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トランスパレント(シースルー)バックについてジャック・フォースターが書いたささやかな記事「エントリーレベルの腕時計もムーブメントは見せるべきだ」を読んだだろうか。ジャックの書くものすべてがそうであるように、その記事もよく書けているのだが、残念ながら見当違いだ。まず彼は、エントリーレベルの腕時計はトランスパレントバックにするべきであるという立場をとっている。これは単に視点が曖昧すぎるのだ。 私は、エントリーレベルの腕時計がムーブメントを見せることに反対はしていない。エリート主義であるわけでもないし、お金の問題ではないのだ......やり方の問題なのである。
トランスパレントバックは、腕時計にとって付け足しであってはならない。ブランドとして、裏蓋に透明なガラスを貼り付けて、それがベストであると満足していてはならないのである。すべてのムーブメントが同じように作られているわけではないし、特に仕上げについてはそうだ。
この点について意見が一致していた頃、私はHODINKEEの時計部門のグランドマスターであるフォースターが、ムーブメントを見せるという観点から真のエントリーレベルの時計をいくつか示してくれることを期待していた。
そして彼はどうしたか。セイコー5スポーツをメイン画像に使ってユーザーを誘い込み、記事のなかでは素晴らしいデザインのトランスパレントバックの“エントリーレベル”の腕時計で埋め尽くしたのだ。結局それらの時計は、約20万円以上だった (ティソのPRXクロノグラフの場合は、税引き前価格で少し安かった)。しかもひとつはオークションでしか買えないユニークピース。ちょっと騙されたような気がする。やり方が汚いのではないだろうか。しかし、私は正々堂々挑むつもりだ(さまざまな比喩は別として)。
ひとつのブランドも捨て去るつもりはないが、私はかつての新進気鋭の時計愛好家から時計ライター/専門家(自称ではなく、そう呼ばれているのである)に転身した経験から、「エントリーレベルの付け足し」を遺憾に思うようになった。それらは、ETAやセリタのムーブメントを改造した3万円くらいから20万円程度の腕時計であるが、実際にはムーブメントにほとんど手が加えられておらず、それをサファイアガラスやミネラルガラスで覆っているのだ。ティソのPRXクロノは、先見の明をもってトランスパレントバックを採用した、近年の記憶に残る腕時計である。フォースター氏と私の共通点はここにある。
付け足しの問題点は、概ねふたつだ。まず、大きなローターに覆われた金属の塊がそこにあるだけで、ほとんどその時計について意味のあることが見られるようにはならないこと。次に、ムーブメントがケースよりもはるかに小さいため、変な比率で露わになることだ。ムーブメントが白いプラスチックで覆われていることもある。コストを抑えるためであれば、無理に見せる必要はないと思うのだ。
私にとって、クローズドケースバックであることは、ブランド側の自信を感じさせる。ロレックスにはトランスパレントバックの腕時計はひとつもない(装飾や高度な仕上げはともかくとして)。おそらく私は、普段使いの時計には頑丈なケースバックのクラシックでシンプルな魅力が好みなのだろう。
しかし、真の高級時計と高度な機械の構造の場合はどうだろうか。私なら毎日、そして日曜日には2回、トランスパレントバックに触れたくなる。A.ランゲ&ゾーネ 1815 ラトラパント・ハニーゴールド“F. A.ランゲへのオマージュ”のような腕時計のことである。私は短時間だったがそれに触れる機会があり、そのときに他のどの部分よりもムーブメントを見ることに多くの時間を費やした。だからこそ、トランスパレントバックが必要なのである。見ずにはいられなくなるような複雑さがあるのだ。
あえて言えば、現代のオメガ スピードマスター321もそのカテゴリーに入るのではないだろうか。ムーンウォッチが欲しかったが、信頼できるヘサライト風防でクローズドケースバック仕様のものしか持たないと決め込んでいた私にとって、この腕時計は考えを変えてくれたのである(記事「ムーンウォッチ徹底比較:ヘサライト対サファイアクリスタル」参照)。それはひとえにCal.321が関係している。歴史的な経緯は聞いていたが、現代に再現されたキャリバーを見ると、まったく別物だと感じたのだ。
このふたつの時計には、高級感のある自社製ムーブメントであること以外に、いくつか共通点がある。どちらも手巻きのためローターがなく、ケースにぴったりと収まっているのだ。また、モンブランがミネルバをベースにしたムーブメントをハイエンドモデルに採用していることも忘れがたい(記事「モンブラン 1858 スプリットセコンド クロノグラフ リミテッド エディション 100」参照)。これらの腕時計の裏側は、思わず誰かに見せたくなるような仕掛けがたくさんあるのだ。
だからといって、自動巻きムーブメントは見せるに値しないというわけではない。シーマスター ダイバー300Mシリーズのオメガ コーアクシャルキャリバーのような、より工業的なムーブメントであっても、ジョージ・ダニエルズとコーアクシャル脱進機の開発について話す機会が得られるため、見せるに値するのである。
ジャック・フォースターはCal.MT5652-1Uを搭載したチューダー ブラックベイ GMT ワン For Only Watch 2021の写真を挿入して、これをエントリークラスと言い切ろうとしている。チューダーの限定モデルがエントリーレベルだって?
冗談はよしてくれ、ジャック。
ここで通常モデルのチューダーに話を戻そう。METAS認定のCal.MT5602-1Uを搭載したチューダー ブラックベイ セラミックだ。通常モデルも限定モデルも、仕上げは非常によく似ている。どちらかと言えば、これこそ賞賛されるべきムーブメントであろう。「美しい」 とは言えないかもしれないが、チューダーは他の部分にも同じように、黒に黒を重ねた仕上げを施すべきだと考えており、ローターにも装飾を施して起動させた。それは腕時計の一部であり、そこには共生がある。それはアートと呼ぶこともできると私は思っている。
結局のところ、時計の裏側は隠れている部分なのだ。それは、あなたとあなたの腕のあいだの秘密である。トランスパレントバックはあなたをワクワクさせ、腕時計を外すとその秘密を公開し、世界と共有する気にさせるものでなければならないのだ。