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Photos by TanTan Wang
チューダーにとって、今年は大きな節目の年であり、ブランドは現在、盛大な祝賀ムードに包まれています。2026年は、ハンス・ウィルスドルフ(Hans Wilsdorf)がのちにチューダー誕生へとつながる最初の書類を提出してから100年にあたります。そうした節目にふさわしく、今年はこのアニバーサリーが大きな話題の中心となっており、Watches & Wonders 2026で発表された目玉の新作モナークにもそれが反映されていました。
モナークはブランドにとって概ね成功したリリースだったと思うし、それに付随する新作も控えめながらも意義深く、(場合によっては)必要不可欠なものもありました。とはいえ、普段チューダーの実用性を重視したモデルに惹かれる私たちにとっては、Watches & Wondersを終えてみると、少し取り残されたように感じても不思議ではありませんでした。
そんな状況を変えたのが、先週発表された新作ノースフラッグです。これは2015年に登場した“ノース フラッグ”をアップデートしたもので、冒険や探検に対応しながらも日常使いできる、魅力的な時計を求める人を明確にターゲットにしています。本作は、実際に実用性を備えながらも、チューダーのラインナップに浸透しつつある成熟度も兼ね備えています。しかしその点についてはのちほど詳しく説明します。ノースフラッグについて話す前に、まずは“ノース フラッグ”(ちょっと紛らわしいのは承知しています)についてお話ししたいのですが、そのためにはアニバーサリーの話から始める必要があるでしょう。
チューダー “ノース フラッグ”
私はこれまでにもいくつかの場で、今年をチューダーの100周年として祝うことが本当に適切なのか、疑問を呈してきました。チューダーというワードマークが1926年に商標登録され、初期のチューダーという名前の時計が1930年代初頭からライセンス生産されていたものの、チューダーの歴史をざっと見れば、モントル チューダー S.A.(私たちが“チューダー”と呼ぶときに実質的に意味している法人)が設立されたのが1946年であることはすぐにわかるでしょう。だからこそ、今年をチューダーの100周年として祝うことには懐疑的なのです。それでも、2026年には祝うに値する節目だと思っています。
左からレンジャー II、ノースフラッグ、そしてその前身であるノース フラッグ。
結局のところ、チューダーが現在の体制へと再編されてから17年、2010年にヘリテージ クロノを発表してから16年、ぺラゴスとブラックベイが登場してから14年、チューダーがアメリカ市場に再進出してから13年、そして初代ノース フラッグが登場してから11年が経ったのです。
確かに、これらの節目は「100年」ほど満足感を与えるものではありません。しかし、それでもひとつの物語を物語っています。つまり現在のチューダーは、15年前のような小さくて苦戦する弟分ではないということです。まだ先の見えない実験的な試みをして、失敗しても大きな影響のない存在だった時代を経て、チューダーは今や確固たる地位を築き、高い評価を得るブランドとなりました。そして2026年のプロダクトラインナップは、大きく円熟しています。その進化において、初代ノース フラッグは重要な役割を果たしたのです。
ノースフラッグや“ノース フラッグ”以前には、レンジャーIIがあった。
2015年にこの時計が登場したとき、それはチューダーがそれまで手がけてきたどのモデルとも異なっていただけでなく、それまで一貫して同じアプローチを取ってきたブランドにとって、根本的な方針転換を意味するものでもありました。どういうことかと言うと、ノース フラッグは、チューダーが初めて自社製ムーブメントを搭載した時計だったのです。単に「現代のチューダーとして初めて自社製ムーブメントを搭載した」という意味ではありません。MT5621はチューダー史上初の自社製ムーブメントであり、そのデビューを飾ったのがノース フラッグだったのです。
