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記録更新を嫌う人はいるだろうか? 時計専門誌は記録更新を我先にと報じ、オークションハウスもその仕掛けに乗じ、そして一般に、途方もない落札価格のみが注目を集める現象が長年続いている。これらが記録に関する情報を読み漁り、その記録が破られることに明らかな関心を引きつける一方で、何十年も時計に興味を持ち続けている愛好家たちは、かつてニッチな分野であったものが莫大な金額を稼ぎ出すのを目のあたりにして、世間が注目する前から自分たちがその価値を理解していたことにある種のお墨付きを感じているのだ。
しかし、価格の上昇に伴い……そう、価格はまだまだ上昇中だ。つまり、いま話題のオークション(常にそうだと限らないが、特定のテーマに沿っていたり、特定のモデルを特集していたりすることが多い)は、予想落札価格はともかくも、かなり高額な落札額に着地するロットがあまりにも多いため、億万長者ではないコレクターにとっては選択肢が少なくなっているのが現実だ。
2020年末にボナムズの非常勤会長に就任したハンス‐クリスチャン・ホイスガード(Hans-Kristian Hoejsgaard)氏は、229年の歴史を持つオークションハウスの時計オークションを悩みの種ではなく、解決の一助にしたいと考えているという。ホイスガード氏は、ラグジュアリー界にも時計界にも精通しており、過去にはタイメックスグループの社長兼CEO、ジョージ ジェンセンの社長兼CEO、ダビドフのCEO、かつて時計見本市、バーゼルワールドを運営していたMCHグループの非常勤取締役兼CEOなどを歴任した。
これからホイスガード氏は忙しくなりそうだ、と言ってしまえばそれまでだが、ボナムズには60近い部門があり、NFTやデジタルアートから名画まで、あらゆる分野のオークションを提供している。ホイスガード氏は、多様性こそがボナムズの最大の資産だと考えているという。その多様性は、部門の数だけでなく、時計やクロックの提案においても同様だ。翌日のニューヨークの時計オークションを控えた彼に、我々はインタビューを申し込み、時計について、そしてボナムズがいかに多様で価値のある品々を手に入れられる場所でありたいと考えているかについて話を伺った。
HODINKEE: ボナムズには非常に多くの部門がありますが、競合他社と比較して、ボナムズはどのような立ち位置にあり、どのような成長の機会があるとお考えですか?
ハンス‐クリスチャン・ホイスガード: 第一に、ボナムズは228年ものあいだ、世界的なオークションハウスであり続けているということです。そして、ボナムズは基本的にコア市場とも言うべきポジションに確固たる地位を築いています。仰るとおり、ふたつの大手ハウスが、超、超、超ハイエンドの現代アートに非常に力を入れておられます。ボナムズは72のカテゴリーで活動しているので、さまざまなことに取り組んでおり、多くのニッチな分野でリーダー的存在と言えるのです。我々はオーストラリア、ロサンゼルス、ニューヨーク、ロンドン、そしてパリに販売会場を構えています。
つまり、中堅のコア市場にグローバル市場へのアクセスを提供できることこそ、私たちの強みなのです。この18ヵ月のあいだに、その思いを新たにできたことは、明らかに特別でエキサイティングなことでした。2019年と比較すると、ボナムズの成長率は40%以上です。そして、成長率を大手と比較すると、彼らをはるかに上回っていることがわかります。ですから、私たちは1000ドルや1万ドルのアイテムも、100万ドル(約1億2700万円)のアイテムと同じくらいのエネルギーを費やす、親しみやすいオークションハウスになることができるいい立ち位置にいると思いますし、売り手もお客様もその地に足の着いたアプローチを評価してくれていると感じています。
HODINKEE: 40%の成長率に最も寄与した要因は何でしょうか?
大手オークションハウスが放棄し、超、超、超ハイエンド品を得意とする市場を選択し集中しているなか、私たちはコア市場で自分の居場所を見つけたことが明らかに貢献したからでしょうね。それが第一の要因です。ふたつ目は、現代アートと近代美術が特に伸びていることです。そして、新型コロナウイルスがボナムズにまったく新しい客層をもたらしていることは明らかな要因です。つまり、現在、私たちの入札の3分の2はオンライン経由であることを考えると、16~18ヵ月で大きく変化したということです。
HODINKEE: 新型コロナウイルス前、つまり1年半から2年前と比べるとどのように変化したのですか?
まったく逆でした。オンライン経由が3分の1、来場が3分の2でした。つまり、完全に逆転したということです。
HODINKEE:ボナムズの部門の多様性を強みと見なしますか? それとも選択と集中を検討すべきでしょうか?
ボナムズの会長に就任するまでの会話のなかで、私にとっての大きなセールスポイントのひとつは、“奇妙なものを持っているなら、ボナムズに行け”という古い諺でした。つまり、私たちが長い時間をかけてオークションにかけることができた品には、非常に多くの驚くべき物語があるのです。数週間前、ビリー・ザ・キッドを殺したピストルを、武器としては史上最高額で落札されたのはご存じでしょうか。つまり、こういうことは強みとなるでしょうね。なぜなら、私たちはニッチなマーケットのニッチなプレイヤーだからです。さらにこういう品が、極めておもしろいニッチな分野におけるリーダー的存在感を築くチャンスも与えてくれるのです。
HODINKEE: 時計だけでなく、多くのカテゴリーでオークション価格のプレミアム化が進んでいますが、特に現代アートは顕著ですよね。そのような環境のなかで、ボナムズのアドバンテージはどこにあるのでしょうか?
