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腕時計は人の手首につけるものだが、ロビー・ジョーンズ(Robbie Jones)氏の場合は少し異なる。彼はTiny Ass Propsとその名が雄弁に物語るカルト的なInstagramアカウントで、頭脳と手腕を発揮している人物だ。アカウント名でお察しのとおり、彼は非常に小さな腕時計を作っている。あなたや私の腕に装着するものではなく、人形(実際にはアクションフィギュア)向けの腕時計だ。
フィギュアには腕時計にも負けないほど熱いコレクターの世界がある。ポップカルチャーのキャラクターを基にしたフィギュアの彫刻や制作には、細部にまで多大な注意が払われているが、この小さな物体の世界に大きな空白があることにジョーンズは気づいた。6分の1スケールで風貌を似せたり衣装を作ったりする職人技は大したものながら、キャラクターに相応しい細部まで作り込んだ腕時計を誰も作っていなかったのだ。そこで彼は数年前、それを変えようと乗り出した。
今では彼には顧客ベースもあり、作品を作り込む過程を載せたSNSアカウントもフォロワー数が伸びている。しかし、ジョーンズ氏が手掛けるのはそれだけではない。小さな小道具を作る仕事で名を揚げた彼は最近ポートランドへ居を移し、『コラライン』や『バラノーマン』などの名作が知られるアニメ制作会社ライカのストップモーションアニメ小道具部門で働くことになった。私はジョーンズ氏と話をする機会に恵まれ、彼の仕事やそうした小さな腕時計の裏話をじっくりと聞くことができた。
HODINKEE:この仕事に就くようになったそもそもの成り行きは?
ロビー・ジョーンズ:10年ほど前に開始しました。フィギュアの収集を始めたのです。1980年代にG.I.ジョー人形などで育ちましたから。
それらの収集を始め、その後、カスタム市場があるのを知りました。当時は非公認でフィギュアを製造する業者がいたのです。彼らが彫刻で形を作り、非常に手の込んだコスチュームを作るテイラーもいました。そこで私は小さな小道具の製作を始めました。舞台デザインで美術学の修士号を取得していましたから、作り方はわかっていました。作ることはこれまでずっとしていますが、その時、サイズを小さくしてやってみることに決めたのです。
そしてフルタイムで仕事を始めたのですが、それまであまり熱心な取り組みがなかった分野が腕時計だったのです。大手メーカーですら腕時計に関してはいい加減なものでした。当時は『ブレイキング・バッド』が大ヒットしていたこともあり、『ブレイキング・バッド』の腕時計を作ればいいと私は考えました。そして私は時計づくりをスタートしました。時計は私の得意分野だと思ったし、ほかの人はあまり携わっていませんでしたから。今でも、小さな時計を作ることに関しては誰にも負けません。
これは特定のフィギュアに合わせたサイズですか?
はい、12インチのフィギュア向けです。6分の1スケールと呼ばれるものです。
腕時計の世界へ入るきっかけとなったのは、『ブレイキング・バッド』の時計ですか?
ウォルター・ホワイト(Walter White)のつけていたタグ・ホイヤー モナコは誰も作っていませんでした。『ブレイキング・バッド』関連で作られていたものすべてが非公認で、みんな頭の彫刻や衣装や靴などに注力して完璧を目指していましたが、時計を作る人はいませんでした。「なら、僕がやってみよう」と思ったのです。
まずは現在も使っている舞台用製図ソフトで3D模型を作るところから始め、次にPhotoshopを少し使いました。ダイヤルの細部はすべてPhotoshopで作りました。時が経つうちに非常に精緻になってきましたが、そう、私が始めるきっかけとなったのはモナコでした。
参入される前に時計を装着している12inchのフィギュアというものはありましたか? そこには注目されていたのでしょうか?
実に不格好なプラスチックの塊のようなもので、そこに何かプリントアウトして貼り付けた感じでした。そんなもの作っているという感じでしたね。
しかし、それから何年もこの仕事に携わってきた私は高級時計の世界の時計のデザインだけでなく、時計がどのようにして作られるかについても理解するようになりました。素材をフライス加工したりプレス加工したりするYouTube動画を無数に見てきました。また縮小版であっても、小道具の複製には実物に使用されている方法にできる限り近いやり方で作るのが簡単なのだということにも気づかされました。新たな作り方を考案しようとするよりは、実物がどのように作られているかを理解し、同じ技法を使ってすべてをただ小さくするというほうがはるかに簡単なのです。
複製する時計を選び、Photoshopで処理したあと、そこからどのような工程で作るのですか?
まずは3D模型を作り、それを宝石職人に依頼して、ロストワックス製法(蝋の模型で型を取った鋳型に金属を注いで作る製法)で複製してもらいます。ニューヨークに私が利用している鋳物工場があります。そこでは指輪、ペンダント、高級プラチナなどを作っていますが、そこへ、この変てこな小さい物体を送るのです。
ダイヤルやケースだけなら指の爪ほどの大きさもありません。ロストワックス鋳造の問題点は、いかにすべてを失わずして磨くかになります。どんなに丁寧に磨いても表面にはばらつきが残りますが、そこを完璧にしたいのです。私は強迫症か、少なくともその傾向はあります。ケースを作るのによりいい方法を見つけ出したいのです。超小型機械にその能力があることは知っていますし、可能なことも知っています。問題はどうしたら私がそれを達成させられるかです。これは本当に実現させたい進化で、私は時計のケースをまさしく機械で作り出したいのです。
鋳造のベースとなる素材は何ですか?