それはチューダーにとって大きな転換点でした。近年になって時計に興味を持つようになった人、つまりチューダーが自社製ムーブメントで知られるようになった時代の時計愛好家には、にわかには実感しにくいかもしれません。実際、2015年当時はきわめて大きなニュースだったため、記事の多くが時計そのものよりも、MT5621がもたらすインパクトや可能性に焦点を当てていたことを私は今でも覚えています。信じてもらえないなら、2015年にベンがノース フラッグを初めて紹介した記事を振り返ってみてください。そしてまずは、その記事のヘッダー画像に注目して欲しいです。
MT5621を皮切りに、その後登場した自社製ムーブメントが比較的すぐにチューダーの他モデルにも搭載されるようになりました。一方で、ノース フラッグはぺラゴスやブラックベイといった兄弟モデルほどには定着しませんでした。そのため、ノース フラッグが6年間にわたってアップデートも新たなバリエーションもないまま、ひっそりと生産終了したときにはそれほど驚きはありませんでした。
とはいえ、残念ではありました。というのも、初代ノース フラッグは素晴らしい時計であり、熱狂的なファン層も確かに存在していたからです。独特な回転ディスク式のパワーリザーブインジケーター、ブラックセラミック製のベゼルリング、イエローのアクセント、そしてレンジャーIIに着想を得た一体型ブレスレットのデザインが、ノース フラッグならではの個性を形づくっていました。もしその味わいが気に入ったなら、きっとノース フラッグを心から気に入っていたことでしょう(私はそうでした)。
全く新しく、全く異なるチューダー ノースフラッグ
そして、ここで話はノースフラッグへと戻って来ます。新しいノースフラッグです。名前にスペースのないほうのモデルです(その命名会議を、壁際でこっそり見ていたかったです)。この時計を予想していたと言うのは言い過ぎかもしれませんが、不意打ちだったと言うのも少し違います。ここ1年ほど、チューダーがノース フラッグを再び世に送り出すとしたらどんな時計になるのか、何人かの人たちと何度か話していたのです。そしてうれしいことに、私の予想もそれほど外れてはいませんでした。
私が長年ノース フラッグの時計を購入するのをためらっていた大きな理由のひとつは、パワーリザーブインジケーターでした。ノース フラッグのパワーリザーブインジケーターは、私がこれまで見てきたなかでも最高レベルの出来栄えで、初代モデルに搭載されていたムーブメントの性能を際立たせるという点ではきわめて理にかなっていると思いますが、私自身はパワーリザーブインジケーターをあまり好みません。自動巻き時計においてそれは常に冗長に感じられ、もしどこかに表示を設けるのであれば、ムーブメント側、あるいはケースバックにあって欲しいと思ってしまうのです。
少なくとも私にとっては、GMT機能のほうがこの時計に加える機能としてはるかに理にかなっていると感じます。それに、(想像するに)付加価値としてもアピールしやすい機能でしょう。特に、時計のムーブメントについてHODINKEEの読者ほど関心を持っていない一般の顧客にとってはなおさらです。それに、GMT機能は、旅の物語を感じさせるロマンのあるコンプリケーションでもあります。過去の冒険や興奮を物語るものでなかったとしても、少なくとも旅への憧れや、その先にあるものへの期待を語る機能です。今回のGMT機能は、チューダー製ムーブメント Cal.MT5652-Uによって実現されています。これはMETASおよびCOSC認定のフライヤーGMTムーブメントで、近年その性能を十分に証明してきた本格的なムーブメントです。
新しいノースフラッグは装着感も向上しています。主要なサイズは変わっておらず、316Lステンレススティール製のケースは直径40mmのままですが、ケース全体が改良されています。つまり、よりスリムでコンパクトになったということです。とはいえ、極端に薄型になったわけではありません。本作は厚さ12.7mm、ラグ・トゥ・ラグ48.8mm(従来は厚さ13.3mm、ラグ・トゥ・ラグ50mm)となり、少なくとも私の7.5インチ(約19cm)の手首では、以前より明らかにすっきりと、そして快適に装着できます。
