今は、時計への情熱がかつてないほどメインストリームになりつつあるような時代だ。しかし、私は何か危険なことが進行中なのではないかと恐れている。我々が作った小さなクラブでは、昼も夜も時計について語り合い、ある種の集団心理が生まれ始めているのだ。
ロレックスのスティール製スポーツウォッチが比較的手に入りにくくなっているのも、流通市場での価格設定が強気なのもそのためである。需要があるのは、特定のひとつの時計ではなく、一連の時計たちだ。それらは、同じケース素材を採用し、似たようなスポーティなスタイルで、ブレスレット付き、それに王様の帽子(王冠・クラウンとも言う)のようなロゴのブランドの時計だ。
現状のデイトナのことは置いておいて、民衆の敵ナンバーワンは長らくロレックスのサブマリーナーだった。地球上で最も人気のある時計のひとつ...とまでいかないまでもその人気の高さは間違いないものだ。多くの人が憧れ、お金を貯めて購入し、ブティックに行けば割引で買えるかもしれないと思っていた時計だ。しかし、それは不可能であり、少なくとも購入できるまで何年も待たなければならない(それに割引もない)。
では、最も欲しいものが手に入らないとき、人はどうするのだろうか。痒いところに手が届くような、似たようなものを探せば、元々欲しかったということさえ忘れてしまうかもしれない。サブマリーナーのショーケースからそれが消えてしまった今、サブを愛する人はどうすればいいのだろう? ロレックスの弟分であるチューダーのブラックベイ フィフティ-エイトに狙いを定めることが多いようだ。これはロレックスのサブマリーナーの代替品。少なくともこれらの購入希望者にとってはそうなのである。しかし、私は、このモデルがサブの代替品ではないという意見をお伝えしたい。純粋に代替品ではない、それだけの話だ。チューダー ブラックベイ フィフティ-エイトは、それ自体が憧れの的となるにふさわしい時計なのだ。
この記事を書く意味は何だろうか? 皆さんを約40万円の価値ある後悔から救うため、というのがまぁその理由の一部だ。なぜなら、実際のところ、代替品の時計などというものは存在しないからだ。心は、心が求めているものによって満されるものであり、もし、あなたが自分の主命(この場合はサブマリーナー)から外れたら、どんな時計もその王冠の穴を埋めてはくれないだろう。結局はがっかりするだけなのだ。数日、数ヵ月、あるいは1年かかるかもしれないが、あなたはそこに到達することができるはずだ。
ここで言いたいのは、決してブラックベイ フィフティ-エイトを貶めることではなく、むしろ適切な文脈に置くということだ。このモデルは、ロレックスの他のモデルと同様にラグジュアリースポーツウォッチであり、50%以上安いだけなのだ。しかし、なぜこのモデルが A)サブマリーナーの影に隠れてはならないのか、B)サブマリーナーを小売で買えない、あるいは二次流通市場で(ヴィンテージでも新品でも)買えない人への慰めの品として扱われてはならないのか、実際に検証してみようではないか。単に確認のため、私が所有するブラックとゴールドのチューダー ブラックベイ フィフティ-エイトとヴィンテージのロレックス サブマリーナー5513を使って、ポイントを説明しよう。私が両機を所有し着用しているという事実によって、それぞれが特徴的な時計であり、そのように扱われるべきだという考えをさらに強めている。
いきなりだが、チューダーは、ロレックスが決してやらないことをやってのけたのだ。それは、意図的なヴィンテージスタイルを採用していること。ベゼルは実用的でマット仕上げのアルミニウム製。アルミニウムは傷が付きやすいだけでなく、経年変化で褪色しやすい素材だ。セラミックのようなモダンな輝きを求める人向けではないのだ。ブラックダイヤルの場合、ベゼルからダイヤルまで、文字盤全体にギルト(温かみのあるゴールドの色調)が施されており、かつてのチューダーと同じ仕様だ。実はこのバージョン、ビッグクラウン7924という特定のリファレンスがベースになっているのだ。より新しく、より青いブラックベイ フィフティ-エイト ネイビーブルーも、古いリファレンスからデザインのヒントを得ており、クラシックなヴィンテージのチューダー スノーフレークへのオマージュのようになっている。
