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時計メーカーがインスピレーションを得るために、2000年代前半から半ばにかけての時代に立ち戻ることは、そうそうあることではない。ヴィンテージの復刻は盛んに行われているが、ハイエンドな機械式時計が90年代の文化的ニッチな地位を超え、広がり始めた21世紀初頭を記念するような時計は、一般的にはないのだ。
ゼニスは、当時、他の多くのブランドと同様に成長を続けていた。1999年にLVMHに買収され、2001年にはCEOのティエリー・ナタフ氏が新たなリーダーシップをとるようになった。ナタフ時代のゼニスは、2009年まで続いたが、最近の一般的な見解を控えめに言うなら、あまり好意的に見られていない時代だった。簡単に言うと「過剰な時代」だったのだ。
2009年から2015年までゼニスでCEOを務めたジャン・フレデリック・デュフール氏がゼニスの軌道修正行い、その後ロレックスのCEOに就任。ゼニスは現在、2017年にスイス時計業界のレジェンド、ジャン-クロード・ビバー氏が据えたジュリアン・トルナーレ氏が率いており、今や時計業界屈指のホットなブランドとして君臨している。しかし、ゼニスに残るナタフ時代の名残がひとつある。2003年にナタフが発表し、今年のWatches & Wonders Geneva 2022で再び脚光を浴びた、ゼニスのフラグシップクロノグラフコレクションの一角を担う“クロノマスター オープン”だ。
ナタフは、エル・プリメロの特別さを強調するために、クロノマスター オープンを製作した。文字盤をオープンにして脱進機を露出させ、テンプが1秒間に10回振動する様を見せることで、高振動を備えた時計というものをより多くの人に理解してもらおうと考えたのだ。ナタフの創作は成功し、瞬く間に世界中の人々に受け入れられ、それ以来、ゼニスのカタログに掲載され続けているのである。
ゼニスの製品開発責任者兼ヘリテージディレクターで、ナタフ時代から在籍するロマン・マリエッタ氏は、「このモデルは、お客様にハイビートを理解していただくために、2003年に誕生した非常に強いコンセプトを持っています」と語る。「脱進機の位置をスケルトン化し、ムーブメントの内部や鼓動を視認できるように、ムーブメントを作り直さなければなりませんでした」。
クロノマスター オープンは今年、ムーブメントや文字盤、そしてケースサイズも39.5mmの新型へと全面的にリニューアルされた。Cal.3600は昨年の“クロノマスター スポーツ”や“クロノマスター オリジナル”に搭載されたものだ。クロノグラフ作動時にはセンターセコンド針が高速で動き10秒で1周する、このキャリバーがキーとなるのだ。デュフール氏がゼニスに在籍していた頃からの42mmサイズの旧モデルは現在生産中止となっており、2022年発売予定の新モデル“クロノマスター オープン”は3種類のオプション(シルバーまたはブラックの2種類のダイヤルを備えたステンレススティール製、シルバーダイヤルのローズゴールド製)を発売時に選択することが可能だ。また、Cal.3600のノンデイト仕様は今回が初となることにも注目したい。
Cal.3600のバリエーションが追加されたことは大きな魅力だが、この時計と過ごす上で最もインパクトがあるのは、39.5mm×13.1mmの新しいケースプロファイルだろう。「セラミックベゼルを取り除けば、クロノマスター スポーツと同じケースになるのでしょうか?」とマリエッタ氏に訪ねたが、「微妙に違う」との返答だった。0.5mm薄いことを考えると納得だ。最近、ある人と話していて、彼は新しいクロノマスター オープンのケースを、ロレックスのプレデイトナのクロノグラフにどこか似ていると表現していたが、これは正しい比較だと思う。ポリッシュ仕上げの滑らかなベゼル、先端が丸みを帯びたポンププッシャー、スリムなラグ、切り欠きのあるプッシュプル式リューズは、いずれもある種のツール的なメンタリティを感じさせる。
クロノマスター オープンは、ラグからラグまでの長さがクロノマスターファミリーにおいて最も短いモデルだ。クロノマスター オリジナル(より薄い)の46.2mm、クロノマスター スポーツ(若干厚い)の47mmに対し、本機は45.2mmである。ロレックス(46.6mm: デイトナ Ref.116500)やオメガ(47.2mm: スピードマスター プロフェッショナル Ref.3861)のフラッグシップモデルと比べても、サイズは若干小さくなっていおり手首に収まりやすい。