もちろん、私の手首だけですべてを語れるわけではありません。ティムとタンタン(2人とも手首周りは約6.5インチ/約16.5cm)は、この時計を少し大きく感じ、私ほど快適には装着できなかったようです。つまり、購入する前にぜひ実物を見てみることをおすすめします。多くの一体型ブレスレットウォッチと同じように、この時計も想像以上に手首のサイズや形状によって装着感が左右されるからです。とはいえ、少なくともノースフラッグが2次流通市場に出回るようになるまでは、この点はあまり問題にならないかもしれません。というのも、新作はチューダーの店舗限定モデルだからです。もし興味があるなら、購入する前に実物を見るため、実際に店舗まで足を運ぶ必要があります。
もちろん、新しいノースフラッグと旧ノース フラッグの違いとして最もわかりやすいのは、パワーリザーブインジケーターがなくなり、4本目のGMT針と、それに対応する24時間ベゼルが加わったことです。新しいケースやムーブメント(そしてそれに伴う機能)だけでなく、チューダーはこの機会に“ノース フラッグ”へいくつかのアップデートを施しています。その多くは小さな変更ですが、積み重なることで大きな違いを生み出しています。
サンバースト仕上げのブラックダイヤルは時計にクラシックな高級感を添え、立体的な夜光インデックスと数字は前世代モデルとの差別化を図るとともに、全体的な印象をより現代的なものにしています。私が特に気に入っている変更点のひとつは、ノース フラッグで使用されていたレンジャースタイルの秒針から、このシリーズのインスピレーション源となったレンジャーIIのデザインに似ている秒針に変更されたことです。
これはごく小さな変更なので、ほとんどの人は気づかないかもしれません。しかしこの変更は、鮮やかなイエローで、長さもほぼ同じである秒針とGMT針を明確に見分けるのに役立っていると思います。確かに、2本の針は別の色にしたほうが良かったという意見もあるでしょうが、私はこの時計に黄色が加わったことを高く評価していますし、針同士の視覚的な違いも十分にあるので特に気になりません。
もうひとつ明らかな変更は、初代モデルの特徴的なデザイン要素だったブラックセラミック製のベゼルリングが完全になくなったことです。もし初代ノース フラッグをオンラインの写真でしか見たことがないなら、この要素が初代モデルにどれほどの個性を与えていたかはなかなか実感できないかもしれませんが、今回それがなくなったことは注目に値します。そしてこの変更を歓迎する人もきっと多いでしょう。
このブレスレットは、初代ノース フラッグと同様のHリンクデザインを採用しながら、チューダーがこの10年で導入してきた、数々の使い勝手を高める改良も取り入れています。なかでも重要なのが、5年前に導入され、現在ではチューダーのかなり多くのモデルに採用されている同ブランドの“T-Fit”クイックアジャストクラスプが搭載されたことです。今回のモデルに搭載されたのはうれしい限りです。
一方で、変わらず受け継がれているデザイン要素もあります。インデックスはモノブロックの夜光セラミックへと変更されたものの、文字の書体は以前のモデルと同じく、エクスプローラーを思わせるデザインを踏襲しています。レンジャーIIの針も、チューダーの時計のなかでは独特な存在であるテーパードしたリューズも健在で、これはノース フラッグとノースフラッグのどちらにおいても、私が特に気に入っているディテールのひとつです。
総じて、新しいノースフラッグはかなり格好いいと思います。実物を見て、実際に着用してみると、確かにノース フラッグらしさを感じます。しかし、この10年でこの10年で少し歳を重ねたような印象がします。別の言い方をすれば、初代モデルは当時の文脈においてきわめて理にかなった時計ではありましたが、少しばかり無骨すぎて、社交の場に溶け込むには向いていなかったのかもしれません。新しいノースフラッグは、寒空の下から暖炉のそばへと戻ってきて、ウイスキーを片手に昔話に花を咲かせる準備もできているのです。
競合モデル
ノースフラッグの競合モデルを探すのは、少し変わった作業でした。というのも、改めて考えてみると、この時計にとって最大の競合相手は同じブランドのラインナップ内にいるからです。本作とムーブメントを共有するぺラゴス FXD GMTとノースフラッグを比較検討する人がいるかどうかはわかりませんが、ブラックベイ 58 GMTと比較するケースは十分に考えられます。あるいは、もっと可能性が高いのがブラックベイ プロです。そしてこの2本を並べて比較すると、ブラックベイ プロのほうが必ずしも魅力的に見えるとは限らないのです。
