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Inside The Manufacture METAS マスタークロノメーター・ラボの内部‐ロレックス本社内のチューダーの、さらにその内部に潜入

チューダーの、チューダーによる、チューダーのための拷問部屋へ招待しよう。


2013年に北米でブランドが再始動を遂げて以来、チューダーは急速に世界で最も注目される時計メーカーのひとつとなった。これは、ロレックスの貢献(両社ともハンス・ウィルスドルフ財団の所有で、社名は1926年に登録された)も大きいが、時計としての堅牢性、そして非常に厳しい環境での使用を想定した手頃で丈夫な時計のメーカーとしてのチューダーの歴史によるものでもある。

 近年、チューダーはETA社(スウォッチグループ傘下のムーブメントメーカー)の供給ムーブメントから、チューダー、ブライトリング、ノルケイン、シャネルにムーブメントを供給し、シャネルが20%の株式を所有するケニッシ社が供給するキャリバーに移行している。そして2021年5月、スイス連邦計量認定局(METAS)のマスター クロノメーター認定を受けたチューダー初の時計であり、オメガ以外で初めてマスター クロノメーターを取得したブラックベイ セラミックが発表された。

 チューダーが、今はなきバーゼルワールド以外の見本市に初めて参加したWatches&Wondersの開催中、HODINKEEチームはジュネーブのロレックス本社にあるマスター クロノメーター認定場を訪れた。チューダーもロレックスも、工場やオフィスに見学者を招くことは極めて希だ。HODINKEEが最後に訪れたのは、ベン・クライマーがロレックスの4つの全製造拠点を訪問した2015年であった。

 チューダーの製造拠点は、ロレックスの建屋内にある。ジュネーブ中心部から車で移動する場合、ジュネーブの旧市街の境界の河川のひとつを越えて行くことができる。その川こそアルヴェ川といい、橋はハンス・ウィルスドルフ橋(Pont Hans Wilsdorf)と呼ばれている。

Rolex HQ Geneva

 私は長年にわたって多くの時計メーカーを訪問してきたが、数台の作業台とCNCマシン、そしてささやかな事務所という小規模なものから、プラン・レ・ワット(ジュネーブ中心部近郊に位置する)にあるベルナール・チュミ(Bernard Tschumi)設計のヴァシュロン・コンスタンタンの工場のように、洗練されたモダンな高級時計製造の宮殿まで、さまざまなメーカーを見てきた。時計工場を訪れるのはとてもスリリングで、何度行っても毎回新しい発見がある。しかし、ロレックスを訪れるとなると、その心構えはまったく違ってくる。ロレックスの本社は、時計ブランドの本社というよりも巨大な工業メーカーの本拠地であり(その実態は、まさにその通りである)、あるいは信じられないほど巨大な金融機関のようである(これもまさに言い得て妙である)。

Rolex HQ lobby
Lobby Rolex Geneva

 特大のウェディングケーキのような大きさのシードゥエラーの模型がある巨大なロビーを抜けると、チューダーのオフィスと製造センターがあるフロアに出る。オフィスは豪華ではないが、ブランドの過去の功績を偲ばせるオブジェや展示物がいたる所に飾られており、まるで3次元のムードボードの中を歩いているような錯覚に陥る。

Tudor headquarters

 マスター クロノメーター認定試験は、チューダーの時計の組み立て作業台と同じフロア内の、小さないくつかのラボで実施される。多くの大手時計メーカーと同様に、組立室は徹底的に清潔に保たれており、保護用の紙製の長靴と時計職人用のジャケットを着用する更衣室を通過しなければ中に入ることが許されない。チューダーでは、実際の組み立て室は陽圧に保たれており、万が一空気漏れがあっても、部屋に外気は吸入せず、室外に排出するようになっている。

 部品製造の多くは自動化されているが、組み立てはそうではなく、ムーブメントのケーシング、ダイヤルの配置、針の取り付けなど、多くの手作業工程と手作業による品質管理を伴う。そのひとつが、時計の針のセットとクリアランス(隙間)の確認である。針をセットする機械に手作業で負荷をかけ、針をセットした後、リューズを12時間回し続け、さらに特注の小さなゲージを使ってクリアランスを確認する。

Hand-setting at Tudor watch factory

 METAS認定という言葉に聞き慣れていると思うが、正式名称はマスター クロノメーターである。METAS(Metrology And Accreditation Switzerland)は、スイス連邦計量認定局の頭文字であり、同認定局は認定規格の制定と適合性の確保の責務を負っている。METASはその名の通り、測定基準を扱う機関であり、その活動は気体や液体の基準から、長さ、音響、スイス国内で管理する原子時計標準の維持に至るまで、あらゆる分野に及んでいる。スイスの時計規格のなかでも、時計に特化した認定方法はかなり新しいものであるが、最も厳しいもののひとつである。

Tudor Master Chronometer METAS lab

 マスター クロノメーター認定を受けるには、まずふたつの基準をクリアする必要がある。それは“スイス製”であること、かつCOSCクロノメーター認定を受けたムーブメントを搭載していることである。さらに、マスター クロノメーターの認定を受けるためには、ムーブメントをケーシングしたあとの時計本体(COSCはムーブメントのみ)を対象とした一連のテストに合格する必要がある。メーカーが表示する防水性能の確認、パワーリザーブのチェック、フル巻き上げ時/巻き上げ残量50%の精度が日差0/+5秒以内に収まっているかのテスト、そして最も難しい1万5000ガウスの耐磁性を確認するテストなど、さまざまなテストが行われる(テスト規格に熱中するのが好きな読者、私自身にも朗報だ。実際のMETAS時計テスト規格をダウンロードできるWebサイトをご案内しよう)。

