メモリアルデー(戦没者追悼記念日)の週末は、まるで遠い昔のことのように感じられる。しかし、その日は1986年の大ヒット作の待望の続編『トップガン マーヴェリック』が公開されたのだ。この映画と、そこに登場する時計について、私はずっと前に書いたことがある。この映画のヒットは、私だけでなく誰もが予想していた。しかし、誰もこの映画がアカデミー賞争いの候補になるとは思っていなかった。しかし、今それとは逆のことが起こっている。
さて、アカデミー賞にはベストウォッチ賞もベスト小物賞も存在しないので(ため息)、私が勝手にベスト“ウォッチ”映画を何本かノミネートしてみた。そして今年、空想上の作品賞は『トップガン』に与えられた。
まず、この映画は時計がいかに効果的にスクリーンに映し出されるかという点で、非常に多くの学びがある。確かにちょっとした露出広告的なきらいもなくはないが、“素晴らしいプロダクトプレイスメント”というものがあるとすれば、この映画はまさに教科書的存在だろう。その上、映画と時計学両方に重要な来歴を持つ時計に加え、偶然にもキラーヴィンテージロレックスまで登場している。
なぜ私がそんなことが知っているのか? 直接情報筋にあたってみたからだ。この映画の小道具担当者、ロビー・ダンカン氏である。Watching Moviesの最初の記事で、マイルズ・テラーやグレン・パウエルといった俳優の手首に巻かれていたIWCのモデルについて書いた。あれらの時計が“何”だったのかは既に書いたとおりだ。ダンカン氏のおかげで、それに至った経緯が見えてきた。
「映画の準備のためにネバダ州を訪れていたときのことです。そこで偶然、IWCをつけたパイロットに出会い、彼が“オーナーを紹介してあげるよ”と言ってくれたのです」
その人こそが、ブランドのCEOであるクリストフ・グランジェ・ヘア氏だった。「そして、クリスがネバダに飛んできて、彼と素晴らしいミーティングが執り行われました」とダンカン氏は振り返る。「クリスとIWCは、ブランドをこのプロジェクトに参加させるという点で、非常に熱心でした。“素晴らしい、これですべての登場人物にIWCをつけることができるね”というところまで信頼関係が築けたのです」
ここで、素晴らしいプロダクトプレイスメントの構想が登場する。ダンカン氏は、地球上で最も人気のある時計ブランドのひとつが、映画で使用するためにその製品を全面的に使用することを許可するという状況に身を置くことになったのだ。しかし、それは何も新しいことではなかった。ここで異なるのは、正当性という点だ。IWCは、アメリカ海軍の戦闘攻撃戦術教官プログラム(現実のトップガン)と関係があり、我々のような民間人には入手不可能な時計を指導教官に提供しているのである。
「その意味で、パイロットに着用させることを正当化するのに、これ以上ない要素でした」とダンカン氏は言う。「時計は、つけ手がパイロットの感覚に最も近づける存在です。そのおかげで、劇中の人物のパイロットらしさがより増したのです」
映画の登場人物の階級に応じて、時計のモデルを選択するプロセスがあったようだ。上官はポルトギーゼ、パイロットはパイロット・ウォッチを着用していた。また、パイロット・ウォッチ・マーク XVIII・トップガン “SFTI”やパイロット・ウォッチ・クロノグラフ ・トップガン“SFTI”に、グリーンやブラックのストラップを装着するパイロット役も登場した。
ダンカン氏は、IWCの本物のモデルを利用するだけでなく、特別仕様の懐中ストップウォッチも共同デザインする機会を得た。「ストップウォッチは楽しくて厄介でした。なぜなら、誰かが実際に手に持って壊す可能性があることをIWCに了承してもらわなければならなかったからです」。とダンカン氏は言う。「とてもクールなプロセスでしたね。IWCは、映画のなかで使う作動しない小道具の時計用に外側のケースだけ3Dプリントしてくれたんです」
トップガンのような映画で小道具担当を務めるには、それなりの役得がある。ダンカン氏はその役得を最大限に活用した。「私はこの仕事を通して、IWCを手に入れることができました。しかもトップガンモデルです。でも、私がまず取り組んだのはポルシェデザイン製のブレスレットを時計本体に取り付けたこと。IWCにはこの時計のメタルブレスレット仕様がなかったからです。そして、私が調整のためIWCに送った際、“ロビー、君の時計はまるでオーダーメイドのトップガンウォッチだね”とIWCの担当者から言われました」
ポルシェデザインといえば、トム・クルーズの時計についてひと言。前回の記事で、クルーズが着用しているポルシェデザイン クロノグラフ1 by オルフィナは、映画1作目で彼が着用していたものと全く同じもののように見えると書いた。さて、実際のところどうだったのだろう? まったくその通りであるとの回答を得た。
ジェリー・ブラッカイマー氏(前作および本作のプロデューサー)はこの時計を金庫に保管していて、実際にトムが第1作目の『トップガン』で身につけていた時計とまったく同じものでした」とダンカン氏は言う。「そして、この時計は撮影現場からトレーラー内の金庫に運ばれました。クレイジーなほど慎重に取り扱われていましたよ。一番大変だったのは、予備を用意することでした。トムにはスタントマンはいませんでしたが、時計には必要だったからです」
では、この映画史に残るタイムピースは映画が終わったあと、どうなるのだろうか? 「撮影が終わったあと、ジェリーに返却されます」と彼は言った。「ジェリーはピラミッドの頂点ですからね。トムも頂点に立つ人ですが、ジェリーはそのほんの少し上にいます」。残念。
もちろん、満員の映画館でポップコーンを頬張りながら、誰もが目を奪われた時計が最後に1本だけあった。それは、映画のなかでジェニファー・コネリーが着用していたヴィンテージのロレックス エクスプローラーである。あれはどこからやって来たのだろうか?
「あの時計は、実はプロデューサーの奥様からお借りしたものです」とダンカン氏。「彼女から一本お借りしたあと、別の個体を手に入れることができました。美しいヴィンテージのロレックスですよね」。そうだよロビー、そうなんだ。
『トップガン マーヴェリック』(トム・クルーズ主演)は、ジョセフ・コシンスキーが監督、ロビー・ダンカン氏が小道具を担当。アカデミー賞にノミネートされたこの作品は、現在iTunesとAmazonでレンタルまたは購入することが可能だ。