trophy slideshow-left slideshow-right chevron-right chevron-light chevron-light play play-outline external-arrow pointer hodinkee-shop hodinkee-shop share-arrow share show-more-arrow watch101-hotspot instagram nav dropdown-arrow full-article-view read-more-arrow close close email facebook h image-centric-view newletter-icon pinterest search-light search thumbnail-view twitter view-image checkmark triangle-down chevron-right-circle chevron-right-circle-white lock shop live events conversation watch plus plus-circle camera comments download x heart comment default-watch-avatar overflow check-circle right-white right-black comment-bubble instagram speech-bubble shopping-bag

Introducing タイメックス ジョルジオ・ガリ S2Tiが登場

ジョルジオ・ガリ氏によるフラッグシップモデルの完成系だ。

ジョルジオ・ガリ(Giorgio Galli)氏は時計業界においてレジェンドに数えられる人物だ。イタリア出身のデザイナーである彼はこの業界において何十年にもわたる経験を持ち、特に1990年代にミラノにあるスウォッチのデザイン本部を率いたことや、シチズン、エベル、モバードといったブランドのプロジェクトに携わったことで知られている。しかし私にとって、ガリ氏はタイメックスという歴史あるブランドを再定義した人物である。かつては飾らないアメリカブランドだったタイメックスは現在国際的な大企業の一部となっており、その製品ラインには膨大な数のモデルが揃っている。ガリ氏はこのタイメックスのブランドにデザインを主軸とした感性を注入することで、幅広い顧客層を対象に商品群をよりブラッシュアップした立役者なのである。

Galli S2Ti on shelf

 タイメックスはその商品ラインナップにおいて、時計の心臓部である“脱進機”や“テンプ”という言葉を知らないような世界のマス市場にアピールする必要がある。その一方でガリ氏には、HODINKEEの読者のような時計愛好家にとっての“タイメックスのフラッグシップモデル”を定義するという使命も課されているのだ。

 数年前、タイメックスが“コンセプトカー”的な存在として世に送り出したのがジョルジオ・ガリ S1であった。この製品はガリ氏自身の名前がケースバックに堂々と刻まれていることからも明らかなように、彼の功績を象徴するものである。S1は6万6000円(税込)という価格帯でありながら自動巻き機構を搭載し、金属射出成形(MIM)技術を用いてまるで彫刻のような精緻なケースデザインを実現した。この価格帯ではほかに類を見ないディテールを持つ時計であり、この時点でタイメックスとしては驚くべき成果であったといえる。しかし、それでもガリ氏は満足しなかったのだ。

Giorgio Galli S1

ジョルジオ・ガリ S1

Giorgio Galli  S2

ジョルジオ・ガリ S2

timex watch

 “スイスメイド”の次のステップとして、ジョルジオ・ガリ S2が誕生した。これはタイメックス グループのアトリエを通じて発表された、タイメックス初のモダンなスイス製時計である。価格は15万9500円(税込)で、この値段に対しては当時多くの議論が巻き起こった。「タイメックスに1000ドル(日本円で約15万円)も払うなんてあり得ない」と即座に否定する声もあれば、一方で「タイメックスがこれほど斬新な時計を作るとは」と興奮する声も多かった。いずれにせよ、このモデルは非常によく売れた。そして今回、このジョルジオ・ガリブランドによる試みの集大成として“スイス製S2”の集大成が登場した。それがS2Tiである。チタンにフォージドカーボンを組み合わせ、今回初めてブレスレットが採用された点が特徴だ(のちほど詳しく述べる)。新しいS2Tiはスティール製モデルとの共通点を持ちながらいくつかの改良点が加わっており、さらに洗練された仕上がりとなっている。

 2024年の夏にニューヨークでガリ氏と昼食をともにした際、彼が最新版のプロトタイプを持参していたことに私は気づかなかった。彼が革製のケースを取り出したとき私はそれが単なる彼の私物だと思っていたが、実際のところはS2Tiが収められていたのだ。そして現在手にしている製品版を見て、それが見間違いではなかったことを理解した。(HODINKEEに)送られてきた外箱を開けると、そのなかにはS2Tiが革製トラベルケースに収められていた。時計を目にした瞬間、まず目を引いたのは文字盤だ。スティールモデルの初代S2とは大きな対比を成している。前作では光沢のある黒い文字盤にスティール製のアワーマーカーが組み合わされていたが、今回のモデルはチタンを文字盤に採用することで全体の質感を統一している。

Bracelet and lug profile shot
Galli Swiss Made Signature
Galli S2 Side Shot

 さらに詳しく観察してみると、変更点はほかにもいくつか見受けられる。初代モデルの黒い文字盤には見返し部分と時表示リングのあいだに光沢のある黒いリングが配置されていたが、今回のモデルではその空間を滑らかな曲線状の見返しが完璧に埋めている。これにより時計全体がより丸みを帯びた印象になり、計算されたバランスのいいデザインとなった。この変更こそが、“Swiss Made”の文字が6時位置のアワーマーカーの上に印刷される理由だと考えている。以前はこのパーツの外周に配置されていたが、今回はそのための余白がないのだ。この傾斜した見返しに合わせて今回のチタン製S2ではスティール製モデルにあったベゼルを排除し、その代わりにドーム型のサファイアクリスタルによってケースの端まで覆っている。このデザインは、ガリ氏が楽しみながら取り入れたものに違いない。昨年発表されたアクリル風防のマーリンジェットでも、似たようなデザインが見られる。これにより時計全体がより滑らかで柔らかな印象となっており、S2に採用されたフルチタン製ブレスレットとのバランスを取るのに貢献している。

