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5年前にフィリップスに入社して以来、オーレル・バックス(Aurel Bacs)氏のエグゼクティブ・アシスタントなど、さまざまな役割を担ってきたクララ・ケッシ(Clara Kessi)氏、29歳。最近ではジュネーブとニューヨークで開催されるフィリップスのオークションで、オークショニアとして活躍していることでも知られている。
ケッシ氏は長いあいだ、満員の会場の前に立ちながら、いかにして売買の流れを作り出すかというオークショニアとしての技術に魅了されてきた。誰もがオークショニアになれるわけではないが、ケッシ氏の人生のなかで最も興味をそそられるものだったのだ。
「私は変わった子で、12歳のころからオークショニアになりたかったんです」と彼女は語る。「ジャック・ニコルソンが出演していた『恋愛適齢期』を観たんですが、その映画にワインのオークショニアが出てきたんです。かっこいい仕事だなあと思いました。その少しあと、スイスの新聞で女性のオークショニアが自分の仕事について語ったインタビュー記事を読み、その内容が私の心をくすぐったのです。時計のオークショニアになるとは思ってもいませんでしたが、とても好きになりました」
2020年の夏、フィリップスが5月にジュネーブで開催していた対面オークションから、6月にオンラインのみのオークションに切り替えたあと、壇上に立つ機会が訪れたのである。バックス氏は、自分が病気になったり隔離されたりした場合の代役を心配していた。そこで彼はオークショニアになる方法を学びたいフィリップスの社員なら誰にでも門戸を開いたのである。もちろん、ケッシ氏は「はい」と答えた。
数ヵ月間の練習を経て、ケッシ氏は2020年11月のGeneva Watch Auction XIIでデビューを果たした(最初の出品はヴァシュロン・コンスタンタンの222)。それ以来、スイスのライブオークションでは、バックス氏のトレーニングのオファーを受けたほかの若いフィリップスのスペシャリストたち、ティファニー・トー(Tiffany To)氏、マルセロ・デ・マルコ(Marcello de Marco)氏とともにケッシ氏は20本ほどのロットを担当している。
フィリップス ニューヨークウォッチオークション:SIXは開催中で、ケッシ氏は今日このあち、壇上に上がる予定だ(※アメリカでは開催中に記事が公開された)。そこで、彼女にインタビューし、どんな時計が彼女のコレクションを構成しているのかを見てみることにした。
「私は自分のことをコレクターだとは思っていません」と彼女は言う。「自分が好きで、身につけるのが楽しいと思う時計を持っています。好きだから持っているか、思い出が詰まっているから持っているもの。つまり、過去へのつながるものだから持っているものになります 」
また彼女はHODINKEEマガジン Vol.10のOnes To Watchコーナーでも紹介されている。
彼女の4本
ロレックス デイトジャスト 31mm スティール シルバーダイヤル
スイスを離れる前、ケッシ氏は最初の時計をプレゼントされた。その後、グラスゴー大学でアジアの現代美術を専攻し、美術史の修士号を取得することになる。彼女が時計の世界で働くことになると知るずっと前のことだ。
「私はとても幸運でした。18歳の誕生日に両親が、ローマ数字とシルバーのダイヤルを備えた31mmのSS製デイトジャストを贈ってくれたのです。今でもよく着けています。ケースバックにはavec amour mamma & papa(パパとママの愛をこめて)と刻印されています。一生手放せない時計です。いつか自分の子どもが生まれたら、18歳になったときにプレゼントしたいです」
F.P.ジュルヌ エレガント 40mm
昨年12月のフィリップス ニューヨークウォッチオークション:Fiveで、ケッシ氏がジュルヌをつけているのを初めて目撃した。しかし、彼女は数年前からこの時計を所有していた。
「SIHH 2018 で初めて見て、なんてかっこいい時計なんだろうと思ったんです。フランソワ=ポール・ジュルヌが女性向けの時計を表現したものですが、見ていると女性向けの時計とは思えません。とてもスポーティで超軽量。私という人間、私の個性にぴったりです。どこにでもつけていけます」
このエレガントには、ケッシ氏を魅了し続けるジュルヌ独自のクォーツムーブメントが搭載されている。
「1900年代初頭のルイ・カルティエのデザインを彷彿とさせるトーチュのケースを採用しているところが気に入っています。でも私が気に入っているのは、そのメカニズムです。夜、時計をはずすと35分後に針が止まる。朝起きると、針は自動的に正しい時刻に戻るんです。それが1日のハイライト。素晴らしいです」
ロレックス デイトナ ツートン Ref. 116503
「これはフィリップスで働きながら初めて買った時計です 」とケッシ氏。「本当にデイトナが欲しかったんですが、 SS製はウェイティングリストが長すぎて手が出せません。フィリップスで働くからと言って、簡単に時計が手に入るわけではないのです。そこで山奥のディーラーでスティール/ゴールドモデルのウェイティングリストに名前を載せました」
数ヵ月間が過ぎ、ケッシ氏は販売店に電話で確認し続けた。2020年のある日、彼女は時計が届いたと連絡を受けた。 結局、フィアンセと一緒に購入し、ふたりで時間を分けてつけることにした。彼女はツートンカラーのブレスレットを好み、婚約者はレザーストラップを好んで着用した。
「私は今、壇上に立つときはいつもデイトナを身につけています。その重みが私に自信を与えてくれるのです」
ファーラン・マリ タスティ・トンディ(Tasti Tondi) Ref.1011A
この1年、ファーラン・マリのメカクォーツ搭載クロノグラフのヴィンテージな魅力に取り憑かれたフィリップスのメンバーはケッシ氏だけではない。先月ジュネーブに行ったとき、このブランドの時計を着けているスペシャリストを何人も見かけた。
「とても美しい時計です」とケッシ氏は語る。「パテック フィリップのヴィンテージクロノグラフのなかで、もっとも収集価値が高いもののひとつ、Ref.1463を現代風にした感じです。 直径が38mmと大きく、腕に乗せると素晴らしいのです。大きめのプッシャーやリューズ、ステップドケースや下向きのラグも気に入っています。多角形のケースバックはオリジナルの防水タウベルトケースのデザインにちなんだものです。1463は買えませんが、10万ドルの時計を身につけているという心配をすることなく所有できるのはとてもいいですね」
もうひとつ
フィリップス社創立200周年記念ミニチュア小槌
ケッシ氏はオークションについて、「私は自分をオーケストラの指揮者に見立てていますが、手にはタクトの代わりに小槌を持っているのです」と語る。「しかし、私は人に指図することはありません。演奏者は入札者であり、オペラを実現するのは彼らなのです。私はただテンポを保つことに専念しています」
だから練習用のミニチュア小槌が家にあるのはいいことだ。この小槌は彼女にとって特別なものだ。 昨年の夏、まもなく義父となる人から贈られたものだ。彼はたまたま2001年にフィリップスがLVMHからボナムズへ売却される際に携わったM&A弁護士だった。
「ボナムズ側の主だった人々は、この小槌をそれぞれ受け取りました。そのために製作されたものではありませんが」と彼女は語る。「実はフィリップスの200周年を記念して作られたもので、側面には“1796 - 1996”と書かれているんです。私にとってはとても特別なものです。小槌を手にしたとき、私はある種の権威を感じ、公正さとバランスを感じるのです。この小槌はコミュニティ、私が抱く情熱、そして壇上で感じるアドレナリンを象徴しているのです。そして、私にとっては家族の象徴でもあります。これを受け取ったときは、とても感動しました」
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