Introducing エルメス　アルソー ル タン ヴォヤジャーデュアルタイムゾーン（編集部撮り下ろし）

　12時位置の開口部にはホームタイムが表示され、ローカルタイムが表示されたサブダイヤルは、ダイヤル上に描かれた地図の上を衛星のように移動する。この時計の設定方法は、2タイムゾーン表示の時計を使用したことがある人や、この手の複雑機構にある程度慣れている人であれば、かなり簡単に感じられるだろう。

　まず、9時位置のプッシャーを使って、ホームタイムゾーンを表す都市の反対側に衛星サブダイヤルを配置する。次に、リューズを3番目の位置まで引き出し、衛星サブダイヤルの時刻を合わせる。(サマータイムを使用している場合は、"S "が表示されている都市を使用）。次に、リューズを2番目の位置まで押し込み、正しい時刻がホームタイムウィンドウに表示されるまで回す。

　それから旅を始めたら、衛星ダイヤルがダイヤル上を周回して現地時間の都市に隣接する位置まで、プッシャーを押して都市リングを動かすだけで、時針の位置も自動的に同期される。

　使ってみると非常にわかりやすい時計だが、いざこのように実装するとなると、かなり複雑だ。ローカルタイムを表示する衛星ダイヤルは、ユーザーがダイヤルを動かしても正しい方向を維持し（月の表示が回転しても正しい方向を維持するのはアルソー ルゥール ドゥ ラ リュンヌでも採用）、都市表示針も同様に正しい向きを維持するが、サテライトが回転しながら正しい方向を維持しつつ、同時に時針位置を作動させるには、いくつかの工夫が必要だった。また、コンプリケーションモジュールは、特殊な機構を得意とするクロノード社が開発したもので、みっつのディファレンシャルギアを採用し、耐衝撃性と信頼性を確保するために多くの時間が費やされた。

　この地図は“乗馬の世界地図”という架空の概念に基づいており、オリジナルデザインはジェローム・コリアード氏がシルクスカーフ“プラニスフェール・ダン・モンド・エケストル（馬術の世界の星座盤）”のために制作したものだ。

　エルメスの功績は、実用性もさることながら、「奇抜」という言葉を使わざるを得ないほど、奇抜さに満ちたデュアルタイムゾーンウォッチを作り上げたことだ。もちろん、GMTマスター IIほど時刻を瞬時に読み取ることはできないが、最も実用的な時計のひとつであるアルソー ル タン ヴォヤジャーは、その点で一切の妥協を許さず、非常に難しい課題を見事に解決しているといえるだろう。

　エルメスのアルソーに加わったこのモデルは、老犬（老舗）にだって新しい芸当（複雑機構）が仕込めることを証明する、楽しい1本だ。

エルメス アルソー ル タン ヴォヤジャー： ケース径、41mmプラチナにブラックDLCチタンベゼル、または38mmステンレススティール。いずれも30m防水。

プラチナモデル、亜鉛メッキダイヤル、ライトグレーの転写プリントで大陸名と輪郭を表現。海洋はレーザー彫刻とラッカー仕上げ。チャコールグレーの子午線と平行線。サンドブラスト仕上げのカウンター、ブラックゴールドラッカー仕上げのグラデーションリム。シルバートーンのパウダー転写によるアラビア数字。サンドブラスト仕上げの都市表示フランジ、シルバートーンのパウダーを塗布した都市表示。夜光にスーパールミノバを塗布したブラックゴールドの針。

スティールモデル、亜鉛メッキダイヤル、ブルーに転写された大陸名と輪郭。海洋はレーザー彫刻とラッカー仕上げ。ブルー転写による子午線と平行線。カウンター、ブルーラッカー仕上げのグラデーションリム、ホワイト転写のアラビア数字。サテン仕上げを施したブルーの円形フランジにホワイトの都市名を転写。針、ロジウムメッキ、夜光、スーパールミノバ。

ムーブメント：両モデルともエルメス Cal.H1837、自動巻き、26mm×3.7mm、40時間パワーリザーブ、トラベルタイムモジュール、32.7mm×4.4mm。

両モデルともカーフスキンまたはアリゲーターストラップが装着される。

価格：プラチナ　344万3000円、スティール　269万5000円（すべて税込）