クロノマスター オープンのよし悪しは、文字盤の“オープンハート”の外観が好きかどうかで決まると思う。私の理解では、ゼニスは脱進機を露出させたこのスタイルの時計を初めて市場に送り出し、その過程で他の無数のブランドに影響を与えたと思われる。個人的にはこのコンセプトに少し抵抗があるが、ゼニスがこのモデルで、自然な非対称の文字盤レイアウトを、前世代よりも少しだけ美的に一貫させたことを高く評価している。
アップデートされたクロノマスター オープンの文字盤は、合計16個の部品で構成されている。みっつの円を重ねたヘサライトクリスタル製のウィンドウは、バランスホイール、パープルブルーのシリコン製ガンギ車(ゼニスのロゴである星の形)、そして秒針を浮かび上がらせている。新Cal.3604は、従来のクロノマスター オープンと同様、輪列の終端部にある地板とブリッジをわずかにスケルトン化し、脱進機の動作をより見やすくしている。
また、9時位置のランニングセコンドサブダイヤルを操作するために、ムーブメント内部からダイヤル上部まで伸びている4番車のピニオンを実際に見ることができるのもありがたい点だ。秒表示としては、決して視認性に優れているとは言えないが、露出した脱進機にフォーカスしていることを考えれば、それも致し方ないところだろう。
従来のクロノマスター オープンでは、ムーブメントのブリッジにペルラージュ装飾が施されていたが、新作はレーザー刻印による立体的な同心円状のアズラージュ装飾となっており、経過時間と分を表示する「ノンオープンワーク」サブダイヤルの装飾をより引き立てることに成功した。これは、ルーペを使うような熱心なオーナーしか気づかないような、思いやりのある繊細なタッチだ。
とは言え、これらのアップデートがいかにうまくいったとしても、脱進機の露出したデザインを「下品だ」と感じる人たちの意見を変えることはできないかもしれない。ゼニスはそんなことは気にしないだろうし、気にする必要もない。クロノマスター オープンが19年間も愛され続けているのには理由があるのだ。
「このコレクションは、各ローカルでの特別仕様の要望が最も多いコレクションのひとつで、特に興味深いのは日本です」とマリエッタ氏は言う。「この5、6年のあいだに、クロノマスター オープンのスペシャルエディションを10種類ほど作りました」。
日本以外でも、ローリング・ストーンズや、個人的にはキューバの葉巻メーカー、コイーバとの限定モデルが好きだが、ゼニスのコラボレーションのベースとして、先代クロノマスター オープンがたびたび登場してきた。ゼニスが今後もクロノマスター オープンを主な商品展開の手段としていくのか、興味深いところである。
とは言え、クロノマスター オープンを不必要に商業的な製品として否定するのは、少々安易すぎるのではないだろうか。このラインの成功は、ナタフ氏がクロノマスター オープンに託した、エル・プリメロがこれほどまでに優れたクロノグラフであることの理解を深めるという当初の目的に立ち戻るとよくわかる。
Cal.3600の特徴は、クロノグラフ機構がシリコン製の低慣性ガンギ車によって駆動されることだ(もちろん、現在は文字盤を通して見ることができる)。これは、ゼニスの1969年製のエル・プリメロに搭載されたクリナジック(Clinergic)21型脱進機をカスタマイズしたものと同様のソリューションだ。この脱進機は、ガンギ車の歯数を21枚に増やし、ハイビートの自動巻きクロノグラフ・ムーブメントを初めて搭載したモデルにも採用された。
脱進機が露出していることは、ハイビートのウォッチメイキングを好む人々にとって魅力的であることは否定できない。オープンハートディスプレイを模倣する者が現れようとも(あるいは10分の1秒クロノグラフを市場に送り出す者が現れようとも: 記事「パテック フィリップ 5470P-001、1/10秒シングルプッシュボタン・クロノグラフ」)、脱進機を露出させたハイビートクロノグラフの魅力とドラマを提供できるのはゼニスのみなのだ。
ゼニスの最新イノベーションを間近で体験したいなら、クロノマスター オープンが最適かもしれない。
詳細なスペックや価格については、紹介記事「ゼニス クロノマスター オープン エル・プリメロ3600 大刷新を果たした定番機」をご覧ください。
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