チューダーが、名作ブラックベイ GMT(ジェームズ・ステイシーの時計のスタイリングと詩的な表現により、さらに人気を博した)をブラックベイ フィフティ-エイトに搭載することは、誰もが予想できたことだろう。この時計は多くの愛好家が欲しいと思っていたものであり、我々もきっと手に入れることができると確信していた。しかし、時折起こることだ。我々は間違っていた。チューダーは39mmのGMT機能を備えたモデルを発表したが、それはまったく新しい時計という形で現れた。ブラックベイ プロだ。しかし、そのクラシックなサイズとフォームファクターに新しいテイストを加えたブラックベイ GMTも発表されたのだ。ペプシが嫌いならルートビアがある。そして、ルートビアが嫌いなら……諦めて欲しい。
新しいチューダー ブラックベイ GMTのRef.M79833MNは、正式にはS&G(スティール&ゴールド)と呼ばれるモデルだ。その核となるのはイエローゴールドをアクセントにしたツートンカラーのブラックベイ GMTで、ダイヤルにはゴールドと呼ぶにふさわしい美しさがあり、ベゼルにはゴールドの色調に合わせた新しいバイカラー設定が採用されている。 SSとYGにブルーとレッドのベゼルのコントラストを想像しているだろうか? 幸いなことに、その必要はない。
私がこの時計を見たのは、発表からおよそ2時間後だった。ジュネーブで開催されたWatches & Wondersのパレクレスポ内にあるチューダーの宮殿のような“ブース”に入ると、今年のノベルティで覆われたテーブルが迎えてくれた。プロはもちろん、ニック・マリノ(Nick Marino)が愛用する31mmでS&Gのスタンダードなブラックベイもあった。幸運なことに、その長いテーブルの私の側には、レザー、ナイロン、ツートンのブレスレットがついた3種類の新しい“ルートビア” GMTが置かれていたのだ。
当然、試着して感想を練り、同僚に怒られない程度に独り占めできる時間があった。幸いなことにブラックベイ プロが最も注目を浴びていた。その時、“ルートビア”がのちのち隠れたヒットになることが明らかになったのだ。
辛口な意見を言わせてもらうと、 私はこのブレスレットがあまり好きではない。ツートンカラーは断固として支持するが、私の目にこのコンセプトは少し行き過ぎたものに映った。テーパーのないブレスレットの大きさと、ゴールドのセンターリンクの彩度が、ショーの主役である時計本体から目を逸らせてしまうのだ。
バイカラーという点では、リューズは金無垢、ベゼルも金無垢、ブレスレットの最初の2リンクも金無垢だが、残りはゴールドキャップの SSとなっている。このため、市場にあるほかのツートンカラーの時計と比べると、比較的手ごろな価格で購入することができる。60万円前後(ブレスレットとストラップの価格を平均した場合)という価格は、貴金属を部分的に使用した時計としては非常に魅力的なものだ。例えば、昨年注目を浴びたロレックスのエクスプローラー Ref.124273、別名ツートンの36mm エクスプローラーの場合。金無垢なのはブレスレットのセンターリンクとクラスプで、その時計は123万6400円(税込)になる。それにはルートビアGMTのクラスプがすべてSSであることを言及する必要がある。
これはヘリテージウォッチなのだろうか? 70年代から80年代にかけて、ロレックスはブラウンとクリームの2色ベゼル、“ニップル(フジツボ)”ダイヤルを備えたルートビア GMTモデルを発表していたことはよく知られている。チューダーもそのカラーパレットを踏襲すれば完全にオン・ブランド化しただろう。しかし、このモデルはロレックスのGMTマスターⅡにおける“ルートビア”の美学をチューダー流にアレンジしたものなのだ。
それがわかるのは、2018年にロレックスがブラウンとブラックのベゼルを持つ時計を発表したとき、そのような色の組み合わせは初めてだったからだ。それは新しいルートビアだった。今、チューダーは、ロレックスのペプシモデルと並んで、赤と青の初代ブラックベイ GMTを発表したように、同じベゼルの組み合わせのブラウンとブラックのバージョンを独自に作り出したのだ。
ブレスレットへの不満はさておき、この時計はどちらのストラップでも、特にマッチしたストライプのナイロンストラップで、そのよさが際立つ。貴金属がミックスしているにもかかわらず、W&Wのテーブルに並んでいたどの時計よりもスポーツウォッチに近い印象を受けた。ブラックベイ プロが今年の大作であることはわかっているが、私はルートビアのより完成されたデザイン美学を好む。それを見れば何も考えなくていい。まるで昔からそこにあったかのように、理に適っているのだ。
ブラウン、ブラック、ゴールドのアクセントにゴールドのリューズとベゼルが映え、ストラップをつけたときに生き生きとした表情を見せる。直径41mm、厚さ15mm(ブラックベイ プロと同じクロノメーター認定のMT5652ムーブメントを搭載)のGMTケースは、面取り加工により厚みを感じさせない工夫が施されている。
この時計は私の手首に収まるギリギリのサイズのため、正直言って短い時間では格闘することになった。だが、このデザインが心に残って丸1週間が経った。スターは時としてその姿を現すのに時間がかかるものだ。みんながSSベゼルのGMTに夢中になっているあいだ、私は小さなコーナーで、背の高い爽やかなルートビア(時計のこと)を楽しんでいることだろう。
Photos by Atom Moore and Tiffany Wade.
詳しいスペックや価格については、Introducing記事をご覧ください。
チューダー ブラックベイ GMT S&G “ルートビア”の詳細についてはチューダー公式サイトをご覧ください。HODINKEEはチューダーの正規販売店ではありませんが、すばらしい中古モデルを取り揃えています。