設計した建物群の建設中に、彼は荒れたコンクリートの表面を滑らかにしないように建設作業員を説得するのに苦労したそうだ。なぜなら彼らの仕事の勘所とは、真逆の発想だったからである)。
確かに、その結果は万人受けするものではないが、これはオックス・ウント・ユニオールが全ての時計愛好家から支持を得ようとしているわけではないことを示しているに過ぎない(年間130本の時計しか生産していないので、それを試みるのは愚かなことなのだ)。機械加工の痕跡を意図的に残し、非常に生々しく見える部品を使用することで、彼らの時計には視覚的な明快さが生み出されているのだが、それはいつも私に、名作児童書を思い出させてくれる - 確かにオックス・ウント・ユニオールの時計は一見すると仕上げが粗削りに見えるのだが、実際は非常に洗練された手法を採り入れており、大げさに言えば、複雑時計製造のバロック的世界観の文脈上に存在する作品といえるだろう。
時計業界の傾向として、複雑であること自体が目的であるかのようにそれを賞賛し、誇示する傾向がある - そこには部品の点数を魅力とみなして興奮をもたらす目的や表現があり、時計の中に多くの部品があればあるほど、それは賞賛されるべきとされており、これはしばしばデザインも同様に複雑さを伴うものだ(ジョージ・ダニエルズ博士はかつて、視認性の低いインダイヤルで乱雑に見せる複雑時計のトレンドを嘲笑し、複雑時計を作る上で最悪な問題の1つは、それがガスメーターのように見えてしまうことであると著書で皮肉った)。
シャッターシステムはオックス・ウント・ユニオール特有のものではないが、一般的に日の出と日の入りがそれぞれの時間を示す2つのインダイヤルによって示される腕時計で見ることは珍しい(クレヨンのエブリウェアは同様の機構を採用している;パテック フィリップはキャリバー89懐中時計でインダイヤルシステムを採用したが、スターキャリバー2000ではシャッターシステムを採用している)。太陽と月を表すディスクは、お互いと地球に対する2つの天体の位置を示すために、異なる速度で駆動する2つの別々の歯付きホイールの外縁で表現される。扇形のシャッターを含む太陽と月のシステム全体は、ダイヤル含め、わずか13個の部品で構成されている。この機構の中心にあるのは、2本の歯付きアームをもつレバーを介してシャッター位置を制御するピン付きの歯車である(下の画像の部品No.8とNo.9を参照)。
さらに、本機では現地の真太陽正午も読み取ることができる。この時計は、2つのシャッターが12時位置から常に等距離になるように設計されており、太陽が12時の位置にあるときには、天頂に位置することを意味する。しかし、この瞬間は必ずしも平均時間に正確に対応しない。地方標準時は、1日あたり±15分程度の変動を示すからだ(これはいわゆる「均時差」と呼ばれる;特定の日の均時差は、日時計から平均時間を維持する時計を設定するときに知っておくと便利な値として与えられる)。そして平均時刻の正午は、特定の時間帯では、ローカルの真太陽正午とは大きく異なることがある。デイ/ナイトウォッチでは、太陽が12時マーカーの真下に位置する瞬間の時間を読み取るだけで、その違いが分かる。
サマータイム制を導入している国では、うっかり太陽の位置を変えることなく時刻を再設定することができる。これは非常に簡単な方法だ。リューズを引き出し、太陽が真夜中に相当する6時の位置になるまで回す;それから、6時位置にあるプッシャーを忘れずに押すこと。これだけだ。
月の出と月の入りの時間を読むことができるかどうかについての疑問も生じるだろう。確かにダイヤルから月の位相を判断することができるが、太陽に対する月の相対的な位置と同様、月の出と月の入りは、機械的に実装するのはかなり困難なのだ。これは月の軌道の複雑さに起因するもので、軌道面は、地球から見た太陽が空を通る見かけ上の経路(黄道面)に対して傾斜する。軌道は複雑な形で歳差運動または回転し、黄道面と交差する2つの点が約18年周期で動き、軌道の長軸も約8年半の周期で進行する。このため、月が地平線の上や下に昇る瞬間を時計から直接読み取ることはできないのだ(新月が地球と太陽の間の黄道面を直接横切ると、日食が起こる;それゆえその名が付いた)。
デイ/ナイトウォッチのここで紹介する2つのバージョン(ブラックタイとオーシャンフロアモデル)は、オックス・ウント・ユニオールの他の時計と同様、クライアントの選択次第で仕上がりがどれほど劇的に変化するかを如実に示している;同時に同ブランドのベーシックな美的感覚がどれほど万能であるかをも示しているのだ。伝統的な高級時計に見られる高度な仕上げがないのは事実だが、それに伴う視覚的な粗削り感とディテールの存在感は、壮大なデザイン志向がそう意図したからではなく、単にそれが当たり前のこととして行われてきたからなのである。その見返りとして得られるのは、とてつもなく面白く、知的好奇心を刺激するような時計であり、感情へ訴えかけるのは時計の視覚的な明快さから得られるものであり、それは時計の仕上げの根底にあるエンジニアリング哲学の直接的表現なのである。これほどまでに機械工学と美学をシームレスに融合させた腕時計は、いかなる状況、時代にあっても希有な存在であり、その意味においてオックス・ウント・ユニオールの流儀は唯一無二といえるだろう。
オックス・ウント・ユニオール デイ/ナイトウォッチ: ケースサイズ40mm×11mm(43mmは応相談)。スターリングシルバーまたはチタン、いずれも100m防水(その他素材も応相談)。ベースムーブメント、ユリス・ナルダン社製Cal.UN-320、50時間パワーリザーブ、日差0/+5秒以内に調整。ストラップのバリエーションは50種類から選択可能。オックス・ウント・ユニオールデザインのモデルは1万4850スイスフラン(約174万円)~、カスタマイズオプションは1万6000スイスフラン(約187万円)~。詳細については、Introducing記事をご覧いただきたい。また、時計の詳細やカスタマイズ可能なオプションについては、ochsundJunior.swissまで
Photos: ティファニー・ウェイド