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Introducing カルティエ プリヴェ 「タンクシノワーズ」 1920年代のクラシックがよみがえる

記憶に残るタンク。

Hero Image, Maud Remy‐Lonvis © Cartier

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我々が知っていること

1922年はカルティエの「タンク」にとって大きな年だった。この年、カルティエは「タンク ルイ カルティエ」を発表し、その後、「タンク」といえばこのモデルを思い浮かべる人が多くなったはずだ。それ以来、「タンク サントレ」、「タンク バスキュラント」、初代「タンク ノルマル」など、さまざまな「タンク」が登場し、100年以上にわたってカルティエファンを楽しませてきた。

 しかし、22年は、あまり記憶にない「タンク」が登場した年でもある。それが「タンク シノワーズ」だ。シノワーズとはヨーロッパで東アジアの装飾美術への関心が高まり再び注目を集めるようになった時代のことで、東アジアや中国の美意識で作られた装飾品や美術品の総称をシノワズリーと呼び、18世紀半ばのロココ運動でピークを迎えた。第一次世界大戦終了後、中国国民党共和国初期には、東アジアの装飾モチーフへの関心が再び高まり、「タンクシノワーズ」はその流れのなかにあったのである。

original tank chinoise

「タンク シノワーズ」(1922年)。Eric Sauvage, Cartier Collection © Cartier

 1922年の初代「タンク シノワーズ」はスクエアケースで、「ノルマル」や「ルイ カルティエ」と異なる点はブランカードにある。「ノルマル」や「ルイ カルティエ」ではケースの側面を形成していた棒がケースから伸び、ラグを形成している。20世紀初頭の腕時計といえば、ケースにラグをはんだ付けした小型の懐中時計が主流であったため、これは一種の革命的な試みであった。「タンク」と、それに先立つ戦前の「サントス デュモン」は、懐中時計を再利用した腕時計ではなく、最初から腕時計として設計された第一世代の腕時計のひとつであったのだ。

 「タンク シノワーズ」のブランカード(フランス語で“担架”を意味し、タンクのケース側面が担架のハンドルに似ていることからその名がついた)は確かに存在しているが、スクエアケースの上下にふたつのブランカードが追加されている。これは担架とはまったく関係ないため、ブランカードと呼ぶべきではないと思う。これらは東アジアの寺院などのポルティコ(入口の門)をイメージしたものなのだ。

cartier billiken mystery clock

カルティエ  「ビリケン」ミステリークロック。Marian Gérard, Collection Cartier © Cartier

 もちろん、ポルティコは東アジアや中国だけのデザイン要素ではない。最も一般的な意味でのポルティコは、文字通り建物のポーチ、または屋根付きの入り口のことで、建築そのものと同じくらい古くからあり、古代エジプトからギリシャ、ローマ、イスラム建築まで、私が知る限り、あらゆる建築物に見られる。しかし、オリジナルのシノワーズのラインには、確かに東アジアの建築を思わせるものがある。それを見るたびに黒澤 明の『羅生門』を思い出してしまう。『羅生門』は、東アジアの古典的なポルティコのある城門の下を舞台にしている。ポルティコのモチーフはカルティエのミステリークロックにも使用された。特に、驚くべきビリケンミステリークロックは、時計製造において東アジアのポルティコのモチーフを使用した最も壮大な例だろう。

 さて、ほかの多くの「タンク」と異なり、「タンク シノワーズ」は「タンク」全体の歴史のなかであまり再登場しておらず、前回は2004年に発表された。これは1998年から2008年までカルティエのクラシックデザインを限定発売するコレクション プリヴェ カルティエ パリ(CPCP)の一環としてであった。シノワーズとは思えないほど細長いケースを持つ「カルティエ リーブル」のジェムセッティングモデルを除いては、2004年以降、新しいものは出てきていないのだ。