ビッグクラウンといえば、この時計のリューズもかなり大きめ。そして、サブマリーナーとの違いはそれだけではない。リューズガードはなく、無防備だ。
一方、サブマリーナーは1959年以来、リューズガードを採用している。その理由をご存知だろうか。彼らはリューズを保護したいからだ。ダイビングや冒険など、実際にサブを使用する場合、気をつけないとリューズにダメージを与える可能性がある。両側からガードすることで、そのような衝撃に耐えられるようにしているのだ。セラミックベゼルも同様で、チューダーのクールでヴィンテージなアルミニウムとは異なり、傷が付きにくく、決して色あせることはない。
そして、サイズだ。ヴィンテージのサブマリーナー、あるいは最近製造中止となったモダンなモデルを探しているなら、狙うべきは40mmだ。チューダーの39mmサイズは、ケースの形状から、まったく同じではないが、よりヴィンテージのサブに近いつけ心地だ。サブとBB58の装着感には明らかな違いがあるが、その多くはリューズに関係している。サブマリーナーは、ケース全体が四角い形状をしているが、BB58は丸みを帯びた形状をしており、大きなリューズがより目立つようになっている。サブのリューズガードはリューズがケースに溶け込むように作られているのだ。
ベゼルの形状も、ブラックベイ フィフティ-エイトはコインエッジで滑らかなのに対して、サブマリーナーはシャープでエッジが立っているため、よりアグレッシブなタイムピースとして身につけることができる。どちらもスティール製のブレスレットを備えているが、ブラックベイのブレスレット構造は、明らかにヴィンテージスタイルの理想を追求したようなものとなっている。リベットを模したデザインは実際のところ何か役に立つわけではないが、古きよき時計を連想させてくれる。
確かに、ブルーのブラックベイ フィフティ-エイトは、ブラックのバリエーションが持つ「すべてヴィンテージのもの」(クリーム色の夜光プロットに至るまで)に、よりモダンな印象をもたらしているが、ベゼルデザイン、リベット、リューズなど他のすべてを共有していることに変わりはない。
この比較は、ある時計と別の時計を比較するのではなく、これらのダイバーズウォッチのあいだには明確な違いがあり、互いに代用できない完全に別の作品であることを強調するために行っている。実際、ロレックスは2020年にサブマリーナーを41mmにサイズアップしており、この時計はフィフティ-エイトよりもオリジナルのブラックベイ41との共通点が多い。しかし、そこでもさらに区別すべき違いがあるため、私はそのパンドラの箱を開けるつもりはない(ケースの厚さを誰か教えてくれるかい?)。
多くの点においてチューダーの今は、ロレックスのかつての姿だ。高品質な時計を提供する、身近で利用しやすいメーカーなのだ。どちらの時計も70時間のパワーリザーブと耐磁性ヒゲゼンマイを備えたマニュファクチュール製ムーブメントを搭載している(記事「ロレックス ヒゲゼンマイの歴史」参照)。では、なぜブラックベイ フィフティ-エイトはサブマリーナーの代替モデルではないのだろうか? まあ、私の落胆に関する戯言はさておき、このふたつの時計は現在、異なるスペースにいるからだ。ロレックスは往年のツールウォッチをベースにした高級時計を作り、チューダーはそのツールウォッチを品質を犠牲にすることなく可能な限りオリジナルに近づけた現代版を作っているのだ。コレクションに両者を入れる余地はあるか。経験上、私は絶対にあると思っている。
All photos, Kasia Milton
HODINKEEでは、ブラックベイ フィフティ-エイトをはじめとするチューダーのヴィンテージおよび中古時計を取り揃えています。ロレックスとチューダーについての詳細は、それぞれのウェブサイトをご覧ください。