私はほとんどの場合、真鍮を使っています。ホワイトブラスと呼ばれるものですが、基本的に亜鉛が多く含まれているということで、より白い金属に仕上がります。銀を使ってもいいのですが、銀は白味が強くなるのに対し、このホワイトブラスはややダークさを帯び、ステンレススティールの色合に近くなります。ゴールドの時計であれば、真鍮を使うことが多いです。
3Dプリンターではどのようなものを作るのですか? そしてどれだけの仕上げ作業が必要となりますか? プリンターで作り出したあと、どのような手作業が必要ですか?
私が作ったジェームズ・ボンド(James Bond)のオメガ シーマスターは、実はプラスチック製なのですが、これは私ができるだけ避けようとしているものです。収集家、特にフィギュアの収集家は金属を好みますから。時計部品が金属なら、金属での再現を試みます。レザーの場合には、たいていはある種のプラスチックで済ませたりします。カシオなどもそうで、あれはすべてプラスチックで作りました
鋳物工場で作らせている金属製の時計の場合、デジタルモデルを送ると、工場がそれを蝋でプリントアウトします。そして、蝋を熱で溶かし出したところに金属を注ぎ込みます。そうして出来上がった部品が私のところへ送られてきます。次に私は、1個ずつすべての面を磨き上げます。出来がよかったったとしても、そこにはまだ質感がないからです。これが実に大変で、超微細な研磨具を使ってあらゆる細部を壊さないよう注意しながら、同時に表面のある部分は滑らかになるように作業しなければなりません。
ミニチュア腕時計は単体で販売するのですか? それともどこかのフィギュアに装着させることになりますか?
それは場合によりけりです。アーティストたちとコラボすることもあります。ずっと一緒に仕事をしているカリフォルニアの男性がいますが、彼は彫刻家です。彼の作業は彫刻で頭を作ることです。彼が仕事を依頼している韓国出身のテイラーもいて、彼女がコスチュームのすべてを仕立てます。そして私が最後に彼の作品の装身具のすべてを仕上げます。つい最近は『フック』をやりました。こうした場合、私は30か40個ほどのアクセサリーを作ってそれらをすべて仕上げ、彼に送ります。そして彼がそれらをフィギュアに装着し、予約してくれたコレクターたちに出荷します。私が作ったオメガについては、ほとんど個人に向けて販売しています。
あなたが作ったパテック フィリップのノーチラスについて、これに関連する作品を思いつかないのですが、私はふと、あなたはあのような形で時計の世界に少し足を踏み入れたのだと思い当たりました。これは正しいですか?
そうなんです。2年ほど前でしょうか、あるジュエラーがInstagramに、私が自分の作った時計を指で持っている写真を載せました。彼らはPhotoshopで加工して私の指にパテックを持たせた写真を作成し、それをインスタグラムアカウントに投稿し、誰でも買うことのできる唯一のパテックだ、とのジョークを載せました。
私は考えました。「Photoshopで処理したこの写真にどれだけ近づけることができるだろう」と。そこで依頼されたわけでもなく、できるかどうかを試すためだけに、仕事の合間にデジタルモデルを作り始めました。すると「これは素敵な指輪になる」と人々から依頼を受けるようになりました。
しかし私は忙しく、それを脇に追いやったままにしていました。そうこうするうちにコロナなどで舞台の仕事が無くなり、その作業を再開して指輪にしたらどうなるだろうかと考えました。
私はそれをInstagramに投稿することにしました。人々がこの馬鹿げた指輪を欲しいと始終言ってくるので、どんな反応が返ってくるだろうかと興味津々だったのです。自分のアカウントに写真を投稿し、これはプラスチック塗装の試作品だと記しました。約1ヵ月のあいだ、何の反応もありませんでした。
まあいいさ、時間を無駄にせずに済んでよかった、と私は思いました。すると突然、時計関連のInstagramをしている人にそれが取り上げられたのです。10万人くらいのフォロワーがいる人でした。その日のうちに、この時計を買いたいという人々から100通以上のダイレクトメッセージが届きました。それが2、3日続き、日に100から150通のダイレクトメッセージを受けました。
カシオの電卓ウォッチは、最新作ですか?
ええ、2年前に時計バージョンの注文を受けていたのです。これは4分の1スケールのフィギュア用で、6分の1ではなく、もっと大きいものです。これは実はウォルター・ホワイト用です。モナコをつける前に彼がつけていたものです。そして、ヒース・レジャー(Heath Ledger)も、『ダークナイト』の銀行強盗シーンでつけていました。つまり、これは2人の特定キャラクターに合わせて作ったものです。
ご自身は腕時計をつけますか?
500ドル(約6万8800円)のティソ 1853 ブラックダイヤルを持っています。以前はタイメックスを持っていたのですが巻かないといけなかったりして、機械式の、自動巻き時計が欲しいと思っています。だからこれはかなりいい線をいっていると思いました。外観も気に入っているし。今のところ最高です。毎日つけています。
All photos provided by Robbie Jones
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ロビーの作品をもっと見たい方はInstagramのTiny Ass Propsのページで、小さな時計の写真をたくさん見ることができる。また彼の連絡先も掲載されている。