 金属射出成形(MIM)による38mm径のケースには、ジョルジオ・ガリ氏がてがけたタイメックスライン全体を象徴する中空のラグデザインが引き続き採用されている。ラグの縁やケース上部、および下部のチタンセクションには非常にていねいなポリッシュが施されており、光を劇的に反射する。一方でその部位には、肉眼でも見える機械加工の痕跡も残っていた。文字盤からは以前のバージョンにあったコントラストが失われているが、その代わりにミドルケースにアクセントが取り入れられた。今回はフォージドカーボンが採用されており、これが視覚的な変化をもたらしている。フォージドカーボンのランダムなパターンは、ストイックな全体のデザインに面白いニュアンスを与えている。これはとてもいい選択だと思う。

Galli S2Ti Wrist Shot
I Size link
Ti clasp

 このモデルではフルチタン製ブレスレットは18mm幅のラグによって接続されている。ブレスレットのエンドリンク(ケースとの接合部)はやや外側に張り出しているものの下方向に曲がる形状になっており、ラグトゥラグは46mmに抑えられている。また、このブレスレットにも特徴的な中空のモチーフが引き継がれており、各コマの側面には微妙にくぼんだデザインが施されている。その内部はサテン仕上げとなっており、視覚的には非常に魅力的に映る。ただし、これらの隙間に汚れが溜まるのではないかという若干の懸念もある。ブレスレット自体は精密に加工されており、快適なつけ心地を提供してくれる。さらに、特注のダブルバタフライクラスプを採用。しかしクラスプに接続されるリンクには中空デザインが施されておらず、統一感を欠いている点だけは少し残念だ。

 注目すべきは、このブレスレットに新たに採用された“I-Size”システムだ。昨年ガリ氏がこのサイズ調整方法を見せてくれたとき、実際に製品化される日を心待ちにしていた。各コマの側面にはネジやピンが一切見当たらない。それもそのはず、そういった要素はサイズ調整においてまったく使用されていないのだ。実はコマの左部分が引き出せるようになっており、弾性のあるパーツによってほかの部分と固定されている。このパーツを引き出して回転させるだけで、簡単にブレスレットから取り外すことができる。私はこのS2Tiのサイズ調整を1分もかからずに行うことができた。内部構造の耐久性に対する若干の不安はよぎったものの、このブレスレットの手軽さや使い勝手のよさがあまりに素晴らしく気にならなかった。

Caseback of S2Ti

 ケースを裏返すと、シースルーバックからセリタのSW-200ムーブメントの全貌が見える。このムーブメントには、ミドルケースに合わせてブラックPVDが施されたローターが搭載されている。ムーブメントの装飾は非常に手の込んだもので、ペルラージュやストライプがふんだんにあしらわれている。この価格帯では、おそらく最適かつ一般的な選択だろう。ただしSW-200は“ゴーストデイト(機能しない日付表示機能)”を残しており、私が触ったモデルでは日付が深夜ではなく6時に切り替わったのが少し気になった。これは、レフトハンド用のセリタムーブメントが採用されているということなのだろうか。

 価格について触れると、このジョルジオ・ガリ S2Tiは限定500本で1950ドル(日本円で約30万円)という設定になっている。タイメックスが税込みで約2000ドルもの価格をつけたモデルを発表するというのは、大きな挑戦といえるだろう。映画のシーンでレコードが止まり、画面がフリーズする(予想外の事態に驚きや困惑を感じる)瞬間のような感覚を覚える。「タイメックスで2000ドルだって⁉︎」と思う人もいるかもしれない。しかしこのS2シリーズはガリ氏のクリエイティブを存分に表現したフラッグシップであり、このレンジで製造技術やそのプロセスを挑戦的に追求するためのモデルでもある。妥協を一切しないタイメックスを作り上げた結果、こうした価格になったのだろう。少し冷静に考えてみれば、この時計はチタン(しかもフォージドカーボンを部分的に使用)製で、新しいサイズ調整システムを備えたブレスレットを搭載し、さらにこの価格帯では類を見ない複雑なケースデザインを実現している。多くのセリタベースの競合製品と比較しても、この時計が市場でユニークなポジションにあることを考えれば価格は妥当といえる。

Galli S2Ti with links on its side

 個人的に最も興味深いのは、本作の後に何が続くのかという点だ。このモデルはジョルジオ・ガリ Sシリーズの締めくくりを意味するが、タイメックスは“次の章を用意している”と示唆している。これはタイメックスがスイス製時計のラインを拡大することを意味するのだろうか? スイスにあるタイメックス グループのアトリエは、ヴェルサーチやフェラガモといったファッションブランドのスイス製時計もてがけている。そのため、タイメックス自身がこれらのメーカーを活用し、時計愛好家向けの製品をこれまで以上に製造しようと考えるのは理にかなっている。生産数が拡大すれば、価格は下がる可能性がある。いつかS1の価格でS2に相当する時計が登場する日が来るかもしれない。それまでのあいだ、この時計はガリシリーズの華やかなフィナーレを飾る素晴らしい存在として君臨するだろう。

タイメックス ジョルジオ・ガリ S2Ti、Ref.TW2Y27500。直径38mm、厚さ12.2mm、ラグトゥラグ46mm。チタン製ケース、フォージドカーボン製ミドルケース、50m防水。チタン製ダイヤル、ステンレススティール製アワーリング、無反射コーティングを施したドーム型サファイアクリスタル風防。サファイアクリスタル製スケルトンケースバック。ムーブメントはセリタ製SW-200、パワーリザーブ50時間。チタン製ブレスレット、“I-Size”システム、特注デザインのクラスプ。価格: 1950ドル(日本円で約30万円)、限定500本。