 今年は、CPCPコレクションが残したクラシックなデザインの復刻に着手した「カルティエ プリヴェ」コレクションの一環として、「タンク シノワーズ」の新作が発表された。複数形になっていることに気づいてほしい。久しぶりにシノワーズファンが大喜びしている。ふたつの異なるファミリーで、合計6本の新作が登場したのだ。

tank chinoise new models 2022

© Cartier

 ひとつ目はスタンダードな「タンク シノワーズ」とでもいうべきもので、一見すると1922年のオリジナルモデルとほとんど見分けがつかない。ひとつ違うのは針で、1922年のモデルはポム(ブレゲ)針を使用していたが、今年のモデルはブルーソード針を使用している。しかしいちばん大きな違いはケースにある。カルティエ プリヴェ「タンク シノワーズ」のケースは、正方形ではなく長方形なのだ。

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我々が思うこと

ルイ・カルティエの眼と思考から生まれたものを批評するのは冒涜的に見えるだろうが、私は新しいカルティエ プリヴェ「タンク シノワーズ」のデザインは改善されていると思う。名作と言われるだけあって、オリジナルのシノワーズはいつも少し閉塞的な感じがしたのだ。水平に配置されたブランカードは、それ自体のためにデザインをやや四角くしすぎ、全体を静的なものにしてしまった。新しいカルティエ プリヴェ「タンク シノワーズ」は、より軽く、よりエレガントになったと感じている。

 イエローゴールド、ピンクゴールド、プラチナの3モデルがあり、いずれも39.5×29.2mm、手巻き Cal.430 MC(ピアジェ430Pベース)、各150本の限定生産となる。

tank chinoise chinese window motif

© Cartier

 中国の建築様式を取り入れたシノワーズをお望みなら、オープンダイヤルとスケルトンムーブメントの3モデルも用意されている。ダイヤルは中国の伝統的な窓のデザインを参考にしている。さまざまなパターンがあるが、カルティエが選んだ直線的なパターンは、最も象徴的なもののひとつだ。イエローゴールドモデルにはブラックラッカーで装飾された横長のブランカードが、みっつのモデル(イエローゴールド、プラチナ、ダイヤモンドセットのプラチナ)にはレッドラッカーとブラックラッカーで装飾されたオープンダイヤルが採用されている。イエローゴールドモデルとプラチナモデルはそれぞれ100本限定、ジェムセットプラチナモデル(ブリリアントカットダイヤモンド161個)は20本限定だ。

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Maud Remy‐Lonvis © Cartier

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Maud Remy‐Lonvis © Cartier

 新しいコレクション、カルティエ プリヴェ「タンク シノワーズ」は、小さなデザイン変更がいかに大きな違いを生むかを教えてくれるものだ。ケースのプロポーションを長くしたことは、小さな変更に思えるかもしれないが、時計全体の美観に大きな違いをもたらしていると思う。ルイ・カルティエも認めてくれるかもしれない。

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Maud Remy‐Lonvis © Cartier

「カルティエ プリヴェ」コレクション 「タンク シノワーズ」:イエローゴールド、ピンクゴールド、プラチナの3モデル、イエローゴールドとプラチナのラッカー装飾オープンダイヤル(イエローゴールド仕様では横長のブランカードも)3モデル。クローズドケースモデルは全モデル39.5mm×29.2mm×6.09mm、オープンダイヤルモデルは全モデル39.5mm×29.2mm×7.7mm。クローズドケースモデルはYG、PGモデルが341万8800円、プラチナモデルが385万4400円。オープンダイヤルモデルはYGモデルが792万円、PGモデルが864万6000円、プラチナモデルが1128万6000円。すべて税込予価。

クローズドケースモデルのムーブメント:カルティエ Cal.430 MC、20.5mm×2.15mm、18石、2万1600振動/時、約38時間のパワーリザーブ、オープンダイヤルモデルのムーブメント:カルティエ スケルトン Cal.9627 MC、26.1mm×3.9mm 、23石、2万1600振動/時、約38時間のパワーリザーブ。

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