METAS Lab at Tudor Geneva

 マスター クロノメーター認定の精度や耐磁性などの各試験は、本館の広さからは想像もつかないような、比較的小規模な室内で実施されている。耐磁性試験は分かりやすいものだが、ソーセージがどのように作られるかを実際に見るのが好きな人には-私もそうだが-魅力的に映るだろう。技術者が時計をトレイに載せ、トレイはスライド式のベルトコンベアに乗って、威風堂々とした外観の磁石の脇にあるトンネルに滑り込む。そして、約30秒後、技術者のPCモニターに結果が表示されるのだが、緑色なら合格である。次のステップは、精度がまったく影響を受けていないことを確認するために、時間の経過とともに振動数の偏差をテストすることだ。

Tudor Master Chronometer testing station
Tudor Master Chronometer magnetic testing
Tudor Master Chronometer magnetic testing

 磁石はかなり威圧感がある。大型ハドロン衝突型加速器を彷彿とさせるもので、近寄りがたい雰囲気を醸し出している。しかし、少し離れただけで、磁力はかなり弱くなる。磁場は“逆2乗の法則”と呼ばれるように、磁力が発生源からの距離の2乗に反比例するからだ。平たく言えば、磁力は発生源から離れると急激に弱くなるため、磁石の入ったガラス筐体の表面は、ペーパークリップがくっつくほどの磁力はない。

 マスター クロノメーターとその他のチューダーウォッチの防水性能テストは、圧力鍋のような巨大なスティール製チャンバーがある別のラボで行われる。時計本体をラックに載せ、小型クレーンで試験室に降ろすと、蓋が恐ろしげな油圧クランプで密閉される。テストチャンバーが到達できる最大圧力は60バール、つまり600メートルで、これは500メートルのペラゴス(チューダーのカタログの中で最も深く潜れるダイバーズウォッチ)を収容するのに十分すぎる圧力だ。

 チューダーでは、マスター クロノメーターの時計に対して、規定の水深の25%以上の過圧テストを実施している。水中浸漬試験中に時計が致命的な故障をしないようにするため、まず大気圧試験が行われる。万が一水が時計内部に侵入したら時計は基本的に使用できなくなるためだ。水槽から時計を取り出した後、“熱ショック”テストが行われる。風防に氷水を一滴落として曇ったら、時計に入った水分が風防の内側で結露したことを意味し、その時計はテストに不合格となる。

Tudor Master Chronometer water resistance testing
Tudor Master Chronometer pressure testing
Tudor Master Chronometer loading pressure tank
Tudor Master Chronometer depth testing

 METASはチューダー(オメガも同様)の時計に対して定期的に無作為のバッチテストを実施し、そのテストはMETAS専従の技術者だけが入退室可能な密室で行われる。彼らが現場にいないときは、部屋は施錠され、ロレックスやチューダーの関係者は一切入室できない。テストに小細工するという誘惑を遮断するためである(ロレックスやチューダー関係者がそんなことは思いつかないだろうが、考えても見て欲しい。自分の属する会社が“スイスで最も正確である”をモットーとするならば、運を天に任せるようなことはしないとも限らない)。

METAS lab at Tudor for Tudor Master Chronometer testing

 私のカンフーの師匠(少しサディスティックな気があったが、かなり陽気な人でもあった)は、特に長時間の姿勢訓練に不満を漏らす私たちに、「訓練場で汗をかくか、戦闘で血を流すかだ」と楽しそうに話していたが、この格言はここでも当てはまると思う。テストは一連の品質管理のなかで必要不可欠なステップであり、それなしには精度や性能の表示に対する独立した検証を行うことはできないからである。

 しかし同時に、もし自分がチューダーなら、その時計が合格することはほぼ分かっているはずだ。このテストが形式的なものであるということではなく、ある意味、時計が水や1万5000ガウスの磁場にさらされる前に、勝負がついているのである。10日間のテスト期間の開始時点で100%合格すると確信していなければ、何か間違ったことをしていることになるのだ。

Tudor Master Chronometer assembly area

 現在、チューダーのマスター クロノメーター認定は、かなり小規模なロットに対してしか与えられていない。しかし、今後数年のうちに同認定を受けた時計の数が増えていくことは間違いないだろう。また、この認定取得はチューダーが“ロレックスの廉価版”という歴史的な役割から、ブランドとしての独自のアイデンティティを確立し続けるための重要な手段でもあるのだ。

 少し前までは、1万5000ガウスの磁場に耐えられる時計という発想そのものが馬鹿げているように思えたのに、オメガが2013年1月にアクアテラ 1万5000ガウスを投入したことを考えると、隔世の感がある。これほどの耐磁性能はまだ珍しいが、性能面でのメリットだけでなく、チューダーに競合他社との大きな差別化を与えることになる。チューダーとマスター クロノメーターを併せ持つモデルは、今後ますます増えていくことだろう。

写真は筆者撮影によるもの。カメラはライカQ2(北米ライカ提供)。

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チューダーのマスター クロノメーター認定について、詳しくはこちらをご覧ください。HODINKEEはライカの正規販売店であり、中古のチューダーも幅広く取り扱っています。