仰るとおり、特に現代アートのプレミアム化は常軌を逸していますが、それは非常に、非常に、非常に少数グループの人々向けの市場なのです。ですから、誰でも、あるいはもっと多くの人が参加できる広大なコア市場は、明らかに極めておもしろく、もっと広い市場であり、私たちがプレーしているのはそこなのです。350万ドル(約4億4450万円)の時計は誰もが注目し、記事にしますが、入札者の数はかなり限られるのは明白ですが、同時に2万(約254万円)、10万(約1270万円)、30万ドル(約3810万円)の時計はもっとダイナミックな盛り上がりを見せることもわかっています。だからこそ、私たちはカテゴリーを問わず、この中堅市場に注目しているのです。
ロレックスやパテック フィリップのような高級時計も魅力的ですが、やはり多くの人にとっては依然手が届かない存在です。現在では多くの小規模なブランドが参入してきていることは、私たちも非常に興味深い存在だと捉えています。
HODINKEE: 一般にヴィンテージとは別のカテゴリーとして考えられている中古時計は、今後どのような位置づけになるとお考えでしょうか?
特に若い世代にとっては、美しい時計をリサイクルして、その歴史の一部になることができるのに、なぜ新しい時計を買う必要があるのだろうという、サステナビリティの観点があるのではないでしょうか。しかし、私たちがヴィンテージカーが完全に主流の自動車オークションビジネスで見てきたように(今でも圧倒的に大きなカテゴリーだが)、ここ2、3年のあいだに、モダンカー、現代的な車、新車、スーパーカーなども前面に出てきていることがわかります。そしてそのような車を、少し若い人たちが運転しています。ですから、時計の分野でも、他のカテゴリーでも、そのようなことが起きると確信しています。
HODINKEE: オークションハウスがよりハイブリッドなモデルを開発し、中古時計、オークション、そして来場型の時計イベントが統合されるような未来図はあり得ますか?
私は、このビジネスに投資した投資家の皆さんと同様、オークションはますますハイブリッドな存在になると確信しています。この先、時計見本市とオークションハウスとギャラリーが、ほとんど共通のスペースに集まってくるかもしれませんね。私たちのお客様は、あらゆるチャネルで、あるいはよりマルチチャネルで買い物をするようになっていると思います。
また、Apple Watchが起こした潮流は、ほかのラグジュアリー分野で以前から起こっていたことを示したと思います。これはスイス製の時計に取って代わるものではなく、あくまでも追加的な存在です。また、タイメックスにいた頃、多くの人が高価な腕時計を持っていましたが、ジムや庭仕事をするときには“アイアンマン(IRONMAN)”を着けていたことを思い出します。
HODINKEE: 主要ブランドのオークションでの価格が上昇しているということは、あまり知られていないメーカー、つまり時計製造の内容が充実しているにもかかわらず、手が届きやすい価格のメーカーを意識する機会がある、ということですね。
その意見には完全に同意します。なぜなら、現代アートや近代美術など、多くのカテゴリーで同じようなことが起こっているからです。ピラミッドの頂点に立つと、プレイヤーもプレーできる人も少なくなってしまいますから、ピラミッドの裾野ではより幅広い提案にアクセスできるという事実は、業界にとって非常に興味深く、消費者を興奮させることでしょう。そこに疑問の余地はありません。
HODINKEE: 現代アートに至っては、政府系ファンドでなければ実質的に入札できないところまで来ています。
その通りです。そしてそれは間違いなく馬鹿げたことだと思うのと同時に、それができる人々なり、機関なり、美術館が存在することはすばらしいことだと思います。しかし、ラグジュアリー界もまた、手が届くものでなければならないと思うのです。もちろん、すべてのカテゴリーが、そこにあるものの多様性や幅広さについて、詳しく説明し、認識を高めることに重点を置かなければなりません。そして、皆さんもよくご存じのように、信じられないような時計が、私たちでも買えるような価格で手に入るのです。
HODINKEE: オークションの記録的な結果が注目されますが、実際には、すばらしい時計を代表するロットが1万ドル以下で落札されることが非常に多いですよね。私たちは、億万長者でないと遊べないという印象を持っていますが、実際の結果を見ると、そんなことはないんですね。
そう、そんなことはありません。先週、パリで初めて時計のオークションを行いましたが、まさにその通りで、ローエンド、つまり6000~1万2000ユーロ(約82万2000~164万4000円)の価格帯のロットが半分ほどありましたが、落札予想価格に近い結果で取引されました。しかし、おもしろい作品であり、手ごろで手が届きやすいことから、その価格帯の入札には活気がありました。ですから、そこには明確なトレンドがあると思います。
ボナムズにとって時計は、将来的に非常に重要な位置を占めると思います。先ほど72のカテゴリーがあると言いましたが、そのなかでも特に力を入れているのは10か12のカテゴリーで、時計はそのうちのひとつです。そして、ニューヨーク、パリ、ロンドン、香港のチームを強化しています。この分野では、明らかに多くのことができると感じています。伝統的に、歴史的に、私たちはジュエリーの分野で非常に強く、現在も強いと認識しています。時計とジュエリーはとても相性がいいのです。ですから、このビジネスを共同で成長させる機会もたくさんありますし、大きな期待を持っています。
私たちがラグジュアリー界と呼ぶものは、ここ数年のオークションビジネスで明らかに発展してきたもので、以前はジュエリー、次にジュエリーと時計、そして今はジュエリー、時計、ハンドバッグと、その他さまざまなものがあります。ですから、私たちは、ラグジュアリーでありながらアクセスしやすいという、特別なポジションを獲得していると考えています。
このインタビューは、長さとわかりやすさのために編集されています。画像はすべてボナムズ社より提供
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2022年4月14日に開催されるボナムズ ニューヨーク・ウォッチオークションのオンラインカタログはBonhams.comでご覧いただけます。このオークションでは、懐中時計のコレクターにとって多くのチャンスがあるとだけ言っておきましょう。