Image, James Stacey
Image, James Stacey
Image, James Stacey
確かにブラックベイ プロのほうが安価です。ストラップ仕様なら65万4500円で購入できるのに対し、ノースフラッグはひとつの仕様のみで、価格は76万5600円(いずれも税込)です。しかしその差額を抑える代わりに、METAS認定を手放すことになり、厚さは約2mm増し、ブレスレットを選べない可能性もあります。それにノースフラッグが持つ、飾らない“チューダーらしい”アイデンティティとデザインにもやはり価値があると思います。この時計を着けている人を見て、「ああ、エクスプローラー Ⅱを買えるほどのお金がなかったんだな」と思う人はいないでしょう。
チューダー以外に目を向けると、比較対象となる時計を見つけるのは少し難しくなります。ブライトリングのクロノマット オートマチック GMTは、ノースフラッグと同程度のサイズ感のケースに、似たような機能となんとなく近い雰囲気のデザインを備えています。しかし多くのモデルで価格は100万円以上するうえ、私が見る限り、現時点ではNFLチームやラグビーチーム、あるいは特定のアスリートに関連した仕様が中心で、そうしたモデルに惹かれない人も多いでしょう。それに、かなり光沢感が強いです。
Image, Mark Kauzlarich
オリスのプロパイロットX キャリバー400は81万7300円(税込)からで、少なくとも私にとっては、このモデルと同じような魅力を持っています。しかし、なぜかオリスはまだこのケース形状にGMT機能を搭載していないため、やはり完全には一致しません(とはいえオリスがいつかその時計を発売したら、私は真っ先に見に行くでしょう)。
Image, James Stacey
最後に、現代のチューダーの新作について語る上で、ロンジンに触れないわけにはいかないと思います。ここ数年、ロンジンが70万円以下の価格帯で成し遂げてきた、実に素晴らしい功績についてはこれまで何度も語ってきました。彼らはチューダーの顧客層をターゲットにした素晴らしい時計を数多く発表しており、その戦略が功を奏していることは一目瞭然です。とはいえ、ロンジンのGMTモデルはどれも素晴らしいのですが、ノースフラッグほど心惹かれるモデルはほかにないと思うので、これはチューダーの文句なしの勝利と言えるでしょう。
総評
さて、私は本作を少なくともコンセプト的にはとても気に入っています。チューダーがノース フラッグをアップデートせずに生産終了したときは残念に思いましたが、今回の復活は、ブランドがひとつの小さな心残りをようやく正したようにも感じる。とにかく復活してくれてうれしいですし、チューダーは前世代よりもはるかに多くの人に訴求する時計をつくることができたと思います。
とはいえ、この時計が持ち得たポテンシャルをすべて引き出せているのかというと、少し疑問も残ります。ひとつは、この時計がもしチタン製だったらどうなっていたのだろうと考えずにはいられないということです。すでにHODINKEEやほかのサイトでも、そうした意見を目にしているし、実際に検討に値するポイントだと思います。ほかの何よりも、チタン製のノースフラッグであれば、チューダーのラインナップのなかでもっと独自性のある存在になっていたでしょう。少なくとも、ブラックベイ プロの直接的な競合モデルという印象はもっと薄れていたはずです。
それに新しいノースフラッグはもう少し尖った時計であって欲しかった、という思いもあります。誤解のないように言っておくと、ここまで述べてきたように、本作はより成熟し洗練され、客観的に見ても優れたモデルになっています。しかし初代モデルの熱烈なファンだった人にとっては、今回のモデルはどうしても少し妥協したように感じられるのではないでしょうか? それでも、その妥協は必要だったのだろうと思います。
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